現在、18階層では武装したモンスターとガネーシャ・ファミリアの討伐隊が激しく戦っていた。
武装したモンスターの実力は高く、討伐隊の面々はシャクティ以外は苦戦を強いられている。
そんな中、ベル・クラネルはリザードマンの異端児と森の中で話をしていた。彼は人でありながらも、異端児たちとの親交を深めている。異端児たちを人と何ら変わりのないのだと…。
「どういうことですか!!リドさん!!!」
「ベルっち、すまねぇ。やっぱりダメなんだ…。オレっちたちは人間が言う怪物なんだ!!」
「そんな事ないですよ!!」
ベルは何が起きているのか分からないでいたが、異端児たちには何か街を襲った理由があるのだと考えていた。
そして、街を襲った理由をリドから聞かされたベルは動揺する。何しろ、彼にとって妹のような存在であるウィーネという異端児が攫われたことを知らされたのだから。
「ウィーネ……」
「同胞たちを助けに行く。ベルっちは人間だ、もう来るな。オレっちたちといるところを他の奴らに見られたら…」
「そんなッ!!」
リドは大きな咆哮を行い、ベルを威嚇する。それは客観的にベルがモンスターに襲われていると捉えられる光景だ。故にそう捉えたリューは二人の間に入る。
「クラネルさん!!」
「リューさんッ!?どうしてここにッ!?」
何故、ここにリューがいるのか…。ベルがその疑問をぶつけている間にリドはこの場から離脱した。
辺りにモンスターがいないことを確認したリューはベルに帰るよう促す。
「今回の件には闇派閥が関わっています。…とても危険だ。…地上へ帰りましょう。シルが心配します」
「………僕は帰りません。ウィーネを助けないと!!」
「……そうですか。あなたは冒険者になったのですね…。では、これを…」
「これは?」
「色々なアイテムです。アンドロメダが作ったものも入っています」
「リューさん、ありがとうございます」
ベルは異端児たちの元へ向かう。彼はその道中に異端児たちを大切に思う同志であるフェルズと合流する。そして、リドたちに向かった東の奥へと向かった。
一方のリドは仲間の異端児たちと合流して、密猟者から聞き出した場所。つまりは東の奥へとたどり着いていた。
しかし、そこには岩しかない。彼等の仲間がいる場所に繋がる扉を見つけられないでいた。
「何処にもない!!同胞たちに呼びかけても返事がないぞ!!」
少しの時間が経つごとに、異端児たちの焦りは増していく。
そんな彼等に話しかける者が現れる。
「こいつらも異端児か…。お前等、先に言っておく事が二つある。一つ、俺の邪魔をするな。そして、もう一つ…、オレを攻撃した瞬間に全員殺す。……以上だ」
異端児たちの前に現れたのは、少し不機嫌なシンと彼に付いてきた赤き飛竜である。異端児たちはシンを見ると、当然ピリつく。最早、人とは彼等にとっては敵でしかないのだ。
「矛を収めなさい異端児たち!!」
戦闘態勢を取る異端児たちに対して、赤き飛竜は冷静になるよう伝える。だが、異端児たちは矛を収める気はない。
「黙れッ!!貴様こそ、何を人間と共に行動している!!やはり、貴様は信用ならん!!」
ガーゴイルの異端児は怒りながら、赤き飛竜を批難する。
しかし、赤き飛竜は意に介していない。
「彼は私が認めた人だ。そして、私のご主人様だ」
「違うッ!!お前のご主人様じゃない!!変な設定を設けるな!!」
「良いじゃないですか…。私とあなたの仲です。先ほども私を疼かせるご褒美を与えてくれた」
「ここは真面目な話をするところだろうが…」
「そ、そうでしたね。あなたといると、どうにも欲望が剥き出しになってしまう。…ゴホンッ!!グロス、彼に手を出すな!!一瞬で全員殺されます…」
赤き飛竜の警告に一部の異端児たちは聞こうとする。その者たちは赤き飛竜の事を仲間だと思っているからだ。
しかし、グロスのように赤き飛竜は異端児ではない。他のモンスターたちと同様の敵だと認識している者たちもいる。
