増税クソイケメン 作:覆面生徒
「──部活動に興味のある生徒は第一体育館の方に集合してください」
本日も生意気にも高い顔面力を晒している前の席の平田が振り返り、キラキラした顔で話しかけてくる。
「庵治くんも部活動説明会一緒にどうかな? 僕、サッカー部に入ろうかと思ってるんだ」
「平田よー、この学校の部活って練習試合もまともにやれなくね? 学外に出られるのって公式戦だけっしょ?」
競技にもよるけど大抵の場合、公式戦より練習試合の方が多い。
「確かに、そう言われると……でも部員は結構いるはずだから紅白戦はやれるよ……」
「言葉詰まらせまくってる平田ならわかってんだろうけど、練習試合の他にも合同練習、他校の試合や練習の見学とか全部無理なのって結構な縛りじゃね? あと偵察やら差し入れで活躍してくれる父兄にOBの協力やらが皆無なんだぞ? 応援とかも無理そうだし、公式戦に家族が来てくれても接触禁止とかじゃねえの? てか生徒ですら応援行けなさそうだしモチベ維持きつくね」
俺はとくに偵察を大事にしたい。ライバルとなりそうな打者が出場する試合に出向いて「もう見るべきものはないな」なんて伊達メガネをクイッとさせて早々に帰宅するあの流れをバッテーリを組む捕手やレギュラー陣の先輩や──女子マネの前でとくにやりたい。
「……やけに詳しいんだね」
「その手の漫画好きだし、中学の時まで野球してたから応援のありがたみ知ってるしな」
黄色い声援はいつだって聞いていて心地良かったし、マウンドに立つ俺は世界の中心でいられた──おのれ球数制限。
「そっか、そうだったんだね……僕も少し迷ってくるな」
「いや、入りたきゃ入ればよくね? つーか文化系の部活なら運動部と違ってそこまで不利になる縛り要素ないだろうし、それか個人競技とか? いや縛り的に一緒か? ああ、でもガチでサッカーやりたいってんなら……部活よりレベルも高いだろうし最悪転入してクラブチームに入るのがいいかもな」
まあでも練習設備や指導者に税金をジャブジャブに落としまくってたら話は違うのか?
ただ、スタッフや設備が整っていたとしてもクラスメイトの大半から方言が聞こえてこないから関東圏出身者ばかりって予想が立つし、他の地域から生徒をほぼ集めていないのは弱点になる。
必然、各分野で飛び抜けた才能を集めているわけでもなさそうだから、その辺は推して知るべしって感じだ。
おそらくこの学校の各部活は名門と謳われるようなガチの強豪校には届かないだろうと思う。
留学生が皆無なようだしバスケをはじめとする留学生が無双するような仕組みの部活は全国への切符を掴めたら奇跡だ。
何より俺もスカウトを受けていた身であるので知っているけど、部活に力を入れている高校と比べて生徒数が圧倒的に足りないのも致命的だ。
「そ、そこまでは……でも少し考えてみるよ。ごめんね、こっちが誘ったはずなのに」
俺は公式戦のみならず練習試合なんかでも応援して欲しいし、何より勝ちたいから部活はなしだ。偵察は絶対にしたいし。
「ああ、でも面白そうな文化系の部活があったら教えて欲しいかもしんない。良さげなのあったら明日にでも教えてくれよ」
一人の世界で完結するような勝敗に拘らないような部活ならありかも? ヨガとか? ヨガ部ってあるんだろうか?
