増税クソイケメン   作:覆面生徒

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平田マン

 一之瀬との契約は一部見直しと追加を加え、細部を詰めてBとDの担任立会いの下、取り交わした。

 その他にも内容に漏れがないよう色々と記載されていて、読み解くまでに相応に時間が掛かりそうだったが、見かねた茶柱に要約・補足してもらって契約に至った。

 契約が取り交わされた後、感謝を込めて茶柱に向けてバチコーンと盛大にウインクしてやったのにガン無視された。征十郎遺憾。

 

「失礼しゃした!」

「し、失礼しました」

 

 一之瀬と共に指導室から退室。

 最初は職員室でやるつもりだったが、指導室スキーな茶柱に連れてこられたので少々時間が掛かった。決して俺の理解力の無さが原因ではない。

 

「すぐにメガネんとこ行くけど、大丈夫か?」

「メ、メガネって生徒会長のことだよね?」

 

 奴には今日予定を開けてもらっているが、あちらが指定してきた時刻までにはなんとか間に合いそう。あと3分ほどしかないが。

 

「うん。都合悪かったり心の準備がまだってんなら後日にしてもいいけど?」

「行く。大丈夫だから」

 

 俺を前にしてあまり緊張した素振りを見せないくせに、何を固くなってるんだこの一之瀬は。不敬。

 

「ういー。じゃあこのまま向かうけど──端末は今から出しとけよ」

「え? どうして?」

「いつでも撮れるようにしとけ」

「? 撮るの? えっと、何をかな?」

 

 俺のことをいろいろと探ってたならこういう部分をこそ察してほしい。

 

「俺を撮るに決まってんじゃん」

「決まってるんだ……でも、失礼にならない?」

「俺に失礼を働かない限り一之瀬は許される。だからメガネも許すし世界が許す」

「そうかなあ? ものすごく不安だよ……」

 

 一之瀬はまるで娘が彼氏にしては年を食い過ぎている男と連れ歩いているのを目撃した母親のような顔をしている。

 どうしてそこまで不安に思えるのか、こっちが不安になってくる。

 

「お前は不正解を引いて、俺は正解を引いた。だから生徒会に関しては俺が正しいんだよ」

「うーん、なんだか巻き込まれてるような……庵治くんが何を考えてるのかわからなくなってきちゃうよ」

 

 娘を心配する母親顔から一転して出来の悪い息子の将来を不安視するような顔となる一之瀬。

 母親系の芸風なのかな? 

 

「俺は常に俺のことしか考えてねえよ」

「にゃはは、納得できちゃう。すごくしっくりと来るね」

「やっとかよー。てか一之瀬も自分本位な部分くらいあんだろ? 裏之瀬の顔はどんなのかにゃ~?」

「ないよっ! 裏之瀬なんてないったら!」

「ふーん。でもまあヤバい趣味があったりすんなら今のうちに言っとけよ」

 

 実は生徒会役員の権利を行使すると割高である上に必要な情報が閲覧不可であったので、事情を鑑みてくれた茶柱からD以外となるBの生徒である一之瀬の個人情報を購入済みだったりする。

 一之瀬が中学時代に不登校であった期間が足を引っ張ってAではなくBになっているわりとどうでもいい情報は把握しているし、大事な大事な健康診断結果も妹さんがいらっしゃることも知っている。

 

「ヤバい趣味って……そんなものないよっ!」

「そ? じゃあなんでBなんだろうな、お前」

「……」

 

 黙り込む一之瀬の顔を横目に見るに──目に見えてしょんぼりしている。

 大胆な立ち回り方を垣間見せてきたものの、根っこは真面目で純真なままかもしれない。

 やはり黒幕が一之瀬を操っている線が濃厚だ。

 

「やあ、庵治くん、一之瀬さん」

 

 生徒会室まであと少しって所で、廊下に立つ人物から声が掛かる。

 

「よっすー平田ー、待たせて悪ィな」

「ううん、大丈夫だよ。時間には間に合いそうだし」

 

 平田は結局サッカー部を辞めたようで、最近は時間を持て余し気味だ。

 適当な言い訳を並べて断れない平田は放課後によく女子に連れ回されるようになっているが、それも今日までだ。

 

「ちょ、ちょっと待ってくれないかな? 平田くんがどうしてここに?」

「平田も生徒会に推薦してねじ込むから」

「ええっ!?」

「よろしくね、一之瀬さん。一緒に生徒会に入れるよう頑張ろう」

 

 爽やかに微笑むな平田。一之瀬がきゅんとしたらどうするんだ──あ、してねえわ。

 

「う、うん。よろしくね平田くんっ。突然のことで驚いちゃったけど……うん、頑張ろうね!」

 

 一之瀬は平田に負けじとあざとい仕草を全開に握りこぶしを作っていらっしゃる。

 きゅんとしている人間は拳を握ったりはしない。レディコミでもそんな描写はあんまり見ないし。

 

「さて、俺の交渉術を見せてやるよ──一之瀬はちゃんと撮れよ。俺の妙技を、な」

「あ、うん」

「庵治くん……いや、頼んだよ」

 

