冷たい海賊は欲しいものを得られるのか   作:Connect

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8.救助

 

 

 ベル・クラネルのランクアップ。そのニュースはまたたく間にオラリオ中に広まった。しかし、それは当然の反応だ。何しろ冒険者になってから約1ヶ月半でレベル2となった。これは記録を大きく更新した前代未聞の速度なのだ。

当然、今までに無い注目をされることだろう。 

 

 そんな今やオラリオでかなり注目されているベルは現在、豊穣の女主人にて祝勝会をやっていた。

 

「ベルさん!!ランクアップ、おめでとうございます!!」

 

「ありがとうございます、シルさん!!」

 

 ベルとシルの他にベルのパーティーメンバーであるリリルカと店員のリューがシルに続いて乾杯をする。リューとシルはミアから許可を得ており、乾杯に参加していた。

 ベルはこれから先に進むに当たり、仲間を集める必要がある。そんな話をしていると、隣のテーブルから数名の冒険者がベルに絡んだ。あまりにも傲慢で偉そうな態度で振る舞う冒険者たち。しまいにはリューやシルに絡もうとする始末だ。

 そんな時、ミアは机を思いっきり殴り、シンは手に持っていた数本のナイフを冒険者たちの足元に投げて威嚇した。

 

「ここは飯を食い、酒を飲む場所さ!!揉め事を起こしたいのなら覚悟出来てるんだろね!!!」  

 

 ミアから睨まれた冒険者たちは料理分のお金を置いて、逃げようとする。普段なら金を置いていったので終わる話だが、今日のシンはとても機嫌が悪い。つまり冒険者たちは運が悪かったのだ。

 

「これだけじゃ足りねぇよ」

 

 シンは逃げようとした冒険者たちにそれぞれ腹に一撃入れて、気絶させた。気絶した冒険者たちは何が起きたのか分からなかった事だろう。

シンは冒険者たちの懐から有り金全てを回収する。

 

「意外と持ってるな。これなら、気分も少しは紛れる」

 

 金を回収したシンは気絶した冒険者たちを担いで消えた。この場の誰もシンの動きは見えなかっただろう。

十数秒後にシンは何事も無かったかのように帰ってきた。

 

「シン、さっきのアホ共はどうしたんだい?」

 

「適当に捨てて来た」

 

「……そうかい」

 

 シンはそれ以上会話することなく厨房へと戻る。

 さて、今日のシンが不機嫌な理由としては、フレイヤの話を12時間程長々と聞かされたからである。

 フレイヤはベルの戦いを見て興奮していた。それもとてつもなく。彼女は自分の今の高ぶりを話さずにはいられない状態となっており、それを聞く役目はシンだった。

 金を借りている手前逃げることなど出来ない。シンにも一応仁義というものがあるのだ。この件は遡ればシンの自業自得ではあるが、フレイヤの話を12時間程聞かされた。これがシンの不機嫌な理由だ。

 

(まだ、頭の中であいつの話が響いている。なまじ良い声なのが、余計に立ち悪い…)

 

「はぁー。偶には一日中酒を飲んで過ごしたい」

 

「休日はまだまだ先だからね。間違ってもサボるんじゃないよ?アンタにはまだまだ働いて貰うからね」

 

「へいへい」

 

 

 約一週間後、ベル・クラネルのパーティーにヴェルフ・クロッゾという人物が加わった事を、シンはリューとシルから聞かされた。

 

「クロッゾと言えば…」

 

「あのクロッゾだろうね」

 

 世間話のような感じで話しているシンとミア。2人はヴェルフ・クロッゾという人物に対して少しだけ難色を示していた。

何故なら、ヴェルフ・クロッゾという人物は失われた魔剣、『クロッゾの魔剣』を打つことが可能だからだ。

 

 『クロッゾの魔剣』、それは通常の魔剣を遥かに上回る力を持っている魔剣だ。従来の魔剣通り、魔法のように詠唱も必要ない。それ即ち、とてつもない威力の魔法を連続で放てると同意義なのだ。