「うん。でもやっぱり説明会には行かないんだ?」
「入学前バタついてて行けなくってさあ、いい加減に髪切りにいきたくってよ。もう予約しちゃってっし」
「モールの美容室?」
「理髪店に決まってんじゃん」
「え? どうして?」
「この七三オールバックは理髪店のジジイに任せるべきだろ」
いつも我が家に来てくれたあのジジイを呼べればなあ。
「ハハハッ、確かにフフ、そうかもフフッ」
「被るから平田は真似しちゃダメだぞ。この七三は俺んだからな」
「え? うん、わかったよフフフッ」
何がそんなに面白いんだ? よーわからん奴だな。
てか持ち込み忘れたからワックスで代用してはいるものの、この学校の理髪店に愛用していたポマードはあるだろうか。
年配の教師からおすすめの理髪店の確認は取ってはいるものの、少し心配だ。
■
入学して1週間ほど経過。
男子を中心に騒がしくしている授業の後、休み時間となり次の体育の授業が水泳であるので水泳帽を用意すべきであったかと悩んでいたら、授業中にいつも騒がしくしている男子から声があがった。
「──博士にクラスの女子のおっぱい大きい子ランキングを作ってもらうんだよ。あわよくば携帯で画像撮影とかもな!」
耳を疑うとはこういう時に言うのかもしれない。
池を中心にあとは外村? たぶん博士ってなあだ名のと、若干引き気味の赤髪が騒ぎの中心の模様。
取り仕切っているであろう池とかいうチビを物理的に黙らせる方法を頭の中で考えるも野蛮な手段ばかりが浮かんでくる。
早いこと穏便な方法を考え、動き出さないと拙い。周囲の女子の視線は冷めきっている上に、チラチラと俺に視線が飛んでくる──いや、平田へと向かっているものも多いか? チィッ!
「平田?」
「え? ああ、どうしたの?」
「いや……」
こいつマジか。乳ランに参加したい勢だったりするの? え? マジ? それだと今後の付き合いをガチで見直す必要あるんですけど。
眉間に皺を寄せつつも何を頬を赤らめやがるこのポコチン野郎。ほんまつっかえ、平田。
が、使えそうな奴はいた。確か数学が得意と言っていたし。
俺は計算が苦手な方だし、人手って意味でもこれは捕まえたい。
自己紹介の場からいつの間にやら姿を消していたものの平田を交えて休み時間中に話すこともあるし──よし、無表情だからよくわからんが話していた最中であった乳の大きな女子の手前もあってか乳ランへの興味はなしっぽい。
最悪平田が使えなくてもこれで人手が足りる。
「女子のランキングすんなら男子もやんなきゃだよなあ! あいつらのポコチンのデカさ予想しようぜ! な! 平田! な! お前もやるんだよ!」
「ええええ!? 僕ゥ!?」
「そうだよ、お前もだよ。よし、オッズ計算は三宅! お前がやれ! な! 出走表は俺が作ってやる! やるぞポコチンダービ──んだよ平田ひっぱんじゃねえよ」
「庵治くん、女子もいるからあまり大きな声では……それに彼らをあまり刺激するのは……」
平田はおっぱいよりどうしてポコチンへの配慮をするの? 意味がわかんない。おっぱいなの?
「は? 盗撮までしようってあいつらは放置で俺はダメなの? そう言いたいのか平田──おう三宅頼むぞ。ちなみにベット出来るのは女子だけだからな」
話していた女子とは別れこちらへとすぐ来てくれた三宅は素晴らしい。ほんま平田。
「ああ……にしても大丈夫なのか? この状況でやるのか?」
「状況? 男子も水着になんだしポコチンは見放題だろ──希望が多けりゃ最悪更衣室でガン見すりゃいいし」
「いや、まあ……」
「三宅くん!? き、君も庵治くんを止めてくれ!」
「俺もあまりこういうノリは好きじゃない。意趣返しという意味ではありじゃないか?」
三宅はこちらの意図に気付いて合わせてくれてるってのに平田が頑なに否定してくるのが不思議でならない。
平田は自己紹介の時にその片鱗を見せたように正義マンじゃないの? あれって嘘だったの?
反面、三宅は素晴らしい。こいつは理解が早くて助かる。
「よし。理解の早い三宅には──ほら、飴をやる」
「? ありがとう」
ポケットからこの飴をひとつだけ取り出す素早さと正確性には自信がある。
元たこ焼きガールな祖母や母にこれをやると謎に喜ばれるのでガキの頃にめちゃくちゃ練習した成果が今花開いている──だってのに松下の野郎あの野郎断りやがってからに。
「おい。ちょっと待てよお前ら」
チビがオラついてきたが遅くね?
