Paradise of the Disqualified:Rewritten World 作:GameMaster
先生の検査が終わり、異常がない事を確認してからユーリ、ユウカ、先生の三人はゲーム開発部へと再び足を運ぶことになった。その途中で、ユーリがこっそりと先生に
"それにしても大事にならなくてすんだよ。扉が開いた後の記憶がまったくなくてね。まさかそんな騒ぎになっていたなんて……"
「先生は悪くありません。どうせあの二人のやることですから」
「落とし前はしっかりとしてもらうけどね」
"やりすぎないでねー"
先生の忠告もあるが、ユーリも情けをかける気はあまりない。タブレットにはユウカから送られてきたデータが表示されており、そこには二人(主にモモイ)の素行問題が大量に書かれていた。
(入学してたった二ヶ月程度でここまで問題を起こすのもとんでもないわね……中学の頃はこんなに問題を起こしていなかったのに。高校デビューでタガが外れたのかな?)*1
「あちらの態度次第だね。反省の色がまったくなければユウカちゃんの温情を一切なくして……退学を無しにしたとしても、良くて停学一年未満って所かな?」
その言葉にユウカは妥当と思いつつもため息をつき、先生も乾いた笑いをするしかなかった。
「これで先生への傷害、もしくは殺人未遂が認められたら話は変わるね。停学一年で済めばいい方だよ。殺人未遂なら、最悪の場合は退学になるね」
そんな話をしている内に、目的地であるゲーム開発部前へと到着した。今度は不用意に扉を開けることはせず、扉の前でノックをしてから中へ声をかける。
「こちらユーリ、戻ったよ。開けても大丈夫?」
「うん、大丈夫だよ~」
中からホシノの返事が聞こえてきたので、扉を開けて入ると、そこには縛られたまま正座させられている犯人の二人がいた。
ユウカの話通りなら桃色系統の服装をしているのが、
正座をさせられているのはまぁ妥当な判断だろう。あの時の状況ならユーリもユウカも才羽姉妹に正座をさせている。
先生の姿を見かけたワカモがすぐさま抱き着いた。
"おまたせ。心配かけたね"
先生はそのまま背中に手を回して軽く背中を叩いてワカモを落ち着かせていた。事情を知る人にとっては「愛されてるね~」とほほえましく見守る場面だが、場所が場所だ。ユーリはワカモの肩を軽く叩くと、ワカモは多少名残惜しそうに離れた。
そこでようやくモモイとミドリを正座から解放すると、足のしびれが辛いのか、二人は横になったまま悶絶していた。
二人が回復するのを待つ間、暇を持て余したユーリは部屋の片づけを行い、ワカモとホシノは怒りが冷めやらぬのか、悶絶している二人の足をつついてはリアクションを楽しんでいた。
その最中、先生の症状についてワカモがユーリに小声で聞いてきた。
「それで、本当に大丈夫ですの?」
「幸か不幸か、装備させていたアクセサリのおかげで無事。
とは言えども、食いしばりと自動蘇生による再生のおかげみたい」
「そ、それって……つまり」
「うん。本来なら、あの直撃で即死。倒れた時の衝撃でも、下手したら即死。
つまりアクセサリがなかったら、今頃は死んでいた……この事は内密にね」
「……わかりました」
そしてようやく二人の足のしびれが治まり、各自自己紹介をする事になったが、モモイは何故ユウカと一緒にいるのか、不満そうだった。
「何で生徒会四天王の一人『冷酷な算術使い』の異名を持つ生徒会の会計、ユウカがいるのよ!」
「勝手に変な異名を付けて、人をモンスターか何かみたいに呼ばないでくれる? 失礼ね」
「そうそ~う。ユウカちゃんは普通の人間だよ? モンスターってのは~」
