増税クソイケメン   作:覆面生徒

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ヤドン

 入学式より10日ほども経過すると、クラスの皆の顔に慣れの色が見て取れるようになってきた。

 かくいう俺もリズムを掴めてきて、放課後の日課になっている無料で提供される食料品や日用品を目的にスーパーやコンビニを巡回する効率が上がってきている。

 そんなこんなでいつも通りの巡回ルートであるコンビニへと足を向けたところ──Bクラスの神崎を遠目に発見した。

 

 すぐさま足音を立てないよう後をつける。

 対象がコンビニに入店したのを確認。

 こちらも入店して機を窺いつつ背後を取る。

 バリツの心得がある俺にとってはこの程度造作もない。

 

「チャン、ポン!」

「わっぷ! あ、庵治かっ! 驚いたぞ……」

 

 チャンポン食いてえ。でも諸々に備えて節約しなきゃだし。くっそー。

 こいつらBも節約してたりするんだろうか? 

 

「どうよBは? ええ? Bどう? やってる? Bどうなの」

「どう、と言われてもな」

 

 ん? 少し騒がしくした自覚はあるが、盛大に舌打ちしてドリンクコーナーから目つきの悪い女子が去っていく。

 ほう。俺に舌打ちとは。顔は覚えたからな。

 名前と部屋番を調べて後日ピンポンダッシュしてやる。

 

「……で? 今度はサッカーじゃなくてバレーにしとく? お前バレーなら負けねえんだろ? どう? どうせ俺らが勝つけど。俺ブロックだけはクソ上手いし、また昼飯奢らせてやるぞ」

「……お前って奴は」

「てかBの面子でもうちょい……あん? ておま、コーヒー買うんか!? コヒー……豆で……おまん」

 

 缶コーヒーではないのは評価できるが、豆を買うならスーパーとか専門に取り扱う店で買う方がいいだろうに。贅沢な奴だな。けしからんぞ。

 

「急にどうした。何が言いたいのか俺には……そもそもコーヒーくらい飲むんだが」

「いやまあ、いんだけど……お前ポイント幾ら残してんの?」

「……庵治も答えるのであれば答えよう」

 

 この前絡んだばっかりだから、よー知らんけど発言がいちいち真面目なんだよな、こいつ。

 コンビニの割高なコーヒー豆なんて買う不良のくせに。

 インスタントをチョイスしないところが実に不良だ。

 

「うるせえ! 言え! カモッモ──」

「大声を出すな。会計を済ませるから外で待っていろ」

「ふぁい」

 

 サッカーは下手糞のくせして素早く俺の口元を手で塞いできやがった。

 まあ、全然見てから余裕で回避できてたし、あえてな、あえて。こちとらバリツだし。あえて捕まってやっただけだし。

 素直に従ってコンビニから退店するのも空調が効き過ぎてて肌寒かっただけだし。

 

「それで、ポイントだったか?」

 

 コンビニ前でヤンキー座りして神崎を出迎える。

 むむっと眉間に皺を寄せる神崎。それを無視して──。

 

「あれ? 神崎くんと、確かDの?」

「誰っ!?」

 

 超反応で恐怖感を声色に乗せて誰何できた。

 自分でも驚きの反応の早さだ。これだよ、これ。

 手元にステッキがなかったから調子が出なかっただけだし。

 

「一之瀬か。こいつはおかしな奴ではあるが、おそらく悪い……奴ではないと思う」

 

 めちゃくそに言葉を詰まらせやがってからに。

 昼休みにサッカーをやる前、少し煽ったことをいまだに根に持っているんだろうか。

 

「アハハ! ごめんね? 急に声かけちゃって」

「アハッ! アハハハッ!」

 

 んー? この女ァ、んー? 

 

「ハハッ……えっと」

「いい加減にしろ庵治。いつまでふざけているつもりだ」

「ブー」

「ブーじゃない。ちゃんと話せ」

 

 こちとら色々と考えてんのバカ! ふざけてる時ってのは基本時間稼いでんだよ。

 でもまあ、気になってることを先に済ませておくか。

 

「そんでポイントどんくらい残してんの? 俺、9万9000しかねえんだけど。お前らこの前大口叩いてたわりに惨敗した敗北者なんだし金貸してくんね? とりま5万ずつでいいから」

 

 端末に記載されている残りポイントを神崎に見せつける。

 節約の成果を自慢したい気持ちも少しはあるが、まだ勝敗は決していないので喜ぶ時間じゃない──が、神崎が苦虫を噛み潰したように端末を操作しているので勝利は確定的だろう。

 

「お前が何を言っているのかまったくわからないが……俺の残りポイントは……な、7万6000だな」

「え、ざっこ」

「お前……普段は俺も──」

「コヒー買っとるやないか雑魚」

「クッ……」

 

 入学式から約10日で使ったポイントは2万4000。これじゃあDの流されやすそうな奴らと変わらない浪費っぷりだ。

 1日あたり約2500ポイントも使っている計算になる。やはり不良か。

 

「で、そっちのほれ、一之瀬は?」

「わ、私も?」

「おん」

「私はえーっと、ごめんね。答えられないかな」

 

 女子は男子と比べて何かと入り用だろう。

 でもさすがに必要最低限の衛生用品等は無料で配布されているか? 

