Paradise of the Disqualified:Rewritten World 作:GameMaster
"さて、
「「「「「ブフォッ!!」」」」」
対策室に戻り、先生が淡々と報告を読み上げる最中――やっぱり
……残当である。
"気持ちは解るけど、話を続けるね。彼女たちについては現在、ユーリが食事で懐柔中。傭兵については――うまくいけばこのまま編入させようと思っているけど、意見はあるかい?"
先生が皆に問いかけると、アヤネが挙手した。
「はい。現在、編入してきた人たちはそれなりに協力的ですが……それは“ユーリさん”という頼れる強者と、“シャーレ”という後ろ盾があるからこそ、だと思います。ももしそのどちらかが欠けた場合、高い確率で今の状況は崩れると思っています。
――その点についての対策は、どうなっていますか?」
その意見に、セリカも頷いて口を開いた。
「そうね。今のところ、シャーレは“ユーリさん”と“ワカモさん”という二大看板があるからこそ、ここまで上手くやれている。でも、その二人のどちらか、あるいは組織そのものが欠ければ……。
間違いなく、大変なことになると思うわ」
"その点も、三人で話し合った。
本当はシャーレにも人員を回すべきなんだけど――今はどうしても、アビドスの優先度が高い。
だから今回は、相互支援協力の草案をまとめてきた。確認してみてくれる?"
先生が提出した、簡易な草案の内容は以下の通りだった。
・シャーレとアビドスは、必要に応じて生徒等の人員を派遣・交換する。
・教育プログラムは必要に応じ、シャーレの権限を用いて他校のカリキュラムを導入できる。
・困難に直面した際は、互いに可能な限り協力する。
・不良生徒であっても更生の意思があるなら、協力して救済を試みる。
あくまで草案であり、細部については今後詰めていくとのことだった。
「なるほど。つまり現時点では、対等な立場ってことですね。
……うん、大体これでいいと思います☆」
"黒幕の思惑が、生徒会の内部にも入り込んでいるからね。
共通の敵がいる今だからこそ――この提案ができたんだ"
その時、傭兵たちに食事を提供していたユーリが戻ってきた。
「ただいま。やっぱり傭兵たちは、いろんな事情で退学を“させられた”人や廃校になっても他に行けなかった人たちだったよ。
元々の依頼料も高くないのに、さらに値切られていたから――日銭稼ぎ程度の仕事だったんだろうね。そこで好条件を提示したら、この通り、全員アビドスへの編入を決めてくれたよ」
彼女が取り出したのは、傭兵たちがアビドスへ転入する旨を記した書類。
あとはシャーレが権限を行使すれば、無事に彼女たちはアビドスの生徒となる。
"今はまだ兵士紛いのことをさせているけど、なるべく早くカリキュラムを作らないとね"
「便利屋についてだけど……食事を提供したら、泣いて喜ばれたよ。話を聞く限り、ほとんどがあの
折を見て尋問と勧誘しておくね」
「うへぇ、ユーリさんに胃袋掴まれたら、大抵の人は堕ちるよね」
ホシノの言葉に、全員が頷いたのは当然だった。
「もうそろそろ夕食の時間だし、みんな食堂に行こうか。今回はピザだよ」
全員が大喜びする中、何人かは“大釜もないのにどうやってピザを作ったんだろう?”と疑問に思ったが、その疑問も吹き飛ぶほど――美味しいピザだった。
食後、ユーリたちは便利屋の4人が捕らえられている、教室を改造した牢屋へと足を運んだ。
「あっ、先生じゃん! どもどもー!」
牢屋に入ると、小柄な少女が先生に飛びついて抱きしめた。
すぐさまワカモが止めようとしたが、ユーリはその行動を制止した。
「なっ……どうして止めるのです? このままじゃ…!」
「気持ちはわからなくもないけど、ここは少し様子を見よう。ああいうスキンシップも、懐柔策のひとつとして使えるしね。実際、ワカモも先生に――見事に堕とされたじゃない?」
「そっ……それは……わかりましたけど、第一夫人の座だけは譲りませんからね!」
その様子を見て、頬をすり寄せるなど――見た目的にもかなり挑発的な行為に出たが――
「んじゃ先生、その子は『保健室』に連れてっていいよ」
ユーリの投げかけた爆弾発言によって、即座に飛びのく羽目となるのだった。
「えっ、えー……じょ、じょーだんよ!? じょ・う・だ・ん!!」
「なんだ、折角ピル用意していたのに」
その言葉に、
(ななな、なんですってーっ!? 先生ってそこまで手が早いの!?
