増税クソイケメン   作:覆面生徒

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人生設計

 櫛田には勉強会終わりに来るよう伝えたってのに、どういうわけか18時前に来訪するとの連絡があった。

 ただ俺は2年の女子に付き合う形で編み物に精を出していたので、19時に来てくれるよう断りを入れておいた。

 そんなこんなで19時となり俺の部屋に訪れた櫛田。招き入れるとすぐに天井に壁、棚や机の上に電源の位置まで気にしており、ものすごく警戒している様子。

 

「えっと、よくわかんなかったんだけど、爆散ってどういうことかな?」

「前置きいる? お前が掲示板やらブログ使って周りの奴らの秘密を派手に暴露した話だよ」

 

 この状況で飲み物を出しても無駄になるだけだろうし、もてなしはなしだ。

 俺はベッドに腰掛け、櫛田はローテーブルの前のクッションに座ろうとして──座らず立ったままである。

 

「……知ってるってこと?」

「そ。お前の中学時代の話以外にも両親の年齢に勤め先、お前の病歴までわりとなんでも」

 

 10万も出したわりには肉体についての情報が少なく、費用対効果は微妙だった。

 悔しいのでなんでも知ってる風を装っているに過ぎない。

 両親の勤め先なんてわからなかったし、実際はわりと何も知らない。

 

「そんなの……どうやって調べたわけ?」

「言うと思うか?」

「チッ……それで? 私のこと脅すつもり?」

 

 普段の姿からは想像できない低音ボイスの櫛田。

 これでもかと殺意を籠めたその眼光はちょっと股間にちょっとクる。

 

「言い触らしたりはしねえよ。今はな」

「何が望みよ……ヤらせろだなんて言うつもり?」

「ハア?」

「何誤魔化してるのよ。どうせヤりたいだけなんでしょ」

 

 投げやりに言葉を吐き捨て、ベッドに腰掛けている俺の方へと迫ってくる櫛田。

 ガン決まりの表情で制服のブレザーのボタンを外し、俺の腕に手を伸ばしてくるので──キャッチ。

 手首ではなく手そのものを握りこみ、櫛田の指をまとめて束ねる。

 

「勘違いしてるとこ悪ィけど、櫛田程度が俺とパコれるわけねえじゃん」

「ハア゛?」

 

 口の中が丸見えだ。

 おかげで舌の色が良好であることを確認できた。

 

「黙っててやるから俺に協力しろってこと」

「協力? 私に何をやらせるつもりよ」

「とりま勉強会頑張れ」

「何よそれ。どうせそれだけじゃないんでしょ」

 

 櫛田に駒としての働きを期待してはいけない。俺ってチェス下手だし。

 

「そりゃな。基本Aクラスを狙って動くけど、最優先は俺の指示。指示がないなら俺の考えを予想して動け」

「注文が多いわね」

 

 差し手がヘボなら駒に考えてもらえばいいじゃない作戦であり丸投げとも言う。

 

「飴もくれてやるし気張れ」

「は? 飴って何よ」

「このイケメンランキング堂々一位の俺と隠れて付き合ってる彼氏のフリしてやるよ」

「……きも。こっちから願い下げなんだから飴になってないんだけど」

 

 客観的に見てものすごく気持ち悪いのは自覚している。

 でも他の飴となりそうなものは手間が掛かりそうなものばかりだし、面倒。

 これで了承してくれるのが一番望ましい。

 

「本当にそう思う? 本心から? 俺の隠れ彼女の立場ってお前にとって都合が良いポジだろ? 匂わせも込みだぞ? もうお前はこれの使い勝手の良さを頭ん中で計算しちまってるだろ」

「……」

 

 この学校ってガチの悪意を持つ奴に狙われたら弱味なんて握られ放題っぽいんだけどな。

 櫛田のような目立つ存在かつ秘密や弱味を握りたがる女子なんて、強引な手段に出られる機会に事欠かなさそうだし。

 異常な怪力を持つとか格闘技経験でもあれば背丈や体重、性別を加味しても少しは暴力に対抗できるだろうけど、囲んで棒で叩かれたら抗う術なんてほとんどないだろう。

 だからこそ学外でも通用する背景を持つ奴の傘の下に入っておくのが一番無難な対策だと思うんだけど。

 

 実際、俺がよく話をしてノリに合わせてくれてお小遣いまでくれる上級生の女子は、詳しくは話したがらないけど悪意に晒されたか怯えている人が多いと思う。

 高円寺の周りにも似たような立場や考えで居場所を求めた上級生の女子がいるっぽいし。

 