 

「少年は運が良いのか悪いのか分からないな」

 

「……………歯車が動き出したのかね」

 

「歯車か…。そう言えば、ヘルメスが訪ねてきたらしいな。何のようだったんだ?」

 

「フレイヤにアポを取ってくれとか何とか言っていたよ。もちろん、断ったけどね。………アンタのことも聞いてきたよ。アンタと話をしたいとか…」

 

「話ね…」

  

 シンは嫌そうな表情をする。最初の頃はミアたちから聞いた通りの奴なのかどうなのかと気になっていたが、いざ話をしてみるとあまり関わりたいとは思えない人物だと理解した。

何故なら、ヘルメスは変な策謀を巡らせるタイプであり、巻き込んでくるのは明白だった。そんな奴の相手は面倒なのだ。

 

「何か面倒事が起きる予感がする」

 

「アンタの嫌な勘は当たるからね」

 

「だよなぁー。しばらくはのんびり過ごしたい」

 

 シンの予感は残念ながら当たってしまう。

 それから1週間経った頃、ギルドではベル・クラネルの捜索依頼が出されていた。最近話題だったルーキーの捜索依頼。話題性はあるが、引き受ける者がいるのかは定かではない。待ち続ける、そんな現状に我慢が出来きなかったベルの主神であるヘスティアはヘルメスについてという行く形でベルの捜索に向かう事を決意する。神がダンジョンに入ってはいけないというルールを無視するヘルメスとヘスティア。

 だが、二柱の神を守るのにヘルメス・ファミリア団長であるアスフィだけでは役不足なので、ヘルメスは助っ人を得るために豊穣の女主人にやって来ていた。彼が助っ人に指名するのはリューとシンだ。

 

「何でオレたちなんだ?」

 

 事の成行きと助っ人依頼を話したヘルメスに対して、シンは怪訝な表情をしている。

 

「ファミリアの縛りがない事と単純に強いこと。その2つが条件みたいなものだからね。それにリューちゃんはシルちゃんの友達だからという理由もある。そして、シン君とは話をしたいからね」 

 

「オレはあまり話をしたくないんだが」

 

「そう言わずに頼むよ。出発は今夜の8時、よかったら来てくれ。待っているよ」

 

 そう言って、ヘルメスは去って行く。

シンの隣では涙目のシルがリューに頼み込んでいた。

 

「お願い!!ベルさんを助けて!!」

 

「シルには恩がありますからね。頼みを断れるわけがありません。それにクラネルさんはシルの伴侶となる男性。死なせるわけにはいきません」

 

 リューはシルの頼みで行く事を決めた。周りにいるアーニャとクロエはミアへの言い訳は任せてくれと豪語している。

 

「聞いた面子だと、リューが加われば問題ないな」

 

「シンは参加しないの?私はシンにもベルさんを助けて欲しい」

 

「少年に興味はないからなぁ…。それにオレとリューが勝手に仕事を抜け出したらミアが激怒するぞ」

 

「そこはシンのせいにすれば、リューは怒られないんじゃないかな?」

 

 シルはさらっと全部シンのせいにしようとする。こいつは相変わらずだなと思うシンであった。

 

「大体オレが出張る程の事か?」

 

 シンはイレギュラーが起きない限りはリューが参加すれば、大丈夫だと確信していた。

 

「……シンは私のお願い聞いてくれないの?私はシンのお願いを何度も聞いたのに…」

 

「ほとんど返したよな?」  

 

「ほとんどはね。…最近のは、まだだけど?」 

 

 如何にもあざとさ満点の表情をしながら、最近のことを持ち出したシル。まだ金を返していないし、手持ちで返せる金を持っていないシンはあまり強気には言えない。

 だが、そんな中でもシンはある考えを巡らせていた。それはダンジョンで小遣い稼ぎが出来るチャンスだと…。しかも、捜索依頼の報酬が手にはいるのかもしれない。金欠としては良いチャンスなのだろうと…。

