アンタレスの戦いから1週間後。一同はエルソスの遺跡を後にして、オラリオへと帰還していた。
彼等は再びオラリオでの日常が再開される。
■【真面目な勇者の場合】
オラリオに帰ってきたフィンはロキやリヴェリアに事の詳細を説明するところから始まった。
「………というわけさ」
「大変やったなぁ…フィン…」
ロキとリヴェリア、そして、酒を飲んでいるガレス。ロキ・ファミリア創設のメンバーであり、フィンにとって大切な仲間。
彼らに労われて、帰ってきたとフィンは改めて実感する。
「フィン?」
「いや、何でもない…。さて、僕の留守中は大丈夫だったかい?」
「ダンジョンが暴走したこと以外は特に問題はなかったぞ」
「……そうか」
ダンジョンの暴走。それはアンタレスが神の力を使い、【アルテミスの矢】を上空に顕現させたのが原因だ。
アンタレスが倒された今、ダンジョンは通常の状態に戻っている。
「……いや、問題があったな…」
「どんな問題だい?」
「……正確には問題が起きるだ」
「問題が起きる?」
フィンが首を傾げていると、リヴェリアはロキ・ファミリアでフィンの事を異常に愛している人物のことを話題に出す。
「……ティオネの事だ。2週間以上、フィンと離れていたせいでブレーキが無くなっているかもな…。お前が帰ってきた時なんて、暴走寸前だった…」
「た、確かに……そうだね…」
「今は愛を込めた料理を作ると言って、厨房に籠っているが、覚悟しておけ。だいぶ構われるぞ…」
「ハハハ……それは……大変そうだ……」
フィンは引き出しから胃薬をそっと取り出して懐にしまう。そして、ティオネの事は一旦置いておき、溜まっていた書類仕事を行う。尚、この後、厨房の惨状を目にしたフィンは目眩がするのであった。
■【不器用な海賊の場合】
シンとリューは2週間程留守にしていた罰として、ミアから休み無しの仕事を命じられていた。無論、逆らうという命知らずのことをするわけもなく、2人は必死で働いている。
裏でジャガイモの皮むきをしているシンの隣には、事の詳細を教えてと言わんばかりにシルが待機していた。
「見ていただろう?」
「そうね…。ベルさんの心が保って良かったわ。……シンも割と優しかったわね」
「…どうだろうな。…まぁ、そんな事よりも、少し気になる事がある。……全てが終わった後、エルソスの遺跡を一人で調べてみたところ、興味深いものを見つけた」
「興味深いもの?」
「これだ…」
シンはエルソスの遺跡から持ち帰ったとある物を、腰に付けている小型バッグから取り出した。
この小型バッグは魔道具であり、見かけ以上に物が入るという仕様となっている。
「………これは…、割れた石板……」
「恐らく、アンタレスを封印していた物の一つだろう。……どうして割れたんだろうな…」
「アルテミス・ファミリアが不用意に割ったとは考え難いわね。何しろ、これは…」
「ああ。強い力じゃないと割れない。何かがこれに干渉して、割ったんだろう。……偶然か必然かは分からないが」
偶然か必然かは分からないが、劣化して封印が解けたとは考えられない。
故にシンはどうして封印が解けたのか気になっていた。
「………謎ね」
「まぁな……」
石板をバッグにしまうと、シンは再びジャガイモの皮むきを再開する。
「そう言えば、変な飛竜に懐かれていたわね」
「………アレの話はするな。帰って来てから大変だったんだ。ちょっとした騒ぎにもなった」
「そうだったわね」
「…………今頃どうしているのやら」
シンはオラリオに帰れば、赤き飛竜とはお別れだ。そう思い安心していたのだが、彼の思いとは裏腹に大変な事が起きた。
何が起きたのか?……それは赤き飛竜がガネーシャ・ファミリアの管轄には戻らなかったのだ。
彼女はオラリオに帰った時は大人しかった。だが、バベルに近づいた瞬間に大量の炎を放出して、逃げ出したのだ。