「ハァ……別にいらないってんならいいけど」

 

 本人がそういった行為に納得できないか、問題ないと考えるなら尊重した方がいい。

 こういうのは自身が痛みを味わうまで納得したり危機感を抱くようにはならないだろうし。

 

「他にはないの?」

「じゃあ狙ってる男がいたりすんなら手伝ってやっけど。どうよ?」

 

 俺より頭が回るこいつがそれくらいで気持ち良く動いてくれるなら安い。面倒だけど。

 それに櫛田が1年の中でも一つ抜けた嫁候補とはいえそれは卒業後の話だし、在学中に彼氏がいようと問題にならない。

 

「……いないわよ、そんなの」

「えー、ならもう男子のヤバめの秘密を探るのを手伝うとか……いや、それはマジで面倒だしなあ。お前の希望は?」

「堀北を退学にして」

「堀北? お前とあいつってそこまで仲悪かったっけ?」

「理由なんてどうでもいいでしょ。飴って言うならそれくらいして」

「お前さあ……Aを目指すってのに成績上位の堀北を退学にしてどうすんだよ」

 

 失言? いや、こちらの反応を確かめた? 声のトーン的に何か考えがありそうだけど、よーわからん。

 

「じゃあ意味ないじゃない」

「なんで?」

「……言わない」

「あっそ。でも退学ってなら池とか山内は? ノンデリ発言しまくるあの二人と女子との間で板挟みになってお前が一番苦労してそうじゃん」

 

 上級生らの話を信じるのであれば退学者を出した場合のペナルティーはクラスポイント300ポイントの減少と重いらしい。

 それに現時点でDクラスの保有するクラスポイントは0なわけだし、おそらく踏み倒せる。

 でも今後頭数がモノを言う場面もあるだろうから微妙ではある。

 

 ただ精神をガタつかせている俺が言うのも変だけど、今は櫛田の精神の安定の方が優先されるので低スぺな男子の排除くらいなら許容範囲内のはず。

 

「あいつらは別にどうでもいい。ウザいだけでそんなに害ないし」

「えー? これもダメー? てかアレをウザいだけで済ませるお前ってすげえな──で、他に希望は? もうポイントとかにしとくか? あんま出せねえけど」

「いらない……もうさっきので妥協してあげるわよ」

「そ? そりゃ良かった」

 

 話が纏まったので、いい加減握っていたままの櫛田の手を放し、櫛田の制服で手を拭う。

 歯軋りする音が聞こえてくるが、あまり心地良い音でもないので努めて無視する。

 

「……Aを目指すならあんたも勉強会参加しなさいよ」

「俺は俺でやることあんだよ」

「やることって何よ」

 

 立ち上がり、満面の笑みを浮かべ──。

 

「女子との思い出たくさん作りたいからねっ」

「は? 何それ」

「お前の真似してやってんじゃろが!」

 

 裏声かつ上目使いまでしてやったってのにしらけた面しやがって。

 

「つまんな過ぎてわかんなかった。はは」

「よし、飯行くか」

「行くわけないでしょ」

「匂わせの為だろうが。1年の女子がよく使ってる店くらいお前知ってんだろ。案内しろ。あと奢れ。あと力づくで探られるのが嫌なら端末と録音機器の類を素直に全部出せ」

 

 仕込んでこない方が不自然な状況だし提出するよう促す。

 

「……最悪」

 

 別に録音されていてそれを風潮されようが、学校側に訴え出られても問題にはならないはずだけど、一応の保険というかポーズだ。

 要求してることなんてAクラスを目指すことへの協力と指示に従えという可愛いらしいお願いだし。

 

 案の定ブーブー言いつつ録音状態にしてあった端末にボイスレコーダーを机の上に出す櫛田。

 録音されていた音声を消去し、流れで櫛田の頭を鷲掴みにして暴れまわるのを抑え込みつつ頭髪から順に爪先まで体をまさぐる。

 腕力では抗えないと悟った後は罵詈雑言がものすごい早さと大きさで飛んでくるが無視。隠し持っていた録音機器を発見してニタニタとした笑みを浮かべておく。

 限界を超えたらしい櫛田が殴りかかってきたが、再び頭を鷲掴みにして穏便に止めてあげた俺って超優しい。

 

 

 

 ■

 

 

 

 時間差を付けて寮の前で落ち合い、1年の女子がよく利用するファミレスへと足を運ぶ。

 時刻は19時過ぎで、行き交う生徒の姿はまばらだ。

 隣を歩く櫛田は人の目がないとわかる場所になるたび、殺意を籠めた眼光を発動して笑わせに来る。

 横っ腹に少しダメージを食らったもののファミレスに無事到着。席に案内されメニューを見る。茶色ばっかりだ。

 

