冷たい海賊は欲しいものを得られるのか   作:Connect

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33.竜人

 

 全てを思い出したルドガー。否、シン(・・)は襲ってくるモンスターを全て氷漬けにした。

 そして、倒れているリューのところへ駆け寄る。

 

「全く、こんな無茶をするとは…。オレのことなど、見捨てれば良いものを…」

 

 シンはリューの持っている回復薬を全て、彼女の傷口に振りかける。幸いにも傷口があまり深くなかったおかげで、大事には至っていない。

 回復薬のおかげで傷口も塞がったので、安静にしていれば問題はないと思われる。

 

「さてと、ここから脱出しないといけないが、おれは覇王色の覇気をダンジョンで使えない。恐らくオレが覇王色の覇気を使うたびに、下にいる謎の怪物(・・・・)が反応している。それも段々過剰に反応しているな…」

 

(最初は少しの反応だった筈だ。そうでなければ、18階層の時に過剰な反応をした筈だ。…もう、ダンジョンで覇王色の覇気を使うことは自殺行為だ)

 

 シンが考え事をしている時にも、この闘技場ではモンスターが生まれ続け、シンやリューを殺そうと向かって来る。

 だが、シンは即座にモンスターたちを氷漬けにしていく。それこそ、半径十メートル以内に侵入させないように行動していた。しかし、いつもよりコントロールが出来ていない。

 

(長期戦はヤバいな…。体調が悪過ぎる…。早くダンジョンを脱出しないと…)

 

「それに、このダンジョンには、強過ぎる怪物がいるからな…」

 

 パチッパチッパチッパチッ!!!!

 

 シンの独り言が彼女(・・)には聞こえたのだろう。彼女は大きな拍手をして、シンを出迎える。

 

「やっと、その存在に気づいてくれたのですね」

 

 シンの目の前に現れたのは、人に近い種族。恐らく、異端児(ゼノス)と思われる者。

 彼女(・・)の特徴は赤い瞳に、赤い長髪、そして、頭に生えている二本の赤い角。腰の辺りからは赤い鱗で覆われている尻尾が生えており、その足には二本の鋭い爪がある。

 彼女を種族で言うと、これは…、竜人に当てはまるだろう。

 

「誰だ?」

 

 シンは身体から冷気を発すると、リューをいつでも守れるように、彼女の前に立つ。

 そして、目の前にいる竜人をいつでも凍らせるようにしていた。異端児など、シンは全く信用していない。そもそも信用する価値すら無いと思っているぐらいだ。

 

「警戒するのは分かりますが、私は敵ではありませんよ。本当は分かっているでしょう?ねぇ、ご主人様(・・・・)

 

「ご主人様?何でオレがお前のご主人様になる?」

 

「アンタレスの時も、異端児たちの時も、私を震えさせる程のご褒美を授けてくれたではありませんか…」

 

「待て!!嫌な予感がする…。おい、まさか…?」

 

「ええ、そのまさかですよッ!!ご主人様ァァッ!!!」

 

 勢いよくシンに抱き着こうとする竜人。それをシンは普通に避けて、更に武装色の覇気を拳に纏い、彼女を殴り飛ばすのであった。

 

「相変わらず強いパンチで…。けれど、それが堪らなく気持ちいいですッ!はぁっ…はぁっ…はぁっ…!!!気持ちいいですッ!」

 

「何か、こいつのドMみが上がっている気がする…。というか、お前…あの飛竜なのか?」

 

「ええ!!生まれ変わりましたッ!!!」

 

 殴られて喜んでいるドMの竜人。その正体は赤き飛竜。

何故、赤き飛竜ではなく、異端児としての竜人なのか?その疑問がシンの頭に浮かぶ。

 だが、彼がその問いをすることはない。何故なら、赤き飛竜だった竜人が説明するからだ。

 

「………私は殺されました。あの恐ろしい怪物に…」

 

「怪物?」

 

