Paradise of the Disqualified:Rewritten World   作:GameMaster

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02話 DREAMS

「お疲れ様です。それでは、資材搬入の続きを行いましょう」

 

 ヘルメット団を追い返して喜んだ一同は、リレー方式でトラックから資材を降ろし、学校へと運んでいた。そんな中、一人の小柄な少女――ユーリが戻ってきた。

 

"ユーリ、お疲れ様。首尾はどうだった?"

 

上々だね。トラック一台、空きそう?」

 

 その問いに、アヤネは「大丈夫です」と返事をし、ユーリはそれ以上説明することもなくトラックへ乗り込み、そのまま学校を後にした。その行動に疑問を抱いたシロコが、先生に尋ねる。

 

「ん、先生。あの人はどこへ?」

 

"ああ、『資源回収』に行ったよ。まさかあんな方法を思いつくとはなぁ……いや、知ってはいたけど、そこまで頭が回らなかったというか、すっかり忘れていたというか……"

 

「やっぱり、強そう」

 

"そりゃあ強いさ。伊達に親衛隊の隊長を務めてるわけじゃないからね"

 

 そう納得しつつも、彼は心の奥で一つの疑問を抱いていた。

 ユーリ自身、「外」の魂と融合していると言っていたが、果たしてその“外”の知識はどれほどのものなのだろう? 場合によっては、自分よりもはるかに深い思考を持つ存在なのかもしれない。

 頼もしさと同時に、自分の未熟さを痛感し、彼は静かに決意を新たにした。

 

「こっちは燃料タンク中心ですねー。よっこいしょーっと☆」

 

「うわっ、ノノミちゃんすごい! 二つ同時に持てるなんて!」

 

「これくらい楽勝ですよー。ホシノ先輩がだらしないだけですから♪」

 

「うへぇ……あれ? トラックが戻ってきた」

 

 戻ってきたトラックから降りてきたのは、ワカモだった。

 このとき彼女は、すでに連邦生徒会の制服に着替え直していた。

 

「お待たせいたしました。ある程度、資源回収を終えたので戻ってまいりましたわ。ユーリさんは残りの資源をまとめているところです」

 

 その言葉に違和感を覚えたセリカがトラックを覗き込むと、後ろ手に拘束されたヘルメット団の団員たちと、彼らが所持していた銃器などが山積みにされていた。

 ……さすがに亀甲縛りではないが。

 

「なっ……!? ちょ、ちょっと待ってよ! この人たちって、さっき私たちが追い払ったヘルメット団の連中じゃない!? なんで連れてきたのよ!?」

 

「申し上げましたでしょう、『資源回収』と。ユーリさんの話では、人材や、彼らが所持していた武具も立派な“資源”なのだとか。無駄にすべきではない、と。合理的な考えですわ。

 それに、このまま放置すれば、いずれまた襲ってくるでしょう? 私たちにも、無意味な消耗戦を繰り返す余裕はございません。

 ですから、敵の戦力を削ぐためには、手段を選んではいられませんの」

 

"言いたいことはわかる……だけど、今は我慢してくれないか? とりあえず、捕虜と押収した武器を運ぶのを手伝ってほしい"

 

 先生の指示で、一同は戻ってきたトラックから捕虜や回収した銃器を搬出していった。空になったトラックには再びワカモが乗り込み、回収に向かった。

 その様子を、セリカは不満そうな表情で見つめていて、ホシノの目は笑っていなかった。

 

"思ったより弾薬が多いな……再補給の手間が省ける"

 

「ん。それに武器も……あれ? これ、ほとんど新品……」

 

 シロコの言葉に、先生は違和感を覚えた。軽く見た限り、捕虜の服装はくたびれているのに、武器だけは綺麗で弾薬も豊富だった。

 仮に今この場で話をしても、信頼関係が築かれていない以上、下手をすれば事態をこじらせるだけだろう。それどころか、相手の警戒心を無駄に刺激し、余計な火種を増やす可能性すらあった。

 

"(これは後で相談しないとな……)尋問は、二人が戻ってきてからのほうがいいかもしれないな"

 

「そんなに難しく考えなくてもいいよー。面倒でしょー?