先生だから“先制攻撃”(意味深)も普通にこなしてるってこと!?*1
そしたら私たちって、もしかして……そっちの意味で使われるのぉ!?)
「あ、あああアル様に手を出すくらいなら! わ、私が犠牲になりますので!!」
「ハルカ、落ち着いて。あれは単なるいたずら返しだから」
……と、まあ一通りの混乱が収まったところで、改めて自己紹介をすることになった。
"シャーレの顧問先生です。現在はアビドスと相互支援協力を行っています"
「直属親衛隊『キュベレー』隊長、真神ユーリ」
「同じく『キュベレー』隊員、狐坂ワカモ」
改めて、
(うそでしょー!? なんでなんで、悪名高い『
「お、おほん。便利屋68社長、陸八魔アルよ!」
「くふ、室長の
この時、先生の脳内には――間違いなく“対魔忍”のアサギが思い浮かんでいた。*2
「課長、
「……
(他はともかく――アルちゃんは、おそらく上級に行ける。
ぽんこつさとは裏腹に、あの子……伸びるわね)
この時、ユーリはアルの潜在スペックに着目し、スカウトの可能性を検討していた。
同じく先生も、アルの実力と素質を内心高く評価していた。
ぽんこつな言動の裏に隠された伸びしろ――その可能性に気づいていたからこそ、「出来ることなら敵には回したくない」と思っていたのだ。
早いうちに味方として引き入れるつもりで、今はあえて様子を見ていた。
"それじゃあ――単刀直入に聞くけど、依頼主を教えてくれないかな?"
「ふふん。これでもアウトローの誇りとして、その手の命令は受けられないわ!」
「まぁ、そう簡単に引き出せるとは思ってなかったけど……ね」
予想通りの答えに、ユーリはふっと笑いながらアルと目を合わせる。
――その瞬間、アルはピクリと肩を震わせ、すぐさま視線を逸らして一歩下がった。
明らかに、何かを“察した”ような動き。違和感を感じて即座に距離を取ったその反応に、場の空気がわずかに揺れた。
「へぇ……
おそらく、妖魔か淫魔ね」
「な、何をしたの!? それに妖魔ってなによ!」
「ちょっとだけ、快楽系の瞳術を使ってみただけよ。
で、妖魔ってのは悪魔系種族の総称。尻尾や角、羽を持ってる子たちのことね。たとえばアルちゃんやカヨコちゃんみたいな子が該当するわ。
ヘイローを持っているから、基本的に天使種族と扱われるのよ。だから快楽系に弱いんだけど。
アルちゃんは、ヘイローよりも妖魔系の因子が強く出ているから、効果が薄かったってわけ」
(淫魔の可能性はないわね。そういう独特の“雰囲気”が無いし。
どっちかって言えばムツキちゃんの方が怪しいけど……あの子、尻尾も角も羽も無いから、恐らく“因子持ちの人間”ってところかしら)
なお、妖魔系は快楽属性に対して一定の耐性を持つ。快楽属性の被ダメージは75%、状態異常の成功率も75%に抑えられる。
そして淫魔系となると、その耐性はさらに高まり、被ダメージは50%、状態異常の成功率も25%と、ほぼ無効に近い数値となる。
"それじゃあ、依頼人は…案外よく知らなかったりして? 報酬が高かったから、依頼人も依頼内容もよく精査せず、ただ格好つけて引き受けちゃったとか?"
「ななな、なんでわかるのよー!?」
"まさかの大正解!?"
先生がダメ元でカマをかけてみると、見事に正解だった。
想定以上のぽんこつぶりに、三者三様頭を抱え込むのは言うまでもなかった。
「くふふっ、先生たちすごーい! アルちゃんの人柄を見て、大まかな予想だけでそこまで答えを導き出すなんて、なかなかないよー!」
「それに、前金も大した額じゃなかったし。
電話番号も念のため調べたら、一回限りの使い捨て番号だった」
「ちょっ、ムツキにカヨコ!?」
身内からの追撃に、アルは完全に白目を剥いて顔が引きつっていた。
"正直、どうしよう……本来なら引き入れるのが正しいと思うんだけど……"
「そうですわね……あの人数で多少耐えたのは認めますが……如何せん、ぽんこつなのが……」
「そうなると、全体のレベルアップしかないね。
ぽんこつでもフォロー可能なレベルまで引き上げるしかない」
「そんなにぽんこつぽんこつ言わなくてもいいでしょー!」
鍛え上げれば間違いなくメリットになるが、それと同じくらいの
"それでも、敵に回すよりはマシだね……仕方ないか"
ムツキとカヨコは、相談事を待っていたようで先生の言葉をじっと待っていた。
そしてカヨコが、淡々と聞く。
「……話、まとまった?」
"うん、大まかなところはね。単刀直入に言うけど、便利屋68のみんなをシャーレで雇いたい。必要なら住居も用意するし、仕事も斡旋する。希望があれば学業支援も訓練も行う。どうだい?"
