現在、オラリオではベル・クラネルが非難されている現状だ。彼は利己的な理由で都市を危機にさらした恥知らずの冒険者と罵られている。
(…少年。だから、言っただろう。辛くなるだけだと…)
シンはベル・クラネルを愚者だと思う。傷つくと分かって尚、彼はその道を選んだ。上手く行けば、一つの時代が始まる前触れとなるが、今回のように失敗すれば、多くを失う。
「……お前はどう思う、
目の前で頭を抱えているフィンにシンは言葉を投げかける。
ダイダロス通りの事件から数日経った頃。つまりは今日、フィン・ディムナはシンと話をしたくて、豊穣の女主人に足を運んだ。
シンは事件の全容を分かっている。それ故に、事件の大まかな全体像を見通して、苦しんでいるフィンを憐れに思う。
「僕は…
フィン・ディムナは【勇者】だ。武装したモンスターが知的生命体だとしても、モンスターはモンスター。殺すことはあれど、助けることはない。今更、生き方を変えることなど、
「【勇者】として生きている僕と、【愚者】となったベル・クラネル。どちらが本当の英雄なのか、僕には見えてしまっている。どうしようもない程、それが情けない…」
「……かもな。だけど、それで救われた奴が多くいるのも事実だ。フィン、オレはお前の生き方、…嫌いじゃないぞ」
「…シン、僕はどうすれば良い?」
「知るかよ。大体、お前は今まで自分で生き方を決めて来た筈だ。これからも当然お前が決めるべきものだろう?」
「はははっ…そうだね。…シン、話を聞いてくれてありがとう。少し気持ちが落ち着いたよ。……僕は僕のやり方で進む」
フィンは酒代を払い、その足で店を出る。彼の後ろ姿を見たシンはこう思う。
英雄とは作り出すものではなく、求められて生まれるもの。意図も打算もなく助けを求める声と涙に応える者の事を指す。
しかし、それまでに多くの者たちが犠牲となる。故にフィンのような人工の英雄は必要だと…。
(異端児たちがいなければ、こんな面倒事にはならなかった。あの時、全員殺しておくべきだったか…。いや、その前に少年は異端児と出会っていた…。はぁー、世の中、面倒だ…)
「フィンさん、迷っているわね」
「シルか…。お前はどうするんだ?」
「いつも通りよ。ふふふっ、シンはどうするの?」
「……さぁな」
その日の夜、アスフィがシンとリューに用があるとの事で2人をヘルメス・ファミリアの隠れ家の一つに呼び出した。
いつものシンなら呼び出しに応じる事はない。しかし、リューがアスフィの呼び出しに応じるという事なので、面倒ではあったが行く事にしたのだ。
呼び出された場所にはアスフィの他にアイシャもいた。
アスフィから話された内容はベル・クラネルを助けるために協力して欲しいとの事だ。
アスフィとアイシャはヘルメス・ファミリアなので、これは神ヘルメスからの依頼とも取れるものだ。
「正直、興味ないな…。少年にも、異端児にも、…そして、お前たちの目的にも…」
アスフィからの話を聞いたところで、シンは素直に協力しますとならない。むしろ、ヘルメスの言うことを聞くなど虫酸が走るのだ。
「あなたの力があれば、今尚ダイダロス通りを見張っているロキ・ファミリアと対等以上に渡り合えます。こちらにとって、戦況はとても有利になる」
「だろうな。まぁ、だからどうしたという話だ?悪いが、他を当たれ。オレはヘルメスに協力する気がない。…帰るぞ、リュー!」
「…なら、リオン。もし、あなたが協力してくれるなら、闇派閥の残党についての情報提供を約束します」
それを聞いたリューは協力せざる終えない。彼女にとって、闇派閥は倒すべき存在だから。
そして、リューが協力することによって、シンもまた協力するとアスフィは踏んでいた。彼女としても心苦しいが今は人員が足りず、戦力も足りない。手段を選んではいられないのだ。
「…シン、私はアンドロメダに協力します。闇派閥の情報もそうですが、シルの想い人であるクラネルさんの助けにもなりますから」
「…そうか。お前が選んだのなら文句はない」
「シンは?」
「…………良いだろう、協力してやる」
シンはアスフィたちに協力すると言葉にした。これにより、人員、戦力は安定したとアスフィは考える。
しかし、この状況はシンの掌の上。つまりは予想通りなのだ。その事をアスフィは知らない。彼は今回の件、フィンにもヘルメスにも真の意味で協力はしない。彼はベル・クラネルが関わった時点で、フレイヤ側なのだから。
「というわけだ…。事前に調べた情報を元に各々の計画をおおよそ推測は出来た。何処に誰が配置されるのかもほとんど分かる。お前の話を聞いて、ヘルメスが何を企んでいるのかも大体分かった。奴はオレをロキ・ファミリアとぶつけるつもりだが、オレは奴の言う通りに動くつもりはない」
バベルの一室にて、シンはフレイヤと言葉を交わしていた。
