夜ということもあり、辺りは真っ暗だ。シンとフィンがしばらく進んで行くと、何かの気配を感じた。
気配の感じた方向を見ると、そこにはロキ・ファミリア団員のレフィーヤとヘスティア・ファミリア団員のベル・クラネルがコソコソと動いている。
「あいつら、何してるんだ?」
「デートでは無さそうだね」
シンとフィンは何をしているのかと気になり追いかけると、その先には闇派閥と思われる人物たちが何処かへ歩いていた。
どうやらレフィーヤとベルは闇派閥の者たちを尾行しているようだ。当然、シンとフィンも追いかける。
「何故、ここに闇派閥が?」
「……ちょっと、きな臭いな」
シンとフィンは自分たちの前を走っているレフィーヤとベルに後もう少しで追いつくという瞬間に、レフィーヤとベルは突如出来た穴…つまりは巨大な落とし穴に落ちて行った。
「おい、落ちて行ったぞ」
「18階層でこんな事が起きるとはね…」
「………はぁ~、仕方ない。少年の救助のために来たのがそもそもの話だ。こんなところで死なれたら、色々な奴から怒られる。オレはあいつらを助けに行くから、お前は闇派閥の連中の方に行け」
「分かったよ。そちらは任せる」
シンはそのまま落とし穴へ一直線に行き、フィンは闇派閥たちを追いかけて行った。
落とし穴に入ったシンが最初に目撃したのはレフィーヤとベルの慌てている姿だ。
(………下は水の塊か…)
下は水だらけ。しかも、入って来た穴は閉じた。シンは水に着地した瞬間、すべての水を凍らせた。そして、レフィーヤとベルの元へ駆け寄る。
だが、ここで問題が起きた。それはシンの能力が強すぎる事によって起きた事だ。レフィーヤとベルはシンの能力によって、足元を水と共に凍らされて動けなくなっていた。
「大丈夫か?」
「あなたは酒場のッ!?」
「シンさんッ!?どうしてここにッ!?」
「コソコソと動いているお前たちをロキ・ファミリアの団長と偶々見かけてからか。仕方なしに追いかけて来た」
「そ、そうですか。…それで団長は?」
「闇派閥の奴らを追いかけている。それよりもお前等は少しだけ自分の身を守ってろ。上の奴はオレが殺す」
シンは天井でグニョグニョと動いているモンスターを睨みつける。そのモンスターは食人花と少し似ており、不気味な雰囲気を出している。
(単なる水かと思っていたが、水の中にある遺体から察するにこれは溶解液か…。……ここはまるで胃の中みたいだ)
「まぁ、だからどうしたって話だが」
シンの身体から凄まじい冷気が放たれ、周囲の温度が徐々に下がっていく。先程までは溶解液だけしか凍っていなかったが、段々と壁にまで氷結が広がっている。
「『アイス
冷気によって作られた巨大な氷の塊。それは象の形をしており、上にへばりついているモンスターに向かって飛ばされる。
モンスターは触手を上手く使い、破壊していくが、氷はモンスターの数倍程の大きさがあり、モンスターが全て破壊する前にぶつかった。
「呆気ないな」
シンの見る先には先程まで暴れていたモンスターが氷像となり、動けないでいた。
シンはどうでも良さそうに身動き取れないベルたちのところへと歩き出す。
「シンさんって何者なんですかッ!!?」
「単なる酒場の店員だ。というか、そんな事はどうでも良いんだよ。……お前等、攻撃魔法を使えるだろう。あのモンスター目掛けて最大級の魔法を放ち、……アレを壊せ」
「私たちがしなくてもあなたなら可能なんじゃないですか?」
「何だ、全部オレにさせる気か?お前等はその程度なのか?特にエルフ。お前は怪物祭の時から何も成長していないのか?」
怪物祭の事を持ち出された瞬間に、レフィーヤの目付きが変わる。彼女は思う、何も成長していないなんて言わせない。あの時から私は成長したのだと…。
「ベル・クラネル!!魔力を最大限込めて放ちますよ!!!!」
「は、はい!!」
レフィーヤは魔法の詠唱を、ベルはチャージを行う。
