冷たい海賊は欲しいものを得られるのか   作:Connect

17 / 56
14.オリオンの矢編No.2

 

 

 ヘルメスが開催した槍を引き抜くというイベント。それは見事ベルが達成して、イベント自体は終わったのだが、スポンサーであるアルテミスの登場で波乱が起きていた。

 

「アルテミスッ!!さっきのはどういうつもりだッッ!!!」

 

 ここはヘスティア・ファミリアの本拠地として、使われている廃教会。賞品の説明やアルテミスの事などの話をするためにベルやヘスティア、ヘルメスはもちろんのこと、ベルのパーティーメンバーであるヴェルフとリリルカがこの場にいた。

 そして、シンとフィンもこの場にいる。何故、2人がこの場にいるのかと言うと、シンプルに言えば、ヘルメスから誘われたからだ。

 

 

【数十分前に遡る】

 

「この場に君達2人がいたのは運命と言える。どうか、協力して欲しい」

 

 ヘルメスの真剣な眼差しに2人は口を揃えて言葉を出す。

 

「「断る」」

 

 その言葉を残して、シンとフィンはその場を去ろうとする。だが、諦めきれないヘルメスは土下座をして、二人の足を止めようとした。

 

「頼む!最早、時間の猶予はなくなっている!助けて欲しい!」

 

 ヘルメスは事の詳細をシンとフィンに話す。その内容は2人を驚かせるには十分過ぎるものだった。

 

「そんな事がッ!?」

 

「…………この世界のピンチというやつか。……アンタレス(・・・・・)、そいつは何処にいる?オレが殺してやるよ…」

 

 その時のシンの冷徹な目と態度を見て、ヘルメスは恐ろしく感じ、冷や汗をかいて押し黙ってしまいそうになる。だが、何とか言葉を出す。

 

「それはダメだ。というよりも無理と言わざる終えない。あくまでアンタレスを倒すのは、槍に選ばれたベル君だけだ」

 

「何故だ?」

 

「神創武器でないと殺せないからさ。いくら、君が強くとも殺すことは不可能だよ。最早、神の力と同化した化け物というのがアンタレスというわけさ」

 

 神の力と同化したアンタレス。その存在は最早、神と同じと言っても過言ではない。神を真に殺すには神もしくは神の力が宿る武器しかないのだ。それがこの世界の理。

 しかし、それはあくまでシンという存在が何処から来たのかを知らないヘルメスの浅はかな知識と感想でしかない。

本当のところは分からないというのが正解だ…。

 

「つまり、オレには殺せないと…」

 

「そうなるだろうね。神の力というのはそれだけ恐ろしいものなんだ。まぁ、今のアンタレスはまだ神の力を扱えていない。だが、徐々に使えるようになるだろう……。君とアンタレスが本気で戦えば、アンタレスは力に慣れるだろうね」

 

「オレはチューニング役になってしまうというわけか?」

 

(本当かどうかは分からないが、その可能性はあるという事か……)

 

「そうだね…。何よりも運命に選ばれたベル君にやってほしいというのが俺の思いだ。アルテミスもオリオン(・・・・)と認めた存在であるベル君になら……………救いとなる」

 

 シンはその言葉を聞いて、ベル・クラネルの事は考えていないのかとイラついていた。ヘルメスはベル・クラネルを個人として見ていない。彼にとってベルとは英雄という器でしかないのだ。

 

「……話は分かったよ。なら、ベル・クラネルは当然として、他は第一級冒険者たちを動員すべきじゃないかな?」

 

 フィンの言葉は最もであり、お世辞にもヴェルフやリリルカが戦力になるとは思えない。ここは第一級冒険者たちでメンバーを固めるのが妥当だ。

 

「それだと、ベル君は気付いてしまう。彼にはギリギリまで教えるつもりはない」

 

「神の茶番に付き合うつもりはない。お前が言わないのなら、オレが少年に教える」

 

「…………頼む、アルテミスからベル君に伝えるまでは内緒にしてくれ。…………これはアルテミスとベル君の物語だ」

 

 ヘルメスは頭を下げる。彼のその言葉は今まで2人が接して聞いてきた中では、一番真剣なものだった。

 

