冷たい海賊は欲しいものを得られるのか   作:Connect

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31.記憶

 

 

 シンはアザーティ・ルドガーと名乗った。それがリューには意味不明な事だ。どうして、シンとは違う別の名前を名乗ったのか?そして、自分は王子だと言葉にした。何よりもシンはリューのことをまるで知らない素振り。

 リューは今、自身の目の前にいる人物が、本当に自身の知る人物なのか…。頭が混乱するほど狼狽えてしまう。

 

「…あ、あなたはシンですッ!!豊富の女主人で働いている私の同僚ですッ!!私の大切な…」

 

 リューが言い終える前に、不機嫌そうなシンが言葉を発する。

 

「おい、最初に言っておく。基本的に言動などはあまり気にしないが、シンとだけは呼ぶな。その意味を知らないのか?」

 

「……意味とは?」

 

「シンというのはオレの国では【罪】という意味だ。そんな意味を持つ言葉で呼ばれるのは不愉快だ。分かったなら、ルドガーと呼べ。敬称も不要だ」

 

「……ッ、……ルドガー」

 

「これでやっと話を進められるな。まず始めに聞くが、ここは何処だ?オーディール王国からどれほど離れた場所にある?そして、何故オレはこんなところにいる?」

 

 ルドガーがまず最初に指摘したのは、今自分のいる場所だ。

 そもそも、彼の言うオーディール王国とは、新世界と呼ばれる海域にあるノヴァ島の中心に存在する国の名だ。

その島はとても大きく、資源が豊富とされている。

 

 国の王子であるルドガーは全くと言っていい程、この場所に見覚えがない。どうしてここにいるのか、そもそもここは何処なのか知る必要が彼にはあった。

 

「本当に知らない…、いや…覚えていないのですかッ!?」

 

「見覚えはないが、ここは恐らく国の外だろう。まさか、島から連れ出したとかでは無いだろうな?」

 

「……ッ!」

 

(ッ!…本当に覚えていない。少なくとも、オラリオでの記憶は失われている状態だ…。…溺れた時に、シンの記憶が…失われた)

 

 溺れた時に相当の記憶が消えた。

 リューは少なくとも、シンがオラリオに来てから八年分の記憶が失われていると推察する。

 

「…ここはオラリオにある迷宮(ダンジョン)の深層…。恐らく、辺りを見る限り、37階層です」

 

「オラリオ?迷宮?37階層?…うん。全く分からないな。ノヴァ島にそんな地名の場所はない。というか…、島の外かよ。かなり面倒な状況だな。全く、何で森で特訓していたら、こんな場所にいるんだよ?」 

 

 全く聞いたことのない知らない場所。それを知ったルドガーは、自身がノヴァ島の中にいないのだと推察する。

 

 ルドガーの最後の記憶は森で特訓していたところで終わっていた。

 

「シン…」

 

「ルドガーだ!!ったく、ここの出口は何処だ?すぐに王城へ帰らなければならない。明日は大事な予定がある」

 

「予定とは?」

 

「王位継承の資格を得るための単純な儀式だ。国から出た先の森の中にある遺跡を攻略しないといけない。そこの最深部に存在する宝玉を持って帰れば、王位継承の資格を得られる。まぁ、結果は見えているけどな…。それに、王族はオレと親父だけしかいない。儀式も義務的にやるようなものだ」

 

 ルドガーは王位継承の資格を得るためには、それを行わないといけない。それが分かっており、尚且つそれが簡単であり、義務的なものだと理解していた。

 

「そ、そうですか…。ルドガー、あなたの年齢を聞いても良いですか?」

 

「年齢?13歳だ」

 

「………13歳」

 

(ということは、約14年間の記憶が失われている…)

 

「…ルドガー、落ち着いて聞いてください。あなたは記憶を失っている。いわゆる、記憶喪失です」

 

「記憶喪失?オレが?バカらしい」

 

 そんなわけ無いだろうと、一瞬だけバカにしたルドガーだったが、今の自分の状況で気になることが多数あることから、リューの話に耳を傾ける。

 

「おい、今のオレは何歳だ?」 

 

「27歳です」

 

「…14年も経っているのか。なるほど、それで身体が大きくなっているわけだ。…少し納得出来た」

 

(ならば、シンと名乗るオレもあり得るというわけか。自らの名を捨てて、【罪】という意味を持つ【シン】と名乗っている…。一体、オレの身に何が起きた?)

