ロックス海賊団はチームワークがない。それは周知の事実であり、当たり前の事と認識されている。
日常敵に仲間同士で殺し合いをしていれば、そのように言われるのは仕方のない事だ。
【新世界 とある王国】
港には『ROCKS』と書かれた海賊旗が掲げられている船が停泊していた。
そこから数十キロ先にある王国。そこには最早国があったなどとは誰も思わない。そのぐらいそこは酷い状態だった。
街があったと思われる場所には大きな岩や氷、グチャグチャに混ざった家の破片などが散乱しており、城には巨大な穴が数個出来ていた。
「ったく、リンリンとカイドウの野郎、ハデにぶっ放しやがって!!危うく巻き込まれて死ぬところだった!!」
不満気に言葉を発するシン。現在、彼を含むロックス海賊団は王国を滅ぼした後、王国に溜め込まれていた莫大な財産を船へ運び出している最中だ。
「てめぇが人のことを言える立場かよシン!!てめぇのバカみてぇに広がる氷のせいでこっちは凍らされかけたんだぞ!!」
同じく不満気に、というよりも怒っているのはロックス海賊団の船員である凶だ。彼は後に『銀斧』と呼ばれる様になり、白ひげやカイドウ、ビッグ・マムと並び立つ程の大海賊となる。
「ジハハハ!!それはお前がマヌケだからだろう?凶くん?」
凶をからかうように嘲笑っているのは彼の真上でフワフワと浮かんでいるシキだ。
凶とシキはライバル関係であり、よく言い合いをしていた。
「何だと!!!シキ、てめぇーーッ!!降りてこい!!!」
凶はシキに攻撃しようとするが、シキはフワフワと浮かんで、それを避ける。
「お前ら!!無駄話せずにさっさと運べ!!!アホンダラ!!!」
後に『白ひげ』と呼ばれる男エドワード・ニューゲートが声を張り上げた。後方からの口論がうるさかったのだろう。
「「てめぇが命令するな!!!!」」
シキと凶は声を合わせて反論した。この船の多くがリーダーの素質を持っている。それ故、基本的に誰かの命令には従わない。目的のためにしか行動しないのだ。
ロックスの次に強いであろうニューゲートの言葉も彼らからすれば、鬱陶しいものでしかない。
「フヘヘ!!大量!!大量!!しかも、酒もあるぜ!!見ろよ、シン!!年代物だぞ!!」
「それは悪くないな」
このロックス海賊団において、シンとジョンはかなりの酒好きだ。無論、他の船員たちも酒を飲むのだが、その中でも2人は群を抜いて酒が大好きなのだ。
酒好きと財産にはあまり興味がないシンはこの海賊団内においてジョンとは比較的良好な関係を築いていた。
「ジョン、宝の独り占めはおれが許さねぇからな」
「ガンズイ、宝はおれのもんだ。悔しかったら奪ってみろ」
ジョンとガンズイが一触即発な雰囲気を出す。その瞬間に港の方からとてつもない覇王色の覇気が発せられ、それは島中を覆った。
誰の覇王色の覇気かをロックス海賊団は分かっているので、驚くことはない。
「ロックスの奴だな。相変わらずスゲェ覇気だ」
「港で何かあったのか?」
「ジハハハ!!どうやら、海軍の艦隊がやって来たようだ!!」
全員が港の方を見ると、確かにシキの言う通り海軍の艦隊数十隻がこの島に近づいていた。
先に先行したであろう軍艦はロックスにより、沈められれている。
「海軍…、意外と来るのが速かったな」
「オメェらがグダグダしているからだ!!さっさと船に乗るぞ」
「「だから、てめぇが命令するな!!!」」
揉めつつも全員船へと戻る。港ではロックスとリンリン、ステューシー、グロリオーサが海軍の相手をしていた。
「遅いわよ、ニューゲート!待ちわびたじゃないの!!!」
「お前に待ってろと言った覚えはねェ」
ステューシーを軽くあしらうニューゲート。そんな2人を放っておいて、シンたちは無謀にも立ちはだかる海軍艦隊に目をやる。
「あいつら、勝てないってのが分からねぇのか?」