 任せろ。てかもう根回し済みで了承は得てるんだ。

 これから行われるのは、ただの顔合わせを兼ねた挨拶だ。

 メガネは一之瀬との取り交わす契約の内容を話せば「好きにしろ」なんて投げやりなポーズを取ってはいたが了承してくれたし、票数がものをいう状況で数的不利にならないよう平田を加えることにも「お前に信頼できる友人がいるとはな」なんて失礼なブーメランを放っていたが納得してくれた。

 

「生徒会書記の庵治征十郎です! 入室してもよろしいでしょうか!」

「……入れ、馬鹿者」

 

 決めた。こいつのメガネのレンズを今日絶対に触る。

 何があっても、絶対にだ。

 

 

 

 ■

 

 

 

 生徒会に平田と一之瀬をねじ込み、学生生活の本分である学業に少しテコ入れして励む日々は平穏である。

 が、今朝はけしからん光景を目にしてしまったので、忘れぬうちに解決しておかねばならない。

 少々──いや、かなり俺は怒っている。

 なのでそれを態度に表すべく前の席で呑気に俺のおすすめした将棋を題材にしたデスゲームものの小説を読んでいる野郎の頭を鷲掴む。

 

「平田マンよ」

「イダダダッ! ど、どうしたの庵治くん!?」

「お前さあ、貰った手紙手洗い場に置きっぱにしてね? 今のうちに回収してこいよタコ助」

「あっ! わ、わかったっ! 行ってくるよ!」

 

 実にけしからん。恋文を貰うのは俺だけにしてほしい。

 せめて俺の目のない場所でそういうやり取りをしてほしい。

 渡す側にも配慮というものがあるだろうに、まったく。

 

「ねえ……平田くん、何しに行ったの?」

「あいつ手ェ洗う拍子に貰った手紙置いたままにしやがってたの。だから回収に行かせた」

 

 俺もうっかりだよ。自然な流れで手紙置いてそのまま教室に向かうもんだからスルーしちゃってたわ。

 俺だけじゃなく平田にしても手紙なんざ貰い過ぎて当たり前のものになってたんだろうが、渡した相手のことを考えるとシンプル万死。

 

「……へー」

 

 もにょっとした表情を浮かべる松下。

 そんな松下の前の席の女子はぺきっとした表情をしていらっしゃる。ははーん。はーん。そーなんだー、へー。

 

「軽井沢~? 平田へのお手紙気になる感じだ~?」

「えっ……別に、そんなことないし」

「いやお前さ~、平田のことになっとさ~、チラチラ度やべえじゃ~ん」

「あ、あたしは別にだし。気になるとかないし、全然」

 

 図星だからか、こちらと目を合わせようともしない軽井沢マジ動揺。

 

「ほーん。松下はどう思う? 軽井沢はこう言ってるけど」

「私に聞かないでよ」

「なら松下は? 松下は平田どう?」

「どうって、私も平田くんのことは別に」

「松下はこう言ってるけど、軽井沢的にはこれはどう?」

「……そうなんじゃない?」

 

 ああ、なんてこった。簡単な答えを前にそのことに気付けずにいた。

 そうだよ。俺達は日常にある当たり前をいつからか当然のように受け入れてしまうんだ。

 俺達のように若年にある時なんて、余計にそうらしいし──ヤンキー顔なわりにがっつり文学少女な2年の先輩がそんなこと言ってた気がする。

 

「なるほどな。二人ともやっぱり俺が好きだよな。うんうん。俺を差し置いて平田が好きって女子はたまにいるけどあんなの妥協した結果だし。ふう、ビビらせやがったからに」

「は? またキモいこと言ってる。ほんッとに馬鹿みたい」

「……」

「でもごめんな。今は先に卒業しちゃう上級生の女子の相手で忙しいから、お前らは後回しになんだわ。覚えてたら相手しやっから待ってろな」

「はあ? 誰も頼んでないし気持ち悪いこと言わないでくれない」

 

 松下の言う通り少しだけ気持ち悪いことは自覚している。

 でも同級生にしろクラスメイトは近過ぎて蠱毒になる可能性が高いから。こういう庵治くんを演じてるだけだし、これが素なわけじゃないし、平気だし。全然傷ついたりしてないし。何故か櫛田の顔が浮かんできたりもしてねえし。櫛田消えろ。クソクリボーめ。

 

「あ、あたしは! じゃあ、待ってるっ!」

 

 こ、怖ェよ。女子の突然の大声は色々と嫌な記憶が蘇ってくるだろうがバカタレ。

 

「お、おう……軽井沢、おう」

「軽井沢さん、大丈夫なの? こいつの噂知ってるでしょ」

「へ、へーき。あたしはそういうの気にしないから」

「そう……」

「あ! いい加減にもう連絡先交換してよっ!」

 

 軽井沢の背後にカマキリが見える。

 んなわけ。幻覚だ。大丈夫。よし、カマキリは軽井沢の方だ。

 

「してないっけ?」

 

 これはしらこい。でも必要なおとぼけなので許してほしい。

 