 余計に残りのポイントが気になる。もしや神崎以上の不良? なんかこいつ変だし。

 

「頼む」

 

 俺は必要とあればいつでも頭を下げる。

 そして、政治の家系に連綿と受け継がれてきたこの頭の下げっぷりを味わうといい──安いし軽いんだぞ。

 

「そ、そこまでお願いされても……ダメだよ」

「庵治、あまり一之瀬を困らせるな。本人が答えたくないと言っているんだ」

「えと……あの、頭をあげてください」

 

 なんだろうこの違和感。

 財布の中身を見せろってのは下品な行為ではあるのはわかるが……なんだかそっちへの嫌悪とかじゃなくて、んー。やけに頑なだ。それがすごく違和感。

 

 少し揺さぶってみるか。

 

「この状況を遠隔から誰かが撮影していたら、どうなるだろうねえ? 神崎ィー?」

「お前っ! 何が狙いだ!?」

「ええっ!?」

「クックック……さてな」

 

 別にどうにもならんけども。もうちょい頭下げとこ。

 

「庵治……もしかしてお前は最初から一之瀬を狙っていたのか?」

「そう、なの?」

 

 はい? それは誤解が生じそうだし、聞き捨てならねえなあ。

 

 一之瀬を狙うとか俺の顔面を見てから言って欲しい。

 俺が100点だとしたら一之瀬って30点くらいじゃん。

 言い寄る側はどう見ても一之瀬じゃん。遺憾。

 

「神崎ってマジで馬鹿なの? 俺が一之瀬を狙う理由って何? よく知らねえ相手だし容姿も……さんじゅ──ぶっちゃけ俺と比べたら別にだし、神崎って頭も目も悪いの? だからサッカーであんなにクソ雑魚だったの?」

「お前……一発でいい。殴らせろ」

「は? 先生に泣きつくぞ」

「クソッ! ハァ……お前の相手をするのは疲れる」

 

 ほーん。悪態を吐いているわりには、ほっとしたような表情を浮かべていやがるな、こいつ。

 ただまあ、神崎と一之瀬は何か隠しているのは明らかだけど、それを俺が知る必要ってのがあんまりなさそうでもある。

 なので当初の目的をいい加減に伝えよう。

 

「今日は朝まで麻雀しようぜ! やれそうな奴あと二人、最悪三麻でもいっけど」

「お前の頭の中はどうなっているんだ……麻雀はやらん」

「てか番号交換しとかね? 平田としか交換してなかったろ」

「あ、ああ……一応しておくか」

 

 番号知らなかったから誘えなかったんだよなあ。

 

「それならせっかくだし私もいいかな?」

「一之瀬とも? んー?」

「ダメかな?」

 

 眉を少し下げてお願いされても、俺の方が断然可愛いからなあ。

 それに髪色も相まって雰囲気がヤドンっぽいから効果がいまひとつだし。

 

「お前ってエスパーっぽいから──」

「庵治、断る理由もないだろう」

「つっても一之瀬ってあんまタイプじゃねえから遠慮しとくわ」

「にゃはは……そっかあ、残念」

 

 別に一之瀬は派手にピンクしてるが鼻息は荒そうではない。

 が、今は上級生の女子に優越感を持たせつつ種まきをしている都合もあって、同学年の女子とは番号の交換をしたくないのが本音だ。

 

「んで神崎よ。この前来てたBの二人って麻雀打てそ? 聞いてくんね?」

「お前はどこまでもマイペースだな……そして何度も言わせるな、麻雀はやらん。明日も授業があるんだぞ。せめて誘うなら休日かその前日にしろ」

「俺は、今日、打ちたい、お前を」

 

 神崎って麻雀下手そうだし。

 

「おかしな言い方をしても打たん」

「じゃあ今週の……って卓は? お前持ってきてる? 俺さすがに持ってきてねえよ? ネットで打つとか嫌なんですけど?」

「持ってきているわけがないだろう」

 

 なら誰かに借りる? 

 上級生に聞いて回れば持っている奴は普通にいそうだし。

 でも借りてまでってなると面倒が勝つ。

 

「麻雀部があるみたいだし、そこでやらせてもらえたりしないかな?」

 

 ポンと手を打って一之瀬が閃いたとばかりに提案してくる。

 ほう、一之瀬やるじゃないか──となるとでも思ったかっ!? 

