黒きゴライアスとの戦闘。ベルたちは予想外の戦いを余儀なく行い、一日だけ休んだ後に地上を目指す事になった。
何故、一日だけ休むのかと言うと、それは神であるヘルメスとヘスティアがいるからである。2人がダンジョンにいる以上、再びモンスターが生み出される可能性があるからだ。
「もっと、18階層で休みたかったよ」
「あなたがいるせいで、死にかけたんですよ!!わがまま言わないでください!!!!」
「アスフィは厳しいなぁ」
シンとリューの前ではアスフィに怒られるヘルメスの姿が確認される。そして、更にその前ではベルを取り合うヘスティアとリリルカの姿があった。
シンは特に気にすることなく、地上に帰った後のことを考えていた。
「はぁー。帰ったらミアから大量の仕事をさせられる……」
「シン、それは仕方ありません」
「しばらく自由がないぞ」
そんなボヤキをしていると、目の前にモンスターが十数体現れた。全員が戦闘態勢を取る。しかし、先頭にいたベル・クラネルが一人で倒し終わるのだった。
ベルがリリルカやタケミカヅチ・ファミリアの者たちに称賛されているのを見て、それを誇らしく思うのと同時に自身が放ったらかしにされているヘスティアは石ころを蹴る。
その石ころは壁に当たった。そこまでは何の問題もない事だ。しかし、次の瞬間にゴゴゴッ!!と音を立てながら壁が崩れた。
「おい、まさか未開拓領域か…」
未開拓領域とはまだ発見されていない場所の事を指す。上層ですら、完全に調査されている場所はないので、偶然出てきても不思議ではない。
「そのようですね」
偶然とはいえ、見つけたヘスティアにベルたちが感心している中、タケミカヅチ・ファミリア団員の命はクンクンと匂いを嗅ぎ始める。そして、何かを発見したのか真っ直ぐ走っていく。当然、ベルたちは追いかける形となる。
追いかけた先には意外にも温泉があった。
「何で温泉何だ?」
「ダンジョンが作った疲れを取るポイントでしょうか?」
温泉に入っても特に問題が無いというのを確認した命は是非入りたいと言葉にする。
ヘスティアたちも賛成するが、ヘルメスの存在が待ったをかけた。何しろ、覗きの前科がある男だ。警戒心を持つのも無理はない。
「……水着を着ればいい。それなら混浴し放題です」
リューからの提案に全員が賛同するが、すぐに水着など持っていないと思うので諦める雰囲気が漂う。
そんな雰囲気をヘルメスがぶち壊した。
「こんな事もあろうかと水着は用意している!!!!」
何故、水着を用意しているのか。そもそも何故サイズを知っているのか。最早ツッコむ事は誰もしない。
温泉に入らないリューが見張り、女性陣たちは着替えるために岩陰へと行った。
「いやぁ、楽しみだねぇ〜」
ヘルメスは相変わらず口が減らない。
少しすると、水着に着替え終わった女性陣が現れる。彼女たちとシンを除く男性陣は温泉を満喫するのであった。
「シンは入らないのですね」
「入るわけないだろう…」
(下手すれば、溺れて死ぬからな)
シンとリューは一応ダンジョンということもあり、警戒している。モンスターが果たして現れないのかは疑問だ。
しばらくすると、女性陣たちの悲鳴が響く。何があったのかとシンとリューは見に行く。
すると、そこでは身に着けている水着が溶けている女性陣の姿が確認された。
「シン!!見てはいけません!!!!!」
ブスッ!!とシンの両目を目潰しするリュー。不意の攻撃にシンは避けることなくまともに受けてしまった。悪魔の実の性質上、受け流すことは出来ず、氷の塊として崩れていく。だが、覇気や海楼石で攻撃されたわけではないので、すぐに再生する。
「リュー、いきなり何をする?」
「あなたは女性の裸を見てはいけない。…ど、どうせ…、見るのなら…、わ、………」
「ん?」
「いえ、何でもありません!!!!」
不思議と舞い上がっているリュー。ここが温泉の近くで温度が高いせいなのか彼女の顔は真っ赤になっていた。
シンはそんな彼女を他所にベル・クラネルの所在を気にしている。奥からはモンスターの気配がしており、その近くにベルの気配があるのだ。
「救助するか…」
シンたちは奥にいるベルとヘスティアの元へと向かう。