 来たら来たで、全部倒せばいいじゃん」

 

 考え事を口にすると、隣に立っていたホシノが曖昧な意見を返してきた。

 

"世の中、そんなに簡単にいかないんだよ"

 

 そう言って、先生は手を止めずに箱を運び続けた。

 

"それにさっきワカモも言ったけど、ずっとこのまま追い返すだけで同じ状況を永遠に続けるわけにもいかないでしょ? 問題を先送りにしてはいけないのは大人も子供も同じだよ"

 

 そう、世の中が発展すればするほど、簡単に見える問題の裏には複雑な事情が隠れている。いつの時代も問題と言うのは簡単と複雑が入り混じっているのだ。

 

"『大人が卑怯なのではない、卑怯な大人がいるだけだ』か……"

 

 ふと、『ポケットモンスター』の悪役、サカキの台詞が口をついて出た。

 その言葉に、セリカは納得がいかないとでも言うように反論した。

 

「そんなのは詭弁よ」

 

"そうかな……? 僕も大人だけど、まだ悪い人だなんて思われてないでしょ?

 それにヘルメット団だって、大人じゃないでしょ? 詭弁かもしれないけど、大人でも子供でも悪い人はいる。言い換えれば、その逆だってあるんだから"

 

「それはっ……それ、は……そうかもしれないけど……」

 

"先程の言葉の続きだけど、『子供にだって卑怯者はいる。つまり、人それぞれということだ』ってね。これは外の作品『ポケットモンスター』に登場する悪役、サカキの台詞なんだ。

 単なる悪役の言葉として聞き流すにはもったいないくらい、意外と深くて考えさせられるんだよ。世の中は決して単純じゃなくて、善悪も立場も、時と場合によって変わるものだから。

 だからこそ、一つの言葉に固執せず、色んな視点で物事を見なければいけないんだと思う"

 

 詭弁かもしれない。だが、セリカは目の前で行われている捕虜の搬送を見て、反論ができなかった。先生は何も言わず、ただ搬出を手伝っていた。そのうちに二台のトラックが戻ってきて、回収した資源が追加されたのだった。

 

 

 

「さて、捕虜はどこに集めるかな……」

 

 捕まえた捕虜は25名。その中には幹部も一人含まれていた。人員や武器・弾薬の回収という点では、幹部のおまけつきという大金星だ。*1

 

 この『資源』をどう扱うかが、今後の戦略や展開を大きく左右することになる。だからこそ、軽々しく扱うわけにはいかず、一つ一つの判断に慎重さが求められたのだ。

 

「すみません、ここで一番偉いのは誰ですか?」

 

 ユーリは頭の中で大まかな青写真を描きつつ、近くにいた胸部の立派な少女(ノノミ)に尋ねた。

 

「あっ、さっき凄い勢いで飛び出して敵を倒してくれた子ですねー。十六夜ノノミと言います。呼び捨てで構いませんよ。一応、一番偉いのはホシノ先輩です」

 

「ご丁寧にどうも。真神ユーリって言います。ホシノ先輩って、あの髪が桃色の子ですか?」

 

「そうですよー。あれでも先輩なんですよ」

 

「私と身長が大差ないのに……世の中は不条理だね……」

 

 小鳥遊ホシノの身長は145cm。そして真神ユーリの身長は137cm。

 当然といえば当然だが、先生とワカモを除けば、周囲の誰もがユーリを一番年下の子だと勘違いしていた。落ち着いた物腰や口調が逆に年上らしさを感じさせにくく、加えて小柄な体格と童顔がその印象に拍車をかけていたのだ。

 

 最終的にホシノの許可を得て、捕虜は一時的に体育館へと収容・監禁されることになった。

 

 

 

 改めて一同は、『対策委員会』と書かれたプレートの掛かる部屋へと案内された。互いに自己紹介を交わしたが、やはりユーリの実年齢を聞いた全員が驚いたのは言うまでもない。

 もっとも、彼女の詳細な経歴については語られず、また体の傷を見せることもなかった。ユーリの服装は、連邦生徒会の正式な長袖制服にロングスカート。足元は60デニールの白ストッキングで統一されている。顔にある傷もメイクで丁寧に隠されており、何も知らない者が見れば、彼女をただの物静かな少女としか認識できないだろう。

 

 その後、現状について話を聞くと、今この場に集まっているメンバーがアビドス高等学校の「全校生徒」であり、他の生徒たちはすでに学校を離れてしまったという。町の住民もまた同じように、ほとんどが姿を消していた。

