増税クソイケメン 作:覆面生徒
7月1日。Dクラスはクラスポイントが0から97となったけど、プライベートポイントの方が支給されずにいる模様。
事前に通達されていたので理由は当然知っているが、須藤ほんま須藤。
「──トラブルが解消次第ポイントは支給されるはずだ。ポイントが残っていれば、だがな」
困惑するクラスメイトをよそに事務的に説明する担任の茶柱は我関せずといった具合はいつもどおりだが、チラッと俺の方に目を向ける意味がよーわからん。
ホームルームの時間はまだ残っているのに早々に教室から出ていく茶柱。なるほど、ヤニ休憩だな。
須藤のことをさておき、本日はクラスメイトの小野寺かや乃と幸村輝彦の誕生日だ。
水泳部の小野寺は口にするものに気を付けているだろうから、菓子の類は避け2年の女子の一人が自分へのご褒美にしているらしい高級バナナ一房をお届けした。
届けた際、女子の間では虎覆面姿の情報はもう出回っているようで、困惑されることもなく──どうしてバナナなのかとは難色を示していたものの、バナナのエネルギー効率がどうのと浅い知識を頑張って並べたら納得してくれた。
あと幸村には俺が愛用している未開封の特大消しゴム1ダースを教室で手渡そうとしたところ、困惑の色を浮かべていたが、祝いだとの一言ですんなり受け入れてくれたし、授業でも彼が巨大な消しゴムを使用してくれている姿が見受けられた。
■
翌日、クラスメイトが右往左往する中、我々は生徒会室へ。
平田と一之瀬が不慣れながらも生徒会で精一杯事務仕事を熟すのを腕組みしてうんうんと頷きながら眺めるタスクを熟し、上級生の女子と少しお喋りしてから早めに帰宅する。
早い帰宅になったのは、櫛田から事前に連絡があったからだ。
話があるってことで部屋に訪れた櫛田は俺がもてなしのひとつもしないことにご立腹なようで、了承を得ることもせずにキッチンで湯を沸かして自分で茶を淹れるジャイアンスタイルである。
あんたには淹れてあげないなんて生意気な口を利いてくるが、淹れられても茶葉が無駄になるだけだ。
節約生活もポーズになりつつあるのでプライベートな空間である自室に置いているクッションの類は相応の数と大きさのものを並べているが、ぐでーんと体全体を預ける櫛田の姿を見ると普通にイラつく。
「須藤ってこのまま停学にしなくていいわけ? あんた、あいつのこともどうせ嫌いでしょ?」
平田は結局動かなかった──というか動けなかった。
茶柱の説明を受けたあと、すぐに動こうとゾンビみたいな顔で立ち上がった平田はいつもどおり言葉を口にすることができず、そうこうしているうちにポイントの支給が止まっている責任の所在を糾弾すべく池が須藤叩きを率先してやり始めてしまい、場を収めたのは結局櫛田であった。
須藤の無実を証明するぞってな方向にまで持っていった櫛田の姿を爆笑しながら眺めていたら、特大スマイルを向けられたが意見等を求められることはなかった。
求められたら求められたで思いの丈をぶちまけてしまっていただろう。俺も人の子だもの。
で、櫛田は最終的に須藤の暴力事件の逆転裁判を狙うようDクラスを誘導したってのに、舌の根も乾かないうちに逆転裁判の妨害が必要かどうかを問いたいようだ。
口ぶりからして池らをはじめとする男子を俺が排除しようと考えていると思われているのかもしれない。
つってもやっぱり排除した際のデメリットをメリットが上回らなければ放置でいい。
さすがに7月はクラスポイントが微量ではあっても入ってくるんだし、ペナルティーを踏み倒せないのも痛い。
とはいえポイントの為に積極的に救おうって思えないのが人の心ってもんで、ままならない。
だって須藤も人間性はマジで終わってるし。
堀北のいじめを計画し、綾小路をいじめの対象にするぞと凄んだ過去があるくせに、須藤は厚顔にも堀北と綾小路にも助けを求めたそうで、驚くべきことに人の良い綾小路はこれを承諾したらしい。
須藤はマジで終わってるけど、計画を知らない堀北は別にして綾小路は仏様か何かかな?
今度手を合わせて拝んでおこう。お供えものは何がいいだろうか。
仏小路サマの好物ってなんだっけ? 記憶を辿るに直接・間接問わず聞いた覚えがない。
それに仏小路サマが嗜好品の類を口にしている姿を見たことがない気がする……まさに仏なのでは?
