全てを思い出したルドガー。否、
そして、倒れているリューのところへ駆け寄る。
「全く、こんな無茶をするとは…。オレのことなど、見捨てれば良いものを…」
シンはリューの持っている回復薬を全て、彼女の傷口に振りかける。幸いにも傷口があまり深くなかったおかげで、大事には至っていない。
回復薬のおかげで傷口も塞がったので、安静にしていれば問題はないと思われる。
「さてと、ここから脱出しないといけないが、おれは覇王色の覇気をダンジョンで使えない。恐らくオレが覇王色の覇気を使うたびに、下にいる
(最初は少しの反応だった筈だ。そうでなければ、18階層の時に過剰な反応をした筈だ。…もう、ダンジョンで覇王色の覇気を使うことは自殺行為だ)
シンが考え事をしている時にも、この闘技場ではモンスターが生まれ続け、シンやリューを殺そうと向かって来る。
だが、シンは即座にモンスターたちを氷漬けにしていく。それこそ、半径十メートル以内に侵入させないように行動していた。しかし、いつもよりコントロールが出来ていない。
(長期戦はヤバいな…。体調が悪過ぎる…。早くダンジョンを脱出しないと…)
「それに、このダンジョンには、強過ぎる怪物がいるからな…」
パチッパチッパチッパチッ!!!!
シンの独り言が
「やっと、その存在に気づいてくれたのですね」
シンの目の前に現れたのは、人に近い種族。恐らく、
彼女を種族で言うと、これは…、竜人に当てはまるだろう。
「誰だ?」
シンは身体から冷気を発すると、リューをいつでも守れるように、彼女の前に立つ。
そして、目の前にいる竜人をいつでも凍らせるようにしていた。異端児など、シンは全く信用していない。そもそも信用する価値すら無いと思っているぐらいだ。
「警戒するのは分かりますが、私は敵ではありませんよ。本当は分かっているでしょう?ねぇ、
「ご主人様?何でオレがお前のご主人様になる?」
「アンタレスの時も、異端児たちの時も、私を震えさせる程のご褒美を授けてくれたではありませんか…」
「待て!!嫌な予感がする…。おい、まさか…?」
「ええ、そのまさかですよッ!!ご主人様ァァッ!!!」
勢いよくシンに抱き着こうとする竜人。それをシンは普通に避けて、更に武装色の覇気を拳に纏い、彼女を殴り飛ばすのであった。
「相変わらず強いパンチで…。けれど、それが堪らなく気持ちいいですッ!はぁっ…はぁっ…はぁっ…!!!気持ちいいですッ!」
「何か、こいつのドMみが上がっている気がする…。というか、お前…あの飛竜なのか?」
「ええ!!生まれ変わりましたッ!!!」
殴られて喜んでいるドMの竜人。その正体は赤き飛竜。
何故、赤き飛竜ではなく、異端児としての竜人なのか?その疑問がシンの頭に浮かぶ。
だが、彼がその問いをすることはない。何故なら、赤き飛竜だった竜人が説明するからだ。
「………私は殺されました。あの恐ろしい怪物に…」
「怪物?」
「あなたが先程言葉にした謎の化物ですよ。あれはここよりも更に下の階層にいる。まさしく正真正銘の怪物」
竜人の表情はとても険しく、怯えている。
それほどまでに恐ろしい存在が深層にはいるのだろう。
「異端児として生まれ変わったのは予想外でした。そして、ここまで完璧に記憶があるのは私ぐらいでしょう。この場所で生まれたのは母の意志…、いえ、これは私の意思だ。あなたと出会うために、私はここで生まれた。そう信じたい」
異端児とは、前世で強い憧憬を持って事切れたモンスターの生まれ変わりである事が判明している。異端児が通常のモンスターだった頃、つまりは前世の記憶を夢に見る事があるらしい。
しかし、赤き飛竜のように、ここまで前世の記憶があるのは大変珍しい事例だ。
「殺されたから待ち合わせ場所に来なかったのか…。1週間程待ったが現れないので、何かあったとは思っていたが…」
「…ええ。私の予想よりも
「下にいるのは何者だ?覇王色の覇気の質量が尋常ではない。しかも、アレは
「シン、アレは八年前に突如として現れた。私もその存在を知ったのは、
「女神??」
「ええ。あの方に私は多くのことを教えてくださり、そして、彼女の権能で私は人の言葉を話せるようになりました。不思議ですよね、女神がモンスターを気にかけるなど…」
竜人は赤き飛竜時代の事を懐かしげに話す。彼女の話を聞いて、シンには疑問が生まれる。
赤き飛竜に接触した女神とは何者だろうと…。
「その女神は誰だ?」
「………」
「どうした?」
シンの質問を聞いて、何故か黙る竜人。女神の事を言うかどうか迷っているのか…。いや、そんな優しものじゃない。
「…すみません。それは契約により、話せない」
「契約?女神と契約しているのか?」
「ええ、魂の契約。生まれ変わってもそれは変わらない。…契約の内容は主に3つ」
竜人は女神と交わした魂の契約をシンに話した。
・一つ目は、女神の名を他者に教えるのを禁ずる事。