「―――想像以上の好待遇ね」
「くふ、そんなに私たちが気に入ったの?」
先生は少し苦笑しながら続けた。
"どっちかというと監視側だよ。敵でも味方でも厄介なら、味方にしたほうがマシだからね"
「へ、へぇ……私たちをそこまで買っているなんて!」
「ちょろいねぇ」
ムツキがボソッと呟いたが、アルは気づかなかった。
聞こえていた面々も、当然のように聞かなかったことにした。
(誉められて伸びるタイプね……思慮の無さも含めて鍛え上げればいいわ)
それぞれの思惑を胸に、便利屋68はシャーレへ配属となった。
本来ならシャーレの居住区に住まわせるところだが、距離の問題がある。そのため当面は、アビドスの学生寮を“間借り”する形になった。
アビドスの学生寮へ歩いている最中、ふと先生がぽつりと呟いた。
"ところで、部隊名はどうしようか。そのまま『便利屋』とかだと語呂がなあ…"
「「ぽんこつ」」
ユーリとワカモが即答した。
「くふふっ、二人ともそれはちょっと酷くない? ぽんこつはアルちゃんだけだよ」
(言えない……ハルカが暴走するとアル並みのぽんこつになるなんて……)
―――その時、先生に天啓が走る。*3
"あ。『アクア』なんてどうかな?"
「あなた様、その心は?」
"……うん、理由は単純でね。
『外』でそれなりに有名な作品に登場するぽんこつキャラの名前だよ"*4
「結局ぽんこつ扱いじゃないのよー!!」
アルの絶叫が夜空に消えていったのは言うまでもない。
次の日、対策会議にてアヤネから、利息支払いの期日が迫っているとの報告が上がった。
なお、ユーリとワカモはいつの間にか連邦生徒会の制服からアビドスの制服へと着替えていた。これは先生曰く、「相手を混乱させるためのカモフラージュ」らしい。
後日、便利屋68――もとい
"そういえば聞きそびれてたけど、結局どこの悪徳金融から借りてたの?"
訪問当日から始まり、迎撃、襲撃、捕虜の収容、懐柔と、怒涛の数日間を過ごしていたシャーレ組は、肝心な点をうっかり聞きそびれていたのだった。
「カイザーローンです。私たちの何代も前から、ずっとそこです」
"カイザーって……確か、あちこちで見かけるあのグループ?"
「はい。その“カイザー”です」
"ドイツ語で“皇帝”を意味する
「実際、黒い噂は絶えません。でも、あの手この手で責任を押しつけたり、うやむやにしたりして逃げ切ってきた組織です。本質を知っている人は絶対に就職しませんが……いまではインフラや制度にまで食い込んでいるので、仕方なく就職したり、利用したりしてる人も多いです」
アヤネの説明を聞きながら、先生の中にある違和感が膨らんでいった。
一体、何のために金を貸しているのか? ただ利子を搾り取るにしては、回収手段がまどろっこしく非効率だ。それに、これだけの借金が長年にわたって存在しているなら――
"……間違いなく、連邦生徒会が口を出すはず、だよな……"
ぽつりと、思考の断片が漏れ出す。
その瞬間、脳裏で散らばっていた点と点が、ひとつの線になって繋がった。
"わかった……連邦生徒会の中に、カイザーグループが巣くってるんだ"
静かだった室内に、ざわ……と微かなざわめきが走る。
そして次の瞬間、それが事の重大さに気づいた全員の間で広がっていく。
――ざわ……!
