Paradise of the Disqualified:Rewritten World 作:GameMaster
ミーティングの時に前もってユウカに案内を頼んでおいたところ、快く承諾してくれたため、一同が電車でミレニアムに着くと、改札口で待っていてくれた。
全員が連邦生徒会の制服を着ているので、周囲から見れば、セミナーの生徒が連邦生徒会の使者を出迎えている場面に見えるだろう。
"ごめんね、そちらも仕事があるのに急に頼んじゃって"
「気にしないでください。適当な依頼を理由に訪問するなら、セミナーとしても強く断る理由はありませんから。……でも、何であんな依頼を受けたんですか?」
「そりゃ、あんな手紙を書いたのよ。場合によっては速攻で斬り捨てればいいだけだし」
ユウカの質問に、ユーリは、どうせつまらない理由で廃部になるなら、早々に「無理・無駄・無謀」と斬り捨て、本来の任務に戻るつもりだったのだ。
「うへ~。ユーリちゃんが言うと、依頼を斬り捨てるついでに当人たちまで斬り捨てちゃって、気付いたら血の海になってそう……」
何か企んでも、その気になれば力業で無理矢理突破される。その事実を過去に身をもって知っているホシノは、半分諦めの境地で同情していた。
文字通り物理的に斬り捨てられるか、それとも先生の前で性的なお仕置きを受けるか。
そんな二択を突き付けられた場合、以前に後者を経験しているホシノとしては、どちらを選んでもロクな結果にならないことくらい分かっている。それでも、強いてどちらかを選べと言われれば、どちらのほうがまだマシなのかと悩んでしまう。
乗り換えには学校内行きのモノレールが何本か走っていたが、ひとまず駅からミレニアムを見渡せる場所に移動すると、広大な敷地と無数の建物が見えた。
"ここがミレニアムか……"
ミレニアムサイエンススクール。それは「千年問題」と呼ばれる難題を解決するために、科学者や技術者が集まったことをきっかけとして作られた学校。
そのため理数系の分野が活発であり、科学者や技術者を目指す生徒が多く、学校内にも移動用のモノレールがあるだけでなく、発電所まで存在している。
先生は、かつて訪れたゲヘナやアビドスと比較して、そのスケールや方向性の違い、そして想定以上の大きさに呆然としていた。
再びユウカの案内を受けて目的地へ移動していると、ユウカはゲーム開発部に在籍している二人のことを知っているらしく、道中で説明してくれた。
「本当にあの二人は、問題ばっかり起こして……変な建物を建てたと思ったら、そこでギャンブル場にしてギャンブル大会を開いたり、レトロゲーム探しとして古代史研究会を襲撃する等……。
セミナーとしても廃部には異論はないのだけど……。最悪、今までの悪行で退学になる可能性が捨てきれないのよ。
だから先生、無茶なお願いをしているのは重々承知していますけど、ゲーム開発部はどうなってもいいのですが、あの二人を退学から救ってくれませんか?」
"難しい話だね……確かに志を共にしてくれる仲間も増えた。手を伸ばせる範囲も増えた。助けを求める生徒には可能な限り救いを差し伸べたいけど……僕も、仲間も、万能の神ではない。
僕の腕は二本しかないし、どれだけ手を伸ばしても、掴んだ手からこぼれ落ちてしまうこともある。だから、約束はできない。でも、だからって諦めるつもりもないよ。
僕にできる限りのことはする。……少しでも多くの手を掴めるように、努力するよ"
先生は神ではない。仮に神になったとしても、強さだけだ。
強さで救える場合もあるが、強さだけでは救えない場合もある。
だからこそ、志を共にしてくれる、足りない所を補ってくれる仲間が必要なのだ。
そうしているうちに、一同は目的地へとたどり着いた。目の前にある扉には、猫の絵と共に「GAME DEVELOPMENT DEPARTMENT」と書かれた看板が掲げられている。
ここが、ゲーム開発部だった。
「本当はあまり案内したくなかったのですが、ここがゲーム開発部です」
ユウカはため息をつきつつも、外開きの扉を開けた瞬間――
間髪入れず何かが飛んできて、先生の頭部に直撃した。鈍い音が響き、そのまま後ろに倒れ込むと、再び鈍い音が響いた。
誰も予想できない、あまりにも唐突な展開に、一同は誰一人として動けなかった。
「た、大変!? もしかして先生に当たっちゃったかも!?」
「プライステーションは無事!?」
室内から聞こえた二人の大声を聞く限り、何かを扉に向けて投げつけたのだろう。だが、タイミング悪く扉が開いてしまい、たまたま扉の前にいた先生に直撃したのだ。その事実を理解すると、ユーリとワカモの意識が再起動した。そこからが早かった。
「
ユーリの怒号と共に、ワカモも
「ワカモちゃんとホシノちゃんは犯人の監視! 私はユウカちゃんと一緒に先生を緊急搬送! ユウカちゃん、学校に医学部ある!?」
「え、ええ! 今連絡する!」*1
「頭を強く二度打っているから『セカンドインパクト症候群』の恐れがある! 最優先、超特急で救急車を寄越して! それとMRIによる精密検査の準備もさせて!
