Paradise of the Disqualified:Rewritten World   作:GameMaster

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03話 活動は食事の後で

 シロコはその日、いつもより遅く目を覚ました。

 普段ならとっくに日課のランニングを終え、シャワーを浴びている時間だ。

 

「……知らない天井……」

 

 そこで思い出した。突拍子もない形でシャーレに招待されたのだ。“転移”なんて、創作物でしか聞いたことのない能力で。その力の大本が、あのユーリだというのだから。

 正直に言えば、彼女は最初から得体の知れない存在だった。だが、噂に聞いていた『返り血(スプラッター)』がまさか彼女自身だと知ったときには、なおさら信じがたかった。どう見ても、ただの“普通の少女”にしか見えない――少なくとも、外見だけならば。

 ……でも、見てしまった。彼女の圧倒的な速さと、的確かつ容赦なく相手を制圧していく、あの戦いぶりを。しかも、あれで手加減しているなんて――どうかしてる。

 

 考え事をしていると、あの先輩みたいに二度寝しそうだったので、ベッドから起きることにした。脱ぎ捨てたはずの制服は、いつの間にか綺麗に整えられてハンガーに掛けられていた。

 まるでクリーニングされたかのように、消えなかったはずのシミや、少し残っていた汗臭さまで綺麗さっぱり消えている。……すごい。

 

「ん! いい気分」

 

 リビングダイニングに足を運ぶと、そこには食事中の先生とワカモがいた。そして、なぜか――メイド服を纏ったユーリの姿もあった。

 

 思わず目をこすって見直す。だがやはり、そこにはメイド服姿のユーリがいる。

 

「……なんで?」

 

 あまりにも突飛な光景に、思わずそう呟いたシロコは悪くない。

 その声に気づいた三人が、口々に挨拶を返す。

 

"おはよう、シロコ"

 

「おはようございます」

 

「シロコちゃん、おはよう」

 

「ん……おはよう。……どうしてメイド服?」

 

 シロコの疑問はもっともだった。確か、メイドというのは掃除や料理などをこなす職業。

 同時に、とある学校ではエージェント集団でもあると聞いたことがある。もしかして、彼女もその手のプロなのだろうか……?

 

「一応、こっちの技能も習得してるからね。シャーレのオフィスもこの家も清掃が大変でさ。この服を着ると、本気出すって感じになるんだ。料理も得意だから、もう朝食は用意してあるよ」

 

 簡単に言ってのけたが、彼女はメイド系最上級職“パーフェクトメイド”と、料理人系最上級職“味皇”をマスターしている。ユーリにとっては、“できて当然”のことだった。

 だが、そのことを知らないシロコからすれば、家事も料理も完璧にこなせるすごい人に見える。尊敬の念を抱くのも、無理はなかった。

 

 

 

"さて、準備も終わったし――アビドスに戻ろうか"

 

「一応、校門前と屋上に中継点(WayPoint)を設置してるけど、どっちにする?」

 

「屋上にしておきましょう。理由は単純です。

 この“アプリ”…いえ、ユーリさんの能力について知っている人間は、少ない方がいい。確かに非常に便利ですが、これは私たちの切り札のひとつです。

 たとえ他にも奥の手があったとしても、むやみに周知させるのはリスクが大きすぎますから」

 

"『切り札は先に見せるな。見せるならさらに奥の手を持て』、か。昔の漫画にもあったけど、実際その通りだね。もし対策されたり、行動を予測されるようになったら――相当まずい"*1

 

「ん、言わない。利用もしない」

 

「ありがとね、シロコちゃん。それじゃあ、転移するよー!

Harpy(ハーピー) Feather(フェザー)』起動! 目的地は――アビドス高校校舎、屋上!

 

 

 屋上に到着すると、ユーリは休む間もなく、改造された簡易監獄の設備確認へと向かった。

 収容状態や安全面を一通りチェックした後、捕虜たちへの食事の提供や、予定されていた尋問の準備にも回っていく。

 一方、先生とワカモ、そしてシロコはそのまま対策委員会の教室へと向かう。

 

「ん、おはよう」

 

「あれ、シロコさん? 今日はずいぶん早いですね……あ、先生たちも一緒に――あれ?」

 

 教室にはアヤネの姿があり、首をかしげてこちらを見ていたが――

 

"気にしないで"

 

 先生のその一言で、うやむやにされた。

 細かいことは気にせず、そのままその日の会議が始まった。

 

"これが申請の書類だよ。まずはここにサインを書いてもらってね。そのあとはシャーレの権限を使って、生徒会に提出することになるんだ。普通なら生徒会の承認が必要だけど、この権限があれば申請はほぼ間違いなく通るよ。もし仮に通らなかったとしても、その時はこの権限を使って監査を入れれば大丈夫だから、安心してね"

 

「うわぁ☆ 正しい権力の使い方ですねー。では、さっそくサインしますね☆」

 

 先生が手に持って差し出した申請書類に、ホシノ、ノノミ、アヤネ、そしてシロコが順番に目を通しながら丁寧にサインを書き込んでいった。

 書類が徐々に埋まっていく中、その場は静かながらも確かな緊張感が漂っていた。だが――

 

"あれ、セリカは? まだ昨日の癇癪、収まってないの?"