「あなたが先程言葉にした謎の化物ですよ。あれはここよりも更に下の階層にいる。まさしく正真正銘の怪物」

 

 竜人の表情はとても険しく、怯えている。

それほどまでに恐ろしい存在が深層にはいるのだろう。

 

「異端児として生まれ変わったのは予想外でした。そして、ここまで完璧に記憶があるのは私ぐらいでしょう。この場所で生まれたのは母の意志…、いえ、これは私の意思だ。あなたと出会うために、私はここで生まれた。そう信じたい」

 

 異端児とは、前世で強い憧憬を持って事切れたモンスターの生まれ変わりである事が判明している。異端児が通常のモンスターだった頃、つまりは前世の記憶を夢に見る事があるらしい。

 しかし、赤き飛竜のように、ここまで前世の記憶があるのは大変珍しい事例だ。

 

「殺されたから待ち合わせ場所に来なかったのか…。1週間程待ったが現れないので、何かあったとは思っていたが…」

 

「…ええ。私の予想よりもアレ(・・)は早く動き出している。…目覚めの時は近い」

 

「下にいるのは何者だ?覇王色の覇気の質量が尋常ではない。しかも、アレはアイツ(・・・)の覇王色に似ている…」

 

「シン、アレは八年前に突如として現れた。私もその存在を知ったのは、とある女神(・・・・・)から教えられたからです。ガネーシャ・ファミリアに捕らわれていた私の正体を知った上で、女神は声をかけた」

 

「女神??」

 

「ええ。あの方に私は多くのことを教えてくださり、そして、彼女の権能で私は人の言葉を話せるようになりました。不思議ですよね、女神がモンスターを気にかけるなど…」

 

 竜人は赤き飛竜時代の事を懐かしげに話す。彼女の話を聞いて、シンには疑問が生まれる。

赤き飛竜に接触した女神とは何者だろうと…。

 

「その女神は誰だ?」

 

「………」

 

「どうした?」

 

 シンの質問を聞いて、何故か黙る竜人。女神の事を言うかどうか迷っているのか…。いや、そんな優しものじゃない。

 

「…すみません。それは契約により、話せない」

 

「契約?女神と契約しているのか?」

 

「ええ、魂の契約。生まれ変わってもそれは変わらない。…契約の内容は主に3つ」

 

 竜人は女神と交わした魂の契約をシンに話した。

・一つ目は、女神の名を他者に教えるのを禁ずる事。

・二つ目は、深層にいる怪物について、口外するのを禁ずる事。しかし、直接気づいた者がいた場合は、その者に怪物の事を話すことが可能となる。

・三つ目は、赤き飛竜は怪物を攻撃しない事。

 

「なるほど、神との契約か…。話せなかったのは理解しよう。だが、話せる事もあるだろう。怪物の正体を…」

 

「それが何なのかは分かりません。ですが、アレは母を苦しめている存在ではある。…その存在を私に教えた女神は言っていました。『アレは我の罪だ。…太陽神ニカ(・・・・・)』と…」

 

「太陽神ニカッ!?」

 

(…ここで何故その名前が出る?そもそも女神の言う罪とは何だ?…ニカなんて存在するのかよ)

 

 新たな疑問と太陽神ニカの存在。シンの頭は混乱状態だ。

 

「シン、私はあなたと出会い、確信しました。あの怪物を倒せるのはあなたしかいないと…。あなたは覇王色の覇気というものを扱える。それを扱うものしか、あの怪物を倒せないでしょう。少なくとも私はそのように思いました。だからこそ、あなたに母を救ってほしいのです。…太陽神ニカと呼ばれるものを倒してください」

 

「それがお前の願いか…」

 

「母から生まれた私の願いです。あの怪物は母は苦しめている。母を救ってください。…魂の契約により、私はあの怪物を殺すことが出来ない。いや、攻撃出来たとしても、また殺されるのが目に見えている。あの怪物だけは次元が違う」

 