最悪、精密検査を待たずに脳外科手術になるよ!」
その言葉にユウカは事態の深刻さを理解し、顔を青ざめさせながらも、すぐさま緊急連絡を入れた。それから五分も経たないうちに、救急車が到着した。
素早く先生を乗せるとユウカも乗り込み、ユーリは乗り込む前にワカモへ叫んだ。
「ワカモちゃん! 緊急時として権限を預けるよ! 何かあったら連絡頂戴!」
その言葉にワカモは敬礼で返し、救急車は走り去っていった。
残されたのは、怒り心頭のワカモと、意外と冷静に怒っているホシノ。そして、叩きのめされた挙句に後ろ手で拘束され、床に倒れている二人の犯人だった。
「正座」
「え、なんで? 確かにわt――」
「正座」
ワカモは容赦なく二人に正座を命じ、言い訳もばっさりと斬り捨てる。
「だから――」
「正座」
「そうだね、正座だね」
ホシノも異論はない。
二人して怒気を叩きつけていると、犯人の二人は渋々ともがきながら正座をする。
「あの、言い訳は……?」
「その喉を潰せば出来ませんよね?」
「そうだね、
あの手紙から察するに、どうせろくでもない理由だろう。
一切の言い訳を聞かない方針で怒ったまま見張りを続けることにすると、犯人の二人はその殺気に耐えきれず、ただただ黙って正座をするしかなかった。
「頭を打っただけで、特に脳にダメージはないみたいでよかったですね」
(身に付けさせていた蘇生の宝玉が待機状態になっていた。恐らく直撃した時、ネクタイに忍ばせていた崖っぷちの鉢巻きが発動して、倒れた時に蘇生が発動した感じね。もし装備させていなかったと思うと、ぞっとするね……)*2 *3
先生が病院でMRI検査を受けた結果、危険な箇所が一つもないことが判明し、二人は安堵していた。この後、医師から詳しい説明を受けることになるが、ひとまず無事が確認されたことで、ユウカはようやく緊張を解いた。
実はユーリ、先生に特殊なアクセサリをいくつか装備させていた。装備できさえすれば、どんな方法で身に付けさせても効果に違いはないことを、ユーリは昔にさまざまな方法で実験して確認していた。そのため、万が一に備えて、先生にはいくつかの装備を仕込んでいたのだ。
もし、その保険がなかったら――先生は今頃、霊安室に運び込まれていただろう。
他の検査は続いているが、ひとまず大きな問題は解決した。
とはいえ、ただ待っているだけでは暇である。そんな中、ユーリには一つ気がかりなことがあった。そこで、ユウカに質問することにした。
「あの二人……双子だったわよね」
「え、ええ、そうよ。服装を桃色系統で揃えたのが
緑色系統で揃えたのが、その妹のミドリよ」
桃色に緑色。あまりにも安直すぎる命名に、ユーリは一つの確信を抱き、さらに踏み込んだ。
「ルーテシア生産局が出自にしては酷すぎる。もしかして……
「やっぱり、気づかれたかぁ……頭がいいとは思っていたけど、まさか、あれだけの情報でここまで分かるなんて、とんでもないわね」
その質問に肯定を示すように、ユウカは頭に手を置き、苦い顔をした。
キヴォトスでは人間の男女比があまりにも極端すぎる故に、人口管理を行っている生産局へ定期的に精子と卵子の提供を行い、そこで人工授精と人工子宮による人間の生産を行っているのだ。
詳しい事は
そしてルーテシア生産局とは、意図的に優秀な人間の双子や三つ子などの一卵性多生児を作ること……否、優秀な人間を
成功率は決して高くはないが、キヴォトスの双子などは基本的にここで生産された子だ。
つまり。
ユーリは、モモイとミドリの双子はルーテシア生産局で生産された子ではなく、不良生徒やヘルメット団が売春した結果、妊娠した双子だと見抜いたのだ。
そして親は間違いなく、捕まった時に妊娠が発覚し、受精卵もしくは胎児を生産局に預けて更生局に送られたのだろう。
「ブラックマーケットでたまに売春を見かけるからね。それにゲヘナにも
「もしかして、ゲヘナ出身? 道理でその言葉を知っていると思ったわ。でも意外ね、ルーテシアの事も知っているとなると、他自治区の事も知らなきゃいけないのに……」