「ヴォハハハッ!!!野郎共!!!得るものは得たんだ!!!この島に用はねぇ!!!海軍艦隊、ぶっ潰すぞ!!!おれに続け!!」
たった一日にして、一つの国と海軍艦隊数十隻はロックス海賊団により消された。この件により増々ロックス海賊団は最強の海賊団というのが認知されたのである。
その日の夜、シンは凶やシキたち賭け事をしていた。自分たちの出せる財を賭けての勝負だ。普段、シンは賭け事には参加しない。得たいと思うものがないからだ。だが、今回はガンズイやジョンが年代物の酒を提示すると聞いたので参加した。
賭け事に参加している者たちは戦闘の時と同様に全員が神経を尖らている。
「丁だ」
彼等がやっているのは『丁半』と呼ばれるものだ。これはコップほどの大きさの入れ物にサイコロを入れて、振られた2つのサイコロの出目の和が、偶数なら『丁』奇数なら『半』と客が予想して賭けるものである。
ちなみにこれは凶とシキが広めていた賭け事だ。
「ジハハハ!!!ニューゲート!!!ハズレだ!!!!」
彼等はかれこれ数時間程これをやっている。
ちなみに全員満遍なく外していた。
「おい、シン!!次はてめぇだ!!!お前が当てられたらこれをやるよ」
凶は今回シンが狙っていた酒を出した。
それはもう二度と作られないとされている銘酒だ。その酒がなぜ作られないのかというと、それは作っていた国が滅んだからである。もう製造方法すらも分からない。しかも、ほとんど出回っていないレアものだ。
酒好きのシンとしては是非とも飲んでみたい代物だった。
「それでオレは何を出せば良いんだ?」
「その刀だ。ずっと欲しくてよぉ」
凶の狙いはシンの刀だ。今回の賭けにシンが参加した時点でシンの刀にターゲットを絞っていた。
「ズルいぞ、凶!!!」
「おれたちも狙ってるんだ!」
他から野次が飛んでいるが、凶は全く気にしていなかった。
シンは凶が刀を狙っていると知っていたので、驚きはしない。だが、いくら珍しいものでも酒一つと刀は同等ではないと思っている。
「凶、足りねぇよ。この刀はそれ以上のとてつもない価値がある。出して欲しければお前ももっと出せ」
「…チッ!!分かったよ!!!」
凶は今回得た分の財宝と自身が今まで得た財宝を数個、さらには他のレアものの酒も提示した。
それを見ていた周りの者たちの反応は2つに割れる。一つは刀一本のためにそこまで出すのかという疑問。もう一つは凶が本気であの刀を取りに来ており、凶の手に渡った場合、どうやって奪ってやろうかという邪な考えだ。
「良いだろう。お前の覚悟に免じて、刀を賭けてやるよ」
「へっ…取り消しは無しだからな」
「ああ」
2人は酒を飲んで多少酔っているが、記憶が無くなる程ではない。最早、酔っ払いの戯言では済まない事となっている。
周りの野次馬たちはどっちが勝つのか興味津々だ。
「じゃあ、始めるぞ」
凶は早速始めようとするが、シンは疑いの目で凶の手元を見ていた。そして、それを見た瞬間に声を出す。
「待て!…ニューゲート、お前が振れ」
「何でおれが?」
「一番公平だからな。文句ないよな凶?」
「…………ッ!…………良いだろう。ただし、選ぶのはおれだ」
凶の額には少し汗がにじみ出ていた。そんな彼には構わずシンはニューゲートが振っているサイコロに注目する。
「さぁ、丁か半どっちだ?」
「……………………ッ…、半だ…」
凶が選んだのは半。どっちだと気になる一同はニューゲートに注目する。ニューゲートがゆっくりと開けると、サイコロの目は6と6が出ていた。合計の数は12となり、偶数。つまりは丁だ。この瞬間に凶の負けは確定した。
「オレの勝ちだな」
「クソッ!!!」
凶はムカつきながら去って行く。この面子がいる中でやり直しをしろなど文句はとても言えない。
そもそもデービーバックファイトで集まったメンバーが多い。
文句を言えば、逆に殺されるだろう。
「ジハハハ!!見たか!!凶のあの顔を!!!なぁ、シン。おれとも勝負しようぜ」