 

 この「対策委員会」は、そんな荒廃したアビドスを立て直すために設立された組織であり、彼女たちは支援の当てもなく、今日まで自力でどうにか踏ん張ってきたのだ。そしてようやく、こうして連邦生徒会からの支援が届いたことに、彼女たちは心から安堵しているようだった。

 

(事態はそう簡単じゃない……問題点をリストアップするだけでも相当な時間がかかるわね……)

 

 ユーリは表情には出さないまま、内心では冷や汗をかいていた。

 ポーカーフェイスを貫きながらも、脳内では状況の複雑さを必死に整理していたのだ。

 そんな折、ホシノが静かに一つの提案を出した。それは、敵の前哨基地を急襲するという案だった。捕虜となった仲間たちの情報が本隊に伝わる前に、一気に叩いてしまうという考えだ。

 この奇襲提案に対し、誰も反対する者はいなかった。

 

 一同はすぐに準備を整え、再びトラックに乗り込むこととなった。

 

 

「一号車は、とりあえず私と、あと一人好きな人が乗り込んで! 二号車はワカモと先生。他の人は申し訳ないけど、荷台にお願い!」

 

 それぞれが車両に分かれて乗り込んでいき、一号車の助手席には、まるで最初からそのつもりだったかのように、ホシノが自然に腰を下ろした。

 

「よろしくねー、ユーリちゃん」

 

「よろしく、ホシノちゃん」

 

「うへー、おじさんに“ちゃん”付けは……って、まあお互い様かー。よろしくね、『返り血(スプラッター)』」

 

「―――なるほど。昼行燈を装ってるわけね、ホシノちゃん。

 じゃあ、着いたら戻っても問題ないってことね?」

 

「期待しているよー」

 

『それでは、“アレ”のお披露目もできますわね』

 

"アレ、個人的にちょっと羨ましいんだよなぁ……"

 

 二号車からの無線に、ホシノは「アレ?」と疑問を口にしたが、先生からは「到着してからのお楽しみ」と、とても嬉しそうな声が返ってきただけだった。

 前哨基地の近くまで迫ると、残存勢力が迎撃に出てきたとの通信が入り、全員が車を降りて警戒態勢を取った。

 

 ユーリとワカモが携帯端末を手に取り、背筋を伸ばして声を合わせた。

 

「「ロードアウト・セット!」」

 

 瞬時に、連邦生徒会制服姿の二人は、音もなく――いつもの戦闘用の制服姿へと切り替わった。

 

「えっ、ええええ!?」

 

「へ、変身した!?」

 

 セリカとノノミは驚きの声を上げ、ホシノとシロコは目を丸くして呆然と立ち尽くす。

 

"やっぱり変身っていいなぁ……憧れちゃうよね"

 

 先生は後方で腕を組み、うんうんと満足そうに頷いていた。

 

"よし、それじゃあ攻撃開始(エンゲージ)! ユーリは絶対に手加減してね!!"

 

 

 

 結果だけを言えば、大勝利だった。

 悪名高い「厄災の狐」と「返り血(スプラッター)」が相手であれば、普通ならばすぐに撤退戦へと移行する。

 だがユーリは、その鋭く冷徹な視線を一瞬も緩めることなく、逃げ惑う敵を容赦なく追い詰めていった。彼女の動きは的確で無駄がなく、一切の迷いを感じさせず、確実に敵を制圧し、拘束していったのだった。

 

 結果として、残存勢力25名を捕らえることに成功した。そのうち一人は幹部であり、捕虜として確保。加えて、物資もすべて奪い取ったのだ。*2

 

 アジトを徹底的に破壊する案も一度は検討されたが、最終的には冷静さを保ちつつ、皮肉を込めたメッセージだけを残して静かに立ち去ることに決めた。

 

「ごちそうさまでした。お代わりお待ちしております」

 

 ──いや、なんというか、完全に煽り全開。ひどい。

 

 

 学校に戻って捕虜を体育館に連れて行くと、案の定、意識を取り戻した彼らは騒ぎ出した。

 暴れたり喚いたり、声を荒げたりと、収拾がつかない状態だったので、ユーリは仕方なく少し“お灸”を据えることにした。

 

ねぇ、ちょっと静かにしてくれないかな。声がうるさくて脅す気にもなれないんだけど

 