シンが考えを巡らせていると、耳元で小さくシルは呟く。

 

「それに…例の食人花が18階層に現れたらしいわ。確認のためにもダンジョンを少し見てきたら?」

 

「………………はぁ~。少年の捜索だな…分かった。引き受ける」  

 

「本当!!ありがとうシン!!シンなら快く受けてくれると思ったわ!!!」  

 

(どの口で言ってやがる。…最初から断らせる気は無かっただろうが)

 

「アンタたち、勝手に話を進めているようだが、アタシの許可は必要ないと思っているのかい?」

 

 この場にいた全員がその声を聞いて、恐る恐る振り返った。

振り向いた先にいるのは拳を強く握りしめていたミアだ。彼女の表情に全員が凍りつく。先程まで言い訳は任せとけと豪語していたアーニャとクロエに関してはシンの後ろに隠れている。

 

「そ、そんな事は無い。この店のルールはお前だからな」

 

「よく分かっているじゃないか、シン」

 

 ミアはシンとリュー、そして、シルを一瞥してため息をつく。特にシルを見て、嫌そうにしていた。

 

「……それでアンタとリューは何日ダンジョンに潜る気だい?」

 

「まぁ、状況を整理すると多く見積もって1週間ぐらいか?」

 

「つまりその分の仕事に穴が空くわけだ。全く、常連客の救助と思えば、まだマシか…。……仕方ない、アンタたちの抜けた穴はそこにいるシルたちに任せることにするよ。帰ってきたら、今まで以上に働かせるからね。当分の休みは無しだよ」

 

 やっぱり行くのやめようかなとシンは一瞬思うのであった。だが、借金の件と小遣い稼ぎが出来るのは大きい。それにダンジョンを見て起きたいという思いもある。

帰ってきたら地獄の連勤が待っているが、ここは行く方がプラスになると結論付ける。故に結局は行くことにした。

 

 一応ミアの許可は得たのでシンとリューは準備を整えて、ヘルメスの指定した場所へと向かう。

そこでは既にヘルメスやヘスティア、そして事の発端を引き起こしたタケミカヅチ・ファミリアの者たちがいた。

 

「やぁ、待っていたよリューちゃん。そして、シン君」

 

「ヘルメス、改めて思ったんだが、そこの発端となった雑魚どもはいらないんじゃないか?はっきり言って、足手まといだ」

 

 シンにはタケミカヅチ・ファミリアの必要性を全く感じない。レベルも実力も何もかも足りな過ぎるのだ。

 

「言ってくれるな。貴様がどれほどの実力かは知らんが、こちらとしても責任がある」

 

 タケミカヅチ・ファミリア団長の桜花がシンの前に立ち、彼を睨みつける。彼にはモンスターを押し付けた一応の責任を感じているのだろう。故に救出に参加する。

だが、そんなものシンには関係ない。

 

「責任か…。大いに結構な話だが…」

 

 シンは桜花の肩に手を置いて、ドンッ!!と彼を地面に押しつけた。そして、冷えた眼差しで見下しながら、言葉を発する。

 

「もし、お前たちが死にそうになっても、オレはお前たちを助けない。あくまで神の護衛とベル・クラネルの捜索だからな、オレたちの主な仕事は」

 

 そう言って、シンはダンジョンへと向かう。その他の者たちも彼に続く形でダンジョンへと向かうのであった。

 

(ベル・クラネル…神に踊らせる憐れなガキ。それの捜索。そして、神たちの護衛…。最悪だ。アイツから借金さえしていなければ、こうはならなかった。まぁ、食人花の件は気になるから行くことには文句は少ししかない)

 

 

 

 

 ダンジョンを進めば進むほど出てくるモンスターは強くなる。それは当たり前の事だが、シン(・・)には全くと言っていいほど効いていない。迫りくるモンスターを彼は一瞬で倒す。そして、一つも取りこぼさずに魔石を袋に詰めるのであった。

 

「少年の気配はまだまだしないな」

 

