増税クソイケメン   作:覆面生徒

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カメラ

 入学当初から授業中に騒がしくする野郎どもが多いが、この状況を改善するべく動こうとは思わない。

 女子は結構真面目に授業を受けているが、男子で真面目に授業を受けているのは俺を含め一部だけで、だからこそ俺の価値が自動的に上昇する。

 そんな中、平田が頭を悩ませて色々と改善しようと動くものの男子の多くに突っぱねられ、しょんぼりした顔を見せることが多い。

 

 とはいえ平田は頼れる男である。

 

「平えも~ん」

「えっと、僕のことだよね? どうしたの?」

「カメラマン出して」

 

 実家で過ごしていた頃は主に姉らが担ってくれていたが、そろそろカメラマンが欲しい。

 平田に撮影を担ってもらうことも多いが、こいつはこいつで役割がある。

 

「カメラマン? カメラじゃなくてカメラマンを僕が出すの?」

「そう」

「何か撮りたいならまた僕が撮ろうか?」

「平田もエキストラつーか賑やかし要員だからなあ……だからカメラマン欲しいんだよ」

 

 当初は初手否定を口にしがちだったが、なんだかんで根が良い奴な上に最近はノリも良くなってきた今日この頃の平田である。

 

「僕はいつからエキストラに?」

「ハハハ」

「どうして笑うんだい、庵治くん」

 

 そうだよ。お前はもう主人公じゃなくなったんだよ。俺がいる限り主人公にはなれない、でもそれで悲しむ必要もないんだ。いつかは誰かにとっての主人公になれるかもしれない。正義のヒーローに憧れているだろうお前ならきっとな。

 

「それに……その優しい眼差しの意味がよくわからないんだけど」

「まあまあ、平田はあんまり思いつめ過ぎんなよ。平田マンより平えもんくらいのスタンスで行けな?」

「いつにも増してよくわからないけど、僕は大丈夫だよ。でも心配してくれていたのだとしたら、その、ありがとう」

「よしよし──って話戻すぞ。俺が欲しいのは余計なこと言わず、やらない。沈黙を厳守できる系で。あと体力もある程度あって~、あとあと~清潔感も欲しいし~、どう? 出せそ?」

「うーん、寡黙なタイプか。それに体力もあって清潔感もある、と──あっ」

「ん? ある? てか真面目な話そんな奴いる?」

 

 もしかして高円寺? 確かに授業中に動物園化しているクラスの状況に沈黙を貫いているし、上級生の女子とワチャワチャしている時以外は寡黙っちゃ寡黙だ。

 髪型が少し被るオールバッカーなのは玉に瑕だが清潔感もある。

 運動神経も抜群だったし泳ぎを見る限り体力もあるから……でもあいつは演者側だろ。同じ空間にいたら絵に収めないわけにもいかないし。

 

 でも平田が高円寺を推すのであれば──。

 

「三宅くんにお願いすればどうかな? 運動部にも入っているし、寡黙な印象もある」

「三宅? 高円寺じゃなくて三宅?」

「う、うん。高円寺くんではなく三宅くんだね」

 

 運動もそこそこ以上にできるし寡黙要素的にも良いのか? 

 でも俺のノリに付き合ってくれ──いやポコチンダービーにはノッてくれたしいけるか? 

 

「そ? なら頼んでみるわ」

 

 もしも三宅に難色を示された場合、神崎にでも──いやでもあいつってここ最近、妙にこちらを探ってくる感じがするしなあ。

 そうなるとやっぱり高円寺か。

 

 

 

 ■

 

 

 

 担任の茶柱が受け持つ授業の際、急遽行われた小テストをなんとか乗り越えた。

 成績には反映されないとの説明を受けたが、いまいちな手ごたえなのもあって明日は土曜で休みだし真面目に自習でもと考え、端末を操作して予定表を開いて気付いた。

 

 明日は二番目の姉とクラスメイトの誕生日である。

 

 姉には手紙とプレゼントが届くよう入学前に事前に準備しておいたので問題ないが、せっかく雑談の中で直接だったり間接的にクラスメイトの誕生日を把握していったってのに、肝心の誕生日に何も用意していないのは拙い。

 高校に進学し新しい環境に身を置いたことにどこか浮足立っていたのは否めないが、征十郎痛恨のミスである。

 

 これはどうにかしなければならんぞ征十郎ォ! 