全く反省していない様子のモモイにユウカを悪く言われると、ミレニアムにもユウカにも恩があるホシノが多少頭に来たのか、笑顔で威圧しながら左腕に巻きつけている包帯を一瞬で解いて、モモイの首に軽く巻き付けた。笑顔のままだが、目が笑っていない。
「――おじさんみたいに包帯を自在に操って、あんたの首ぐらい普通に締められるんだから」
「はいはいホシノちゃん、殺気が漏れ出ているよ。このままだと絞殺どころか、本当に首まで落としかねないからね?」
ユーリが軽くたしなめると、ホシノは「うへ~」と笑いながら、モモイの首に巻き付けた包帯を解くと、瞬時に左腕に巻き戻した。
「それじゃぁ改めて。アビドス高校生徒会会長にして、シャーレ外部部隊『リビング小隊』の隊長、小鳥遊ホシノだよ~。アビドスはミレニアム及びユウカちゃんに色々お世話になったから、下手な事を言ったら……アビドス高校全体があなた達の敵に回ると思っていてね」
モモイとミドリは、まさかいきなり他校の生徒会長が出張って来るとは思わなかったのか、相当まずい事をしたという自覚がようやく出てきたようで、首を何度も縦に振っていた。
「親衛隊『キュベレー』の隊長、真神ユーリ」
「同じく親衛隊『キュベレー』隊員、狐坂ワカモ」
"シャーレの先生です"
「ゲーム開発部のシナリオライター、才羽モモイ」
「妹のミドリです。イラストレーターでゲームのビジュアル全般を担当しています。あと、今はここにいないけど、企画周りを担当している私たちの部長、ユズを含めて、私たちがミレニアムサイエンススクールのゲーム開発部です」
"しかし、ユウカが四天王ねぇ……この二人の事だから、どうせノリと思い付きじゃないかな? 何人いても四天王ってネタがある位だから、一人だけど四天王って意味で"
先生の言葉には、ユウカも内心同意していた。確かにセミナーの主要人物を思い浮かべれば、四天王と呼ばれてもおかしくない人物が数人いる。自分までカウントされるのは不本意だが、実際に数字に強いのだから仕方がない。
それにモモイの事だ。他の人物を巻き込んで、五人目、六人目の四天王とか絶対に言い出す。
閑話休題。自己紹介を終えた面々は、さっそく本題であるゲーム開発部の廃部撤回についての話し合いへと移った。結論から言うと、廃部撤回はまず無理だという事だった。
部員は規定以下の三人。それでいて部費を強請るどころか、問題まで起こしている。実績と言えば、キヴォトス史上最低最悪のクソゲーを作った程度。
それでも二人は食い下がろうとするが――
「二人ともいい加減にしたら? ユウカちゃんの温情でここまで引き延ばしてもらっているのに、往生際が悪いよ? もしここで温情を無しにしたら、先ほどの先生への傷害とかも含めて、二人合わせて停学一年以上は確定するから、結果的に二人がいなくなって廃部するんだから。
あまり大きな声で言いたくないけど、影孕って言う出生の事もあってマイナス評価が加速しているんだから、退学にされないだけありがたく思った方がいいよ」
ユーリがタブレットに二人の罪状を表示すると、それを見た二人の表情が固まった。
そこには、二人――主にモモイが学校に入学した後に起こした問題の数、それに伴う損害、そして請求した部費の総額が示されていた。
詳細を確認すると、停学日数は既に三百日近くにまで達している。
流石に、百鬼夜行学院連合から無期停学を受けたワカモですらドン引きするレベルだった。
それを見ていたホシノは(あのワカモちゃんですらドン引きするって……)と呆れていたのは言うまでもない。
「どうせなら、お互い楽な形で済ませましょう?
