Paradise of the Disqualified:Rewritten World 作:GameMaster
「こ、ろ、し、て……」
三時間後、モモイとミドリのアドバイスを受けながらも、アリスはゲームをやり遂げた。悲痛な表情と、奥底から絞り出したその言葉が、彼女の苦しさを物語っている。
"(そりゃ悪名高いデスクリより酷いゲームを、ほぼ無理矢理クリアまでやらされれば、誰だってこうなるだろうな……)"*1
アリスの気持ちは解らないでもない。誰だって、あんな苦行はしたくない。
先生だってデスクリなどのクソゲーの実況動画やRTA動画を見たことがあるが、彼女たちが製作したクソゲーは、それを上回るほど酷かったのだ。
そこで一同が気づいたのだが、アリスはゲームを進めていくうちに、言葉遣いが変わっていった。おそらくは、ゲームから学んでいっているのだろう。
ちなみに、ゲームをクリアしたアリスの感想は、大まかに言うと『説明不可』だった。
それは仕方がない。悪意や駄目な部分が多く見受けられるが、その中にも『面白い』と思える奇抜なアイデアもあったし、使い所さえ間違えなければいい部分もあった。
強いて言うなら、酷い出来になった闇鍋だろう。
それでも、アリスの感情を揺さぶったのか、「もう一度」と呟いて、一筋の涙を流していた。
モモイはそれを感動の涙だと思い込み、嬉しそうにしていたが、ミドリは流石にそれは都合の良すぎる解釈だろうと、困ったような表情を浮かべていた。
そんな二人の反応が対照的に分かれている中――
「……ちゃ、ちゃんと、全部見てた」
その言葉と共に、ゆっくりとロッカーが開いて、小柄な少女が出てきた。モモイとミドリの会話から察するに、彼女がゲーム開発部の部長、ユズだろう。
しかも彼女が言うには、部室に戻ってきた時点からずっとロッカーに隠れていたのだ。
(――嘘!? いくら何でもやりすぎるのを抑える為に、種族の強さを一般種にまで落としていたけど、ここまで気づかないなんて……!? この子、どれだけ気配を消すのが上手いの!?)
身体能力をある程度下げていたとはいえ、七囚人と呼ばれた強者であるワカモを単独で制圧できるユーリですら気づけないほど、少女は完全に気配を消していた。
その事実に、ユーリは驚愕する。ワカモとホシノの方を見てみると、二人も気づかなかったらしく、顔を小さく横に振った。つまり、どのような理由かは定かではないが、彼女は気配を消すことに関して、酷く長けているのだ。
先生も三人の様子を見て、ユズの特異的な能力を冷静に分析していた。
"(ワカモとホシノだけでなく、ユーリですら気づかないなんて……Fateの気配遮断スキルで言えば、B+かA辺りって所か……? とんでもないな)"
そんな最中、ユズは素直な感想を口にしてくれたアリスに、どこか嬉しそうな表情を浮かべながら、静かな感謝の気持ちを伝えたのだった。
「とにかく、あらためまして。ゲーム開発部の部長、ユズです。この部に来てくれてありがとう、アリスちゃん。これからもよろしくね」
たどたどしく会話する様子と、その雰囲気から、おそらくは引きこもりと呼ばれるタイプの人間なのだろう。そんなユズの言葉に、アリスは少し考えた後、自分でゲームのファンファーレを口にして、RPGチックなセリフを言っていた。
おそらく、先ほど遊んだクソゲーの影響だろう。確かに一応ARPGっぽかったが……。
アリスが遊んだゲームの影響を受けることに気づいたゲーム開発部の三人は、次は何を遊ばせるかと議論を始めた。どこかで聞いたことがあるようなタイトルも出てくるが、キヴォトスは基本的に外の世界と隔絶された環境にいるため、一種のガラパゴス化状態なのだろう。
外のゲームを独自にオマージュした結果だろうが……。
"うーん……僕たちはとりあえず、今日はこれまでにしてまた明日来よう"
「それで、いいんですか……?」
今日はもう自分たちの出番はない。遠回しに先生がそう告げると、問題を後回しにするように感じたのか、ワカモが疑問を口にした。
とはいえ、ここでは話せない内容もあるため、一旦外に出ることにしたのだ。
部活棟を出ると、意外なことに外はまだ明るかった。まばらにミレニアムの生徒もいるため、会話も一言二言と必要最低限に留め、一同は帰路につくこととなったのだ。
シャーレのビルへと帰路に就く中、目的のビルに近づくと、先生はユウカに電話をかけ、今日のあらましを大まかに話していた。
"うん、今シャーレに戻った所。そこでユウカが去った後の出来事を話すけど、機密……って言えばいいのかな? あんまり公に出来ない出来事があったから、信頼できる人以外は通話に参加できないようにしてほしいんだ。うん、ゲーム開発部の処遇もあるしね"
一同はシャーレのビルに入ると、すぐさま先生以外の三人が簡単なクリアリングを行い、人気がないことを確認する。ハンドサインを出してそれを確認すると、先生は通話を続けながらエレベーターへと歩いていった。
既に三人はエレベーターを呼んでおり、不審者がビルに入ってこないか警戒していた。
エレベーターが到着すると素早く乗り込み、オフィスのある階まで上がっていく。その間も、先生の電話は続いていた。
"今オフィス前に着いたよ。そこで全体通話にして会議をするけど、大丈夫?"