「だろうな…。アレは尋常じゃない覇気を放つ怪物だ。…悲しいが分かってしまう。今のオレが倒せる相手じゃない。お前も分かっているだろう?」

 

「…ええ。あなたたちの言う覇王色の覇気。それを受けたあなたは明らかに負けていた」

 

 竜人の言うことは事実であり、シンもまた深層にいる怪物には勝てないと判断している。それが今の現実だと分かりきっている事だから。

 

 今、シンが気にするのは、下の怪物がいつ本格的に動き出すのかと言う事だ。もし、地上にでも進出すれば、全てを支配される。彼はそんな気がしていた。

 だからこそ、彼は竜人に尋ねる。

 

「正直分かりません。…あなたの覇王色の覇気に当てられ、過剰に反応するとは思いもしなかった…。私の予想では、半年後には、恐らく…」

 

「動き出すか…。そうなると、半年間はダンジョンに潜らない方が良いのかもな。少なくとも、覇王色の覇気を使うことは出来ない。刺激になってしまう」

 

「そうですね。……勝てますか?」

 

「………無理だろうな。今のままでは…。だから、修行しないといけないな。…大切な者たちを守るために」

 

 下にいる怪物が太陽神ニカだとしても、現状は敵だと判断出来てしまう。竜人が言っているのも理由の一つだが、直接覇王色の覇気を受けたシンは理解していた。アレは人類の敵となる邪悪なものだと…。

 

 シンとしてはダンジョンにいるうちに始末したいが、現状では不可能。彼はこの世界に迷い込んで、初めて…、本気で修行をしようと思うのであった。

 

「飛竜、一つ聞いても良いか?」

 

「構いませんが、こちらからも一つだけ言いたいことがあります?」

 

「何だ?まだ、何かあるのか?」

 

「ええ。……飛竜ではなく…、その…、名前で呼んで欲しいのです。…、その…、私に名前は無いので、名付けてください」

 

 竜人はもじもじ照れながらも、シンに名付けを要求する。

めちゃくちゃ真面目な話から竜人の名付けの話になり、シンは意表を突かれた表情をしていた。

 

「名付け?」

 

「…え、ええ。異端児たちには名前があります。私も欲しいし、呼ばれたい。付けて貰うなら、あなたに付けて欲しい」

 

「…名前。…名前か…、……フォスで良いか?」

 

「フォス、それが私の名前!!!!ありがとうございます!!!」

 

「……ああ」

 

(フォスとは、故郷の言葉では光を意味する。何故、オレがその名前をつけたのかは論理的説明は出来ない。ただ、彼女は世界の光となる存在だと思った。…少なくとも、一人で戦い続けた彼女には敬意を持つ。…まぁ、ドMは面倒だが…)

 

 彼女に名前をつけた後、シンは一つ質問をした。

 

「女神の風貌を教えろ。名前は女神に直接聞く」

 

「女神はとても大きくもあり、小さくもある。そこにはあり、そこにはない。…一つだけ確定しているのは女神だと言うことだけです」

 

「どういう事だ?」

 

「それが全てなのです」

 

 これ以上聞いても無駄だと、理解したのでシンはそれ以上聞くことはしない。そして、それは嘘ではないと分かっているからでもある。

 

「まぁ、今はここを脱出する必要がある。リューを早く地上に帰さないと…」

 

「……ジェラシーです」

 

「知らん。…オレは地上に戻るが、お前は?」

 

「私は異端児たちのところへ行きます。そこでしばらく今後の事を考えます。それに、彼等との連携も大切ですからね」

 

「そうか…」

 

 シンはリューを背に乗せて、闘技場から出ようと歩き出す。

 そして、竜人のフォスは異端児たちのいるところへと向かうのであった。

 

「………」

 

(シン、あなたは本当に不思議な人だ。……女神よ。これで良いのか私には分からない。少なくとも、今はまだ…、迷う)

 

 

 

 

 

 

 

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