シンはベル・クラネルたちを探すために態々18階層へやって来た。見つけることが出来たので、依頼は完了。後は帰るだけなのだが、帰るのは2日後となった。
なぜなら、ロキ・ファミリアたちの出発が2日後だからだ。それにベルやそのパーティーメンバーも怪我を負っているので、1日だけでも療養が必要となる。
神の護衛という依頼を受けた以上、シンは勝手に帰る事は出来るだけしない。何よりも彼はこの18階層でやる事がある。時間が出来てラッキーというものだ。
「ということで明日はゆっくりしようじゃないか」
ヘルメスがロキ・ファミリアと話をつけたようなので、ヘルメスたちが滞在するのも問題ないとの事だ。
それぞれがそれぞれの場所の野営地に戻るが、シンだけはヘルメスの野営場所にいた。
その理由は話があるとヘルメスに呼び出されたからだ。
「こうして2人っきりで話すのは初めてだね。本当はもっと早く話をしたかったが、君自身は誘いに乗らないし、フレイヤ様には釘を刺されてしまったからね」
「長ったらしい前置きはいらない。本題は?」
「さっき、聞いていただろう?ロキ・ファミリアのテントで」
「オレの気配を感じたのか?」
「いや、ただ君なら聞き耳を立てると思ったからだ」
シンは先程のヘルメスとロキ・ファミリアの会話を思い出す。ヘルメスが言った【バベル】以外にダンジョンへ入る場所がある。その言葉はロキ・ファミリアを騙すでもなく、本心から言っていると判断した。
ダンジョンで何かが起きているのは明白であり、それが地上にまで被害を与えるとなれば、シンとしても放って置くわけにもいかない。
そして、何よりもシンがここに来た一つの目的として、ダンジョン内の調査だ。食人花が現れたとされるこの場所。明日は調査をする事を決めていた。
「シン君はどう思う?」
「さぁな。…まぁ、お前の意見は的を得ていると思うぞ」
「ハハッ!そうだろう!!…………シン君、オレに協力しないかい?…フレイヤ様ではなく、このオレにッ!」
その時のヘルメスは普段のヘラヘラしている胡散臭い神ではなく、何かを見通し、使命を帯びている…そんな神だった。
「断る。お前は協力と言うが、オレを良いように利用するだけだろう。そもそも神は嫌いだ」
「その理由だと、フレイヤ様も神だから彼女にも従わないんじゃないかな?」
「……あいつはまだマシだ。それにフレイヤには多少世話になっている。お前に付くのは筋が通らないんだよ。そして、勘違いするな。オレはフレイヤの部下じゃない」
(……オレを部下にしたのはこの世で2人だけだ)
シンはかつての船長と豊穣の女主人の店主の顔を思い浮かべた。後にも先にも自分を部下にしたのは2人だけだろうと…。
シンはヘルメスの事など気にせず、自分の野営地へと歩いていく。彼の野営地はロキ・ファミリアが囲っている場所とは違う場所にある。その場所は森の中だ。彼はそこにテントを立てていた。
何故、彼がここにテントを立てたのか。その理由はロキ・ファミリアと関わらないようにするためだ。勝つのは簡単だが、騒ぎを起こしてリューに面倒をかけたくないのだ。
まだ眠くないシンは持ってきた酒をグラスに注ぐことなく、美味しいと言わんばかりにそのままグイグイ飲んでいた。
「ここにいましたか」
「リュー、どうした?」
気配で誰がこちらに歩いて来たのか分かっていたシンは振り返ること無く、返事をする。
リューはそんな彼の隣にそっと座った。
「あなたの明日の予定を聞こうと思いまして」
「明日か…。明日はこの階層を調べようと思っている。地下水路にいたモンスターが数週間前、ここで現れたらしいからな」
シンはそもそも調査するためにここへ来たと言っても過言ではない。シルから頼まれたベル・クラネルの捜索はついでに過ぎない。
シルから聞いた話によると、この18階層で食人花が複数体現れ、偶々いたロキ・ファミリアに倒されたと…。しかも、そこには食人花を使役していた女がいたそうだ。
その女はロキ・ファミリア幹部たちよりも強いらしい。シンとしては気になる案件だ。
「…………そ、そうですか」
「お前は明日どうするんだ?」
「……………私は……仲間たちの墓参りへ行こうと思います」