シンが彼女たちに破壊させる理由。それは単純なる興味だ。都市最強の魔導士を超える潜在能力を秘めている者と神のシナリオの中で魔法を与えられた者。レフィーヤとベルの魔法を間近で見て、どの程度なのかを知るために…。
「『アルクス・レイ』!!!!」
「『ファイアボルト』!!!!!」
魔力全開の二人の魔法が氷像となったモンスターを破壊する。そして、その威力は収まることなく天井を貫いた。
跡形もなく消えたモンスターと閉じ込めていた天井がなくなり、ベルたちは脱出することが可能となる。
「さてと、こんなところさっさと出るぞ」
「そ、その前にこの氷、何とかしてくださいッ!!!」
レフィーヤに指摘され、シンはベルとレフィーヤの状況を思い出す。そう、2人の足はシンの能力によって凍っているのだった。この事に関しては申し訳ない気持ちが彼にはある。
2人を氷から脱出させると、シンは天井に空いた穴から脱出した。彼に続いて、ベルとレフィーヤも脱出する。
「やっぱり余裕だったか…」
脱出したシンが見たのはフィンと彼によって捕縛されている闇派閥の者たちだ。
「そっちも無事で安心したよ。レフィーヤ、ベル・クラネル、大変な事に巻き込まれたね」
「団長ッ!!!」
「レフィーヤ、あまり個人行動は良くないよ。まぁ、今回はそうしなければならない状況だったみたいだから仕方ないけどね」
「は、はい…」
「さてと、レフィーヤはベル・クラネルを野営地まで連れて行ってくれ。そして、リヴェリアたちを呼んでくれ。僕は彼等を見張っておく。ここの調査もしなければならない」
フィンの指示を受けて、レフィーヤはベルを連れて野営地へ向かう。この場に残ったフィンとシンは闇派閥の者たちに質問を行う。
フィンは闇派閥の者たちが自決出来ないように、腕と脚の関節を切断しており、彼等は逃げられない。
「君たちは新種のモンスターを使って何をしようとしていた?」
フィンのこの問いに対して、闇派閥の者たちは愛する者に会いたいなどと答えになっていない返答をする。彼等はまるで何かに取り憑かれている。そのように思えてしまう。
「これはダメだな。吐かない。…こういう奴らは拷問しても無駄だ。…オレたちに出来ることは開錠薬を使って、どの神に仕えているのか知る事ぐらいだな」
「そうだね…」
「さてと、晒すか…」
シンは懐から開錠薬を取り出す。そして、動けない闇派閥の服を破り、その背中を晒した。後は開錠薬を闇派閥の背中にかけるだけ。
シンがそれを行おうとした瞬間、岩上からナイフが投げ込まれる。そのナイフは闇派閥の首元に真っ直ぐ向かうが、首に刺さることは無かった。なぜなら、氷の壁がナイフを止めたからだ。
「全く…今度は誰だ?」
ギロッ!!とシンはナイフが投げ込まれた方向を見る。そこには黒いローブで全身を覆い、顔に仮面をつけている者がいた。
「あれはッ!!」
「知り合いか?」
「深層で僕たちの邪魔をした奴さ」
(深層ということはそれなりの強さを有しているということだ。それにあいつは力もある。…奴の投げたナイフの半分近くが氷に埋まっているからな)
ナイフを投げた者は逃げるでもなく、シンたちを見ていた。
フィンは手に持っている槍をいつでも使えるように握りを強くして、シンはいつでも敵を凍らせれるように身体から冷気を発する。
敵を殺そうとシンが動こうとした、その瞬間にシンとフィンの目の前に食人花が数体地面から現れた。当然、そんなものでシンとフィンを倒すことは出来ない。だが、ほんの一瞬の足止めにはなる。
仮面をつけた者は手に持っていた赤い短剣をシンとフィンの方向へ振るう。赤い短剣から巨大な炎が巻き起こり、食人花ごとシンとフィンを燃やそうとする。
「チッ!!『アイスウォール』!!!」
シンは即座に巨大な氷の壁を作るが、炎の威力が強く氷の壁のほとんどが蒸発した。
「魔剣の威力にしては、