「悪いがパスだ。刀を賭けるのはもうしねぇよ」
そう言って、シンは凶から勝ち取った賞品を手に持ち、違う場所へと移動した。
「これが例の国の酒か…。良い香りだ」
シンが酒を飲もうとすると、後方から数人の気配を感じた。
誰なのかと振り返る。すると、そこにはロックス、ニューゲート、ジョンが立っていた。
「何の用だ?」
「レアものの酒を手に入れたらしいじゃねぇか。少し分けろ」
ロックスはシンの肩に手を回して、少し分けろと要求する。
彼の隣にいたニューゲートもまた、自分を使ったのだから、対価をよこせと酒を要求した。
ジョンは酒好きの同志として、酒を要求する。
つまり三人とも酒を分けろと言っているのだ。
「分かったよ!!……ったく、貴重なんだぞ」
シンはグラスを4つ用意して、それぞれに酒をついでいく。
そして、4人で乾杯して、酒を飲む。
シンの感想として、酒の味はまろやかで果実の味が濃かったというものだ。
「美味い。銘酒と言われるのも納得だ」
「フヘヘ!!シン、凶から巻き上げた財宝はおれに寄越せ。どうせ、お前は財宝に興味ないだろう」
「まぁ、荷物になるから構わねぇ。っていうか、アイツも欲深いな。よくもこれだけ溜め込んでやがる。しかも、まだまだあるんだからな。この船の奴らは金持ち過ぎるぞ」
シンは興味無さそうに凶から得た財宝を見ていく。すると、財宝の中から珍しいものを見つけた。
「これは…何だ?嫌な気配を感じる」
「どれだ?」
「この青い袋だ」
シンは手のひらに収まるほどの青い袋を見つけた。その中から嫌な気配は感じているが、何か気になるので袋の中に手を入れる。すると、シンの力が抜けた。
「ッ!?これは…海楼石か…!?」
シンは力が抜けている中、何とか袋の中にある海楼石を引っぱり出した。
海楼石は悪魔の実の能力者が触れると、海に落ちた時と同じ状態に陥ってしまう。すなわち、海楼石に触れている間は悪魔の実の能力が一切使えなくなるのだ。
「この海楼石…濃度がキツイ」
「グララ!!能力者には天敵だからな」
「ここまで濃度がキツく、しかも原石に近いのは珍しいな。これは…オレの懐にしまっておく。それ以外はお前らにやるよ」
シンは財宝なんかに興味はない。そして、それはニューゲートも同じだ。結果的にシンが賭けで得た財宝はロックスとジョンの2人分け合う形となった。
「シン、あの賭けだが、何で受けた?万が一にもその刀を取られる可能性もあっただろう…」
「オレは賭け事に強いんだよ。今まで負けた事はねぇ。…酒も飲みたかったからな。…あの場にお前がいて助かったよ。凶の奴は必ずイカサマすると思っていたからな。…まぁ、イカサマはバレなきゃイカサマじゃないっていうのが世界共通のルールだから、特に怒りもねぇが…」
「賭け事が強いだと?シン、おれと勝負してみるか?」
「別に構わねぇが手持ちの金しか賭けねぇぞ」
ロックスとの勝負に乗るシン。そんな2人に混ざる形でニューゲートとジョンも暇つぶしに参加する。
4人の賭け事は結果的にシンの圧勝だった。
「運の良い奴だ…」
「だから、言っただろう。賭け事は強いと…」
今日の一件により、シンに賭け事を仕掛ける者は少なくなった。面白半分で仕掛ける者もいたが、返り討ちにあったとか…。
それから数年後。オラリオ、豊穣の女主人にて…。
営業時間は過ぎており、店の中では店主のミアと従業員であるシンがトランプで賭け事をしていた。
何故、2人がそんな事をしているのかと言うと、それはシンの有り金が底をついたのが原因である。
もう、目の前にある酒もシンは買えない状態だ。そんな時にミアが滅多に手に入らない珍しい酒を手に入れてきた。以前その酒を飲んだ事のあるシンは飲みたい衝動が深々と出ている。
(飲みたい…あの酒を…)
その酒はかなりの値段がするため、金のないシンは買うことが出来ない。何とか酒を得るためにシンは自らの休日1ヶ月分で手を打ってくれとミアに進言したが、それは無意味だった。