「そう、ゲヘナ出身なのはあっている。でも私が事故で記憶を失う前、どんな理由かは忘れちゃったけど相当勉強していたみたいでね、それなりの知識が残っているんだ。
ゲヘナってあんな環境だけど、実は普段なら閲覧を禁止されているような資料でも、ゲヘナからネットに繋げば簡単に閲覧できるって知ってる?」
ユウカはユーリのことを大まかにしか知らず、ブラックマーケットで悪名高い二つ名持ち程度しか知らなかった。だが、こうして踏み込んだ会話をしてみると、ゲヘナ出身ということは何となく推測できた。ところが、記憶まで失っていたこと、そして事故に遭う前は猛勉強していたという話の中に、不穏なものが見えてきた。
「え? それ初耳よ?」
「校風が自由ってことは、真面目に学ぶことも自由。つまり、どんなことも学んでいい環境なんだよね……。いいことも、悪いことも。
だから、不良生徒やヘルメット団など、そういう学生の末路ですら知ることができるんだよ」
「――ちょっ!?」
その言葉に心当たりがあるユウカは、反射的にユーリの口を手で塞ぎ、周囲を見渡した。
幸いなことに、検査病棟の通路には検査待ちの人もおらず、先生の検査が終わるまで待っているユウカとユーリだけだ。それでも声を抑えながら、動揺を隠しきれなかった。
「それ、本来は月光洞探査任務に従事する大人か、一部の立場ある生徒しか知らない、漏洩禁止の極秘資料よ!?
「……その反応、ユウカちゃんは知ってるんだ。じゃあ、あの二人が退学にならないようにしていたのも、その事情を知っていたからってわけね」
「これでも
キヴォトスで成人済みの女性が学生ほど多く見られない理由。
それは、外周部側に近い新規開発地域で働いたり、大学に通ったり、就職したりする者もいるが、外周部や未開発地域などにある危険度の高い月光洞の探査任務に就く者もいるからだ。その危険度は、自治区や学区に存在する、ある程度探索が進んでいる場所よりもはるかに高い。
生半可な実力者では、一年以内に任務中に消息を絶つか、死亡したりする。いわゆる
「ユウカちゃんの言いたいことも理解できる。優しいのはいいけど、時には斬り捨てる非情さも必要だよ。私たちの伸ばせる範囲は、そんなに大きくない。
手を繋いでも、どこまでも伸ばせるわけじゃない。人によっては手を繋ぐどころか、払いのける人も、繋がりを解こうとする人もいる。全員が全員を救えるわけじゃないんだよ。
時には不要なものを蹴り落とす必要もある。その覚悟も必要なんだ」
ユーリは、ユウカが非情になりきれない気持ちもわかる。人間は感情や罵声で人を傷つける言葉を吐くことはできても、死への宣告を告げるのはまた別物だ。
「――今のあの子達にとって、退学宣言は死刑とほぼ同様なのよ。私があの子達に『親と同じ末路を辿れ』なんて、そんな死刑宣告を言えるわけないじゃない。
ただでさえ、小学中学の頃から『ルーテシア出身ではない』って陰口を叩かれているのに」
だが、死刑宣告と同じ重さを持つ退学通知。それを十代の少女に突きつけろと言うのも、あまりにも残酷すぎるのだ。
退学になれば、それまで通っていた学校という居場所を失うだけではない。二人の場合、その先に待っているのは、親と同じような末路かもしれないのだ。
そんな言葉をユウカに言わせるのは、あまりにも酷な話である。
「先生もユウカちゃんも優しすぎる。必要であれば、私が代わりに言おうか?」
だからこそ、命を奪うことすら割り切れる存在が必要なのかもしれない。
ユウカはその言葉に応えることができなかった。そのまま先生の検査が終わるまで、お互い無言のまま検査病棟の椅子に座っているしかなかった。
この世界の先生は原作と違って、無造作に手をのばすのではなく、出来る事と出来ない事をしっかりと理解しています。そして、それでも救う事が出来ない事があるのも理解しています。
それでも、例え後悔する事になっても、手をのばす事を止めません。
今回のサブタイトルは、TinkerBellの「ムジナ」からです。