「何? そんなに考え込むことなの?」
「ん? いや……まあ、須藤は池とか山内と同じカテゴリーだし、停学になろうがなるまいがどっちでもいいんだよ」
「あっそ。なら私は好きに動くわね」
櫛田は依然として人気者としての地位にも拘りが強く、須藤裁判の逆転に繋がる働きをしてチヤホヤされたいってな狙いもあるのだろう。
掴めなくても他人の進退になんて興味のない櫛田のことだから本当に好きなようにすると。
「話ってそれだけか?」
「ううん。本題は別にあるに決まってるじゃない」
「んだよ。さっさと言えよ」
「チッ」
返事は寄越さずぐでーんとしていた体を起こし、自分で淹れた茶に口をつけ舌打ちする櫛田。
中々話を切り出さず、不貞腐れた顔を晒す櫛田のこの姿を親御さんに見せてあげたくなる。
「お前さあ、なんなの? 機嫌悪いあたしを構えってポーズでもしてんの?」
「……あんた軽井沢に余計なことしたでしょ。あいつ調子に乗ってて本気でウザいんだけど。聞いてもいないあんたとのやり取り言ってくるし、本当に邪魔あのビッチ」
軽井沢か。なるほど。ビッチなの? なら良い奴じゃん。
「ああ、アレ。あれくらいならまだまだ平気だろ」
「あんたに害はなくても私には皺寄せがくるのよ……最近噂もされてないし」
「そっちかよ。匂わせ不足か?」
「そう。だからあのビッチが調子に乗ってるんでしょ」
軽井沢にはここ最近気まぐれに空に浮かぶ雲や花壇に咲く花の画像を送ってやっている。
ただ、先日腐った性癖を持つ上級生の女子宛てと間違えて、直立させ後ろ手のポーズをさせた平田を侍らせつつ、足を組んでニコニコ顔で座る俺との2ショットを送信してしまったのは失敗だった。
軽井沢からの返信に記載されていたメッセージの文字数と件数が異様で怖かった──基本無視しているので内容は知らんが。
「また飯に行くのもなあ……お前とじゃ飯が不味くなるし、映画でも観に行く? 喋んなくて済むし」
軽井沢が調子に乗っているのは番号交換よりもあの失敗が大きかったかもしれない。
櫛田には言わないが。
「暗すぎて目撃者が限られるでしょ」
「だる。でも飯はクソだし……カニならギリありだけど。お前に支払える料金のカニは食いたくねえしなあ」
「あんたの言い回しいちいちウザったいわね。もうこっちで決めていい?」
とはいえ面倒は面倒。
櫛田と一緒にいて笑えることも多いが、好意をまったく向けてこないのでむかつくことも相応に多いし。
「言ってみ」
「……七夕とか」
七夕って、そんなタマかよ。意外過ぎる。
「どしたん桔梗ちゃん。大丈夫? おかゆ作ろか? お布団敷いたるからもう寝とく?」
「……」
過保護な母親ムーブを無視しやがってからに。ノリの悪い奴だな。
「7日って──日曜か。天気は?」
「晴れ」
待てよ? これってそういうこと? もうゴールしちゃった感じ?
櫛田の分際で粘った方がではあるが、ようやくか。
「ふーん。俺と七夕デートしたくて事前に調べてたんだー? もう匂わせなんてやめて嫁候補を突っ走ろうって決心がついたー? でもその前にまずは本格的なブライダルチェックが受けられるよう学校側にポイントを払って受診させてもらえるよう手配を──」
「死んで。本当に気持ち悪い。あんたなんかと結婚するわけないでしょ。死んでもイヤ」
ノ、ノリの悪い奴だな……。
「……今からじゃ打ち上げ花火の手配は間に合わねえし、浴衣ってモールにあんの?」
「知らない」
「そこは調べてねえのかよ」
「チッ」
「てか浴衣って2、30万しね?」
もう出せる額ではあるけど、それでもポンポンと出せる額でもない。
個人情報の収集に優先的にポイントを使いたいし。
「は? 浴衣なんて安いものなら1万もしないわよ」
「は? キッズ用とか? お前チビだし」
「は? あんたがデカすぎるだけでしょ」
「は? デカくねえし」
部屋とか教室の出入りの際にちょい頭下げる程度で済んでるからギリセーフだし。
「……」
「……」
櫛田は机に頬杖をついて睨んでくるばかりで口を開こうとはしない。
こちらも負けじと頬杖をついておく。
「1万以下ならお前出せんの?」
「自分の分だけなら出せる」
「残りのプライベートポイント見せろ」
「……あんたの分も出せっての?」
カースト維持に使用していた遊興費は減ったはずだけど、顔芸の撮影も土壇場になってやらなかったくせして無駄遣いしてる臭いんだよなこいつ──一緒にやろうって誘ったお小遣い帳も一向に付けないし。
それに薄くではあるが以前からしていた化粧も若干変わったし、爪の手入れもしてやがるから浪費癖がついているやもしれない。
「1万くらいなら出してやっけど、お前って最近無駄遣いしてそうだし」
「何よそれ。そこまで言うならもう七夕はいいわよ。他のにするから」