「してない。前断られたし」

「そだっけ? まあ……いいや。そっちからは連絡してくんなよ」

「ど、どうしてよ。してもいいでしょ」

「いいけどブロックすんぞ」

「……わかった。しないから教えて」

 

 ここ最近、女子カーストのパワーバランスが櫛田一強になり過ぎていたし、当て馬として軽井沢は良い感じに働いてくれそうではある。カマだし。

 櫛田の性質的に周りに世話をさせる女王蜂ってより初手スカイフライするような自立型の女王アリだし、対抗馬の存在や危機感といった刺激を与えた方が良さそう。

 

 と自分を納得させておこう。

 それに平田に気がありそうだったし丸投げしておくかとも考えていたけど、コントロールできるならやっておいたほうがいい。

 たぶん、こいつって放置してたら知り合いから金巻き上げるくらい調子に乗る悪タイプだし。

 

 

 

 ■

 

 

 

 6月中旬、採点に問題でもあったのか結構な間隔を空けて中間テストの結果発表があった。

 中間は自己採点どおり平均80点という結果で、誰ぞが赤点を取ったとかで退学直前までいったけど、誰ぞが解決した模様。

 過去問があったのに赤点を取るような落伍者はどうでもよくて、そのすぐ後にあるクラスメイトの篠原さつきの誕生日の方が大事である。

 料理部所属らしい彼女に飲食物を贈るのも違うと考え、モールのババアおすすめの中華鍋をお馴染みの虎覆面姿となって進呈した。

 進呈する際、覆面を外してくれと煩くしたので覆面ではなくシャツを脱いでタイガーポーズを決めてやった。

 水泳の授業の際に俺の肉体美なんて散々視姦していたとはいえ、こういう自分だけのエロというのに興奮するのは知っているので、篠原の喜びようも手に取るようにわかった。

 中華鍋より俺の独占上裸の方に喜んでいただろうが、結果オーライである。

 

 ただ、おさわりまで要求してくる厚かましさを見せたのは残念だった。

 そこは写真か動画に収めるという俺への好感度稼ぎに動くべきところであるので、篠原への評価はやや下げた。

 

 ちなみに池と山内の誕生日も前後にあったがスルーした。

 俺から受け取るとは思えないし、あの二人はこの退学者の多い学校からいずれいなくなる。

 

 

 

 ■

 

 

 

 1年の生徒会役員三名が生徒会室に呼び出された。

 なんでも落伍者──須藤がCクラスの連中を一方的に叩きのめしたようで、生徒会役員の俺達は教師らからの発表がある前に事件の概要を知らされた。

 平田は須藤が停学あるいは被害者の容態が悪化するような事態となれば退学にまで発展するおそれがあることに酷く動揺していた。

 教師からの説明があるまでは生徒会役員以外の者に事件のことを話さないようお達しがあり、学年やクラス単位で見ると関係者となる俺と平田、それに一之瀬は須藤の処分が決する裁判への関与もできないと通達された。

 

 落ち込む──というよりキマっている感がする平田を、その日の夜に敷地内にある使用者が0だろうに予算を使い切りたかったのか、ブランコや滑り台が設置されている公園に呼び出しておいた。

 正確には使用者は0じゃない。俺はここ好き。ブランコも滑り台も今も好き。負けず嫌いな2年の女子の先輩達と高鬼するの好き。

 

「庵治くん。改まって話って……やっぱり須藤くんのことだよね?」

「だなー」

 

 ブランコに腰掛け、キコキコと小さく漕ぐ。靴飛ばしたくなる。でももう暗いし探すの面倒になりそう。でも飛ばしたい。我慢。今それをするのはさすがに平田に悪いし。

 

「平田って須藤助けたかったりすんの?」

「うん。当然だよ。クラスメイトなんだから」

「ほーん」

「……庵治くんは須藤くんのことをこのままにしておくつもり?」

「うん」

「理由を……理由を聞いてもいい、かな?」

 

 丁寧な物言いながら、いつになく低い声の平田。

 これは相当思い悩んでいるんだろう──が、そんなこと知ったこっちゃない。

 

「俺、いじめっ子って嫌いなんだわ」

 

 いじめって嫌い。俺の目的の邪魔で効率が落ちるし。

 何より尊厳を傷つけるような行為に一方的な暴力、持ち物を盗んだり破壊したりするような類は加害者を殺したくなる。

 

「でも……須藤くんは誰も──」

「実行してねえだけだろ。堀北に綾小路、あの二人を的にする相談はしてたって、前にお前に教えたよな? あれ信じてなかったりする?」

 

 櫛田にリークした男子も何をアピールしたかったのか謎だわ、マジで。

 

「僕は……」

「ま、やっぱ未遂っちゃ未遂だし。それであいつらを糾弾すんのは違ぇのは俺もさすがにわかってるけど……なんかなあ」

 

 堀北はそんなことがあったとは知らないが、あのグルチャに参加していた綾小路の心境を考えるとなあ。

 

「それでも予備軍だろ。ヒーローの平田マンはそこんとこどう割り切んの?」

 

 平田は押し黙ったまま何も答えなかった。

 

 

 

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