「おや、マクシミリアン殿とお知り合いで?フィーマン殿?」
フィーマンと呼ばれたシンはニッコリと笑顔を浮かべて、知り合いでは無いと否定する。
「いえ、あまりにも美しい女性なので、つい見惚れてしまっただけです」
「あら?私という妻がありながら、他の女性を見るなんて、嫉妬しちゃうわ」
シンの隣にいる美しい小人族の女性が彼に抱きつく形で注意をした。それを見たリューは表情にこそ出さないが、内心では怒りの炎をメラメラと燃やしている。
(誰だあの女はッ!!シンにベタベタと触るな!!!)
「いや、すまない。つい見惚れただけだ。安心してくれ、僕の心は君に奪われているのだから」
「ふふふっ、ありがとう貴方。そう言えば、最近オーナーは美しい女性を手に入れたと聞きましたが?ここにはいないので?」
「はっはっはっ!!ええ!!素晴らしい女性を手に入れました。ご紹介しましょう!!!!」
パンッパンッとオーナーが手を叩くと、奥からアンナと名乗る美しい女性が出て来た。彼女こそ、リューとシルの目的である人物だ。
周りの客からは美しいと言う声が多く上がっている。それは誇張ではなく、事情として受け取れるほどにアンナという女性は美しい。無論、一般人よりも数段上というだけの話だが…。
「マクシミリアン殿?彼女の顔に何か付いていますかな?」
リューがアンナを見つめているのに気づいたオーナーが尋ねる。すると、彼女の口からは牽制など弱いものではなく、宣戦布告とも取れる言葉が口から出された。
これまでの情報。つまりは、アンナという女性がどのようにして売られたのかを…。
「何処のどなたと勘違いされているか存じませんが、マクシミリアン殿はアンナに夢中のようだ。ならば、賭博をしませんか?」
オーナーからの提案により、ポーカーが開催される。勝者は求める物を手に入れるというものだ。
一対一の勝負では味気ないということで、他の客たちも参加する事が決まる。
「フィーマン殿もどうですか?どうせなら、楽しみましょう」
「……それでは僕も参加しましょう。僕の勇姿を見ていてくれ、我が妻よ」
「ええ、見ているわ」
(シンとイチャイチャするな!!)
そうして、賭け事が開始された。リューはまだ気付いていないが、この場は完全にオーナーの独占上だ。フィーマンと名乗っているシン以外の客は完全にオーナーとグルだ。下手なイカサマをしなくても、リューだけのチップが減っていく。
「……はっはっはっ!!フィーマン殿の奥方も美しい!!小人族は私のコレクションにいない。…欲しいですな。……私は欲張りなのでね!!!!」
その言葉を皮切りに、今度はシンのチップも減っていく。
今度は進行役が大胆にもシンにイカサマを仕掛けたのだ。これをされた事により、シンの目が海賊の目に変わる。
「イカサマか…。こんな分かりやすいものをオレに仕掛けるとは良い度胸だ。……おい、オレは動くぞ」
「ええ、ご自由に…。例のアレには気をつけるように」
「分かっている。というか、もう奴の手にはない」
シンは確認するかのように隣に座る女性に言葉を発した。そして、ギロッ!!と覇王色の覇気を放って、進行役やオーナーとグルと思われる客たち、警備員を気絶させる。オーナーだけは見逃されており、彼は何が起きたのか分からないでいた。
「貴方、流石ね」
「ったく、いつまでその役をするつもりだ?」
「意外と悪くなかっただろう?」
「………まぁな」
シンと隣にいた小人族の女性?はカタカタと震えているオーナーの前に立ち、その様を見下ろす。
「私にこんな事をして、この先、生きていけると思…ッ!?」
オーナーが言葉を言い終える前に、ザシュッ!!!と氷の刃が彼の足に刺さるのであった。
当然、それをやったのはシンである。
「イカサマなんてしなければ、大人しくお前の大好きな賭け事で戦ってやったのになぁ…。…先にルールを破ったのはお前だ。覚悟しろ、
「何故、その名をッ!?」
「こっちもこの2日間で色々と調べた。…なぁ、