 

「癇癪……まぁ、確かにその通りだけど……」

 

 そう言ってアヤネは苦笑する。

 昨日、飛び出したセリカをノノミが追いかけたが、結局見つからずに戻ってきたのだという。

 

「……昨日、結局見つかりませんでした。先生から聞いた話を伝えようとしたんですが、セリカちゃんは頑なに意地を張っちゃって……。確かに今さら感もあるんですけど、ちゃんと理由があったんですから。それを聞こうとしないのも…問題ですよね」

 

「こっちも改造を終えて捕虜を移送したけど、その間も彼女が戻ってくる様子は全くなかった。…ねぇ、先生、これって推理作品によくあるパターンじゃない?」

 

"推理作品……? ああ、金田一とかのアレ? ……ちょっと待って、それってもしかして――"

 

 ユーリが言った“推理作品でよくある状況”。

 それは、単独行動をした者が、真っ先に殺されるという、お約束の展開だった。

 もしその推測が正しければ――――

 

「いやいやいや、セリカちゃんはただのアルバイトだよー。朝会ったから間違いない」

 

 ホシノのそういう軽口が、皆の不安を少しだけ和らげて杞憂に終わったのだった。

 

「借金返済のために皆に内緒でアルバイトなんて……なんていじらしくて可愛いのでしょう……。

 ですが、私が敵の立場なら。一人で油断した隙を狙って、行動を起こしますね

 

 ワカモの冷静な意見に、先生とユーリも頷いた。

 アビドス組の残りのメンバーも「まさかそこまで……」とは思いつつも、念には念を入れて、確認を取ることになった。

 

「その前に、捕虜(資源)のお代わりも予想して、牢屋の拡張を進めておこう。

 ついでに昼食もあっちで取るから、作らなきゃ……早いうちに資源の振り分けもしないと」

 

「うへ……もう堂々と“資源”って言っちゃってるよ、この人」

 

「食事の手伝いなら任せてくださいね☆」

 

"クラフトチェンバーの利用も任せて"

 

 

―――校舎改造中&昼食兼夕食の大量生産中―――

 

 

「……ん……おなか……すいた……」

 

「あのカレーは……反則ですよ

 

"我慢我慢我慢我慢我慢我慢…ッ!!!"

 

 校舎を改造して、()()()()()()()()()()()()()を捕虜に振る舞ったのだが、それはもう大好評だった。捕虜たちは滅多に口にできないまともな食事に感激し、その美味しさに涙を流すほどだった。しかし、これからセリカのバイト先へ食事に行くため、カレーを食べられない面々にとってはまさに地獄のような状況で、ホシノはしかめっ面を隠せなかった。

 

「……ま、まぁ、あのおかげでかなり情報を引き出せたから、良しとしましょう」

 

「ノノミちゃん、盛大にお腹の音を鳴らしながら言っても説得力ないよ」

 

「ホシノ先輩も同じでしょ!!」

 

 

 その後、何とか落ち着いた面々はトラック二台を使い商店街へ移動した。目的地から少し離れた場所に停車し、周囲の警戒と確認を行った。

 

"こちらCP、状況はどうだ?"

 

『こちらキュベレー0。『食卓(前哨基地跡)』に痕跡なし。『料理(団員)』は配膳され(立ち寄っ)ていない模様』

 

『こちらキュベレー1、『料理人(団員)』らしき人物と『給食配送車(輸送トラック)』、さらに護送車両(戦車)を確認』

 

"了解。もうそろそろ時間だから、戻ってきて。通信終了(アウト)"

 

「ん、敵も本気みたい」

 

「先生たちの助言がなかったら、間違いなくセリカちゃんを冷やかした後に最悪の事態になっていました。ありがとうございます」

 

"いやいや、こちらも最悪の事態を考慮できていなかったからね。ここから取り返すよ"

 

「ん、それじゃあ先生、おごって……全力で」

 

「いや、先生。食事が終わったら一度シャーレに戻ってユウカちゃんに会う予定なんですから、クレジット払いは厳禁ですよ。それにみんな、私たちは一応連邦生徒会から注視されている身だから、こんな揚げ足取りをされる可能性は勘弁してくださいね」