「んだよ。安く上げるってなら、もう教室に人があんまし居ねえ時に俺の──」
「絶対にイヤ」
「はあ? 先回りすんなよエロガッパ。俺にエロいことして貰えるとでも思ったか?」
妄想の激しい奴だな。
「……じゃあ何するのよ」
「お前弁当たまに持ってきてるだろ。俺の分も作って教室で渡せ」
「わざとバレるようにってこと?」
「猿どもにはバレねえようにな。女子の一部に見られるくらいで十分だろ」
「受け取ったあんたはどこで食べるのよ」
「は? 捨てるに決まってるだろ」
意趣返しに異物混入を櫛田がやらないわけがない。
だからこいつが淹れた茶も飲む気がしない。
「……なら空の弁当渡せばいいじゃない」
「中身はしっかり作れ。不測の事態が発生したら弁当開けるかもだろ」
不測の事態ってのがどんなものかは知らない。
備えあればってやつだ。
「最悪」
「何が?」
「……帰る」
帰る際にドアを大きな音立てて締めるなよ、もー。
■
翌日、どうしても弁当は作りたくなかったのか、櫛田は浴衣をレンタルできる店舗を調べてきたようで、七夕の日は空けておけと一方的に通知してきた。
むかついたのでもう上級生の女子と七夕にデートの予定があると伝えたところ、その日を境に夜中に俺の部屋のドアが何度も大きな音を立てることが3日続いた。
第一容疑者である櫛田を自室に呼び出し、頭を引っ掴んで尋問したところ素直に犯行を認めた。
「お前は何がしたいわけ? もうちょい理性的──なわけねえけど、もうちょい慎重……でもねえか。とにかく頭は回る奴だと思ってたんだけど、マジで何お前」
「……」
「黙ってても伝わるには年季がいんだし、何考えてんのかさっさと言え」
「別に……考えなんてないし」
「そ。もうやんねえならそれでいいけど、誰ぞに見られたらお前の誰からも慕われる女子の絶対的なリーダー像は崩れんだしさあ……次から不満があんならまず言え。言いにくいなら平田──は今故障中だし三宅にでも伝言頼めや。あいつ口堅ェし、ある程度察して動いてくれっから」
ゾンビ平田はいい加減どうにかしないとなあ。
全然割り切れてない様子だし。
「……わかった。もう帰ってもいい?」
「は? 帰れると思った? お前ってマジで櫛田? 中身入れ替わってたりすんの?」
「……」
俺は仏ではない。
「迷惑被った俺が親身になって優しい言葉かけて、それでお前を無条件に許すとでも思う?」
「……ご、ごめんなさい。許して、ください」
「あ? さっさと準備しろや」
立ち位置を変えるべく立ち上がる。
「待って。お、お願い謝るからこんな形で──」
「はよきゅるきゅる笑って悪態吐けよ。撮ってやるから」
俺の自室であるとわかるモノが映るのはよろしくないし、立ち位置はこの辺りでいいだろう。
「……あんた、ほんとに嫌い。絶対に……嫌い」
「スマイル足りてねえぞヘボ。笑え」
画面に映る櫛田は注文とは真逆の般若のような顔をしている。笑え鬼。
「……ハハハハハハハッ! 死ねよ! クソムシ! お前の顔見るたびに反吐が出んのよ! このクソヤリチン!」
「……」
相変わらず切り替えが早い。
褒め称えたい思いが沸き起こってくるが、訂正はさせてほしい。
俺はヤリチンじゃあない。世界中の女が俺のものであるだけなので必要経費チンコだ。
■
どうせ須藤の一件に関してだろうけど、土日のどちらかで登校して来るようにとのメッセージが届いていたので、指示を出しているであろう本人に電話する。
『会長って日曜日の夜予定入ってます?』
『クラスの者と軽く汗を流す予定だ』
『それはエロ系の隠語だったりします?』
『……軽くトレーニングする予定だ』
『チッ、甲斐性なしが』
『お──』
何やら聞き苦しい言い訳が聞こえてきそうだったので通話を切る。
続いて平田に電話する──数十回のコール音のあとようやく繋がる。
『平田ァ!』
『……庵治くん、どうしたの?』
『星を見に行こう!』
『え?』
『星を見に行こう!』
物語のようにわかりやすいきっかけなんてない。
あったとしても俺はたぶん見逃す。
『い、今からかな?』
『星を見に行こう! 今から!』
『えっと……うん、わかった』
『この前の公園で! じゃ!』
公園まであえてのんびり向かえば、平田は先に着いていて──滑り台の上に立ってやがる。
「めちゃくそに曇ってやがる!」
「ハハッ。そうだね……」
「──平田ァ! 俺、中学ん時に逃げた! 目の前で起こってることが怖くなって逃げた! でもそんな自分が許せなくってさあ! この俺が自分を嫌いになりかけた! 俺の敵は俺じゃねえかってマジで思った! でもやっぱり俺は俺が好き! だから平田ァ! へこむな! うぜえ! いつもの察しがいい爽やかクソイケメンの仮面被ったお前であれ!」
友達の励まし方なんてわっかんねよ。
案の定、平田ぽかーんとしてるし。