 

 ルドガーは自身の身体が自身の知る身体ではない事で、リューの話を少し信じる事が出来た。

 14年も経っているのであれば、ルドガーは自分が今何をしているのかとても気になっている。

 

「オレはこのオラリオとやらで何をしているんだ?」

 

「…酒場の店員です」

 

「本当か?」

 

「本当です。酒好きの酒場の店員です」

 

「もっと、詳しく知る必要があるな。教えてくれるか?」

 

 リューから自身がどのようにして、このオラリオで生活しているのを教えてもらう。

 そして、このオラリオという場所がどのような場所なのかも知ることとなる。

 

「酒はあまり好きじゃないが、未来のオレは好きになるか。しかも、金の使い方が荒いとかロクな人間じゃないな。本当にオレなのか疑問を浮かべてしまう…」

 

「本当ですッ!!」

 

「別にお前の話を疑っているわけじゃない」

 

「えっ…」

 

「その必死さ、とても嘘を言っているようには見えない。そして、その事を踏まえ、お前の話を信じてみると、お前の同僚である【シン】。つまりオレからの観点で見る未来のオレはお前を相当信頼しているようだ」

 

(まぁ、完全に信用したわけじゃないが、何故かこいつの言葉を疑う気にはなれない。…まるで魂が叫んでいる。彼女を信じろと…。気色悪い感覚だ)

 

「………」

 

「シン…?」

 

「ルドガーだ。【シン】なんて呼ばれても嬉しくない。まぁ、お前の話を聞いて、そう呼ぶのも仕方ないと今では納得する」

 

 リューの必死さを見て、彼女の話が嘘ではないと思う。それ自体は良いのだが、今のルドガーは未来へタイムスリップしたようなものだ。大変困惑する状況に変わりない。

 

「儀式は当然終わっているか…。結果としては、成功した筈だ。年齢が27歳、お前の話から8年前にオレはここへ来た事を考えると、19歳かそれより前の時に何かあったのだろうな。全く、疑問ばかりだ」

 

「ルドガー…」

 

「色々と教えてくれて大変ありがたいが、もう一つ教えてくれ。未来のオレ、…つまりは【シン】が何故今、この迷宮とやらにいる?それもお前と一緒に?」

 

「それは…」

 

「記憶を失ったのは何故だ?」

 

 それは純粋なる疑問。聞かれるのは当然のことだ。

 リューは何が起きたのか、そもそも何故自分たちがここにいるのをルドガーに説明した。

 

「つまり、お前は復讐のために闇派閥と言う奴を殺そうとやって来たと…。そして、その闇派閥は特殊なモンスターを発生させて操ろうとしたが、操れずに死んだ」

 

「…ええ」

 

「そして、発生したモンスター二匹とオレは戦っていて、善戦だったが、オレが急に苦しみだして水の中へ落ちてしまい、お前に助けられたというわけか。ここは地上よりもかなり下にある場所。お前は一人でオレを助けるために動いていたと…」

 

「概ね合っています」

 

「溺れた時に記憶喪失になったか…。まぁ、能力者が泳げないのは周知の事実。命を救われたわけだ。それにしても服を着ていないのはそう言うわけか、なるほどな」

 

 ルドガーは何故自分が服を着ていないのかを納得すると、干されている服を見て、まだまだ乾くのに時間がかかると思うのであった。

 

「とりあえず、まだまだ話を聞く必要がある。立ち話も何だから座らないか?」

 

「え、ええ…」

 