「ママ! お子様ランチがないよ! ママ!? ねえママってば!」

「アハハ、もう庵治くんふざけないでよ。ママじゃないよ、ママじゃアハハ……だる」

「きのこグラタンにしとこ。で、今日のこれは勉強会に所用で参加できない庵治くんが負担を掛ける櫛田に詫びとしてご馳走した──って感じの台本にしとけよ。あえて平田には何もせずに贔屓して匂わせておいてやる。で、『最初は手料理を振る舞ってくれるって言われたんだけどっ……そこまでしてもらうのも悪くってっ』て感じでモジモジしとけ」

 

 平田に櫛田の秘密は抜きにして事情を話しておけばスムーズに行くんだろうけど、あいつ嘘は上手だけど大根っぽいのがなあ。

 今度面子集めて人狼でもやってみるか──櫛田も混ぜると面白そうだし。

 

「それ私の真似なの? キモいからや──もう、大丈夫だよっ。私は好きでやってるだけだし、ね?」

「この俺からの感謝って価値あんだぞ。櫛田はもっと喜ぶべきだしなんなら櫛田も感謝すべき。山菜定食マンの俺が奢ってやんだから」

 

 視野が広くて切り替えの早い女だなあ、こいつ。

 女子生徒が入店してきたのを目ざとく発見してすぐにギアチェンしやがった。

 

「あんたはそのままで良いのが癪に障る」

「顔と仁徳の差だな」

「うざ」

「でもほら、正面からしっかり見てみ。うざい相手な俺でも近付かれると本能の部分でキュンキュンするだろ」

 

 机に体を乗り出せば対面に座る櫛田の顔が至近となる。

 櫛田の瞳に映る俺は当然美しいが、至近で見た櫛田の顔は──俺が100点だとしたら普段は30点くらいで、変顔状態でも20点くらいはあるだろう。

 

「キモい顔近づけないで」

「フッ」

「死ね」

 

 一連のやり取りを最後にお互い口を開くこともなく無言が続く。

 注文した品が届き、これまたお互い口を開くこともなくモシャモシャする。

 無言ではあっても櫛田は照れている演技を続けたりしているので、遠目にチラチラとこちらを見ている女子らには不自然に映っていないだろう。

 

「さっきのは誰ぞに言及されたら『瞳の色が気になったみたいで、ち、近付かれちゃっただけだよっ』ってのが模範解答か」

「だからそれやめて、ウザい」

「櫛田も肩の力抜いて楽しめよ。俺とサシで飯食う機会を望む女子なんてごまんといんだし、ちったあ優越感刺激されて気持ちいいだろ」

「……」

「笑顔のまま怒っててウケる」

 

 おまけに笑顔のまま溜め息まで吐いてやがる。

 

「あんたAクラスを目指すって言ってたけど理由は進学とか就職なわけ?」

「最高学府の法学部にAの権利で入っても落ちこぼれんのは目に見えてる。だから進路は結局身の丈に合ったものにしかなんねえよ」

「ふーん」

 

 サラダに添えられたエビをあざとさ満載でかぷっと口にする櫛田。

 こういう仕草を見ると女に生まれても楽しめただろうなって思う。

 

「同じ大学にしようぜ」

「死んでもイヤ」

「学部も同じでさ、でもサークルは違って女子にチヤホヤされる庵治くんに櫛田は嫉妬しちゃって、櫛田は櫛田で前髪で誤魔化した勘違いナルシストな先輩に粘着されたりしてじれったい展開になるかと思いきや、櫛田が邪魔な奴らを次々と殺してく展開──なら読んでみたいな」

「……」

 

 なんだかほっこりしてきたところで、お世話になっている3年の女子が入店してきたことに気付く。

 ここは古代の禿散らかしプレイボーイの先人に習って席を立つ。

 

「ちょい挨拶してくるわ」

「は?」

 

 連れがいようと大切なスポンサーの女性への挨拶は優先すべきだ。

 3年の女子の先輩のお連れにもモジモジしつつ挨拶し、軽く一言二言話して席へと戻ると、櫛田が目を据わらせ「あんたも愛想振り撒いて大変そうね」と嫌味っぽく言ってきた。

 

「世話になってっからな」

「教室でもそうしてれば?」

「する意味ねえじゃん。文無しばっかだし」

「ふーん……それであんたがAを目指す理由って何よ。ふざけてないで答えなさいよ」

「まず生徒会に入るだろ。で、当然会長を目指すだろ」

 