「ああ、色々と調べたね。こっちはダイダロス通りを調べている最中だったから、この件に人員は割けなかった。僕とシンの2人で色々と用意したんだよ」
シュッ!と頭につけていたウィッグを取るフィーマン夫人。否、その人物はロキ・ファミリア団長フィン・ディムナだ。
「【
「意外と気づかないものだろう?リヴェリアにかなりメイクを施されたからね。彼女、意外と楽しんでいたよ。まぁ僕としては、シンの方が女装は似合うと思うけど」
「やめろやめろ。オレには似合わねぇよ」
「そうかな?今度試さないかい?何なら手伝うよ?」
「試さない。ったく、今回は堂々と入らなければいけなかったらな。色々と時間がかかった。まぁ、それなりに儲けたから文句はないけどな」
カジノへ潜入するのはシンとしてはとても簡単だ。
だが、今回はここで一儲けするというのを彼は算段に入れていたので、堂々と入る必要があったのだ。
「貴様たちの目的は何だ……?」
「一つはカジノで金儲けだ。金欠なんでな。もう一つはイシュタルに流れている資金源を潰す事だ。お前、かなりイシュタルに貢いでいるな。全く、あんな女の何が良い?」
「黙れっ!!私の愛しい女神を愚弄するな!!!!」
「まぁ、お前をガネーシャ・ファミリアに引き渡したら終わりだ。解錠薬を使えば、一発でお前の正体が分かる。オーナーに成りすましていたことが発覚するな」
テッドの事は事前にフィンからシャクティへ伝えられている。そして、今回テッドとその仲間を一網打尽にすることも…。それ故にテッドをガネーシャ・ファミリアへ引き渡せば、彼は完全に終わるのだ。
「さてと、終わらせるか」
「このまま終わると思うな!!!これを使っ…ッ!?…無いッ!?」
テッドはいつも首から下げている物が無いことに今ごろ気付いた。
「残念。トランプの横に置いてありました?無意識に置いたようですね。ふふふっ…、油断ですよ?」
シルは赤いボタンのついている箱型のものを手に持っていた。どうやら、テッドがいつも首から下げていた物のようだ。
テッドが間抜けな顔をしている間に、ドンッ!!!とシンは彼の腹にパンチを与える。かなり力を抑えられているが、テッド程度なら気絶するには十分な威力だ。
「これで終わったが、お前等は何でここにいる?それにその格好もどうした?」
シンはもう正体を隠す必要もないので、貴族としてこの場に潜入していたリューとシルに尋ねる。
リューはその質問に対して答えるどころか、逆にすごい剣幕でシンを問いただした。
「こちらこそ聞きたいッ!!本当に歓楽街へ行ったのですかッ!!」
「ん?歓楽街?」
「ええ、アーニャから聞きました!!!!シンはそういう場所に行ったのだと!!!」
「歓楽街へは行ったが、調べ事だぞ。イシュタルが何かを企んでいるようだからな。そして言っておくが、お前の想像しているような、誰かを抱くなんて事はしていないぞ」
「本当ですか?」
「本当だ」
次の言葉をシンはそっとリューにだけ聞こえるように彼女の耳元で呟いた。
「大体、お前のような素敵な女性が側にいるんだ。他の女に目移りするわけ無いだろう」
「なッ!!!???」
顔を真っ赤にするリュー。そんな彼女を放っておいて、シンはシルの方を向いた。
(まぁ、イシュタルの管轄で女を抱いたら、フレイヤがめちゃくちゃ文句を言うだろうからな。豊穣の女主人で働いている時まで文句を言われたら堪ったものじゃない)
まだ、この場の騒動は外に伝わっていない。シンとフィンは気絶しているテッドをロープで縛り、彼が目覚めても動けなくした。
二人は囚われていた女性たちに、もうすぐガネーシャ・ファミリアが来ることを伝える。そして、今までの被害をガネーシャ・ファミリアに訴えるように進言した。
「これであなたたちは自由だ」
その言葉を聞いて、女性たちは歓喜する。
「ふぅ~。色々と疲れたよ。それにしても、ドレスは歩き難いね」
誰もいない隣の部屋で着替えを済ませたフィン。もう、女性だとは思われないだろう。