まあ、背が高いってだけで大抵の奴は恐れるからなあ。
目に怯えと羞恥心を覗かせてオラつく池は射程に入ろうともせず遠くから吠えている。
ぶん殴ってくるくらいの展開も考えていたってのに、日頃の発言からしてもこいつはマジで口だけだな。
「無視してんじゃねえよ! テメ調子乗ってんじゃねえぞコラ!」
無視はしていない。なんならワンチャン殴ってこないかとまだ期待している。
言葉は発さずともニタニタと口元を緩めた煽りフェイスを池に向けてやってんだから。
あと意外にも怒りっぽい性格と思われる背が少し高めの赤髪の──確か須藤ってのが事の大きさを察して引いてることに池は気付いてるんだろうか。
ああ、気付いているからこその弱腰か。
「池! やめとけって! あんな奴無視してこっちはこっちで楽しもうぜ!」
「マジ覚えてろよ! お前絶対ェに許さねえかんな!」
盗撮犯行予告集団からこれみよがしに悪態がまだお届けされるが、さすがにもう作業に集中する。
何やら平田がペコペコしたりジェスチャーで対応しているので丸投げしておく。
「で、平田。お前はこの出走表を女子に見せてベットさせてくる仕事まで待機だ。その時が来たら三宅は都度オッズの計算をするようにな。ああ、あと上限は一人につき1万までで、還元率は100%だ。要するに俺らの儲けはナシで」
「計算は得意だ。任せろ」
うむ。三宅はノリがよろしい。
「庵治くん……僕に手を汚せと言うのかい?」
「人間、手の汚れていない奴なんていやしねえよ」
実際、俺以外に綺麗な手を持つ奴なんていない。
「だからって……やめよう! こういうのは良くない!」
「繰り返しになるが女子らの乳──乳房の大きさを予想し、それを賭けの対象にしてあまつさえ水着姿を盗撮すると、そう宣言した奴らの言動は咎めず、我々のポコチンを止めると。平田、いい加減に目を覚ませ。そして女子らの目を見ろ。おそらく体のサイズから予想される須藤のデカチンは堅いと期待しているんだ。池はチビだから短小包茎だろうし、外村はドリチンだろうし。他は有象無象だ。このレース──女子の勝利はほぼ確ということを理解しろ」
こういうの作るのぼくだいすきー。
ウイポ結構すきー。
「作業をしながらよく口が回るな。いや、悪い意味で言ってるんじゃないんだが」
「わかってらあよ。よし、短評も出来たし出走する野郎はこれで……ん? なんだあいつら? まさか──」
よもや!
「どうやら賭けは辞めにしたようだな」
やっとかよ。遅ェよ。
「ふーん。でも俺らのポコチンダービーはやめへんで~」
俺の宣言と同時、ぐにゅっと肩に重みが加わる。
座っていた都合上、体重がわりと乗せられていて重い。
「庵治くん」
見上げればそこにはお怒り──ではなく悲しそうな表情の平田が。
なんで悲しんでるん?
「……わーったよ。つってもぶっちゃけ賭けたかったよなあ? 松下も」
だが甘いな平田。女子の意見次第では続行する流れに持っていける!
わりと本気で書き込んだ短評を女子には是非見てもらいたい。
「ええっ!? 私!? そんなこと私に聞かないでよ!」
「でも1万賭けりゃ確実に1000ポイントは戻ってくるような鉄板だぜ? 倍率がもっと上がったかもしんないし。いやでも全員が須藤にベットすると還元率100%だとしても倍率は1倍か?」
「倍率の高くなりそうなのに賭けようって女子もいそうだが」
ふむ。三宅の予想を聞くに一定の説得力がある。
「そう? まあ、そうか? ああ、山内か。山内ってなんてーかエロゲーとかに出てきそうだしな」
よくよく彼の顔を見ればクラスメイトをはじめとする一般の男子高校生とは違って、芸風というか画風というか、とにかく超高校級の竿役顔をしている。
蓋を開けてみるまでは彼のポコチンがツマラナイものと判断するのは早計でしょう。
「……庵治くん。あまりクラスメイトの悪口を言うのは……君が女子の皆を思って行動に出たのは今更ながらに気付けた。でもこれ以上は、ね?」
「ああ、オレもこれ以上は事を大きくしない方がいいと思う」
三宅? うそやろ? お前ノッてたやん? なんでなん?
でも平田に加えて三宅までもが反対するとなると風向きが悪過ぎる。
いや、松下の意思は? こいつはまだやりたくないとは言ってないよな?