 中学の時はできなかったし、高校では是非ともやりたい。

 

「待って」

「んだよ」

「生徒会に入るの?」

「会長になって校則変えたいし」

「……どんな校則にしたいのよ」

 

 そんなものは決まっている。

 

「全生徒と教師に半年に一度、最低でも年一で人間ドックを受診させる。可能であれば出入りする従業員にもな」

 

 最終的にはレディースドックを絶対にやらせる。

 

「それも冗談?」

「本気だ」

「それをしてあんたに得があるわけ?」

「ある」

「どんな?」

「嫁探しが捗る」

 

 櫛田には将来的には検診や検査ではわからない部分を女子らに聞いて回ってもらう仕事を手伝わせるのもありだろう。

 でも聞き出した情報を改竄したり事実確認が難しいから虚偽で塗り固められる恐れがある。なので信頼を獲得できた場合に限るだろう。

 

「は? 何それ」

「最終的にはレディースドックまで受けさせたい。実施される段階になれば泣こうが喚こうが女ども全員に絶対に受けてもらう」

 

 卒業までに検査結果を覗き見ることができずとも、卒業後に閲覧することが可能になるかもしれないし、やっておくべきだ。

 そして、もし奇跡が連続してこの国の頂点にまで上り詰められたら増税クソイケメンと後ろ指を指され、年金制度を破綻させてでも絶対に女性疾患を駆逐してやる。

 

「嫁探しとレディースドックが──あんたって本当に最低ね。心底気持ち悪い」

「ハッハッハッ! でもまあこれでAを目指す理由に納得してくれたか?」

「納得も何も、繋がらないわよ。生徒会長を目指すのにAの必要があるの?」

「歴代の生徒会長は全員Aだ。前例主義はここでも働く。有利にならずとも不利にはならないっつーメリットがあんだろ」

 

 個人情報の購入条件があるからAを目指している裏があるが、櫛田に言ったことも理由といえば理由になる。

 

「それが本当だとして……そういうの上級生から仕入れてるわけ?」

 

 生徒会に関して上級生の女子生徒の持つ情報量は意外に少なかったけど、モールのババアどもが詳しかったりした。

 国立であるのに理事長が世襲制だったりするくらいだから一般の従業員の縁故採用率もそこそこ高く、卒業生であったり卒業生の縁者の彼女らの持つ情報量は多い。

 

「俗に言うイケメンの前では女はまず口を開いてくれるからな」

「あんたってそういう露骨なこと口にしない奴だと思ってた。それに男だって同じでしょ」

 

 癖になってんだババアの前で下ネタ言うの。

 最近営業兼聞き込みをしまくっていたからタガが緩んでいるのかもしれない。

 てかポコチンダービーは露骨換算されていない模様。

 

「確かに。乳の大きい女の前では男は馬鹿になるな」

「ならあんたも大きい子に弱──」

「弱い! 俺もおっぱいが好きっ!」

 

 行儀がクソ悪いがテーブルをドンと叩きつつ吠える。

 

「ちょ、ちょっとっ」

「Bの一之瀬が、ほらあそこにいるだろ。これで存在に気付いてもらえた」

 

 出入りする客を常に視界に入れていたであろう櫛田は何故だか来店した一之瀬たちの姿を見逃していた。

 下ネタ中はそっちにリソースが割かれるのやもしれない。

 

「よりにもよって一之瀬……最悪。私あいつ嫌い」

「そもそもお前は好きになれる相手がいねえだろ」

 

 おや? この顔は知らないな。櫛田が初めて見せる顔だ。

 

「……いるわよ」

「お前は俺と本質の部分で同じだろ。自分しか愛せない」

 

 俺ほどじゃないけど、こいつも自己愛を拗らせているはずだ。

 

「一緒にしないで。家族のことは好きだもの」

「今はな。失業したり不貞が発覚したり介護が必要になった時、お前は家族のことを好きでいられるか?」

「当たり前でしょ! 馬鹿にしないでよ!」

 

 へえ。家族愛は本物? 