「ご苦労さま。ふふっ…、ヘルメスも人工の英雄も勝手に動けば良いわ。世界が欲しているのは未知なる英雄よ。神々をも裏切る【異端の英雄】」
「オレは少年より、フィンの方が好きだけどな」
「随分と【勇者】に入れ込むのね。嫉妬しちゃうわ」
「アイツの現実主義は嫌いじゃない。
この数ヶ月間、フィン・ディムナとかなり関わったシン。彼はフィンの人となりとその内に秘める野望を知り、苦しんでも人工の英雄として進むフィンに敬意を払っている。
(少しだけ情が湧いたか…。いや、違うな。応援したくなっただけか…)
「シン、あなたはあのミノタウロスを見つけておいてね。アレはベルの好敵手のようだから…」
「普通に嫌なんだが…」
それから2日後、ベル・クラネルが動き始めた。
■
今回は各々の思惑が混じり合っており、全てを解決することは困難だろう。フィンの一番の目的は人造迷宮へ入るための鍵を入手する事。2番目が闇派閥を誘い出し殲滅する事と、武装したモンスターを殲滅する事だ。
ベル・クラネルは囮、その事をフィンは分かっていても、彼を放っておくわけにはいかない。万が一の可能性があるからだ。
「………ベル・クラネルか」
「団長?」
「いや、何でもない。そろそろ、向こうも騒がしくなる。警戒を怠るな」
「はい!!」
ベル・クラネルが囮となり、リリルカ・アーデが混乱を招いている中、異端児たちはヴェルフたちの先導を受け、人造迷宮を目指していた。
そんな中、シンは大変不本意ではあるが、アステリオスの捜査を行っている。
そして、それはヘルメスの意図に反する行動だ。本来なら、シンはロキ・ファミリア幹部たちと交戦している筈だ。しかし、ヘルメスの言う通りに動くわけのない彼はフレイヤのための行動を行っていた。
「何で、オレがあのミノタウロスを探さないといけないんだ。オッタル辺りにでも、探させろよ…」
文句を言いながらも、シンは見聞色の覇気を発動させて、アステリオスを探している。幸いにも気配が他の異端児たちよりも強いので、アステリオスのいる位置は分かっていた。
しかし、シンはそれ以上に探しているものがいる。それは赤き飛竜だ。彼女には聞きたい事が多々あるので、ずっと並行して探しているのだが、中々見つからない。
(アイツも他の奴より変な気配をしていた。ここまで見つからないものか?)
「……やはり強い気配はシンか」
見つからない赤き飛竜とは裏腹に、アステリオスは普通にシンの方へと歩いて来た。彼は基本的に口数が少ないが、シンの強さを垣間見て、彼と話をしたいと思っている。
「…何だ、右腕が無いのか」
「…油断した結果だ」
「そうか…。…お前の探している奴のところへ案内してやる」
「ッ!?…それは本当か?」
「オレとしては、神の掌の上で少し気色悪いが、結局選ぶのは少年だ。……まぁ、舞台はまだのようだから、少し待ってもらう必要はあるけどな」
「…ならば、少しだけシンと話をしたい」
「話?」
アステリオスから話をしたいとの提案をされ、シンは首を傾げる。アステリオスから一体何の話があるのか分からなかったからだ。
「自分は、シンが今まで出会った者の中で何番目に強い?」
アステリオスはシンを圧倒的強者だと相対した時から思っており、シンの中での自分の評価を聞きたいと思っていた。それも最も分かりやすい形で…。
そのアステリオスの問いに対して、シンの表情はめちゃくちゃどうでも良さそうにしている。理由は次のシンの言葉で分かるだろう。
「有象無象の雑魚の序列なんて、一々数えている暇がオレにあると思うか?そんな面倒な趣味もない」
アステリオスの強さなど、シンからして見れば、何番目という数える項目にすら入らない。
まぁ、この世界とは比べようのない力の世界からシンは迷い込んでしまったのだから、それも仕方のないことだ。
「…そうか。自分はまだまだなのだな」
「意外と話すんだな…。オレも聞きたい事がある」
「なんだ?」
「あの飛竜は何処にいる?気配を探っても全く見つからない」
アステリオスに尋ねるシン。こうしてアステリオスと話している間も、彼は見聞色の覇気を極限にまで使い、赤き飛竜の気配を探っている。だが、見つからない。
「奴はあるべき場所に帰った。…そもそも奴と自分たちは違う。…………奴からシンに伝言を預かっている」
「伝言?」
「2週間後、27階層にある烈火の滝。その前で会いたいと…」
「……2週間か」
何故、2週間後なのか。そもそも赤き飛竜の言う救済とは何なのか。謎は深まるばかりだ。
「ったく、謎だ!!……ん?……始まったか」
「…何がだ?」
「このまま真っ直ぐ進んでいけ。そこでお前の求めるモノがいる。まぁ、せいぜい頑張れ」
シンの指し示す方向にアステリオスは走っていく。シンはもう一つのやるべきことを済ませるために上空へと跳ぶ。
そして、手から氷のエネルギーを数ヶ所に放った。
「『アイスウォール』!!!」