「うるせぇ! どうせ相手は―――」

 

 その瞬間、ユーリは相手の顔面に鋭い蹴りを放ち、一撃で昏倒させる。

 周囲に強い殺気を放出させればそれだけで周りは怯んだ。

 

「正直に言うけどね、歯向かうなら徹底的に潰すよ。私一人だからって、調子に乗ってるんじゃないよ? 仮に全員が万全だったとしても、私は一人で十分勝てる。

 ただし、それなりに制裁するよ? 覚悟できてる?」

 

 そして言葉の最後に、冷ややかな笑みを浮かべながら、ユーリは腰の刀を静かに抜いた。

 刃が空気を切る微かな音だけが響き、その切っ先は、偶然目が合った一人へと向けられる。

 まるで「お前でいい」と告げるかのように。

 

「この刀は飾りじゃないよ。今ここで、見せしめが必要だと思ったら……その時は躊躇しないよ」

 

 脅し文句の直後、ユーリは強い殺気を叩きつけた。突如として空気が張り詰め、肌が粟立つような気配に、何人かは声にならない悲鳴を上げてその場に崩れ落ち、失禁(おもらし)した。

 

「所詮、烏合の衆ね。まだそんなに元気があるなら……後で一人一人、順番に、時間をかけて……丁寧に、お話しましょうか?」

 

 そうして「私、不機嫌なんですけど?」的に強い殺気を出すと、圧倒的な殺気に晒され、複数人が悲鳴も出せずにその場に崩れ落ちた。気づけば床のあちこちに、無言の恐怖を示すかのような水溜り(おもらし)が広がっていた。

 流石にやりすぎたのか、殺気を霧散させて穏やかに語り掛ける。

 

「仲間を売れ、とは言わないけれど。あなた達は今後の人生をちゃんと考えて更生するのなら、私はそれなりの態度で接するよ。改めなければ……その後は無いと思いなさい」

 

 この時、ユーリは「更生しなければ見捨てる」感覚で言ったのだが、彼女達にとっては「更生しなければ殺す」と捉えられてしまった。

 もともと彼らは、さまざまな理由で学校に居場所を失った人間だった。だが命の危機を前にして、「真面目に生きなければならない」と理解してしまった。

 そうしなければ、待っているのは無残な死だけだと。その決意を言葉にする者はいなかったが、全員が心のどこかで、人生をやり直すことを選んでいた。

 とりあえずは、協力して失禁(おもらし)してしまった子のケアからだ。

 

 

 

"お疲れ様。入って数分で終わらせられるのはやっぱりすごいね……どうしたの?"

 

 そんな先生の柔らかな声に、ユーリは軽く会釈を返しながらも、内心で別のことを考えていた。

 ――やっぱり、失禁(おもらし)させるなら、先生の目前でやるのが一番効果的よね。あの雰囲気でやられたら、プライドごと壊れるだろうし。

 

 そう確信したユーリは、次の機会には必ず先生を連れてこようと、静かに心に誓った。

 脳内ではすでに愉悦の笑みを浮かべていたが、もちろんそんな表情は微塵も見せず、相変わらずの無表情を保っていた。

 

 

 

 対策委員会の部屋へ戻った一行は、支援に対する礼を受け取っていた。その最中、「借金返済」という不穏な言葉が、ふと耳に入った。

 気になって詳細を尋ねると、半ば逆ギレした様子のセリカが突然教室を飛び出してしまい、ノノミが慌ててその後を追いかけていった。

 その場に残された一同は、改めてアビドスに課せられていた借金のいきさつを確認し、同時に先生たちもまた、ここに至るまでの経緯を語ることとなった。

 

「そんなっ……!? 問題に向き合わなかったんじゃない……握りつぶされていたってこと!?」

 

"うん。ほら、生徒会長に出した手紙があったでしょ? あれが偶然、シャーレ宛の書類に紛れ込んでたんだ。だから、たまたま僕たちの目に触れた。もしあの手紙がなかったら……今ごろ、アビドスはもう終わってたかもしれない"

 

「……一体、何のために? 借金返済を妨害してまで、そんなことをする目的って? どうして生徒会まで使ってまで……何を隠そうとしていたの?」

 