氷が蒸発した事により、辺りは白い煙が立ち込める。
シンは冷静に集中して、見聞色の覇気を高めていく。仮面をつけた者の気配を探っていると、後方から悲鳴が聞こえた。
シンとフィンが声のした方向を振り向くと、そこでは捕らえていた闇派閥の者たちが燃えていた。そして、次の瞬間に爆発したのだ。爆発したのは闇派閥の者たちが身につけていた自爆用の装備に引火したのが原因だろう。
「やられたな…。さっきの炎はオレたちではなく、こいつらを殺すためだったのか…」
「……奴は何処に?」
「…………今見つける……、そこかッ!!」
シンは氷の刃を即座に作り、気配のした方向へ放つ。
だが、その刃が届く前に仮面をつけた者は赤い短剣を振るい、巨大な炎を繰り出す。
「炎が強過ぎるな!!!……だけど、オレには効かねぇよ!!!!」
シンは能力を大きく発動して、辺りを一瞬で凍らせる。
そして、それは迫りくる炎を相殺していく。
「逃さねぇ」
シンは氷の刃を次々と生成して、この場から離脱しようと逃げている仮面をつけた者に放った。先ほどから巨大な炎を生み出している赤い短剣にはヒビが入っており、もう一度炎を放つと壊れることは安易に想像出来る。それが分かっているからこそ、シンは氷の刃は絶えることなく放っていた。
「終わりだ。『アイス
象の形を氷像が真っ直ぐ仮面をつけた者に向かって放たれる。仮面をつけた者は最後の一撃に赤い短剣を振るう。その瞬間に先程同様、巨大な炎が生み出されるが赤い短剣は粉々となった。
「死ね」
シンから放たれた氷像は炎に負けること無く、仮面をつけた者に突っ込んでいく。その際にシンは覇王色の覇気を敵に放っていた。少しだけ仮面をつけた者の動きが鈍る。
ドカンッと音がすると、仮面をつけた者の気配は消えた。
この瞬間に、シンは出し抜かれたと確信する。
「このオレから逃げ出すとは……癪だが、認めてやるよ」
シンは氷像がぶつかった場所を見て、そう言葉にした。
彼の見る先には彼の望むものは何も無い。氷像がぶつかって、凍った岩があるだけだ。
「逃げられたようだね」
「最初から本気を出すべきだった。油断が招いた結果だ」
(…それにしても、…どうやって、逃げた?気配が一瞬で消えたぞ。……しかも、あの炎…中々面倒だったな)
「おい、奴が使っていたあの魔剣。あれは恐らく…」
「ああ、あそこまで強いのは『クロッゾの魔剣』だろうね」
「やっぱりか。…まさか、今この階層にいるヴェルフ・クロッゾが作った作品じゃないだろうな?」
「それは無いと思うよ。けれど、彼が過去に作った物やラキア王国で密かに保管されていた物が何らかの形であの者の手に渡ったという可能性はある。これは本格的に調査しないといけない」
「…………」
(オレの氷をあそこまで蒸発させるとは、『クロッゾの魔剣』…やるじゃないか)
『クロッゾの魔剣』。それについて、シンは話で何度か聞いたことがあるだけだ。実際に見たことはない。今日それを見たことによって、シンは危険性を認識した。
その後、リヴェリアたちがやって来たのだが、その時のフィンの表情は苦虫を噛み潰したような顔をしていた。
何故、彼がそうなっているのか。それはレフィーヤやベル、シンが入っていた巨大な穴。その中にあった筈のものが全て消えていたからだ。
「今の僕たちでは見つけられないか…」
フィンは今、出来るだけの調査をしたが、何も見つけられなかった。まるでそこには最初から何もなかったかようにすら思える。そのぐらい完璧に隠蔽されていた。
だからと言って、このまま諦める事はない。彼は装備を整えて改めて調べる事にした。今回はそのまま撤退する。
そして、シンはというとフィンが見つける前に一つの魔道具を見つけていた。それを拾ったシンは何かに使える。そう思い、懐にしまうのであった。
その魔道具はまるで人の目のようにも思える代物だったとか…。