「足りないよ。この酒は5000万ヴァリスの価値があるのさ」
「5000万ヴァリス…ダンジョンで稼ぐしかないな……」
「そのために何日も仕事を休む気かい?」
「駄目だよな……」
酒を手に入れる手段がシンにはない。手元に金があれば、カジノで一儲けという手もあったが、それすらも出来ない。
考えを巡らせた結果、シンは究極の一手を繰り出した。
「ミア!!賭けをしよう!!ミアはその酒を、オレは休日や手元にある価値が高いものを賭けて勝負する!!」
このシンの提案に普段のミアなら面倒だからと断るが、今日は勝負という単語を聞いて、変なスイッチが入った。
「良いだろう。言っておくけど、私は強いからね」
「抜かせ、オレの方が強い」
この経緯があり、2人は今現在賭け事をしていた。
「フォーカード。これには勝てないだろう」
シンは勝ち誇った笑みを浮かべていたが、彼の目の前に座るミアはビクともしていない。
「やるじゃないか。だが、私はその上だよ」
パンッとミアがカードをテーブルに出す。何とその中身はストーレートフラッシュだ。この瞬間、シンの負けは決まった。
「マジか…。賭けで負けたことなんてオレは無かったんだぞ」
「さて、これでアンタの休日1ヶ月分は私のものだね。たっぷり働いてもらうよ」
「ま、待て!もう一勝負しよう!!」
「アンタ賭けるものあるのかい?先に言っておくけど、休日を賭けるのはオススメしないよ。このままズルズル行くと一生休日が無くなりそうだからね」
「ッ!?…た、確かに…」
シンは何かないかと探していると、懐から青い袋が出てきた。それはかつて凶との賭けで得た海楼石が入っている袋だ。
シンは迷うことなくそれを提示した。
「何だい?それは?」
「これは…オレと共に元いた世界から一緒にやって来たものだ。つまりはこの世界でたった一つのものだ」
「なるほどね。見たところ普通の石にも見えるが、アンタの態度からして、かなり希少なものなんだろう。お守りの石として手に入れるのも悪くないね。良いだろう、アンタの必死さに免じて勝負しようじゃないか」
シンは再度ミアと賭けをする。
(初めて賭けで負けた。オレの運が悪くなっているのか…)
シンは鋭い眼差しで手札を見る。手札としては悪くない。だが、先程のストーレートフラッシュがシンの脳裏に過った。
しかし、そう何度も強い手札が来るとも思えない。シンは自信を持って、カードを出した。
シンの手札はフルハウス。それを見たミアはニヤッとする。
(嫌な予感がする……)
「惜しかったね」
ミアの手札はシンと同じフルハウスなのだが、ミアの方が数字が大きい。つまりはミアの勝ちとなる。
「また、負けた……」
「というわけで、これは貰うよ。安心しな。勝負で手に入れた価値のある戦利品だ。売ることはない。お守りとして持っておく事にするよ」
ミアは海楼石の入った青い袋を手に入れた。
賭け事の勝負で2連敗。世界が違うとここまで弱いのかとシンは少しショックを受ける。だが、引きずってもしょうがないので、シンは立ち直った。
「シン、まだ何か賭けて勝負するかい?」
「いや、もう諦める。マジでこのまま進めば沼に嵌まりそうだからな。賭けは引き際が肝心だと誰かが言っていた」
「そうだね…。酒のためにそこまでやるのはバカさ。だが、アンタのバカさは良かったよ。……仕方ない、一杯だけなら飲ませてやるよ」
「本当か!!?」
「まぁ、…アンタの休日と珍しい石を貰ったからね。特別だよ」
特別ということで、シンは一杯だけ酒を飲むことが出来た。
この酒の味を忘れることはない。そう思うシンであった。
「シン、この石は何ていう名前だい?」
「…海楼石。オレたちはそう呼んでいた。…オレたち能力者にとっては天敵のようなものさ」
海楼石。手のひらサイズの小さな石ではあるが、その効力は健在だ。これが後に■■■■を左右する。
しかし、それはまだまだ先の話だ。