今すぐ部室を開けて、この辺のガラクタも捨てて――」
「ガ、ガラクタとか言わないで……!」
「ユウカちゃん、ガラクタじゃないよ。結構な骨董品で価値もそれなりにあるけど、二人の扱いが酷いからガラクタに見えるだけだよ。しっかりとメンテナンスと修理とクリーニングをすれば、二人が浪費した部費の補填にできるよ」
「ちょっ!?」
「それ本当?」
ユウカはこれまでにも、何度となく廃部の通知を突き付けてきたのだろう。
彼女としても、さっさと部室を明け渡して余計な心配を減らしたいのか、ほとんど投げやりな様子で「さっさと出ていけ」と遠回しに伝えていた。
流石にガラクタ……もとい骨董品に関してまでユーリから援護が出るとは思っていなかったのか、ユウカとモモイはそれぞれ別の反応を返した。
「例えばこのゲーム機、先生にぶん投げたおかげで結構な損傷があるけど、中古市場でもそれなりの値段がするはずだよ。しっかりと修理と清掃をして美品にすれば、高く売れるよ」
「あら、それはいいわね。それじゃあユーリさん、その辺はお願いできるかしら?」
ユーリとしても、廃部撤回の話になった時点で、あまりの往生際の悪さに才羽姉妹への印象は最悪だった。ここまで状況を説明されてもなお、廃部を撤回してもらえると思っているのだから、ある意味で大したものだ。周囲に散々迷惑を掛けたことへの反省もろくに見えず、これ以上庇ったところで本人たちのためになるとも思えない。
先生には悪いが、救助できるラインは既に不可能の域に近い。これ以上関わったところで、余計な面倒ごとを抱え込むだけだ。
それならば、さっさと廃部にして当初の探査任務を行った方がいい。
少なくとも、これ以上この二人に付き合うよりは、その方がずっと楽なのだから。
ユウカの依頼に応えようとした時、意を決したモモイが叫んだ。
「……わかった。全部、結果で示す!」
「「――え?」」
モモイは、ミレニアムプライスにクソゲーの次回作を出し、そこで賞を狙うと宣言したのだ。
だが、仮にそれで実績が伴ったとしても、部員の問題に関してまで解決するとは限らない。
ただでさえ古いタイプのゲーム制作には一定のファンと言うか、マニアもいるものの、悪名高い才羽姉妹のもとでゲームを作りたいと言われれば、間違いなく「NO」と言われるだろう。
だが、その啖呵をユウカは受け入れた。ユーリが向ける「それでいいの?」という視線に対して、「仕方ない」とでも言いたげな表情を浮かべて頷く。
彼女自身、廃部から退学へと繋がる可能性を突き付けることには、やはり抵抗が残っているのだろう。仕方ないと言えば仕方ないし、甘いと言えば甘いのだが。
その気になれば、ユーリもそれ相応の強権を使うことはできる。
だが、流石にこの流れでそこまでして介入する気にもなれなかった。ここはユウカの決定に従うことにして、部室を出ていく彼女を見送った。
ユーリが戻ると、モモイは早くも次回作への秘策を考えていた。そして、その切り札が廃墟にあるため、探索に行くのだと話していた。
意外なところで廃墟探査任務を行うことになり、一同が何とも言えない表情を浮かべていたのは言うまでもない。
本音を言えば、先生以外は彼女らと一緒に行くのを遠慮したかった。しかし、先生としてもこのまま放置していては、どの道探索に行かなければならない。それに、この二人を放っておけば、何をしでかすか分からない。
かくして、才羽姉妹に一抹の不安を感じながらも、一行は廃墟へと足を運ぶことになった。
「しっかし、キリがないね。近接武器が無ければ、とっくに詰んでいた所だね」
「そうですわね……。長期戦の事を考えると、斧以外の武器も考慮しなければなりませんね」
「まぁ、おじさんは敵を武器に出来るし、楽な方だね」
廃墟に入ると、無数のロボットが徘徊するように警備していた。だが、近接技能を上げていたユーリ、ワカモ、ホシノの三人にとって、それらはさしたる脅威ではなかった。
三人は次々とロボットを破壊していき、瞬く間に辺りには大量のスクラップが積み上げられ、さながらスクラップ工場のような有様になっていた。
そんな三人の戦いぶりを目の当たりにして、才羽姉妹は改めて、とてつもない戦力を敵に回しかけた事に恐怖を感じたのは言うまでもない。
「それにしてもお姉ちゃん、ここは一体何なの?
