まだ日が昇りきっていない時間。野営地にいた者たちは全員一つの場所へと集まっている。そして、その中心には神アルテミスが皆を鼓舞するかのように演説をしていた。
「数多の困難があるだろう…。だが、敗北は許されないッ!!!」
アルテミスはみんなに作戦を伝える。ヘルメス・ファミリアは敵を引き付ける陽動。その他の者たちはベルとアルテミスの護衛を兼ねて遺跡へと侵入する。遺跡へ入るにはアルテミスが封印を解かなければならない。
「成し遂げようッ!!私たちの愛する下界のためにッ!!!!」
「「「「「「おおおおおおぉーーーッ!!!!!」」」」」」
冒険者たちの気合が入る中、シンは後方から迫っているモンスターに気づき、氷のエネルギーを後方に飛ばす。
ドンッ!!!と大きな音が森に響いた瞬間に、迫って来たモンスターたちは氷の中に閉じ込められた。
「モンスターが奇襲だとッ!?」
「あり得ない!!!」
「あり得てしまった話になったけどな…。それにしても、気配から察するに、まだまだこっちに向かって来ているぞ。質よりも量で押している感じだな」
シンの指差す方向からは、大量のモンスターがこちらに向かって来ている。そして、この野営地を囲もうと蠢いていた。
「これはさっさと遺跡に向かわないとね…」
「………フィン、そっちは任せる」
「シンは?」
「弱いとは言え、モンスターの量が多いからな。ヘルメス・ファミリアでも対処出来るくらいの量になったら合流する」
シンはこの場に残ることにした。あまりにもモンスターの数が多いからだ。ヘルメス・ファミリアの人数と実力では半壊する可能性がある。そうなれば、退路がなくなってしまう。それはあまり望ましくないものだ。
「了解。……神アルテミス!ベル・クラネル!!……遺跡へ!!」
「……あ、あぁ」
「は、はい!!」
フィンの指示の元、それぞれが動き出す。シンもさっさとこの場を終わらせて、フィンたちと合流しようと動き出す。
シンは手っ取り早く、武装色の覇気を纏ったパンチを敵に放っていく。
「数が異様に多い…」
途切れることなく迫るモンスター。それを見てシンは少しだけ力を溜めることにする。ヘルメス・ファミリアを後方に下がらせた後、シンは両手を胸の中心に構えた。
(一気に終わらせる)
「『アイスノヴァ』!!!!」
シンの両手から放たれる氷のエネルギー。それは広範囲に侵食していき、森ごとモンスターたちを凍らせた。
モンスターの残り数は約3割程度。ヘルメス・ファミリアだけでも問題ないのかシンが考えていると、目の前に一匹の飛竜が降り立った。それは赤き飛竜である。
「グルルルルルルルルルォォォォッ!!!」
何をするのかとシンが見ていると、赤き飛竜は全身から巨大な炎を放出して、それをモンスター目掛けて解き放った。炎を受けたモンスターたちは次々に消滅していく。
「威力強いなッ!?そんなこと出来たのか!?」
(第二級冒険者以上の強さだ。……こいつ、実力を隠してやがったのか?それとも…今ここで初めて実践したのか?…謎だ)
ドヤッと威張っている赤き飛竜。これが出来るなら、ヘルメス・ファミリアも大丈夫だろうと、シンは遺跡の方を向く。
「……お前がいれば、ここは問題ないな。オレは遺跡へ向かう」
そう言って、シンは遺跡へと向かった。
一方のフィンやベルたちは遺跡の中にある封印された扉の前にたどり着いていた。
「これが封印の門か…」
「精霊たちが私に力を貸してくれた。そのおかげで被害を留めることが出来たわけさ」
アルテミスにより、封印の門は開かれる。門が開き、中の状態を確認した一同は驚愕した。何故なら、神殿の中はアンタレスにより侵食されているからだ。
「まるでダンジョンのようだ。………僕が先頭を走ろう。敵は殲滅していくから、ベル・クラネルはアンタレスのところへたどり着くまで、なるべく温存しておいてくれ」
「は、はい!!」
「さてと、行こうか」
神殿の中へと入った一同。彼等が全員入った瞬間に入って来た唯一の出口が塞がれた。そして、周囲から大量のモンスターが生み出されたのだ。
「あれが全て卵ッ!!?」
「ビビっている暇はないよ。僕たちには進むしか道はない」
そう言って、フィンは勢いよく両手の槍をモンスターに突き刺していく。彼には魔法のように一瞬で殲滅するなんてことは出来ない。だが、その小柄さとスピード、何よりも数多の経験を活かして、瞬時にモンスターたちを殺していく。
「凄いッ……これが【
「都市最強の二大ファミリア。その一角であるロキ・ファミリアの団長……」
「凄いッ!!」
「感心してくれるのは嬉しいけど、僕たちには立ち止まっている時間はないよ。モンスターはまだまだ出現する。アンタレスの元へ急ごう」