 誰もが言葉を失っていた。

 アビドス側は、ただ借金返済の障害を取り除いてくれさえすれば、それで充分だと思っていた。しかし、いざその背後に連邦生徒会の関与があると判明した瞬間、話は一変した。

 

"……これは、アビドスだけの問題じゃない"

 

 沈黙の中で、先生が静かに呟く。その静寂を破ったのは、アヤネだった。

 

「……つまり、連邦生徒会が内側から崩壊する可能性がある、ということですか?」

 

 沈んだ声だったが、その言葉は場の全員に重くのしかかった。

 確かに、連邦生徒会内部にまで問題が及んでいるとすれば、今ここでアビドスを切り捨てることは、すなわち未来の自壊を意味する。

 

「ってことは、あの混乱がもう一度、最初から起きるわけかー。しかも今度は、誰かが止めてくれる保証もなしで、収束不可能っていうおまけつき。……うへぇ、勘弁してほしいなぁ」

 

 冗談めいたホシノの口調だったが、その言葉を否定できる者は、誰一人いなかった。

 

"……シャーレも、もはや完全に当事者だ。この問題を最優先で解決しなければ、他の問題を片付ける意味すらなくなる"

 

 重苦しい空気が場を支配する中、ユーリがそっと手を挙げ、一つの提案を口にした。

 

「流れを切って申し訳ないんだけど、ホシノちゃん。校舎って、ほとんど使われてないんだよね? その空いてる場所を、ちょっと改造してもいいかな?

 

「……別にいいけど。何するの?」

 

「簡易監獄にしようと思って。いつまでも捕虜をすし詰めにしておくわけにもいかないし、尋問しやすいように環境も整えたい。うまく更生できたら引き渡す、って形も取れるしね」

 

 ――捕虜となったヘルメット団を更生させ、編入させるための手段だ。

 おそらくユーリは、クラフト系ゲームの能力も有しているのだろう。

 そうであれば、空き教室を“簡易”とはいえ脱出不可能な監獄へと作り替えることなど、彼女にとっては造作もない。その提案に、さすがにホシノの表情が曇る。

 だが、ユーリのプレゼンテーションは、まだ終わっていなかった。

 

「多分、今の生徒数じゃ、学校を維持し続けるのは難しい。もしこの現状が、生徒会の内部にいる“敵”の耳に入ったら……」

 

"――有無を言わさず、アビドスは即座に潰されるだろう"

 

「確かに、問題を洗い出して優先順位をつけるべきだってことは分かってる。だけど、今いちばん優先すべきなのは生徒数の問題だよね。

 それと……()()。対策委員会って、部活動として登録されていましたっけ?」

 

 『先生』をあえて強調して確認するのは、先生を通じてアロナへとコンタクトを取るための合図だった。アロナの存在を知るユーリだからこそ可能な方法である。

 

 先生はすぐにシッテムの箱を取り出し、操作を始めた。

 

"確認してみるね"

 

 アロナがバックドアからシステムに侵入し、関連情報の調査を開始する。

 数秒後、応答が返ってきた。

 

『少しお待ちください。申請自体は二年前に提出されていますが、正式な処理記録が存在しません。受理された形跡はあるものの、承認・却下のいずれにも進まないまま、意図的に保留状態へと置かれています。担当者の特定を進めますね』

 

 その言葉を聞いた先生は、無言のままユーリに向かって首を横に振った。

 

やっぱり……最初から潰されていた。偶然じゃない、これは計画的なもの。

 敵はかなり前から、意図的にアビドスを狙って動いていた……。

 一体、何のために? ただの借金問題で、ここまで手の込んだ真似をする理由があるはずだ)

「……やっぱり、登録はされていないみたいですね。

 これも最優先事項として、申請書類を出し直さないと。……やることが、多すぎる」

 

「うへぇぇぇ……ここまで追い詰められてたんだねー。もういいよ、好きにやっちゃって」

 

 そこまで言われてしまえば、さすがのホシノも折れるしかなかった。

 すでに状況は崖っぷちどころではない。足場そのものが崩れ落ち、真っ逆さまに堕ちている最中だ。こうして彼女は、シャーレの提案を受け入れることになった。

 

"こちらも一旦シャーレに戻って、必要書類の制作を進めることになるね"

 

 話し合いも一区切りつき、その日は解散となった。

 