「それに今話しても、ベル君が受け入れるとは思えない。ギリギリまで内緒にしておく方が彼のためだ」

 

「………」

 

「後、第一級冒険者を動員しないのはオラリオを守るためでもある。アンタレスが神の力を本格的に使えば、ダンジョンは暴走するだろう。オラリオには守る者たちが必要だ」

 

「………理由は分かった。……良いだろう。協力してやる。あくまで、世界を守るためという名目でな…」

 

(まぁ、オレがアンタレスを凍らせて、少年があの槍を使えば済むことだ。………それにしても、リューが先に向かっているとはな。………無事なのか?)

 

 シンはヘルメスからリューが先に向かっていることを聞かされたので、そのこともあり参加する事を決めた。

 

「僕はロキ・ファミリア団長だ。ロキにも話をさせてもらう。そして、その上で参加しよう」

 

「助かるよ。強いシン君と経験豊富な指揮官である【勇者】がついていれば、ベル君はアンタレスの元へたどり着く事が可能だろう」

 

「………ヘルメス。……何故、ベル・クラネルに固執する?」

 

 シンの純粋な質問にヘルメスは寂しそうに呟く。

 

「……今回の件、…アルテミスが選んだ者なら誰でも良かった。けど、ベル君が選ばれたのは運命だと思っているよ」

 

「運命だと?」

 

「シン君、君には力がある。だが、英雄にはならないし、なれない。そして、【勇者】フィン・ディムナ。君は今のままでは本物の英雄にはなれない。……その点、ベル・クラネルは真の英雄になり得る。俺は…いや、世界は英雄を欲しているのさ。だから、俺は俺のやるべきことを行う」

 

 その言葉を境に3人は話を続けることはなかった。もう、これ以上話しても意味はないからだ。

次にすることは、とりあえず、何も知らないベルたちに表向きの名目を話す。そのために彼らの本拠地へと移動した。

 そして、今現在に至る。

 

 

(呑気なものだ。これから先、神のシナリオによって、神殺しをしなければならない…。知らせないと言うのは正解なのか分からない)

 

 ベルたちは表向きのオラリオ外に現れたモンスターの討伐クエストという定を説明されている。

その際に、シンとフィンが護衛として、同行するというのも説明された。

 

「お二人とも強いのは分かりきった事ですが、第一級冒険者が必要な案件なのですか?」

 

 リリルカの指摘は的を得ており、正しい。第一級冒険者が必要なクエストならば、自分たちは不相応なのではと思うのは正常な反応だ。しかし、それに対して本当のことを言うわけもなく、ヘルメスは言葉巧みに交わしていく。

 

「いやぁ~、実はその遺跡には色々と面白い文献があるんだ。【勇者】はそれを直に見るために…。そして、シン君は先に向かったリューちゃんと会うために行くんだよ」

 

 その説明を受けて、全員が納得する。あり得そうな話なのが、かえって説得力があるのだろう。

 

「でも、どうして僕なんですか?」

 

「この槍に選ばれたからだ。この槍に選ばれるには汚れを知らない純潔な魂を持っていなければならない」

 

 アルテミスはゆっくりと歩きながら言葉を発する。その際にシンとフィンの2人と目があう。フィンを見た彼女は申し訳なさそうにし、シンを見た彼女はめちゃくちゃ嫌そうな顔をしていた。

 

(何でオレを見て、嫌そうな顔をするんだ?)

 

 何故、嫌な顔をされるのか分かっていないシン。しかし、アルテミスが嫌な顔をするのは仕方ない事だ。何しろ、知らなかったとはいえ、無理矢理、その有り余る力で槍を引き抜こうとしたのだから。

 

「神アルテミス。クエストを受けるがロキに話をつけてくる。出発はその後で頼むよ」

 

「ああ…もちろんだ」

 

「オレも報告する奴が2人いる。この後の予定として、集合時間と場所を決めてくれ」

 

 集合時間は今から1時間後。集合場所はオラリオにある外壁の上ということに決まった。

それぞれがそれぞれの準備を始める。

 