彼女が何処に向かったのか。それはダンジョンだ。ダンジョンに逃げたと複数の目撃情報がガネーシャ・ファミリアの調べで分かったそうだ。
「ガネーシャ・ファミリアはかなり叩かれていたわね」
「まぁ、怪物祭の件もあるからな…」
怪物祭の時もモンスターを逃がした責任があるガネーシャ・ファミリアは今度もかなり批判が多かった。
「何で逃げたんだろうな…」
「またしても謎ね…」
「だな…。……討伐されたとは聞いていないから、何処かで生きている可能性はある」
「……そう。………とりあえずお疲れ様、……シン」
「……そう思うなら、少しは手伝え」
「嫌よ。それはシンの仕事でしょ!」
シルは悪戯な笑みを浮かべる。そして、シンの頭を数回撫でた後、ゆっくりと店内へと戻って行くのであった。
(……もし、アンタレスが神の力を使いこなせていたら、何人死んでいただろうな…。単に運が良いと片付けるべきか…、それともこれが少年の運命だったのか…。……そして、赤き飛竜…。何で逃げたんだ?…………、)
「止めだ止めだ!!考えるのがアホらしい!!オレには数秒先の未来すら見えないんだから…」
「シン!!独り言が大きいよ!!早く終わらせな!!!」
「へいへい」
ミアに叱られたシンは再び作業を行うのであった。
■【赤き飛竜の場合】
ダンジョン内にあるモンスターが出現しない何処かの安全階層の隠れ家に、
「グルルルルルルルルルォッ!!!!」
「うるせぇよ!!何でオレっちたちの隠れ家に来たんだ!?」
「リド、こいつは仲間ではない。殺すべきだ」
「けどよ、他の奴らと違って、オレっちたちを見ても襲って来ないからな…」
悩むリザードマンを前に赤き飛竜はどうでも良さそうに別の場所へと向かう。一体何処に向かったのだろうか…。
一同は一体あいつは何しに来たんだと思うのであった。
■【オリオンの場合】
オラリオに帰って来てから次の日。ベルとヘスティアは今日1日だけ、休息を取ることにした。ダンジョンに潜ることも、アルバイトすることもなく、2人は自分たちの本拠地である廃教会でゆっくりと休んでいる。
「ベル君、見よッ!!」
「神様?それは?」
「何とッ!!ジャガ丸くんの無料引換券さ!!!期限は今日までだ!!今からジャガ丸くんデートしようぜ!!」
「…は、はい」
少し元気のないベルだが、彼は決して後ろを向いているわけではない。
アンタレスとの戦いを終えた後、遺跡を出て見た最初の光景は綺麗な森だった。侵食されていた筈の森が全て気力に満ち溢れていたのだ。
『君はアルテミスの英雄になれたんだよ』
『神様、僕…強くなりたいです…』
『うん…』
ベルはあの時、再び強くなることを誓った。それに偽りはない。……けれど、まだ14歳の少年だ。元気のない時もある。
オラリオでの日常が彼を冒険者に戻していく。それは明日からだ。だから、せめて今だけは平和に過ごしていく。
「さぁ、行こうぜ!!」
「は、はい!」
ジャガ丸くんデートを終えたベルの表情はとても笑顔だ。ヘスティアの引っ張りもあって、ベルはとても楽しめた。
単なる14歳の少年として過ごす。それはベルにとって、とても良い事だろう。
彼の歩んで行くであろう道は、とても険しい道だ。
ベルはこれからも渦巻く運命の中を歩いていく。
■【?????の場合】
ドンドットット!
ドンドットット!!
ドンドットット!!!
ドンッ………、
「…………………………………………………………………………………」
光と闇の訪れはまだまだ先のお話……。
第1.5章 月下【完】
投稿時間、遅れてしまい申し訳ありませんでした!
第1.5章『月下』完結です!!
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さて、次章は1週間後から投稿を始めます!!
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