 各々が帰路へと向かう中、シロコはふと声をかけるべく、隣にいた先生とワカモ先輩の元へと歩み寄った。ユーリはすでに集中して作業に取りかかっており、そちらには目もくれずにいた。

 

「ん、先生、ワカモ先輩。泊まる場所ある?」

 

「いえ、とんぼ返りです。シャーレでもやることができましたし、一旦戻らなければなりません」

 

「今から帰っても、遅くならない?」

 

"あー……実はね、裏技があるんだ。とんでもない裏技が……"

 

「ええ。常識が音を立てて崩れるような、そんな裏技が」

 

 二人がそろって遠い目をしたので、シロコはわずかに首を傾げた。

 

 説明するべきか、適当に誤魔化すべきか――二人は一瞬だけ迷った。しかし、下手に濁せば心配してついてこられる可能性もある。

 

 それに二人は、午前中からの運転、連戦、会議と続いていたため、判断力が鈍っていたのか、普段なら思いつかないような突拍子もない考えが頭に浮かんでしまった。

 

「そうですわ! 百聞は一見にしかずと言いますし、シロコさんも巻き込みましょう!」

 

"あ、それいいかも。ちょっとユーリに許可を取ってみるね"

 

 突然の提案に、シロコは完全に思考が追いつかないまま置き去りにされ、気づけば話はあれよあれよという間に進み、ユーリの許可まで取り付けられていた――

 

「手をつなぎましたね」

 

「ん!」

 

"Harpy(ハーピー) Feather(フェザー)』起動。目的地、シャーレ"

 

 次の瞬間。

 三人は、シャーレのオフィス前に立っていた。

 

「―――え?」

 

"電気落としてると、やっぱり薄暗いな……窓の遮光を解除してから照明つけるね"

 

『了解しました……完了です!』

 

「相変わらず、ぶっ飛んだ能力ですわね……あなた様。私は自宅に戻って、シロコさんの寝床を用意してから夕食の準備をしますわ」

 

"了解。こっちは明日に向けて書類の整理を――あ、ユウカからモモトーク来てる。返信して予定に入れて、と……"

 

 シロコは完全に困惑していた。言われた通りに手を繋ぐと、先生が何かを起動した瞬間、気づけば見知らぬ建物の中にいて、二人は慌ただしく動いていた。

 

(え……? さっきまで、学校にいたよね? ここ……どこ?)

 

"シロコ、とりあえずこっち来て。そこ、座ってて"

 

「……ん、ん」

 

 言われるがままソファに腰を下ろす。周囲を見渡すと、どうやらオフィスのようだった。自分だけが場違いな存在に思えて落ち着かない。

 そんな彼女の手元に、ペットボトルのお茶が差し出された。

 

"説明不足でごめんね。急いでたから、今日はこれで勘弁して。

 ユーリの力を借りて、転移能力を使ってシャーレに戻ってきたんだ"

 

 そう言われても、理解がすぐに追いつくはずもない。

 

"無理に今すぐ受け入れなくていいよ。僕たちも最初は戸惑ったから。

 今日はゆっくり休んでほしい"

 

 結局、落ち着くまでには少し時間がかかったが、案内された自宅で夕食をとり、ベッドで休むと、意外にも早く眠りにつくことができた。

*1
原作1章2話戦闘パートの敵24人とボス「慎重なヘルメット団幹部」

*2
原作1章3話戦闘パートの敵24人とボス「猪突猛進のヘルメット団幹部」




 前々から思っていたのですが、どうして捕縛しないのかな、と。
 もちろん、色々と大人の都合があるのは分かっています。ただ、二次創作作品をいくつか読んでいても、結局は敵を逃してしまう展開が多いんですよね。
 それって、甘いんじゃないかな、と感じてしまいました。
 最低限、数人くらいは捕虜にして情報を引き出したり、ヴァルキューレに引き渡したりしてもいいはずです。そんな考えから、この作品では「後方の憂いを断つ」ために、捕虜を取るという選択をしています。

 リンクした楽曲
 DREAMS ~from 機動新世紀ガンダム X~
 執筆中に色々な曲を聴いている中で、この曲が流れた瞬間に「これだ!」と思いました。
 戦闘シーン自体は短めですが、この曲の力強さがとても合っていると感じ、使用を即決しています。また、2話のタイトルもこの曲名から取りました。
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