フィンは一刻も早くアンタレスを討たなければと思う。何故なら、目の前でモンスターの自己増殖、自己進化。それらを異常のスピードで進められているからだ。
(このままではダンジョンと並ぶかもしれないね…。今はLv.1の攻撃が通っている。しかし、自己進化を進めていけば、僕の攻撃すらも通らなくなる…。全く、恐ろしいね…)
しばらく、突き進んでいく一同。第一級冒険者であるフィンや第二級冒険者であるリューとアスフィがいるおかげで大した怪我をする者は出ていない。
何よりもフィンの卓越した指揮能力はそれぞれの立ち回りを上手く進めていた。この1週間程でそれぞれの癖や能力などを観察した結果だと言える。
ゴオオオオオオオオッ!!!!とアンタレスの雄叫びが辺りに響いていく。一同はアンタレスがすぐ近くにいるのだと実感した。
「親指が疼いている……。この奥に……」
一同が進んだ先にはアンタレスがいる。ここまではベルたちの予測していた通りだ。
禍々しくも神々しい力を天空に解き放っているアンタレス。それを見て、フィンとヘルメス、ヘスティアを除く者たちは驚愕した。
何故なら、アンタレスの腹には結晶に閉じ込められたアルテミスがいたからだ。
「あ、あれは…どういう事なんですか……」
「そのままの通りさ、ベル君。アルテミスはアンタレスに取り込まれてしまった」
「でも、アルテミス様はここにいるじゃないですか!!!」
「そうだね…。でも、ここにいるのは槍に残っていたアルテミスの残穢さ…」
ヘルメスは淡々と言葉にした。そして、その先からはアルテミスが説明する。ヘルメスに全てを説明させるわけにはいかないと感じたからだろう。
アルテミスは事の経緯、そして今現状の話をしていく。
「……つまり、僕がアルテミス様を…ッ」
「あぁ。……私ごとアンタレスを殺すんだ。その槍なら可能だ」
あまりにも残酷な事実。真実を知らされたベルは立ち尽くしていた。
「………オリオン」
この場でベルに覚悟を求めた。それ自体が果たして正解なのかは分からない。だが、ベルが覚悟を決めなければ、多大なる犠牲が出てしまうだろう。
そして、その覚悟を待つ時間はあまり残されていない。
「あれはッ!?」
「神の力だッ!!全員、空からの攻撃に備えろッ!!!!」
フィンの言葉が発せられるてから数秒後。昨日と同様に空から光の矢が無数に振り注ぐ。
神殿の中や辺りの森にも…。範囲内は昨日の比ではない。
「神アルテミスとベル・クラネルは分断されたか…」
いち早く立ち上がったフィンは周辺の確認を済ませる。そして、この場にシンがいない現状ではベル・クラネルの持つ槍でしかアンタレスを倒すことは出来ないだろう。
「アンタレスは動き出したようだ…」
「…………神の力なんて…、リリたちが勝てるわけないッ!!」
「俺たちに出来るのか…」
圧倒的な神の力を前に立ちすくむのも無理はない。それが分かっていても尚、フィンは【勇者】として、指揮を執ることを選んだ。
「勝機はある!!今はまだアンタレスに僕たちの攻撃は通じる!!」
「しかし、【
「分かっている。だから、今から僕たちが行うのは時間稼ぎだ。泥臭くも抗う力を敵に見せつける!!!…………そして、彼を待つ。………ベル・クラネルなら立ち上がる。そうだろう?」
確認するかのように言葉を発したフィン。ミノタウロスとベル・クラネルの戦いを見ているからこそ、自然に出てしまった言葉だ。
それを聞いて、誰よりもベルを信じているヘスティアは大きく頷く。
「当たり前さ。ベル君は立ち上がるよ……」
「そうか…。なら、時間稼ぎを始めよう…。『魔槍よ、血を捧げし我が額を穿て』!!!」
フィンは魔法の詠唱を行う。ここからは時間稼ぎの始まりだ。敵の意識を出来るだけこちらに向かわせる。そのためにフィンも本気を出す。
「『ヘル・フィネガス』!!!!」
フィンは冷静なロキ・ファミリア団長から誰もが戦慄する凶戦士と化した。
神の力を扱うアンタレス。それに向かって行く姿はまさしく【勇者】だ。リューとアスフィも彼の後に続く。
「僕たちはベル君たちを探そう!!」
ヘスティアたちはベルを探しに向かう。
その頃のベルはアルテミスから真実を聞かされ、自分のしなければならない事を知り、ショックを受けて崩れ落ちていた。
「僕には…無理です……」
「いや、君になら出来る…」
「出来ませんよ!!!…僕はッ!!あなたを殺すためにここへ来たんじゃないッ!!…こんなの…あんまりじゃないですか!!!」
「………オリオン」
「だから、そのまま這いつくばっているのか?少年、お前がそのままだと、アルテミスは救われないぞ?」
「えっ…」
2人の上空から聞こえて来た声。そこにはシンが不愉快そうに2人を見下ろしていた。