その数ヶ所というのは、ベル・クラネルとアステリオスの戦いに混じろうとするロキ・ファミリアの幹部たちだ。
元々、フレイヤ・ファミリアの幹部たちもロキ・ファミリアの幹部たちを牽制しているが、更にシンによる妨害。
これを見たフィンはもう何も出来ないと悟る。
「やってくれたね、シン…」
ダイダロス通りの屋根でベルとアステリオスの戦いを見ているシン。そんな彼に話しかけたのは、彼に手を出すなと警告されたフィンだ。
「オレだって、こんな面倒事を引き受ける気は無かった。だけど、ヘルメスの思惑通りになるのが嫌だったのと、
「僕はベル・クラネルのようになれない。人工の英雄として、ここまでやって来た。それを崩せなかった…」
「ん?崩せなかった?過去形か?」
「ああ。僕は
「憎しみを忘れるだと!それが何を意味しているのか分かっているのかッ!」
フィンに対して、シンは珍しく感情的になる。彼は憎しみを忘れるというのが、理解出来ないのだ。
「分かっているよ。分かった上で、僕は【光】の更に先へと進み出す。僕は【フィアナ】を目指していたが、それは止めだ。【フィアナ】を超えなければならない。最初からその道を選ばなければいけなかったんだ…」
「憎しみはッ!!お前はモンスターを憎んでいるだろうッ!!」
「ああ。両親を殺され、憎いから殺す、としか考えて来なかった。でも、僕は
「……ッ!…【勇気】だと…。そんなものを見ただけで、…今まで積み立てた人工の英雄を捨てるのかッ!!」
「ああ。…シン、僕は僕の冒険をしてくる」
「ッ!?」
フィンは自らの道を進んでいく。そんな彼の後ろをシンは無意識に
(フィン、お前も少年に魅せられたのか…。どうして、憎しみを忘れられる?……オレには無理だ。…
その日、ベル・クラネルとアステリオスの一騎打ちを見た観衆たちは魅入られた。その光景が脳裏に今尚刻まれている。
一度は地に落ちたベル・クラネル、そして、ヘスティア・ファミリアの評価は持ち直したのだ。
ベル・クラネルは最後まで愚者の道を進んだが、再び英雄の道を切り開いた。それが奇跡だとしても、神々が、世界が、欲しているのは異端の英雄なのかもしれない…。
「くだらん。ベル・クラネルも、ヘルメスも、ロキも、フレイヤも、この世界にいる者たちはッ!!危機感を知らな過ぎるッ!!精霊?エニュオ?そんなものはゴミの集まりではないかッ!!!」
バベルの頂上で世界を見渡す者は苛立ちながらも、その行くすえを見守る。
「
それは、一人の女神がシンを見ていた瞬間だった。
■【
ダンジョン深層のとある場所にて、赤き飛竜は
母から生まれ、母を守るために存在している自身からすれば、それがあることこそ、不愉快極まりない事なのだ。
「シン、あなただけが…この殻を破れる。あなたにしか出来ない。…母は元々苦しんでいる。更に苦しませる存在など、許容してはおけない」
(異端児たちはベル・クラネルやフェルズ、ウラノスに託します。しかし、コレだけはシン…。あなたにしか頼れない。…
赤き飛竜は約束の場所である27階層へと向かおうとする。彼女のいる場所は深層の中でもかなり深い場所。下層である27階層に行くまでは何日もかかる。無論、安全な通路を使っているので、他のモンスターや冒険者に見つかり、襲われることはほとんどないだろう。
しかし、赤き飛竜が27階層へ無事たどり着くことはない。
その理由は単純だ。彼女は彼女にとって、忌々しいモノによって
「…ッ!」
それは不気味な殺気を向ける。それは汚れた悪意を広げる。それは圧倒的な
「………ッ!!!?…」
(言葉にすら出来ないッ!何という圧力ッ!何故、今動いたッ!?すぐ離脱しなければッ!!)
早くこの場を離れるべきだ。頭では分かっていても、目の前から放たれる殺気のせいで、赤き飛竜は硬直して、全く動けない。
(……ッ…、怪物がッ!!!)
ドオンッ!!!!!
突如として、放たれた衝撃波。それをまともに受けた赤き飛竜。彼女は跡形もなく消滅した。
あまりにも重たい、そして、とても速い一撃。避ける暇など与えられず、防ぐことも出来なかった。
ドンドットット!!!
ドンドットット!!!
ドンドットット!!!
「…………………(にかっ)!!」
第2章 怪物【完】
第2章『怪物』完結です!!
ここまで見てくださった方、ありがとうございます!!
お気に入り、高評価、感想をしてくれた皆様、大変ありがとうございます!!!応援はとてもとても励みになります!!!
面白いと思っていただけたら、高評価やお気に入りをいただけると更に励みになります!!
さて、第3章『氷風』は1週間後、3月8日19時30分から投稿を再開します!!見てくだされば幸いです!
ここまで見てくださりありがとうございます!!!!
この後、第2章終了時点でのオリ主の軽い設定を載せます!!!
こちらも見てくだされば幸いです!