「…………そうか。……この階層だったな」
シンは何度かリューが作った彼女の仲間たちの墓を訪ねた事がある。【アストレア・ファミリア】、かつて正義のファミリアとして、名を馳せていた。
だが、今から5年前に迷宮の下層において、敵対していた闇派閥の罠にかかりリュー以外の団員たちは死んだ。メンバーの遺品などが、全てこの18階層のとある場所に納められている。そこが彼女たちの墓となっているのだ。
「……シンも一緒にと思いましたが、調査なら仕方ないですね」
「いや、一緒に行こう。久しぶりにこの階層へ来たんだ。お前の仲間たちに挨拶をしないのは失礼に当たる。ここへ来るたびに墓参りしていたんだ。今回やらないのはおかしいからな」
「良いのですか?」
「調査はその後にしても問題ないだろう」
こうして、2人は明日の予定として、墓参りをすることに決まった。
そろそろ酒もなくなって来たので、シンはテントで眠ることにするが、リューは皆のいる場所に帰ろうとはしない。
「おい、いつまでいる気だ?」
「明日はあなたと行動するのですから、…その、…あ、あなたのテントで寝ようかと…」
顔を真っ赤にしながらも、言葉を発するリュー。そんな彼女に対して、シンは少し心配そうにするのであった。
「お前、襲われても文句言えないぞ」
「おそッ!!?襲うのですかッ!!?」
「襲わねぇよ!!そんな事したらミアに殺されるッ!!ったく、寝るのは構わないが寝相は良くしろよ」
そう言って、シンはテントの中で横となる。リューはそんな彼の隣に陣取り、シンとは反対の方向を向いて寝るのであった。顔を見ながら寝るのは流石に小恥ずかしいと思ったからこその判断ではあるが、そもそも一緒に寝るという事が恥ずかしい案件だ。
深夜テンションというものなのか、はたまた気持ちが暴走したのかは分からないが、次の日リューは恥ずかしさで悶絶するだろう。
■
次の日、シンとリューは墓参りをするために森を歩いていた。リューは昨日の事を思い出して、恥ずかしさのあまりシンと顔を合わそうとしない。
「そう言えば、この近くに川があったな」
「ええ。……数日間ダンジョンにいましたから、汚れが少々ありますね。……水浴びでもしますか?交代で見張りをすれば問題ないかと…」
「いや、オレはパスだ。この深さは力が抜けるからな。オレに気にせずリューは水浴びしても良いぞ」
「そうですか。なら、遠慮なく。見張りをお願いします」
シンが見張りをしている間にリューは水浴びを行う。
シンに対して危機感はないのかという質問は彼女にとって愚問なのだろう。シンを信頼しているし信用している。その事を分かっているからこそ、シンもまた覗こうなどとは考えない。
(水浴びか…。オレがそれをやると、めちゃくちゃ時間がかかるんだよな…。力の抜けた状態で何とかやらないといけないから仕方ないが…)
シンが能力者である以上、いくら安全階層と言えど、ダンジョン内で溜まった状態の水に入ることはしない。これは能力者の弱点に直結することなのだから仕方ないのだ。
「シン、終わりましたよ」
シンの後方から、水浴びを終えたリューが声をかけた。
それを聞いて、シンは立ち上がる。そして、リューと共に彼女の仲間たちの墓へと歩いていくのであった。
「ここに来るのは久しぶりだ。リューは時折休みの時に来ているんだろう?」
「ええ。彼女たちに花を手向けるために…」
リューは手に持っていた花を墓の前に置く。その時の彼女の手は震えている。無理もない。大切な仲間たちの墓なのだ。しかも、自分以外全員死んでいる。仲間たちと過ごした思い出が蘇り、悲しさが溢れてしまうのだ。
(仲間か…。オレたちとは形が違い過ぎるな。信頼も信用もあり、互いを思い合う関係。ロックスの船には無かったものだ)
「シン、あなたが共にここへ来てくれる。あなたが隣にいてくれて私は救われます」
「そうか…」
2人は数分間祈ると、墓を後にした。ここから先の時間、シンは18階層を調査する。それにリューも付き合う事にした。
「リュー、バベル以外にダンジョンへ入る場所があると仮定した場合、何処にあると思う?」
「難しいですね。……何処かのファミリアが隠している可能性やまだ見つかっていない場合など、多くの可能性があります」