 

「ふむ、その手があるか」

「フンッ! 知ってたし。おまんらを試しただけやし! うちもう帰るっ! バーカバーカ!」

 

 おのれヤドン。機転の良さを見せつけてマウントですかあ? というのはあくまでも建前でありポーズだ。

 同学年の女子──とくにBクラスでは既に主導的立場にあるっぽい女子と人目の多いコンビニ前で長話をするのはあまりよろしくない。

 

 

 

 ■

 

 

 

 無料の食料品や日用品の調達があるので寮にとんぼ返りするわけにもいかず、巡回を再開。

 道中Dクラスのスカブに遭遇したりもしつつタスクを終えて帰路につく途中、少し開けた場所に設置してあるベンチに腰掛けるベレー帽を被った女子を発見。

 気になることができたので了承を得ずに彼女が座るベンチに腰掛ける。

 

「こんばんは。確かDクラスの庵治くんでしたか?」

「うん。そっちは?」

 

 ほう……急な出来事に一切の動揺を見せず、こちらを見定めるかのような視線と口調──この帽子、やる。

 

「1年Aクラスの坂柳有栖と申します」

「ふーん、てか坂柳って理事長の縁者?」

「ええ、理事長は私の父です」

「へえ、てかお前のその帽子って校則に引っ掛かったりしないの? それかポイントで権利を──あ、すまん。色々と事情があるかもしれないよな」

 

 うちは代々禿散らかす定めにある。

 だからこそ痛みを間近で見ているし、弁えているつもりだったってのに何をやってんだか。

 

「何か誤解があるようですが校則違反には該当しないはずですよ。ここは服装や頭髪に関してうるさくありませんので」

「誤解であったとしても配慮に欠けていた。申し訳ない」

 

 これはマジで配慮ウンコ。素直に頭を下げるべきだ。

 ベンチから立ち上がり、しっかりと頭を下げる。

 

「気にしていませんので構いませんよ」

「配慮に感謝する。ありがとう」

 

 感謝を述べつつも頭は下げたままにしておく。

 

「いえ、ですから本当に……わかりました。あなたの謝罪を受け入れましょう──それにしてもあなたは伝え聞く話とは違って随分と印象が違う方のようですね」

 

 ふう。ベンチに腰掛け胸をなで下ろすってな思いは内心に留め、普通を装う。

 こちらが引っ張り続ければ相手も居心地が悪くなるだろうし。

 

「それな」

「フフ」

「で、こんな場所で何してんの? 誰ぞと待ち合わせ中とかだったらとっとと退散すっけど」

「一人で少し散歩をしていたところですよ」

 

 一人ってところを若干強調したような、そんな気がしなくもない。

 でも声が平坦というか、分厚さがないからよーわからん。

 

「ふーん、友達まだできねえの?」

「仲良くなれそうな方はいますが、まだお友達にはなれていませんね」

「そっか」

 

 助言もしないし、友達になろうとも言わない。

 やっぱり同学年の女子となると距離感は大事にしないといけない。

 ヤドンのように目立っているタイプでもないから多少は緩くしても大丈夫だとは思うが。

 

「坂柳は散歩以外に趣味あんの?」

「読書とあとはチェスでしょうか」

「お、チェス好きなん?」

「ええ、好き、と言えるでしょうね」

「俺もチェス好き」

 

 正確にはチェスを指している俺が好き。

 

「そうなんですか。では一局いかがですか?」

 

 はっ! 勝負になんねえよ。

 

「悪ィ。チェスが好きな奴とは指さないようにしてんだわ」

「……理由を伺っても?」

 

 おや? やけに好戦的な目をするな。

 かなり腕に覚えがあるのかもしれない。

 

「俺のチェスの腕前がクソ雑魚ナメクジだから」

「そうなのですか? もしかして謙遜されているのでしょうか?」

 

 本当に俺のチェスの腕前はクソ雑魚ナメクジで腕に覚えがまったくない。

 チェスが好きな奴とやったら100負けるし、相手をいつも退屈にさせる──接待プレイのプロともいえる親父をも困らせる雑魚っぷりだ。

 

「ほんとだって。ごめんなー、相手してやれたら良かったんだろうけど──っと、そろそろ行くわ。飯作んなきゃだし」

 

 寮まで送っていこうかなんて提案もしない。

 ベンチに杖が立て掛けられているのはわかっているが、話した感じ親切を押し付けられたりは嫌いそう。

 ここまで坂柳は一人で歩いてきたんだろうし、助けが必要であれば言うだろう。

 

「ええ、さようなら」

「おう、またな──おでんでんで~んおでんで~ん」

 

 今日はほとんどの具材を無料で取り揃えられたからおでんの日だ。ウキウキが止まらん。たまごをたくさん入れてやろ。

 

 

 

 

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