 

 とはいえ対象は目立つこととか注目されることを嫌ってるっぽいのが悩みどころだ。

 俺が主導して盛大に祝ったところで逆効果臭いし──かといって女子主体で祝ってもらうのも俺にメリットがない。

 何より自由に使える金がないのが痛い。やれることの幅が狭すぎる。

 

 ならば、ここは体を張ろう。

 

 幸いここ最近の対象は休み時間のたびに音楽か動画でも観ているようで一人なことが多く今もそう。

 イヤホンをしたままである対象に愛用している特大サイズの消しゴムを対象の机の上に放り込む。

 肩をビクッとさせ、ぐりんと首を回してこちらを睨みつけてくる対象の瞳の色はパターン青、女子──そう、女子である。同学年の女子とは一定の距離感を大事にしているが、誕生日は別腹である。

 祝ってもらったという過去はいつまでも呪いとなって残るので、可能な限り祝った方がいい。将来的には同学年からもピックアップしていく必要が出てくるわけだし。

 

「……」

 

 さて、対象の女子はこちらの声が聞こえ難いだろうからイヤホンを外せとジェスチャーで伝える。

 

「……」

 

 ぷいっとそっぽを向く対象。おのれ無視しよってからに。

 しょうがないので第二射を準備する。

 サプライズは相手次第じゃマイナスに働く恐れがあるので、ノートの切れ端に「昼休みにバースデーソングを全力で歌うので心の準備をしておいてくれ」と書き記し、丸めて対象の机の上に放り込む。

 丸められたノートの切れ端を開き、目を半開きにして内容を読み取った対象は再びぐりんと首を回し、先ほどよりも怒気がこもった瞳をこちらへと向けてくる。

 

「絶対にやめて」

 

 小声に怒気をめちゃくそに孕ませていらっしゃる。

 

「俺は歌が上手い」

 

 ふんぞり返りつつ俺も声の大きさは抑える。

 

「あっそ。やめてね。恥かくの私なんだから」

「仕方ねえな。リクエストに応えてやる」

「は? あんた頭おかしいんじゃないの? 絶ッ対にやんないでよ!」

「チッ、わーったよ」

 

 この俺に身銭を切れって言うのかよー。もー。

 

 

 

 ■

 

 

 

 おそらく覆面の着用は禁じられていない。

 Aにはお洒落を目的として帽子を被っている坂柳がいるし、確かCの男子はサングラスを着用していたはずだ。

 なので覆面も禁じられていないはず。禁じられていた場合、巨大な帽子と巨大なサングラスを用意して平田に着用させてやる。

 

 ともかくプレイの幅が広がるので持参していた虎の覆面を装着する。

 部屋の主兼助手の平田に面の後ろの紐を結んでもらう。

 しっかりと顔が隠れているか確認すべく姿見の前に立ち確認する。

 オレンジ色はなかったので妥協して青と黒の私服コーデとなったが、中々悪くない。

 青と黒に虎の覆面は親和性が高く素晴らしい。うむ。うむ? 

 

「……平田?」

「プフフフフフ……」

 

 笑ってくれるのは喜ばしいが笑い過ぎな感がある。

 が、まあいい。今の俺はタイガー。普段の2倍は寛容だ。

 

「さて、行ってくる」

「フフッ……行ってらっしゃい……フフフフ」

 

 専用のタイツの着用は平田に強行に止められたが、手渡す際にシャツくらいは脱ぐべきか否かが悩ましい。

 現場にて高度の柔軟性を維持しつつ、臨機応変に対処するとするか。

 

 

 

 ■

 

 

 

 寮の裏手にて待ち合わせた松下は、俺の姿を見て全身を強張らせている。

 まあ、俺だしな。俺からの誕生日祝いだしな。これが正常な女子の反応である。

 

「……」

「誕生日おめでとう。俺ってお菓子作りじゃ失敗しないから口に合うと思うぞ。ケーキな」

 

 シャツを脱いで上裸になるのはやめておくべきだろう。

 至近で確認した松下を見るに……うむ。

 こちらと目を合わせず、表情には困惑の色を浮かべている。うむ。

 

「……そのマスク、何?」

「寮の裏つっても誰かに見られると面倒だろ。配慮だよ配慮」

「ハァ……わかった。ありがと」

 

 溜め息がやけに大きい。

 