 でも擬態が上手くて頭も回る奴だしなあ。

 わからん。この征十郎の目をしても読めん。

 

「そっか。じゃあ俺とも家族になれば愛してくれんの?」

「キモッ。絶対にならない」

「式はどんなのがいい?」

「しない」

「新婚旅行はメキシコとか中南米巡りでいい?」

「治安悪そう……行かない」

「子供は10人くらい頑張れそ?」

「産まない」

 

 10人はさすがに多いか。妥協して8だな。

 

「ごちそうさま。会計は──1200ポイント送金しといて。会計してくるわ。ごっつあんでーす」

「ほんとに奢らせる気なんだ」

「俺は女に財布を出させるのが好きだ」

 

 男に出させるのも好きだけど。

 

「でしょうね。いつか刺されるわよ」

「刺してくるのは櫛田になるかもな」

「チッ」

 

 笑顔をキープしながら器用に舌打ちまでしちゃってからに、すごいな。

 今度一連の顔芸を撮らせてもらおう。ちゃんとした芸だしポイントを支払うべきだろうが、幾らくらい要求されるだろうか……1分くらいの尺なら10万くらいか? 相場がわからん。

 

 

 

 ■

 

 

 

 会計を終えて店を出ると少々肌寒い。

 櫛田の上着を貸せと言いたいところだけど、装う関係性を考えるとそれはできないので我慢して帰路につく。

 

「ねえ、あの話って誰に聞いたのよ」

「教師から買った」

 

 もう隠している意味もないだろうから素直に答える。

 

「はあ!? 最ッ悪っ!」

「俺のこと調べようとして無駄にポイント使うなよ。お前の大好きな秘密なんてねえぞ」

 

 秘密はなくとも過去はある。

 けどそれを自分から風潮するような真似をしないだけで、隠しているわけでもない。

 報道もされたわけだから知ってる奴は知ってるだろうし。

 

「……クソが」

 

 あら、お口が悪い。

 帰りは時間帯もあってか生徒の姿が皆無ではあれ──言わんこっちゃない、見知った顔と出くわした。

 

「庵治くん、と櫛田さん? あまり見ない組み合わせだね」

「おいすー平田ー」

「さ、さっきぶりだね、平田くん」

「うん。じゃあ僕は軽く走ってくるから、また明日」

 

 すぐに察していらん詮索をしない平田って俺よりだいぶ頭の回転が早そう。

 

「爽やかなやっちゃな」

「あんたとは大違い」

「でも平田であってもお前って好きにはなれねえんだろ?」

「……何よ、その目は」

 

 やっぱりこいつが誰かを好きになる姿が想像できない。

 自己愛を拗らせているというよりも他人は常に自分を楽しませる道具にしか思えないとか、そっち系? 

 

「いや、お前ってこのまま卒業して大学行くなりした後ってどうすんのかなって」

「放っておいて、あんたには関係ないでしょ」

「芸能系の記者とかリポーターでも目指すん?」

「は? まったく興味ないわよ」

 

 そっち系の性癖の持ち主なら天職だと思うんだが。

 

「そうなん? ああ、だからか……実際、お前のやったことをそのまま受け取ると他人の秘密を握って暴露したり破滅させるのが大好きってなるけど……なんかしっくりと来なかったしな」

「何が言いたいわけ」

「人気者になりゃ秘密を握りやすい立場にはなれんだろうけど、そこまでして誰彼構わず仲良くする必要あんのか? 今のご時世秘密を握りたきゃハッキングのスキルを身に付けるなり盗聴とか盗撮するなり色々と方法があんだろ。だからこそチグハグ。お前って何がしたいんだかわかんねえなって」

 

 遵法精神が邪魔をしているとかか? 

 それなら中学の時の行動に矛盾するし、やっぱりわからん。

 

「秘密はストレスの捌け口に暴露してやっただけよ……私は誰からも好かれる存在でありたいだけ。その為に嫌なことでもする」

「は?」

「何?」

「そんなささやか過ぎる願いの為にずっと擬態してんの? 引くわあ……。つーかお前って普通にしててもある程度人気者になれんじゃん。もしかして人気者つっても一番以外はダメとか?」

「そうよ。悪い?」

 

 こいつ……将来、年を食っていくにつれて人気を維持できなくなって代償にホストや子供に入れ込みそうな危うさがある。

 

「悪いこと言わねえから政治家でも目指せよ」

「はい? どうしてそうなるのよ。政治家なんて目指さないわよ。私は一番の人気者でありたいだけよ」

「猶更だろ。ババアになってからが本番だし政治家でよくね」

 

 実際、櫛田なら地道に下積みからしていけば、中央は無理でも地方や首長ルートで成果を得られそう──政治への興味関心がまったくなくても。

 

「意味わかんない。ア、アイドルとかあるじゃない」

「……」

「なんとか言いなさいよ」

「……」

 

 微笑みを浮かべながら櫛田の肩をポンと叩き、何も言わずに歩を進める。

 

「大っ嫌い」

 

 アイドルて。

 

 

 

 

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