オフィスに入った一同は、手持ちの荷物を置く。先生の銃器はワカモが手早く外して他の荷物と一緒にガンラックへと置き、それを終えると、他の面々と共にデスクの椅子へと座っていった。
ソファでもよかったのだが、各自がメモを取ったりデータを入力したりすることを考えると、やはり作業用のデスクで行う方が好ましいのだ。
最後に先生がユウカの了承を得ると、椅子に座って映像を表示する全体通話へと切り替えた。映像が浮かび上がると、二人の少女が映し出される。
一人はシャーレでも定期的にお世話になっているユウカ。そしてもう一人は――
『初めまして。セミナーの書記、
よろしくお願いしますね、先生……様々な面で、はい』
一同の自己紹介が終わると、ユーリを司会進行役として会議が始まった。
「まずは事の発端から説明します。今後の事も考えれば、ミレニアムを正式に訪問するという選択肢もあったのですが、それではどうしても事が大きくなってしまいます。
そこで、今回はゲーム開発部から簡単な依頼を受けるという形でミレニアムを訪問する事にしました。これが、そのきっかけとなった手紙です」
そう言って取り出したのが、ゲーム開発部から届いた手紙だった。
ご丁寧にユーリが全文を朗読した為、ユウカとノアは何とも言えない顔をしていた。もしモモイが聞いていたら、間違いなく黒歴史として刻まれる事になり、羞恥のあまり叫び出すだろう。
「到着してからの細かい経緯については、ここでは省略します。詳しい内容はユウカちゃんが把握していると思うので、後ほど共有しておいてください」
『もうしているわ』
「では、ユウカちゃんが去った後です。モモイがヴェリタスから持たされた胡散臭い情報、『G.Bible』を求めて郊外の廃墟へと向かう事になりました」
『う、胡散臭い……一応セミナーに伝えられている機密情報なんだけど……』
"まぁ、伝説のゲームデザイナーと言う話も胡散臭そうだったからね……まだ調べてないけど、眉唾物の都市伝説なんかじゃないかな? おそらくだけど、『G.Bible』の真偽を確かめるために、都合のいい嘘を混ぜて拡散したんじゃないかな?"
先生の推測に、ユウカが苦い顔をしたのは言うまでもない。
下手をすると死者が出るかもしれない重要機密を、引っこ抜かれただけではなく、真偽を確かめるために嘘を混ぜて拡散されたのだ。
幸いな事に死者は出ていないが、万が一死者が出ていた場合は、拡散したヴェリタスだけでなく、情報を管理していたセミナーにも責任が問われる事になる。
「道中では、立ちふさがる警備の機械を殲滅しながら先へ進み、目的の建物へとたどり着きました。そこで、いくつか不可解な出来事に遭遇しました」
その言葉に、ユウカとノアは(今、殲滅って言わなかった?)と疑問を感じたが――
(まぁ、ユーリさんとワカモさん、それにホシノさんがいれば、確かに殲滅できるわね)と、ユウカは納得してしまった。ノアは内心呆然としていたものの、話自体はちゃんと聞いている。
「その建物では謎のアナウンスが流れ、そこで『資格』を先生が保持しているという謎の事実が判明しました。そして、その先へと導かれた私たちが見つけたのは、眠るように安置されていた、一人の少女と見間違えてしまうほどの一体のロボットでした」
"まぁ、導かれたというよりは、足元の床が大型の機械を搬出入するための大きな扉だったんだけどね。幸いな事に、皆のおかげで全員無事だったよ(流石に詳細は言えないけどね)"
その時、先生はあの時の詳細についてモモイとミドリに口止めしただろうかと思い出したが、口にはしなかった。万が一、口止めするのを忘れていた場合が怖い。
何しろ、その場にいた全員がすっかり忘れている可能性があるのだ。後々になって問題にならなければいいのだが……。
「型番は『AL-1S』。起動するとヘイローが浮かび上がるという、私たちと全く変わりのない人間と見間違えてもおかしくない存在です。
その子は、型番をもじってアリスという名前を付けられました」
『ちょ、ちょっと待って!! 人間の少女と見間違えるようなロボット!? そんなの聞いた事がないわよ……って、その子は今何処に…………って、もしかして!?』
"ユウカの推測通り、今はゲーム開発部にいるよ。ゲームを遊ばせたら、そこから言葉遣いや常識を学んでいるみたいで、多分今頃も色んなゲームを遊ばされているんじゃないかな……?"