「安心しろ。もしまた、さっきのようなモンスターが現れたらオレが凍らせる。あの程度のモンスターばかりが現れるなら、全く問題ない」

 

「…あなたの強さは昔からなのですね。その凍らせる力も」

 

 現状のシンは記憶喪失だが、その強さは健在だ。それがこの危険な深層にいるリューにとってはありがたい話だ。

 

 けれど、それと同時に彼女は思ってしまう。シンが記憶喪失で、自分のことを覚えていない。楽しいことも、笑い合ったことも、今まで共に歩んできた日常を覚えていないというのが、どうしようもなく辛く悲しいと…。

 

 そんな彼女の事を気にするでもなく、ルドガーはリューに改めて質問する。

 

「話を聞いて気になったのが、突然苦しんだとはどういうことだ?もしかして、あまりそんな気はしないが、オレは何かの病気を患っていたのか?それとも…、何かから影響を受けたのか…」

 

「何かとは?」

 

「知るかよ。記憶喪失だぞ」

 

「…それもそうですね。ちなみに…、あなたはそのような病気を持っていないと思います。あなたがあそこまで苦しんでいる姿を初めて見ましたから」

 

「そうか…」

 

 ルドガーは今この状況も問題ではあると考えるが、それと同時にオーディール王国の事を考えていた。

リューの話を聞く限り、ルドガーの持つ記憶から現在まで14年経っている。父親や国民たちの安否を心配していた。

 

(親父がいるなら他国との戦争で負けたとは考え難い。何よりもオレは生きている。…王国が心配だ)

 

「迷宮は広いと言っていたが、ここから出るにはどれほど時間がかかる?」

 

「数日はかかります。何よりも私達はイレギュラーな形で、この階層に来てしまった。正規のルートを探すのにも苦労するでしょう」

 

「なるほど、お前がいなければ、迷宮を知らないオレは恐らく迷うだろうな。地上まで案内をしてほしい」

 

「それはもちろんですが、地上までとは?」

 

「国が心配だから探す。当然だろう?」 

 

「オーディール王国というのを私は聞いた事がありません。その、現存しているのかどうかは…」

 

「だとしても、情報だけは得る。王族として、国民のことが心配だ。それに親父の生死もな…。親父は強い。死んだとは思えない」 

 

(…オレが生まれる一年前、王の座を狙っていた親父を含む兄弟たちは殺し合いを行い、親父は圧倒的力で勝利を収めた。その戦いを見た者から聞いた話では、1週間前に見た時よりも、親父は強く成り過ぎて(・・・・・・・)いたらしい…)

 

 ルドガーは自身の父親が簡単に死ぬとは思えない。それは自分よりも強いと分かっているからだ。

それ故に、不安がある。彼は父親の安否を気にしていた。

 

「……」

 

(これが昔のシン…。私の知っている彼では無い…。もし無事に脱出出来たとしても、彼はオラリオを去るかもしれない。辛過ぎる。それはとても辛過ぎる…)

 

 ある程度、服も乾いたところで、リューとルドガーは迷宮を脱出するために動き始める。

いざ、進んで行こうかと言うときに、ルドガーがリューに尋ねた。

 

「お前の名前は?」

 

「えっ?」

 

「名前だよ。そう言えば、聞いていなかった」

 

「リューです。リュー・リオン」

 

「リューか…。良い名前だ。改めて名乗る。アザーティ・ルドガーだ。出来れば【シン】とは呼ぶな。よろしく頼む」

 

 こうして、リューは記憶を失ったシンと共に迷宮から脱出する事となった。記憶喪失のシンが迷宮を脱出するのに前向きな事から、迷宮を脱出する事は出来るだろうと思われる。

 しかし、シンの記憶が戻るかどうかだ。それをリューはとても心配していた。

 

 今のシンはシンでは無い。記憶を失った今の彼はアザーティ・ルドガー。過去のシンだ。

 

「………」

 

(シンの記憶を必ず取り戻してみせる、必ず…)

 

 

 




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