リドの判断で共存はしていたが、今の状況では各々の感情が表に出てしまう。
「まぁ、命を賭ける殺し合いをしたいなら、止める気はない。お前等の命なんて、簡単に奪えるからな」
シンは全身から冷気を発する。攻撃して来た瞬間に、いつでも殺せるようにしているのだ。
そんな時、異端児たちの後方にある岩が動き出す。
「何だッ!?」
「これが入り口か…」
突然開いた道。その奥から連れ去られた同胞たちの声が聞こえたので、異端児たちは急いで中へと向かっていく。
シンと戦うよりも、先に捕らわれている同胞たちを救う方を彼等は選んだのだ。
「明らかに罠だろう」
「ええ、……グロスたちが心配だ」
シンたちも中へ入ろうとした瞬間に、後方から見知った者たちがやって来るシンは確認する。
「少年…。何故ここに?そして、そこの怪しい奴は誰だ?」
シンはベルが現れた事に驚くが、そんな彼よりもベルの方がシンを見て、驚いていた。
「シンさんこそ、どうしてここにッ!?」
「そこの黒マント。お前、何者だ?気配が少しおかしいぞ」
「君には言われたくないな。ウラノスを驚かせたイレギュラー。フレイヤ・ファミリアの管轄で無ければ、接触していたのだが、今嘆いていても意味はない。私は異端児たちを助けなければならない…」
「少年は異端児たちのことを知っているのか?」
ベルが異端児という単語を聞いても特に驚いていない事から、何らかの事は知っているのだと分かる。
それ故に確認のための質問をシンは行ったが、ベルの目を見て、ベルの言葉が始まる前に納得する。
「なるほど…、その表情から大体察した。…少年、止めておけ。肩入れすれば、するほど…辛くなるだけだ」
これはシンによる客観的な意見なのだが、的は得ている。通常のモンスターとは違う
「それでも助けに行きます」
「へぇー。なら、これをやるよ」
シンは懐から目玉のような形をした魔道具を取り出し、ベルに渡した。
「これは?」
「人造迷宮と呼ばれるもの。そこへ入るための鍵だ。飛竜の話から察するに、異端児たちを捕らえた奴らもそこを使い、密輸しているんだろうな…」
「……これを貰って、良いんですか?」
「もう一つあるから問題ない」
(これもまた少年への試練か…)
ラキアの時、闇派閥から奪った鍵をシンは持っている。鍵が一つあれば、扉が開くことを知っているので、二つの内の一つをベルに渡しても問題ないと彼は判断した。
「この先は面倒事だぞ…」
「それは承知の上で来ています」
ベルはもう引く気がない。彼は異端児たちを助けようと決めている。
ベル、フェルズ、シン、赤き飛竜は人造迷宮へと繋がる通路へ入ろうとする。
「(ゾクッ)ッ!!!……悪い、用事が出来た。後はお前等だけで行け。オレは行かなければならない!!」
パリンッ!!と先程までシンがいた場所は凍っていた。ベルたちは一刻を争うので、異端児たちの下へと急ぐ。
一方、先程突如として、人造迷宮へ行くのを止め、違うところへと向かったシン。彼の向かった先はガネーシャ・ファミリアの討伐隊がいる場所だ。
シンにとって、ガネーシャ・ファミリアなど、心底どうでも良い。彼にとって、大事なのはその場所に
リューを含むガネーシャ・ファミリアの討伐隊は現在、通常とは異なる黒い皮膚をしているミノタウロスの襲撃に合っていた。ミノタウロスはとても強く、Lv.5であるシャクティですら、手も足も出ていない状況だ。
ミノタウロスはまたたく間に討伐隊を蹂躙した。討伐隊と共にいたアスフィとアイシャも気絶させられる。
そして、最後に残ったリューにもミノタウロスは刃を振り下ろそうとする。
しかし、刃が振り下ろされる前に、上空からシンが現れた。
「おい、その斧を振り下ろそうとした瞬間、お前は死ぬぞ」
圧倒的強者の存在。それをミノタウロスは嬉々として、喜んでいる。
強者に飢えた者が強者との戦闘を楽しもうとしているのだ。