「シン、君はあの槍から何を言われた?」

 

 途中まで同じ道であるシンとフィンは少し話をしながら歩いている。シンが見た限り、槍を引き抜く挑戦をしてから、フィンの様子が少しおかしかい。時折、何かを考え込むように彼は俯いていた。

 

「離せと言われた。痛いとか言っていたな」

 

「そうか……」

 

「どうした?」

 

「…………【勇者】たる僕は最善の道を歩んで来たつもりだ。…でも、本物の英雄にはなれない。…そんな事は分かっている。……僕は人工の英雄なのだと…」

 

 フィンはまるで自嘲するかのように言葉を述べる。そんな彼を見て、シンはどうでも良さそうに聞いていた。

そして、それは言動にも現れる。

 

「アホらしい。自分で作り上げたものだろうが…。神に言われたからと言って、気にする必要があるのか?」

 

「簡単に言うね…。残穢とはいえ、神に言われたんだ。それも本質を見抜いた上で…。刺すような痛みが心に来たよ…」

 

 フィン・ディムナは人工の英雄だ。それは本人はもちろんの事、彼の主神であるロキや古くからの仲間であるガレス、リヴェリアたちも分かっている。

 その生き方をフィンは今さら変えるつもりはない。けれど、改めて本質を見抜かれて上で言われると辛かった。特に神の中でも、まともなアルテミスに言われると…。

 

 そんな後ろ向きになっているフィンを見て、シンはイラッとする。神に言われたぐらいで気にする必要などないと…。

 

「……神なんてゴミだ。奴らは全て(・・)を奪う。……フィン、お前のそれは正しくないのかもしれない。だが、それを望む者たちもいる。………少なくとも神が書いたシナリオの中で踊るよりは随分とマシな生き方だ」

 

 そう言って、シンは豊穣の女主人がある方の道を歩いていく。立ち止まっていたフィンはシンの後ろ姿を見た後に、再び歩き出す。

 

(今さら生き方を変えるつもりはない。僕は今やるべきことをすれば…、それで良い……。…………神殺しッ……、シンには言わなかったが、…選ばれなくてホッとしている。そんな自分がいるのが本当に嫌だよ)

 

 

 

 シンが豊穣の女主人に帰ると、そこではミアとシルが食器洗いをしていた。その2人がいるのはちょうど良いと思い、シンは話を始めた。

 

「…………というわけで、1週間以上オラリオから出ることになった。どうなるかは分からないが、もしかしたら、この世界が滅ぶかもな?」

 

「そうならない事を祈るばかりだよ。………全く、何で古代の怪物が蘇ったんだろうね」

 

「それもまた運命だろう……」

 

「勝てるのかい?」

 

「さぁな。…分からないというのが答えだな。まぁ、勝てるだろう。少なくともオレがいる限りはな…」

 

 シンの顔つきは恐ろしい程に笑顔だ。……神の力を得た化け物アンタレス。それとの戦いに勝つ気はある。

 

「確かにシンがいれば勝てる可能性は大いにあるわね」

 

 シルはまるで負けないと言わんばかりの口ぶりだ。

 

「まぁ、アルテミス様のことはどうでも良いけど…ベルさんの心はどうなるのかしら?」

 

「へぇー。お前なら少年は乗り越えられるとか言うと思っていたが、心の心配をするんだな」

 

「正直、あなたが行くのなら解決出来ると思っているわ。でも、ベルさんの魂が汚れないか心配。……ふふっ、やっぱり今のはナシね。……乗り越えるわ、きっとベルさんなら。……もし、壊れても私が癒してあげる。……だから、ちゃんとオラリオまで戻って来てね」

 

「………お前は相変わらずだな」

 

 事の詳細を伝えるべき人物に伝えたので、シンはオラリオ外壁の上へと向かう。

その道中、フィンと鉢合わせた。

 

「伝え終わったのかい?」

 

「そっちも終わったみたいだな」

 

「まぁね。僕がいない間はリヴェリアが指揮を執ることになった。リヴェリアなら十分カバー出来るだろう」

 

「………世界は終わると思うか?」

 

「それは僕たち次第だよ……」

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。