ベルとヘスティアの元へたどり着くと、そこではモンスターに囲まれている2人の姿が確認された。
シンは氷の刃を即座に生成して、モンスターに向かって放つ。氷の刃に貫かれたモンスターは弱かったのかすぐに倒された。
「さてと、無事みたいだな」
「みんなッ!!」
喜びの再会も束の間。温泉から巨大なモンスターが現れた。恐らく温泉の主と思われる。
一同は距離を取って、応戦していく。
「………少年、お前一人で余裕だろう。温泉を凍らせるわけにもいかないから任せる」
「………は、はい!!」
シンは攻撃に参加すること無く、あくまで全員の守りに徹することにした。モンスターの攻撃がシンたちに向いている隙に、ベルはモンスターの懐に近づく。
そして、チャージした力を解き放った。
「『ファイアボルト』!!!!!!」
モンスターはあっという間に倒された。魔法が岩などに当たった影響で、辺りには湯気と煙が立ち込める状況。
微かに奥から人影が見える。それはモンスターを倒して、戻って来たベル・クラネルだ。
一同の先頭にいたシンはベルを見るなり、リューの後ろに回り、自身の手を彼女の目の部分に当てた。いわゆる目隠しをしたのである。
「シンッ!?な、何をッ!!?」
「リュー、普通は目潰しではなく目隠しをするものだ。…まぁ、しばらくこのままでいろ。見たところで面白くも何ともないものだからな」
リューはシンによって、目隠しされているから見えないが、他の女性陣たちはベルの今の姿を見て、顔を真っ赤にしている。
何故なら、今のベルの姿は温泉によって溶けた衣服を着ているので、色々と見えている状態だからだ。
「少年、とりあえず隠せ」
こうして、温泉での戦いは幕を閉じた。
何故、この未開拓領域が見つからなかったのか。それは恐らくあのモンスターのせいだろう。温泉に浸かり油断している隙に命を取られた冒険者は多くいた事だろう。
今後はモンスターが住み着かない限りは温泉としては楽しめる。
「さっさと地上に帰るか」
「ええ。シルやミア母さんが待っています」
「…………いつか
シンたちはこの数時間後に地上へ帰還した。
■
18階層の一件から1週間程経つが、未だにシンの休みは来ていない。彼は毎日サボる暇もなく必死に働いていた。
「シン!!サボろうとするんじゃないよッ!!!」
「………、ヤバい…サボれない」
ミアの監視という極大の檻の効力はとてつもない。そんな時間が過ぎていくと、裏でジャガイモの皮むきをしているシンにミアが声をかける。
「シン、あんたをご指名だよ」
「指名?女か?」
グシャッッ!!!とシンの隣から音が響く。その音はシンと同じくジャガイモの皮むきをしていたリューの手元から発せられた。どうやらジャガイモを潰した音らしい。
「リュー!!ジャガイモを潰すんじゃないよ!!!」
当然、リューはミアに怒られるのであった。
「……オレを指名するなんて誰なんだ?しかも、まだ朝だぞ」
まだ仕込みをする時間帯であり、店は開いていないのだ。
そんな時間帯にミアの許可を得て、店の中にいる人物。きっとある程度ミアに信用はされているのだろう。
「……常連客だよ」
ミアはため息をつきながらも、テーブルを指差す。
シンは誰が来ているのか確認しに行くと、そこにはロキ・ファミリア団長のフィンが座っていた。
シンは嫌そうにしながらも、フィンと同じテーブルに座る。
「そんなに嫌そうな顔をしないでくれ。今回は真正面から来たんだ。話ぐらいは聞いてくれても良いんじゃないかな?」
「…………それで、何のようだ?」
「情報提供でもしようかと思ってね…。何しろ君も例の件を調査しているのだから。どうだろう、僕たちと協力関係を結ばないかい?」
「断る」
シンは即座に断った。彼が断った理由。それは彼自身がロキ・ファミリアと組むことは絶対にないと思っているからだ。フレイヤとの関係もある以上、ロキ・ファミリアと組むことはあり得ない。何よりも神と組むなど彼にとっては不愉快極まりない事だ。
「…………なら、僕個人と組まないかい?」
「はぁ?」
「18階層の時みたいに君と仲良くしたいと思ってね」
「そこまで仲良くしたつもりはないんだけどな…」