「だよな。オレも同意見だ」
ヘルメスとロキ・ファミリアの会話からバベル以外にダンジョンへ入る場所があるのは確定している。
シンはそれが何処にあるのか知ろうとしていた。だが、見当がつかない。地上から見つけるのが優先的だが、上手く行けば、ダンジョンから逆算することが可能だ。
しかし結局、シンは手がかりを見つけることはなかった。
そのまま時は夜となり、みんな明日の準備へと取り掛かっている。現在、シンは調べきれていなかった東の方へと歩いている。その隣にはリューではなく
何故、リューではなくフィンなのかと言うと、リューはアスフィと明日のことで話があるとのことで席を外していた。
シンはその時に調査再会する。本来なら一人で調査するはずが、偶々彼を見かけたフィンが話しかけたのが事の始まりだ。
「ようやく話すことが出来たよ。気づけば君の姿は何処にもないからね。一瞬、帰ったのかと思ったぐらいさ」
「フィン・ディムナ。ロキ・ファミリアの団長が何のようだ?」
「君が何をしているのか気になってね。僕で良ければ手伝うよ。まぁ、僕の力なんていらないだろうけど」
「良く分かっているじゃないか」
シンはフィンを特に気するでもなく目的の場所まで歩き始める。そんな彼の隣をフィンは堂々と歩く。
「本当に付いてくる気か?」
「もちろん。君と話をしたいからね。今はロキ・ファミリア団長ではなく、フィン・ディムナ個人として、この場にいるから問題ないと判断してくれて良いよ」
「……はぁ~、邪魔だけはするなよ」
特に何かをされたわけでもないので、シンはフィンを殺したり凍らせたりという考えにはならない。邪魔さえしなければ、問題ないと判断した。
「君には趣味とかあるのかい??僕の趣味は読書や…」
「やめろ」
フィンの言葉が言い終える前にシンは言葉を発した。
「そんな手探りのような質問をオレにするな。話したい事を話せ。前のようにオレの機嫌を損ねたわけでもないのだからな。気軽に聞けよ」
「…なら、遠慮なく聞くよ。………君はフレイヤ・ファミリアなのかい?」
「違う。豊穣の女主人で働いているが、フレイヤの眷属でも無ければ、あいつの部下でもない」
「……そうか」
「オレも質問するぞ。…何で団長なんてやってる?」
シンはかつてこの質問をフレイヤ・ファミリア団長のオッタルにした事がある。その時の彼の答えは『我が女神のため』だった。
何故、シンがこんな質問をするのか。それは団長という者…それも強いとされているファミリアの団長がどのような考えをしているのか興味があったからだ。
団長というのは実質的にはトップであり、トップではない。本人たちがどう解釈していようと、主神というものがいる以上、完全にトップとはなれないのだ。
それ故に知りたい。神のお遊びの駒。それのリーダーとなっている者たちが何を思っているその立場にいるのかを…。
「一族の復興のためさ。僕の生きる意味はそれが一番だ」
フィンは自分が小人族の象徴となる事で、見下されている小人族の再興を望んでおり、それを目標に掲げていた。
彼が冒険者となったのも、自分が活躍する事で世界中の小人族たちを勇気づけるためである。そして、二大派閥と呼びれているロキ・ファミリアの団長というのはとても大きなインパクトがあり、ベストなものだ。
「なるほどな」
「君は笑わないんだね。大抵は僕が特別だっただけで、一族の復興など無理に等しいと笑われる」
「もっと壮大な目標を掲げたバカがいたからな」
『おれと一緒に来い!!世界の頂点を見せてやる!!』
シンは少しだけ思い出に浸った。かつて、自分をスカウトしたロックスとの最初の出会いを…。
(あいつは強かった。……だが、それでも…)
シンは思い出を振り払うかのように頭を少しだけ横に振った。もう、出会えない者の事を考えても仕方ないから。
シンにとって、今日の調査の最終的な目的地は東の奥までだ。そこに行くまでの道中、シンは意外にもフィンと話が弾んでいた。
「お前も大変だな。一族の復興に、団長としての責務、後任探しに、嫁探し…更には変な奴に好かれている」
「ティオネは別に変ではないけど、よく暴走するね。僕としては妻は小人族でなければダメなんだよ」
「