「………面白い」
ミノタウロスはそのひと言を口にした瞬間、標的をリューからシンに切り替える。
そして、その手に持つ斧をシンに振り下ろした。
「力が強いな」
武装色の覇気を手に纏い、斧を受け止めたシン。彼は態と攻撃を受けて、凍らせることも考えたが、あえて受け止める選択肢を選んだ。自身の放つ覇王色の覇気を受けても気絶しなかったミノタウロス。その実力を測るために…。
「リュー、下がってろ。すぐに終わらせる」
「……え、ええ」
シンはミノタウロスの持っている斧を砕くと、一瞬で移動して、ミノタウロスとの距離をゼロにした。
そして、武装色の覇気を纏った拳をミノタウロスの腹に喰らわせようとする。それと同時にミノタウロスは拳を振り下ろす。
しかし、互いにあと一歩で届くというところで、上空から炎の玉が数十発程、シンとミノタウロスに振り注いだ。
シンとミノタウロスは反射的にそれぞれ後退する。
「……誰だ」
「……邪魔をするな」
二人は炎の玉が降ってきた方向。すなわち上空を見る。
「シン、アステリオス…。止めてください。あなたたちが戦う理由は無いはずです」
上空から現れたのは人造迷宮へ向かった筈の赤き飛竜だ。彼女はアステリオスと呼ばれたミノタウロスがシンに殺されるかもと思い、異端児たちをフェルズに任せ、ここへやって来たのだ。
「………余計なことを」
アステリオスは再びシンに向かって、殴りかかろうとする。だがその時、東の方からモンスターの遠吠えが聞こえた。
それを聞いたアステリオスは急いで何処かへ向かって行く。
「逃がすわけ無いだろう…」
シンは自らの周りに氷の剣を複数生成して、アステリオスを殺そうと動く。
しかし、赤き飛竜はアステリオスとシンの間に入り、シンの攻撃を邪魔する。
「その度胸は認めるが、奴のために死ぬ気か?」
「怒りを収めてください。アステリオスは同胞たちを傷つけられた故の行動です」
それがどうした、と言わんばかりにシンは赤き飛竜を睨むが、彼女は堂々としている。
「シン、あなたには救いを求めます」
「救いだと?」
「いずれ、全てをお話しましょう。…ですが、今は異端児たちを優先させて貰います。では、また会いましょう。…シン」
赤き飛竜はシンに近づき、彼の顔をペロッと舐めた。それを後ろで見ていたリューは怒り、木刀を握る力が強くなる。
「これは私のご主人様だ。マーキングをつけても文句はあるまい?エルフ、お前にこの様な事は出来ないだろう」
そう言い残して、赤き飛竜はアステリオスの下へと向かって行く。赤き飛竜が去った後、リューはシンの顔を両手で掴む。
「リュー?」
「シンッ!!!今すぐ、洗浄をッ!!!早くッ!!!」
「お、落ち着けッ!!」
シンとリューの周りにいる討伐隊は全て気絶している。2人はとりあえずアスフィを起こして、討伐隊を安静な場所まで運んだ。
そして、シンは一人で人造迷宮へと繋がる扉の中へと入って行く。幸いにも鍵はあるので、スムーズに進めた。
(もぬけの殻か…。死んでいる奴らはイケロス・ファミリアの者たちだな…。闇派閥との関係があるとの噂は聞いていたが、まさかモンスターを密輸しているとは…)
そのまま人造迷宮の探索を続けていくシン。あまりにも広いので、どのルートを進めば、闇派閥の連中がいるのか分からない。
(出口か?)
シンは目の前から眩しい光が差し込んで来るのは見て、地上に出てしまったと思う。その考えは正しい。
しかし、眩しい光は太陽の明かりではない。まるで神の送還が行われたかのような光が一柱、天に昇っていたのだ。
(………あそこにいるのは…少年か…)
気配を辿ると、そこにはベルとフェルズ。そして、異端児たちが数体いる。
「……何か不思議な光景だ」
神の送還ではない光の柱を見て、シンは感心する。
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次話は明日投稿します。