バンッ!と2人の前にシンは着地する。
「神を取り込み神の力を得た古のモンスターが存在して、尚且つ上空には神の力で作られた矢がある。全く、不愉快な場所だ」
「……」
「シンさん……」
「少年、……神殺しだと思えば、事実はその通りだ。けれど、これが救いなのだと知れ。目の前のアルテミスをお前がしっかりと見ろ」
「……ベル君。頼む……アルテミスを見てくれ」
「神様……」
いつの間にかベルたちの元に来ていたヘスティアたち。
シンとヘスティアに指摘され、ベルは顔を上げてアルテミスを見る。彼女の目には涙と何物にも代えられない信頼をベルに向けていた。
「オリオン!!頼む!!私の矢があなたを射抜いてしまう前に、貴方の矢で私を救ってくれ!!」
「アルテミス様……」
「………オレも少しだけアンタレスと戦うか。……アルテミス、少年の覚悟が決まらなかった時には、救いはないと思えよ」
シュンッ!!と移動したシン。彼はフィンたちと戦闘を繰り広げているアンタレスの上空へたどり着いていた。
「オレが殺したら救いはないか………」
上空からシンは構える。そして、拳を振り落とす。
「『
武装色の覇気を纏った拳。それは圧力波となり、真っ直ぐ突き進み、アンタレスへ直撃した。
「まぁ、これぐらいか…」
アンタレスは上空からの圧力波によって、地面に叩きつけられた。威力は想定以上であり、中々立ち上がれない。
「シンッ!!」
「無事みたいだな…」
シンを見つけたフィンは魔法による高揚状態がまだ解けていないので、言葉が荒々しくなる。
「今のアンタレスなら、殺せるだろうッ!アンタレスが自己進化する前に、早くッ!!」
「そのつもりだったが、あの二人の雰囲気に当てられてな…。あの二人が失敗するまでは待つことにした…」
「悠長過ぎるッ!!」
「かもな…。でも、ここまで下界の事を愛し、守った女神だ。自分の死を覚悟してまでな…。救いのある方法が存在するなら、その道を選ばせてやるよ。非道な
神は嫌い。シンの根底にはそれがある。だが、世界のためにここまでした女神だ…。最期くらいは彼女の願う通りにしても良いだろうとシンは思わされた。
これはこの1週間程、共に旅をした者への彼なりの優しさだ。
「これは神殺しではなく、女神が少年に救われる物語か…。本当に…、ものは言い用だよ………」
「違いないな」
アンタレスは壊れた身体を再生しながら、徐々に立ち上がろうとする。だが、その立ち上がるために必要な足々はシンから放たれた冷気によって、凍らされている。
「これで身動き取れないだろう…。後は勝手にしろ」
シンとフィン。2人の向いている方向には鐘の音を鳴らしながらも1本の槍を力強く握りしめている少年ベル・クラネル。そして、彼の隣には救いを願った女神アルテミスがいた。
「オリオン…、行こう」
「………はい」
ベルとアルテミスは歩み出す。それを後ろから見ていたヘスティアの目からは涙が溢れていた。
「………ありがとう。……………ベル。私のオリオン…」
ベルとアルテミス。2人は槍をアンタレスに放った。
槍から出た光はアンタレスの結晶を包みこまれ、その中にいたアルテミスもまたその力に包みこまれていく。
ベルの隣にいたアルテミスは涙を流しながらも、優しくベルを抱きしめながら消えていった。
『ありがとう…、全てを知っても助けてくれた、【真面目な勇者】、【不器用な海賊】………』
その言葉がシンとフィンの脳裏に響く。2人は事の結末をしっかりと見ていた。
(真面目か……)
(不器用は余計だ…)
そして、この先はベルとアルテミス。2人の精神世界での優しき話だ。
「ありがとう、ベル。……………私のオリオン」
「アルテミス様……」
「知っているか?神も死んだら生まれ変わるんだ……。だから、笑ってくれ、また出会うために…」
優しく語るアルテミスにベルは尋ねる…。
「……それはいつ?」
「さぁ…、一年後…いや、百年後かな?もっと先の千年後かもしれない……。ひょっとしたら、一万年かかってしまうかもしれない……」
「そんなに時が経っていたら……僕、もう…生きてないですよ………」
「でも、きっと、生まれ変わった貴方がこの下界にはいる……。きっと貴方と私は巡り合える……。それは絶対だ…」
アルテミスはベルを抱きしめる。恋に落ち、愛しさが増し、離れたくないとワガママする出てしまいそうだった。
でも、ベルが覚悟を決めてくれたからこそ、彼女もそっと離れていく。
「…次にあったときは…一万年分の恋をしよう、ベル!!!」
その言葉を最後にベルは現実へと戻された。今の彼には泣くことしか出来ない。
アルテミスとアンタレスは完全に消滅し、空に展開されていた【アルテミスの矢】も消滅した。