心外だと言わんばかりにシンはフィンを一瞥する。18階層の時は確かに話し程度にはなったが、そもそも勝手について来ただけだろうと内心では文句を言っていた。
「僕と交流するのは嫌かな?僕としては君と仲良くしたいと思っているよ。今この時もね…」
「………毎回誰かと交渉する度にそんな事を言っているのか?」
「確かに交渉する時は好印象を抱かせるようにするのは基本さ。でも、君だからここまでアプローチをしている」
これは女が簡単に惚れてしまうなと感心するほどにフィンの表情や仕草、言葉は好印象に思えてしまうものだ。
だが、シンは単純な女でもなければ、フィンに惚れるわけもない。彼は普通に面倒だと思うのであった。
「……良いだろう。少しの間だけ協力関係をお前個人と結んでやるよ。神と組むのは不愉快極まりない事だが、お前個人というのなら違和感はあるが、問題はない。……さてと、情報交換でもしようか」
「そう言ってもらえて嬉しいよ。出来れば友人になりたいけどね」
「…………」
シンは仕方なしと自分が集めた情報をフィンに教える。その中身は地下水路の事や18階層での事などだ。
ギルドからは黒きゴライアスの事は伏せるよう、その場にいた者達に口外禁止を言い渡したが、シンとしては言いなりになる気はない。故に話すことも躊躇わない。
まぁ、シンとしては黒きゴライアスの魔石を喰らった、食人花を操る赤髪の女の事が本題だ。
「赤髪の女…、僕たちもその前に襲われたよ。………さてと、こちらの情報だが、実は昨日までメレンにいた。…そこで色々あったよ」
フィンはメレンでの事を話し始める。カーリー・ファミリアとの抗争や食人花の運搬などに関わったファミリア、ギルド幹部など、こちらもギルドから口外禁止と言われた内容が含まれている。
「……そして、イシュタル・ファミリアが絡んでいた」
「イシュタルか…。フレイヤを目の敵にしている奴だな」
「自分の方が美しいと言い張っている残念な神だよ。しかも、眷属たちも面倒だ。……メレンで襲われたベート曰く、冒険者のレベルを一段階上げる術師がいたそうだ…」
「それは珍しいな。……イシュタルは色々と怪しいのは周知の事実だ。闇派閥の奴らに操られている可能性はあるがな…。何しろ、あのアバズレはフレイヤを倒すのに必死だからな」
イシュタルはフレイヤと同じ美の神ではあるが、フレイヤより格下扱いされている事を不愉快と感じている。そして、それは憎悪となり、フレイヤのことを非常に憎んでいた。その感情を利用されている、もしくは暴走させているのだろう。
「全く、神というのはアホばかりだ」
「……そうかもしれないね。………もう一つだけ伝える事がある。59階層の出来事だ。そこには精霊の成れの果てが居座っていた」
59階層の出来事をフィンから聞いて、シンは少し興味深そうにしていた。この世界ではトップクラスに強い存在だ。多少は気になるのだろう。
「まぁ、僕からの情報はこれぐらいかな…」
「……なるほど、悪くない情報だった」
「それは良かった。…どうだろう、互いの親睦を深めるためにも、これから先も適度に交流しないかい?」
「………本気か?」
「ああ。本気だ。君と友人になりたいと思っている」
フィンの言葉が探りの言葉ではなく、本気の言葉だと彼の態度を見て、シンは判断出来てしまう。
だからこそ、シンは気になる。何故、自分にそこまで関わって来るのかを…。
「何故だ?どうしてオレに関わろうとする?」
「さぁ、どうしてだろうね。……恐らく、君に惹かれているからだろう。君のことが気になっている。君と関わりたい理由はとてもシンプルだよ」
「ナンパしているのか?」
「していないよ。それにこの前、言ったはずさ。妻は小人族でなければダメだとね…」
「そうだったな」
「まぁ、じっくり考えて欲しい。気兼ねない友人を僕は欲している。それが君だと嬉しいかな…」
自分の言いたい事を言い終えたフィンは店を出ようと立ち上がる。背を向けたフィンに対して、シンは言葉を言い放つ。
「…………
「……ッ!?……フッ…、そうだね。……今日はありがとう
第1章 始動【完】
第1章『始動』完結です。
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