顔面力的に女子カースト高そうだし、お前の意見次第ではまだワンチャンある。
「いやお前らが反対するなら、まあ、うん。でも松下はやりたいだろうし……そこは平田も三宅も汲み取ってやってくれねえか?」
反対する協賛候補二人の説得は諦め、松下がやりたいと言えるような空気を作る。
これで「ポイントがもらえるならやってもいいけど」なんてお前が口にすれば流れはこちらに傾く。
「やりたくない。やりたいのって庵治くんだけでしょ」
この野郎馬鹿野郎。松下この野郎。
「チッ。他の女子も──やりたくはなさそうだな」
教室内にいる女子らの顔を見渡せばほぼほぼ全員が目を逸らしたり俯いたりしている。
そんな中、堀北という女子だけがこちらと目が合うも呆れたような眼差しを向けてくる気概を見せている。
「ああ、そうだよ。女子とかどうでも良くてこの流れに便乗して俺がポコチンダービーしたかっただけだよ!」
「だと思った」
「本当にそうなのか? お前はただ悪乗りしていただけなのか?」
「お前……三宅。えぐってくるなオイ」
普段はお澄まし顔で必要最低限しか言葉を口にしないくせに、こういう時は言うこと言う奴なんだな。意外な一面を垣間見れた。
「すまん」
「どうして謝るんだい? 三宅のえぐりはとても上手だよ?」
「そうか?」
「うん。んなことより今日の昼休み何して遊ぶか決めようぜ!」
いまだに池とあと山内がバッチバチにこちらを睨み、聞こえるか聞こえないかくらいの声量で俺を下げていて、それを付近に座る女子に宥められている。
さすがにここらで空気を変えるべきだろう。飽きてきたし。
「急っ! 庵治くん、流れに付いていけそうにないよ……」
「サッカーとかどう? でも平田は経験者だし利き足禁止な。三宅は未経験?」
「ああ……未経験だ。だが、俺もやるのか?」
「え、うん。サッカー嫌い? もしくは平田のこと嫌い?」
「サッカーも平田も嫌いではないな」
平田はどっちでもいいけど、サッカーが嫌いじゃなくて良かった。
「庵治くん、どうして僕の名前を出したの?」
「じゃあ3:3想定でミニサッカー? フットサルっぽいので軽くやろうぜ。んで対戦相手は他のクラスの運動できそうな奴らでもちょい煽って捕まえようぜ」
「庵治くん? せっかくだしDの皆とやるのはダメかな?」
1週間もあればDの男子はある程度把握できたし、他のクラスを見てみたい。
高円寺みたいなネタキャラがいるかもしれないと考えるとワクワクが止まらないし。
「ノーだ! お前ホント平田よく聞けよ平田」
「あ、ああ……」
「真面目な話、この学校ってわりと特殊だし、この先何が起こるかわかんなくね? なら早いとこ他所のクラスの奴らの人となりを把握しておくべきじゃね? 保険って意味でも」
平田の説得にも慣れてきた。
まだまだ説得に成功する確率が低い気がしなくもないが、慎重だったり保守的な考えを好む傾向にあることは掴めてきた。
「……なるほどね。確かに、そう言われると、そうかもしれない」
「何も改まって話してどんな奴なのかを知るよりかは学生のノリってか遊びの中で知っていけばいいんだし、だからちょい煽るくらいは大目に見ろ、な?」
「……煽る必要はないんじゃないかな? 普通に誘えばいいじゃないか」
高円寺タイプは普通に接していては発掘できない。
俺は詳しいんだ、あの女の次くらいには観察してるから。
「また適当なこと言ってる」
「ッ! 平田マーン、松下が俺にダル絡みしてくるー。もうこいつセフレにしてやったら黙るかな?」
「セ、セフッ!? ダ、ダメだよ、そんなこと言っちゃ! 松下さん、ほら庵治くんのその、冗談だから、ごめんね」
「……サイッテー」
決してセフレが欲しいというわけではない。
作ろうと思えばいつでも作れるし、松下は別にだし。
だって今は入学早々開幕ダッシュをぶちかましているあの選挙中の政治家みたいな女に目が釘付けだし。
「マジキモい」
櫛田桔梗もこういった悪態を吐くんだろうか。