「それじゃあバーステーソングを一曲──」

「やめて。配慮して」

「俺マジで上手いんだぞ? 3年の女子は俺の歌声に号泣しちゃうほどだし」

「あっそ。じゃあまたその人に歌ってあげなさいよ。私は遠慮しとく」

 

 週末には2年の女子にも聴かせる予定になっている。

 なので今週は彼女らのリクエストに応えるべく自主練に励まなければならない。

 ん? 練習に励むならバンドでも組むのもありか? 頭の片隅にメモっておこう。

 

「そうするー。じゃあもう俺行くわ」

「待って。これ、箱の大きさからしてホールケーキ?」

「うん」

 

 残念ながら松下のこれといった好物はわからなかったのでシンプルにいちごショートにした。

 お菓子作りでは絶対にレシピを外して遊んだりしないので味には自信がある。

 

「食べきれないんだけど」

「食べきれなかったら友達と分け合うなり捨ててくれ。あんまり日持ちするもんじゃねえし」

「……そうする」

 

 微妙に歯切れの悪い松下の返答を聞きつつ足早にその場を後にする。

 逸る気持ちを抑え込みつつ思う──覆面をエロ以外に使用する考えに至るきっかけとなった松下には少しは感謝してやろう。

 

 さっさと部屋に戻って撮影会だ! 

 

 

 

 ■

 

 

 

 三宅には個人撮影会の日程だけメッセージで通知したところ、反応がなかったので直接話して放課後部活終わりに自室へと訪れてもらう予定となっていた。

 ノリが良いんだか悪いんだか、まだ掴めないところのある奴である。

 

「一応話は聞いているが、俺は具体的に何をすればいいんだ?」

「三宅」

「なんだ?」

「まず、どうだ。俺は今、虎と一体化できているか?」

 

 客観的な視点からの意見は大事な場合もある。

 とくに三宅はするどい部分があるし、こいつの意見は参考になるだろう。

 

「言っている意味がわからん」

 

 前言を撤回しよう。察しの悪い野郎め。

 

「そうか。とりま俺の雄姿を撮ってくれ。飯作ってやっから気合入れて撮れよ」

「平田」

「三宅くん、えっと、とにかく撮ろうか」

「そもそも平田がやればいいんじゃないのか? 教室でもたまに撮ってるだろ」

 

 まだかしら? モデルをあまり待たせてほしくないのだけれど。

 

「うん。でも庵治くんは三宅くんに撮ってもらいたいようで、お願いできないかな?」

「……まあ、いいんだが」

 

 キャメラがノリ気じゃないのは問題かもしれない。

 仕方がない、一声かけておこう。

 

「平田は俺の手を掲げたり、覆面を剥がそうとしたり、サインを強請ったり、軽く組み合ってもらう必要があんの。あと時間に余裕がありゃ制服姿でベタに青春の一コマも撮っておきてえし──とにかく三宅キャメラマンが必要になんの。オケ?」

 

 当初の予定としては制服姿で青春する姿を自分用と保存用、家族用に撮っておくつもりでもあったので一度の撮影会では当然時間が足りない。

 校舎内での撮影は日々進んでいるが、寮内と野外撮影はまだまだ日数が掛かるだろうし季節ごととなると時間がいくらあっても足りない。

 自己をしっかりと管理してスケジュールを調整し続ける3年間になりそうだ。

 

「カメラマンになった覚えはないんだが……ようは撮ればいいんだな」

「そうよっ! あんたはアタシの言うとおりにしておけばいいのっ!」

「……ああ」

 

 撮影会は無事執り行われた。

 

 三宅のカメラマンとしての腕前は可もなく不可もなくだった。

 でもずっと無言を貫いていた三宅が会の終盤になって口にした「ヒールっぽい写真はいらないのか」との提案は素晴らしいものであったので、お手製のクリームシチューにはブロッコリーをたくさん入れてあげた。

 あとヒール側の俺と相対するヒーロー役を演じていた平田もノリノリだったし、全員が納得の撮影会になったはずだ。

 

 それにしても入学前にバタついていたとはいえ、せめてビデオカメラくらい持ち込まなかったことが悔やまれる。

 ポイントで購入しようにもようやく学校側から支給されるポイント以外の収入源を確保したばかりだし──今日からちゃんとお小遣い帳をつけよう。

 

 

 

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