 

 こうして一同は戻ってきた二人と合流し、目的の柴関ラーメンへ向かった。

 

 

「いらっ……ッ!!」

 

「7名でーす☆ お席ありますかー?」

 

 そんなやり取りの中、一同はそれぞれ注文を決めていった。

 ノノミはチャーシュー麺、シロコは塩ラーメン、アヤネは味噌ラーメン、ホシノは特製味噌ラーメンにチャーシュー追加、ワカモは味噌ラーメン、ユーリは塩ラーメンの大盛に味玉追加、そして先生は特製柴関ラーメンを選んだ。

 

「あ、セリカちゃん。話したいことがあるし、バイトが終わってから学校に来てねー」

 

「あ、お金なら私が現金で払いますから安心してね」

 

「は、はぁ…注文入りましたー!」

 

 

―――ラーメン食事中―――

 

 

「先生……もといユーリちゃん、ごちそうさまでした☆」

 

"ごめんね、肝心な時に役に立たなくて……"

 

「いいのいいの。先生は早くワカモちゃんとシャーレに戻って。こっちは時間に余裕があるから、CPで待機しているからね」

 

"わかった、ありがとう"

 

「ほら、あなた様。行きますわよ。それではまた」

 

 後にユウカは、シャーレの設備維持に関する膨大かつ煩雑な書類の山を目の前にして、思わず頭を抱え込んでしまったという。

 その複雑で細かな内容に圧倒されながらも、根気強く一つ一つ確認作業を進めていった。

 その結果、定期的にシャーレへ通う必要があると判断され、外部顧問として関わることが正式に決まったのだった。

 

 

「ん、もうすぐバイトが終わる時間」

 

「ドローンで確認しましたが、やっぱりヘルメット団が見受けられます」

 

「うへー、作戦前なのにもうヘルメット被ってるなんて。本当に馬鹿だねぇ」

 

「ボスらしき人物は今回もいませんねー。ずっと団員が誘拐されていますから当然ですね☆」

 

 トラックの荷台に作られた臨時指揮所で、シロコ、アヤネ、ホシノ、ノノミの四人は雑談などで時間を潰しながら周囲を確認していた。

 そのとき、相手側に動きがあった。ドローンで偵察していると、敵小隊の一つに奇襲を仕掛けたのか、敵を拘束している最中のユーリの姿が映った。

 

『こちらキュベレー0、4人拘束完了』

 

「うへぇ…さすが『返り血(スプラッター)』。作戦行動前の不意打ちなんて容赦ない」

 

『敵の戦闘車両を確認。タイミングを見て奇襲するから、そっちは任せた。通信終了(アウト)

 

 三人はホシノが呟いた単語に疑問を感じていた。

 だが、セリカがバイト先から出てくるのを確認すると、一同はすぐに降車した。

 彼女を囲もうとする集団の背後を取り、攻撃の瞬間に合わせて奇襲を仕掛けた。

 

「ああもう……ってみんな!? どうしてここに!?」

 

「ん、話は後」

 

「大事な後輩を攫おうだなんて、絶対に許せませんよ☆」

 

「……私達のやってる事は棚上げなんだね」

 

『こちらキュベレー0、戦車内制圧完了』

 

「なっ!? マジかよ…撤退だ!」

 

 ヘルメット団は不利を悟り撤退に移ったが、もう遅かった。戻ってきた先生とワカモが参戦し、彼らは容赦なく捕らえられた。

 その後、一行は学校へ戻り、捕虜の収容作業を終えた後、セリカに対する誤解も無事に解消した。ようやく一息つき、ほっとした空気の中で夕食の時間を迎えた。

 

 だが――

 

うまっ!? 何よこのカレー!! お店出したら間違いなく行列よこれ!!」

 

「美味しい、美味しい、美味しい、美味しい、美味しい…」

 

「これを大量生産したなんて…」

 

 ユーリが作ったカレーは大好評だった。

 そしてその後、陣頭指揮を執ったユーリから作戦の報告が行われた。

 

「えー、作戦結果(リザルト)ですが、捕虜21名、戦車一台に搬送用トラック二台を確保しました。*2

 カレーで懐柔して情報を引き出したところ、作戦内容はセリカちゃんの誘拐およびアジトへの連行とのこと。幹部はすでにいません。つまり、事前に捕らえたあの二人が幹部で、ボスはまだアジトに潜んでいるそうです。残りの団員は10人未満です」

 

"50人以上もいたのか……かなりの大所帯だな"

 

「更生させてアビドスに編入させれば、ひとまずは安心できそうですね☆」

 

「アジトの場所も聞き出していますし、これから私が奇襲をかけます。ほんの少し本気を出せば、簡単に片付くお仕事です」

 