一同の視線が揃い、重苦しい沈黙が落ちた。
「せ、先生! それは一体どういうことですか!?」
慌てた声でアヤネが問いかける。
"まだ仮定の域を出ないけど……カイザーはアビドスを足がかりにして、キヴォトス全体を支配しようとしているんだと思う。だからこそ、回収不可能なほどの莫大な借金を背負わせたんだ。
同時に、連邦生徒会の干渉を避けるため――あるいは弱体化させるために、内部へスパイを送り込んでいる。もちろん、アビドスの中にもね。
人口流出を促したり、士気を削ぐような真似をして……じわじわと衰退させていった"
「カイザーなら、絶対にやる……。
あいつらロボット種族は、私たちと違って寿命がほとんど無い。
一度、搾取のシステムを構築してしまえば、あとは文句も言わず黙って吸い上げるだけ。こちらが朽ち果てるその日まで、永遠に。
時間さえも味方につけて、何十年、何百年とかけて支配を広げていく……そういう連中よ」
ホシノが吐き捨てるように言った。その言葉には、深い怒りが込められていた。
"……カイザーがなぜ、アビドスを起点に選んだのかはまだ分からない。でも、連邦生徒会にまで食い込んでいるとすれば――
十中八九、最終目標はキヴォトスの全支配。そして最悪の場合、その先には外への軍事侵攻すら視野に入れているかもしれない"
「先生、何でカイザーはそんな事をするのか分かるんですか?」
ノノミの問いはもっともだった。
言ってしまえば、彼らは欲望にブレーキをかけず、ただ突き進んでいるに過ぎない。
"どんな時代でも、権力を握った連中が辿り着く先は大体同じだよ。
もっと富を、もっと権力を――そして最後は“支配”だ。
不老不死、富と権力、世界征服……そういうのを本気で欲しがるのは、馬鹿の極みさ。
でもカイザーは、種族特性で寿命の枷をほとんど持たず、グループの力で資本と影響力まで手にしてる。だったら……残る一つも欲しがるのが、馬鹿らしくも当然ってわけだ"
先生は一度言葉を切り、低く息を吐いた。
"……もしかしたら、生徒会長の失踪も、奴らが一枚噛んでるのかもしれない"
あるいは、生徒会長はそれを察して、カイザーと戦うためにシャーレを設立した――
そんな可能性すら浮かぶ。
"とはいえ、敵は巨大だ。やるべきことも山積みだ。
それに最悪、今回みたいな遠回しじゃなく……生徒会長の件みたいに、直接こちらを叩きに来る可能性もある。考えておかないとな"
先生の推測によって、敵の存在とその大まかな目的は見え始めた。
しかし同時に、解決すべき問題が次々と山積みとなり、対策室には重い空気が漂った。
そんな中、ユーリが挙手をした。
「先生、申し訳ありませんが、数日ほど情報収集をさせていただけますか?」
"いいよ――って言いたいけど、アテはあるの?"
「ミレニアムにコンタクトを取り、情報収集に長けた人材を紹介してもらおうかと」
"なるほど、餅は餅屋ってことだね。頼んだよ"
こうしてユーリは単独で動き出した。
残った面々は、迫る利子の支払い――そして、その先に控える作戦会議へと意識を切り替える。
シャーレオフィスに、一つの人影が現れた。転移で戻ってきたユーリだった。
(まあ、当然だけど……エレベーターには常時ロックをかけてあるし、非常階段は使えばアラームが鳴る。誰かが勝手に入れるわけがないんだけどね)
それでも念には念を入れて周囲を確認し、事務机の椅子に腰を下ろすと――
ユーリは
(ロボット種族の専売特許、なんて思わないことね。ロイド系列なら、私の方が格上だから)
キヴォトスでもほとんど実用化されていないナノ技術を
彼女はその身体機能を、情報収集に転用する。
量子化演算を用いた反則級の侵入。通常なら膨大な計算能力と設備を必要とする領域を、彼女は“自分ひとり”で成立させられる。
つまりこれは、単なるハッキングではない。
あらゆるセキュリティを“突破する”のではなく、“存在しないものとして通り抜ける”侵入だ。
(念には念を、ね……。正面から扉を開けられないなら、扉を無視すればいい)
ルールを守る者が馬鹿を見ると証明された世界で、正攻法にこだわる理由なんてない。
本当は切り札なんて使いたくないけど――それでも、使わざるを得ない時が来るかもしれない。
パソコンに直結したケーブルを介して、ユーリは椅子に深く腰を沈め、背もたれに身体を預けた。そして静寂の中、深く広大なネットの深淵へと潜っていった――
本話タイトル『朝の来ない夜に抱かれて』は、F&C様の作品からインスピレーションをいただきました。
正直に申し上げると、元となったPCゲーム自体は未プレイです。
ですが、そのタイトルが持つ「夜=解決策の見えない状況」というイメージと、作品全体に漂う静かな雰囲気に強く惹かれました。
そしてそれが、今回の話のテーマとも重なったため、採用させていただきました。