 シンたちが進んで行くと、岩が崩れている場所へとたどり着く。そして、そこにはベルの所有していた物と思われるものが複数落ちていた。

 

「シン、どう思いますか?」

 

「ヘスティアが生きていると言っているから生きているのは確定だ。何かしらのアクシデントで下に落ちて、上へ行くのを諦めて18階層に向かった可能性があるな」

 

「私も同意見です」

 

「つまりは俺たちも18階層へ向かえば良いわけだね?」

 

「可能性を考えるとそうだろうな」

 

(見聞色の覇気をもっと鍛えておけば、もう少し広い範囲を探れた。でも、見聞色の覇気は苦手なんだよなぁ。覇気の中で一番使えていない)

 

 捜索隊の方針は18階層へ向かうことに決まった。

 18階層に入る手前では階層主ゴライアスが出現する。ゴライアスの推定能力値はレベル4。彼等はこれを突破しなければならない。普通なら装備を整えて、万全の状態で挑むのだが、今はお荷物の神たちがいるので、確実に倒すためにシンだけで挑むことにした。

 

「さてと、さっさと終わらせる」

 

 シンはゴライアスが出現する場所へ足を踏み入れる。すると、壁から巨大なモンスターが現れた。それこそが階層主であるゴライアスだ。

 シンは特に驚くでもなく、真っ直ぐゴライアスの方へ歩いていく。ゴライアスはお構いなしとばかりにその巨大な手をシンに打ち付けた。シンはバキバキッと潰れる。

 

「「「「「「「ッ!!!!!!??」」」」」」」

 

「シン君ッ!!?」

 

 リュー以外は全員シンの心配をする。それは彼等がシンの能力を知らないからだ。そんな彼等の心配とは裏腹にシンの身体は冷気を発しながら復活していく。それもただ復活するだけではなく、ゴライアスの手を凍らせながらだ…。

 

「『アイスタイム』」

 

 時間にして僅か数秒。その時間にて、ゴライアスは氷像へと変貌した。シンは何事も無かったかのように復活して、凍ったゴライアスの前に立ち上がる。

 そして、シンは右手に武装色の覇気を纏い、拳を握りしめ、凍ったゴライアスを殴った。それは凍ったゴライアスは一瞬で粉々とし、後方の壁に穴を開けるほどの威力だ。

 

「ちょっと力を入れ過ぎたな」

 

 一瞬の戦闘。いや、これは戦闘ではない。強者による単なる殲滅だ。

 ヘルメスたちはシンを見て、唖然としていた。何よりも冒険者であるアスフィやタケミカヅチ・ファミリアの者たちが信じられないような目でシンを見ている。

 

「流石ですね、シン」

 

「まぁな。この先が18階層だ。行くぞ」

 

 シンたちは18階層へと続く一本道を進んでいく。少し進むと、出口が見えて来た。

 

「ここが18階層なのかい?」

 

「そうです。ここが18階層…別名【迷宮の楽園(アンダー・リゾート)】。モンスターが出現しない迷宮の安全階層の一つです」

 

「それでベル君は!?ベル君を探そう!!!!」

 

 大きな声で叫んでいるヘスティアに対して、シンは一言呟く。

 

「………探す必要はないと思うぞ。こちらに向かっている」

 

 シンが一つの方向を指差す。ヘスティアたちはその方向を向くと、複数人がこちらへと走って来ていた。

ヘスティアはぐっと目を凝らすと、走って来た内の一人は彼女の唯一の眷属であるベル・クラネルだ。

 

「ベル君ッ!!」

 

「神様ッ!!?」

 

 ヘスティアの大きな声を聞いて、駆けつけたベル・クラネル。彼の周りにはロキ・ファミリアの幹部たちが数名いた。

そして、それが意味するのはロキ・ファミリアがいるということだ…。

 

「まさか、ここで会うことにはなるとはね…」

 

「それはオレのセリフだ。ロキ・ファミリア団長フィン…何でここにいる?」

 

 

 

 

 

 

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