その証拠に囚われていた女性たちはフィンの姿を見て、かなり夢中となっている。
「「「「「「「「【勇者】様ぁ!!!!!」」」」」」」」
「…落ち着いて」
「これで一件落着と言いたいが、お前等は招かれざる客だ。ガネーシャ・ファミリアたちが来る前に単なる客として帰るんだな」
「…分かりました」
「それじゃあ、また後でね、シン」
リューとシルはこっそりとビップルームを出て、ベルたちのいるエリアへと戻って行く。
それから数十分後、ガネーシャ・ファミリア団長のシャクティがビップルームへ入って来た。
「流石だな、フィン。既に片付いているとは…」
「まぁね。色々と証拠も集めておいた」
シャクティたちが来るまでの間、フィンとシンはテッドが使っていた部屋を調べていた。
そして、その結果、二人は違法取引の記録やそのルートなどが記された書類を手にする。
「お前から大賭博所を検挙したいと言われた時は驚いたが、我々もそろそろ本腰を入れようと思っていたところだった。本当に助かったよ」
「僕は調べただけさ。それに偶然だけど、僕たちと同じく女性を助けようとした者たちもいた。その者たちのおかげで、テッドはかなり油断していたよ」
「油断か」
「彼が密かに持っていた魔道具。これは女性たちの首元と連動している物だ。これが発動してしまえば、彼女たちは死んでいた可能性があった。油断して、手元から放していて良かったよ」
(もしかしたら、それを計算に入れたいたかもしれないと思ってしまうよ。あの店員の人を惹きつける仕草にやられたのかな?……いや、まさかね)
フィンの考えは当たっている。シルは何気ない言動でテッドの意識を魔道具から逸らした。それに気づいていたのはシンぐらいだろう。
「それでお前の目的は達成したのか?」
「ああ。奴らはメレンで仕掛けてきた。いや、その前からも変なちょっかいをかけられていたからね。これは軽いやり返しだ」
「この記録を見る限り、テッドはかなりイシュタルに貢いでいるな。金はもちろんのこと、魔道具や鉱石なども…」
「察するに、それらが闇派閥に流れていたんだろうね。まぁ、今回は潰しやすかった。イシュタルの資金源を一つ潰せたのは良かったよ」
イシュタルがメレンで先に仕掛けたのは周知の事実。これは軽いやり返しでなのだが、この件がきっかけですぐに全面戦争とはならないだろう。
今のイシュタルの狙いは常にフレイヤだ。ロキ・ファミリアにまでこれ以上仕掛けることは無いだろう。
今回はこれ以上余計なことをすれば、潰すぞというフィンなりの脅しだ。
それを知ったイシュタルはロキ・ファミリアに仕掛ける事はしないよう、団員達に伝える。そして、今まで以上に闇派閥との接触を慎重に行うのであった。
「ダイダロス通りの件を片付けたら、イシュタルと闇派閥との関係をしっかりと調査する。そして、その時イシュタルを潰す」
「今回は燃えているな」
「最近、かなり刺激を受けているからね」
カジノのオーナーに成り代わったテッドはガネーシャ・ファミリアに逮捕された。テッドは気絶しており、自白はまだ取れていないが、解錠薬にて彼の正体が判明し、違法の証拠も多数手に入れているので彼を捕まえるには十分だ。テッドの自白を待つまでもない。彼はギルドの牢屋に入れられた。
「だが、逮捕だけで終わらせる気もないんだよな」
テッドの牢屋の前には仮面をつけたシンが、気絶している彼を見下ろしていた。
牢屋を見張っている職員や他の牢屋にいる者たちは全員、シンの覇王色の覇気によって気絶させられている。
「……こ、ここは?」
「目が覚めたか」
気絶していたテッドの目が覚める。数時間前に気絶させれたので、そろそろ目覚める頃だとシンも分かっていた。
「貴様ッ!【疾風】と共によくも私をッ!!」
「やっぱり、リューの正体を知っていたな。あいつの正体をベラベラと話されるのは不愉快なんだよ」
「ならば、私を助けろ!!そうすれば…」
言葉を言い終える前にテッドの首が飛ぶ。首と胴体の別れた彼は完全に死んだ。