 ユーリのその言葉に、先生は「うわぁ…」という顔をして思わず十字を切り、ワカモは「ご愁傷様です」と言わんばかりの表情で、静かに合掌してみせた。

 ホシノとシロコ以外のメンバーは基本的に後方で戦っていたため、ユーリの戦闘を間近で見る機会が少なかった。だが、改めてその実力を説明されると、誰もが納得せざるを得なかった。

 

「ユーリちゃんはね、ゲヘナやブラックマーケットでは結構有名なんだよ。『返り血(スプラッター)』って呼ばれるほどの実力者でね。立体起動を駆使した銃撃戦、状況に応じて使い分けられる豊富な武器、そして――何より一番の脅威は、あの容赦なく振るわれる刀。

 実際、人が死んだって噂が流れたくらいなんだからね」

 

 実はホシノも、ユーリについての噂は以前から耳にしていた。そのため、彼女に対しては当初から、内心で強く警戒していたのである。

 

"初めて刀を振るった時のことは、今でもよく覚えてるよ。瞬く間に数人に大怪我を負わせて、周囲は完全にパニックだった。

 あの時の彼女は、本当に二つ名そのまま――返り血で、全身が真っ赤に染まっていたからね"

 

「だから心配いらないよ。残りの団員も一人残らずきっちり捕らえて、それからじっくりと――尋問(調教)してあげるから」

 

"今、調教って言ったよね!?"

 

「冗談冗談。それじゃ、行ってくるねー」

 

 微妙に空気が重くなってしまったが、時刻はすでに夜。先生とワカモは、集団下校の引率として一緒にアビドスの面々を送り届け、その後は転移で戻ることにした。

 

 

 

 一方その頃、ユーリは近くにトラックを停め、まるで遠足にでも来たかのような軽い足取りでアジトへと向かっていた。口元には楽しげな笑みを浮かべていたが、左手は既に太刀に添えられており、その瞳はどこか冷たく据わっていて、まるで狩人のそれだった。

 

「ここがカタカタヘルメット団のアジトかー。テンション上がるなぁ~」

 

 その言葉とは裏腹に、周囲の気配を冷静に探る視線だけは冴え渡っている。歓迎(攻撃)の一つや二つはあるだろうと思っていたが、拍子抜けするほどの静けさ。まさか逃げたのか――そう思い、気配を殺して足を速めた。

 そして目にしたのは、何者かによってすでに戦闘不能にされたヘルメット団の面々が、床に無様に転がる光景だった。

 

「口封じ、か……まぁ死んでなければいいんだけど。

 ここ(キヴォトス)で殺しをやるなんて、普通は怖くてできないもんね。もしやるとすれば、私みたいに割り切れるタイプじゃないと」

 

 そう呟きながら、彼女はひとりひとりヘルメットを外して、呼吸と心音を確かめていく。幸いにも死者は一人もおらず、全員が外傷による気絶だった。

 丁寧に拘束し終えると、トラックをアジトの敷地内に移動させ、銃器や弾薬を回収。目ぼしい物品は片っ端からトラックへ積み込んでいく。

 さすがに回収しきれないジャンクや寝具、機械類などは後回しにすることにした。

 

「残存勢力7名……これで捕虜は合計76人の大所帯か。アビドスに巣食っていた不良組織は、これで一つ消えたわけだし……まぁ、結果は上々ってところね。アビドスに編入させるもよし、シャーレで働かせるもよし――」

 

 ユーリの視線は、床に転がり気絶したままの彼女たちを静かに見下ろしていた。

 

「気になるのは、誰が先に手を出したのか、ってことだけど……死人はいないし、目が覚めたら尋問すればわかるでしょう」

 

 そうして彼女は、再びトラックを発進させ、残りの資材や捕虜を完全に回収すべくアジトと学校を何度も往復した。全ての作業を終えてシャーレに戻った頃には、日付はすでに変わっていた。

 

「ふぅ……。家に帰って、シャワー浴びて、仮眠を取って……それから、また作業の続きか。

 報告書の整理に捕虜の振り分け、物資の再点検……はぁ、やること、まだまだ山積みだね。

 体がもう一つ欲しくなるよ、本当に」

*1
幽☆遊☆白書より。

*2
1章6話戦闘パートの敵数19名と戦車に登場していた2名




 タイトルの元ネタは「謎解きはディナーのあとで」です。
 当初は「野原ひろし 昼メシの流儀」からのオマージュを考えており、作中でも「テンション上がるなぁ~」というネタを使用していました。
 しかし、食事ネタとしての相性や語感の良さを考えた結果、こちらの方がよりしっくり来ると感じ、最終的にタイトルを変更しました。
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