『最悪……色んな意味で。どうして止めなかったの?』
ユウカの言葉に、ノアは少し考え込んだ。確かに、アリスをゲーム開発部に任せてしまうのは不安が残る。けれど、だからといって、あの場でゲーム開発部から引き離したところで、アリスの扱いについて別の問題が発生することになる。
そう考えれば、少なくとも現状が最悪の選択だったとは言い切れない。
『ユウカちゃん。多分、止めても無駄だと思いますよ。仮に止めても、その子の処遇をどうすればいいのか、こちらでも議論をしなければいけません。そう考えれば、この結果はベストとは言えませんけど、ベターな結果に収まったと思えばいいでしょう』
「ベターで済めばいいけどねぇ~。モモイだっけ? 学籍の事で何かやってたみたいだけど、あの子
"学籍って簡単に作れるものなの?"
『転校なら前の学校の学籍があるから可能ですけど、一度学籍を失うと、信頼できる後ろ盾がない限りは基本的に不可能ですね』
"やっぱりかー。まぁ、だからこそフラスコで更生支援をする事にしたんだけどね"
実際にカタカタヘルメット団の解散と更生、そしてアビドス高校への編入というシャーレの実績があるからこそ取れる手段だ。現状、受け入れ先はアビドス高校しかないが、この件がうまくいけば、ミレニアム側に提案するのもいいかもしれない。
"それでも、あの時点で無知無垢なアリスに関しては難しいとしか言えない。人間にしか見えないロボットだとしても、一度はっきりとした検査は必要だ。明日訪問した時に行うしかないね"
「……先生、あの時私も軽く調べたのですが、本来ロボットに必要ない女性器と肛門がありました。つまり、人間としての機能も必要として作られた可能性があります」
『嘘でしょ……ユーリさんの推測が当たっていれば、妊娠・出産機能も組み込まれたロボット!? 一体何のために作られたの?』
"今思いついた推測なんだけど、『G.Bible』の『G』は、生成や生産を意味する単語の頭文字なんじゃないかな? それと、『Bible』も単語そのものを意味しているんじゃなくて、
『Gから始まるのは、
先生が推測を口にすると、ノアはほとんど間を置くことなく、Gから始まり、生成や生産、成長などの意味を持つ単語を次々と挙げていった。まるで頭の中にある膨大な知識の引き出しから、必要な情報だけを瞬時に取り出しているかのような淀みのない受け答えだ。
その様子を見て、先生は改めてセミナーの書記を務めるノアの知識量と、状況に応じて必要な情報を即座に引き出す頭の回転の速さを実感していた。
先生の推測を聞いたユウカは、しばらく黙ってその意味を考えていた。
『G.Bible』という名前について考えてみれば、確かに単純に『Bible』という単語が使われているとは限らない。先生の言うように、何らかの頭文字を組み合わせた名称だとすれば、先ほどの施設についても別の見方ができる。
『つまり先生は、『G.Bible』の『Bible』は何らかのデータを意味する言葉ではなく、私たちが入り込んだ建物……つまり、施設の名前で、正しくは『
それなら辻褄は合いますが……』
『話の道筋が外れてしまいましたが、ゲーム開発部の処遇について話し合わなければいけません。
例え先生たちが随伴した……いえ、この場合はモモイちゃんが連れ回した、と言った方がいいでしょう。先生の許可は……出す前に廃墟への無断侵入、正体不明のロボット少女の持ち帰り、そして話の流れから考えると、何らかの方法で学籍を偽造した可能性まであります。
下手をすれば庇い切れず、今までの処遇も含めて、モモイちゃんとミドリちゃんは停学一年以上が確定。ユズちゃんは監督不行き届きで停学半年程度、といったところでしょうか』
"そうなると廃部は確定か……。今回の事に関しては庇えても、それ以前に関しては既に罪状が確定しているから、下手に恩赦を与える訳にはいかないしなぁ……"
「でも、そうなったらアリスさんの世話は誰が行うのですか?」
ワカモの一言に、全員が言葉を詰まらせた。
ゲーム開発部の三人に停学処分が下された場合、残されたアリスの処遇が宙ぶらりんになってしまうのだ。かといって、現在進行形でゲームを遊ばせながら、ゲームを通じた教育――悪く言えば、洗脳にも近い教育が続いている。どちらに転んでも、簡単には落としどころが見つからない。