「殺しに来たのに、助けるわけ無いだろう。ガネーシャ・ファミリアが逮捕した。その事実が必要だったから、気絶させたんだ。ちゃんと、調整もした。良い訓練だったよ」
そう言って、シンは牢屋を後にした。
牢屋で死んだテッド。その事件が世に出回ることはなかった。何故なら、どうやって犯人が侵入してのか分からないこと、それにギルドの安全上の問題にも疑問視される声も上がってしまうからだ。
そして、何よりもギルドの地下にいる
これで、今回のカジノの件は終わりを告げる。
【豊穣の女主人にて】
「それにしても大量だ!カジノでたっぷりと稼げた!!これでしばらく酒代には困らない!!!」
「そいつは良かったね。けど、あまり良くないこともあるよ。一日だけの休みを、そこから更に二日休んだんだ。アタシの怒りは頂点に達しているからね」
「……ええっと、許しは?」
「あるわけ無いだろうッ!!!!」
ドンッ!!!ドンッ!!!!ドンッ!!!!とミアの怒りの鉄拳三連発がシンの頭にクリーンヒットする。
あまりの痛さにシンは床をゴロゴロと転がり、悶絶していた。
「シン、大丈夫?」
「……大丈夫に見えるかッ!?めちゃくちゃ痛いッ!!!」
「「自業自得ニャ」」
猫コンビに言われた言葉はその通りであり、シンはサボった罰を受けたに過ぎない。
シルとリュー以外はあまり同情していなかった。
「ほら、いつまで転がってるんだい。早く明日の仕込みをしな!!それと色々聞きたい事がある。アタシは今週の売り上げ計算をしているから、仕込みを終えたらアタシの部屋に来な!!!」
「はいはい」
「返事は一回ッ!!!」
「はい!!」
シンはこれ以上怒鳴られたら堪ったものじゃないと思い、素早く明日の仕込みをするために厨房へと向かった。
そして、そんな彼の後を追うように、リューもまた厨房へと向かう。
「シン!!」
「ん?リューか、どうした?」
「あの後、話す機会が無かったもので…」
「まぁ、色々と用事があったからな。…オレに話でも?」
「え、ええ。…その、今回はシンたちに助けられました。改めてありがとうございました」
「気にするな。しかし、かち合うとは、…本当に世の中、何が起きるか分からないな」
その言葉をシンは感慨深そうに呟いた。そんな彼はスムーズに仕込みを終えていく。
「ハハッ…それにしても、貴族の振りをするとは大胆だったぞ。オレたちも似たような事をしたが、ビップルームで出会った時は本当に驚いた。フィンの女装も似合っていたが、お前の男装も似合っていたな」
「あの時の私の姿は忘れてください…。私にシルのような可憐さはありませんから、ドレスが似合わないのは私自身分かっています。だとしても、男装はあまりしたくありません」
「ん?お前の方がドレスは似合うと思うぞ」
「へっ!!!?」
「さてと、簡単に仕込みを終えたから、ミアのところに行ってくる。早く、説教を終わらせとかないと睡眠時間が減る」
「シンッ!!さっきのはどういうッ!!?」
「そのままの意味だ」
シンの言葉を受けて、顔を真っ赤にするリュー。そんな彼女を放って、シンはミアの部屋へと歩いて行く。
そんな彼の足取りはとても重い。何を言われるのかと戦々恐々としているのであった。
「よく来たね。…少し話をしようじゃないか」
「話?」
「フィンと何処まで話を進めたんだい?」
「そういう真面目な話か」
思っていた話と違ったので、シンはホッとする。
「闇派閥共は恐らくダイダロス通りにいるだろう。そっちはフィンが担当している。そして、オレはイシュタルを調査した」
「イシュタルをね」
「イシュタルは遠くない内に破滅するぞ。奴はフレイヤに仕掛けて、完膚なきまでに駆逐されるだろう。その日が来るまで、オレは待つだけだ。偶に奴の資金源を潰すけどな…」
「また、オラリオに大きな争いが起きるのかい」
「いつだって、争いは起きている。それが小さいか大きいかの違いでしかない。強者こそ、………何もかも得られる」