・二つ目は、深層にいる怪物について、口外するのを禁ずる事。しかし、直接気づいた者がいた場合は、その者に怪物の事を話すことが可能となる。
・三つ目は、赤き飛竜は怪物を攻撃しない事。
「なるほど、神との契約か…。話せなかったのは理解しよう。だが、話せる事もあるだろう。怪物の正体を…」
「それが何なのかは分かりません。ですが、アレは母を苦しめている存在ではある。…その存在を私に教えた女神は言っていました。『アレは我の罪だ。…
「太陽神ニカッ!?」
(…ここで何故その名前が出る?そもそも女神の言う罪とは何だ?…ニカなんて存在するのかよ)
新たな疑問と太陽神ニカの存在。シンの頭は混乱状態だ。
「シン、私はあなたと出会い、確信しました。あの怪物を倒せるのはあなたしかいないと…。あなたは覇王色の覇気というものを扱える。それを扱うものしか、あの怪物を倒せないでしょう。少なくとも私はそのように思いました。だからこそ、あなたに母を救ってほしいのです。…太陽神ニカと呼ばれるものを倒してください」
「それがお前の願いか…」
「母から生まれた私の願いです。あの怪物は母は苦しめている。母を救ってください。…魂の契約により、私はあの怪物を殺すことが出来ない。いや、攻撃出来たとしても、また殺されるのが目に見えている。あの怪物だけは次元が違う」
「だろうな…。アレは尋常じゃない覇気を放つ怪物だ。…悲しいが分かってしまう。今のオレが倒せる相手じゃない。お前も分かっているだろう?」
「…ええ。あなたたちの言う覇王色の覇気。それを受けたあなたは明らかに負けていた」
竜人の言うことは事実であり、シンもまた深層にいる怪物には勝てないと判断している。それが今の現実だと分かりきっている事だから。
今、シンが気にするのは、下の怪物がいつ本格的に動き出すのかと言う事だ。もし、地上にでも進出すれば、全てを支配される。彼はそんな気がしていた。
だからこそ、彼は竜人に尋ねる。
「正直分かりません。…あなたの覇王色の覇気に当てられ、過剰に反応するとは思いもしなかった…。私の予想では、半年後には、恐らく…」
「動き出すか…。そうなると、半年間はダンジョンに潜らない方が良いのかもな。少なくとも、覇王色の覇気を使うことは出来ない。刺激になってしまう」
「そうですね。……勝てますか?」
「………無理だろうな。今のままでは…。だから、修行しないといけないな。…大切な者たちを守るために」
下にいる怪物が太陽神ニカだとしても、現状は敵だと判断出来てしまう。竜人が言っているのも理由の一つだが、直接覇王色の覇気を受けたシンは理解していた。アレは人類の敵となる邪悪なものだと…。
シンとしてはダンジョンにいるうちに始末したいが、現状では不可能。彼はこの世界に迷い込んで、初めて…、本気で修行をしようと思うのであった。
「飛竜、一つ聞いても良いか?」
「構いませんが、こちらからも一つだけ言いたいことがあります?」
「何だ?まだ、何かあるのか?」
「ええ。……飛竜ではなく…、その…、名前で呼んで欲しいのです。…、その…、私に名前は無いので、名付けてください」
竜人はもじもじ照れながらも、シンに名付けを要求する。
めちゃくちゃ真面目な話から竜人の名付けの話になり、シンは意表を突かれた表情をしていた。
「名付け?」
「…え、ええ。異端児たちには名前があります。私も欲しいし、呼ばれたい。付けて貰うなら、あなたに付けて欲しい」
「…名前。…名前か…、……フォスで良いか?」
「フォス、それが私の名前!!!!ありがとうございます!!!」
「……ああ」
(フォスとは、故郷の言葉では光を意味する。何故、オレがその名前をつけたのかは論理的説明は出来ない。ただ、彼女は世界の光となる存在だと思った。…少なくとも、一人で戦い続けた彼女には敬意を持つ。…まぁ、ドMは面倒だが…)
彼女に名前をつけた後、シンは一つ質問をした。
「女神の風貌を教えろ。名前は女神に直接聞く」
「女神はとても大きくもあり、小さくもある。そこにはあり、そこにはない。…一つだけ確定しているのは女神だと言うことだけです」
「どういう事だ?」
「それが全てなのです」
これ以上聞いても無駄だと、理解したのでシンはそれ以上聞くことはしない。そして、それは嘘ではないと分かっているからでもある。
「まぁ、今はここを脱出する必要がある。リューを早く地上に帰さないと…」
「……ジェラシーです」
「知らん。…オレは地上に戻るが、お前は?」
「私は異端児たちのところへ行きます。そこでしばらく今後の事を考えます。それに、彼等との連携も大切ですからね」
「そうか…」
シンはリューを背に乗せて、闘技場から出ようと歩き出す。
そして、竜人のフォスは異端児たちのいるところへと向かうのであった。
「………」
(シン、あなたは本当に不思議な人だ。……女神よ。これで良いのか私には分からない。少なくとも、今はまだ…、迷う)