そこで初めて、全員が自分たちの犯してしまった致命的なミスに気づいた。
あのクソゲーを前に全員が思考停止に陥ってしまっていたが、本来ならばもっと早い段階で連絡を取り、ゲーム開発部を止めるべきだったのだ。
その事実に気づいた全員が、思わず頭を抱えてしまった。
突然そんな反応を見せた一同に、ユウカも最初は何事かと慌てた。しかし、事情を聞いていくうちに問題の深刻さを理解すると、やがて額に手を当て、大きなため息をつく。
どうやら、また一つ頭を悩ませる問題が増えてしまったらしい。
『いえ、下手をすると起動した時点で
ノアの推測が正しければ、ゲーム開発部の三人を停学にするとアリスまで彼女たちについて行ってしまうことになる。最悪の場合、そのまま退学あるいは転校することになれば、未知の存在であるアリスまで一緒について行ってしまう可能性は高い。
そうなれば、ミレニアム側としても都合が悪すぎる。その後に起きるであろう厄災も、想像に難くない。その話になるとホシノが難色を示した。
「うへー。今の所、何の反省も後悔もなく突っ走っているあの子達には、アビドス側でもちょーっとだけお断りかなぁ~。せめてシャーレかフラスコで更生支援を受けてからでないと駄目だね」
"そうなると……"
ホシノが生徒会長として、今のままではアビドスでの受け入れは難しいと伝えると、先生は少し考えを巡らせた。そして、大きなため息をつくしかなかった。
結局、最終手段に頼ることになるからだ。
"……ユーリ、すまない。
「私としても、あの二人の潜在能力は危険だと思うから仕方ないよ。受けてあげる」
ユーリの言葉に、一同は揃って疑問の表情を浮かべた。
先生がその意味を問いただすと、ユーリはモモイとミドリを
それを聞いた一同は、さらに困惑した表情を浮かべる。
ユーリはそんな一同の反応を見ながら、二人がどれほどの戦闘能力を発揮するのか、具体的な例を挙げて説明を続けた。
「具体的に言うと、私たちが初めて会ったワカモちゃんと、それなりに戦える実力になってるよ。仮にあの時のワカモちゃんが撤退不可の状況で戦うなら……。
多少だけど、ワカモちゃんが負ける可能性もあるよ」
「……つまり、あの二人を組ませると、場合によっては私を捕らえたあのFOX小隊には及ばないまでも、私に勝てる可能性がある、という事ですか。
にわかには信じられませんが、ユーリさんが言うのなら納得するしかないでしょう」
自分と同等に近い戦闘能力を持つ可能性があると聞き、ワカモはしばし考え込んだ。
その言葉が意味するところを整理するように、ノアもまた静かに思考を巡らせる。
『七囚人の中でも一番名前が出ている、災厄の狐を上回る可能性すらある実力……。
それは確かに、下手に停学や退学にはできませんね。そうなるとゲーム開発部の存続は、厄災の獣をミレニアムに繋ぎとめる鎖、という訳ですね。何らかの形で恩赦を与えて繋ぎ止めるか、シャーレの管理下に置いて繋ぎ止めるしかありませんね』
"厄災の獣……言い得て妙だね。そうなると、何らかの恩赦なり裏で何かするなりして存続。条件として、訓練部隊としてシャーレに在籍って所かな……"
先生が現実的な落としどころを口にすると、ユウカはすぐに別の問題へと思考を切り替えた。
ゲーム開発部を存続させるのであれば、当然ながら彼女達が今後何をするのかについても考えなければならない。
『確かあの子達、ミレニアムプライスに出すって言っていたわね……。アリスって子がシャーレの認可を受けた特例として入学すると、確かに残りの条件はそれだけだけど……大丈夫なの?』
その言葉に、一同は沈黙した。
正直に言って、「これはひどい」という言葉を第一声として出せるほどなのだから。*6
"ひとまず恩赦の事は伏せて、明日彼女達と話し合いをするしかないね"
先生以外、ゲームに詳しくない面々でもその酷さは理解できるレベルだった。
少なくとも彼女達だけで作らせた場合は、間違いなく大惨事となるだろう。
ゲーム開発部の大まかな処遇は、これで決まった。
今回のサブタイトルの元ネタは、Wendybellの「匣の中の情事」からです。
会話や地の文に色を付ける事に関してアンケートです。活動報告にも詳細を書いてあるので一度目を通してください。文字に色を付ける事に関してどう思いますか?
-
全削除
-
赤のみ残す
-
赤とピンクのみ残す
-
そのまま
-
むしろ増やせ