あんな謎なロボットが、数えきれないぐらい動き回っているし……」
「ここって……もう何回も言ってるじゃん、廃墟だよって。立入禁止区域って言うから、ある程度の危険は覚悟していたけど……先生達がいなかったら、とっくに病院行きだったね」
「お姉ちゃん……既に病院送りになってる人が居るって連絡来ていたじゃない……」
ミドリは「そんな危険地域に私たちを連れて来たのか……」と呆れ返っていた。だが、そんなミドリの心境など知ったことではないとばかりに、モモイは話を続けた。
「ヒマリ先輩曰く『キヴォトスから消えて忘れ去られたものが集まる、時代の下水道みたいな場所かもしれない』って」
「でも、なんでこんな所に『G.Bible』が? ……ちょっと待って。お姉ちゃんが『ここにG.Bibleがある』って言ったのは、そんな理由で!?」
「それだけじゃないよ。ヴェリタスにG.Bibleの探索を依頼したら、座標を教えてくれたの。最後にG.Bibleの稼働を確認された座標をね」
ここまでモモイの話を聞けば、大まかな内容は予想できた。つまり、件のG.Bibleはこの廃墟のどこかに眠っている、という訳だ。
しかし、ヴェリタスが機密情報に嘘を混ぜ込み、それをここまで拡散させる意図は読めない。
そしてモモイ曰く、昔のキヴォトスにいた伝説のゲームクリエイターが作ったものがG.Bibleという事らしいが……あまりにも胡散臭い。
しかも、その中には『最高のゲームを作れる秘密の方法』まで入っているという。そこまで聞いたところで、先生は思わず口にした。
"それ、パクリじゃないの……?"
その呟きは説明に興奮しているモモイには聞こえなかったが、先生の懸念ももっともだった。
もし世に出ていないゲームデータや新作のアイデア、あるいはゲーム制作の方法などが残されていたとしても、それをそのまま流用すれば、ほぼ盗作としか言えない。
モモイはそこまで追い詰められていたのか。それとも、元々そこまで倫理観がないのか。どちらにしても、先生としては一度、彼女にしっかりと釘を刺しておかなければならないだろう。
気が付けば、モモイは興奮が治まらないのか、大声で目的を叫んでいた。そうなれば当然――
「あ、あれ……?」
徘徊していたロボットが、その声を聞きつけて集まってくるのは当然の結果だった。
即座にユーリが一体を斬り捨てるが、数が多すぎる。先生は即座に判断を下し、近くにある建物へと突破することにした。
"モモイとミドリは前方へ掃射! 突破口を切り開いて! ワカモとホシノは両翼警戒! ユーリは殿で追撃してくる敵を倒して!"
その号令に応え、モモイとミドリは双子ならではの連携で、集まってきた敵の一角を一気に掃討する。一同はその隙に駆け出し、急ごしらえとは思えない連携で敵陣を突破していった。
しかし、その双子の連携を目の当たりにしたユーリは、内心で戦慄していた。
(この二人、単体だとそれほどでもないのに、二人で行動するとなんだか強くなってない……!? これって、もしかするとシナジー効果……?
これは下手に退学にすると、逆に厄介になるかもしれないわね……)*2
先生はまだ気づいていないが、
もし二人が退学になった場合、間違いなく二人がゲヘナかブラックマーケットへ流れ、そこで悪名高い人物になる可能性は十分にあるだろう。
ユーリがそんな思考を巡らせながらも、一同は目的地へと走り続ける。そして最後に、ユーリが黒魔法のメガサンダーを後方へ放ち、追撃してきたロボットを一掃してから建物へと飛び込んだ。
そこでようやく、一同は一息つくことができるのであった。
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