冷たい海賊は欲しいものを得られるのか   作:Connect

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34.氷風No.1

 

 

 

 ──────リュー・リオンは夢を見ていた。

 

 ──────それは懐かしい過去の記憶。

 

 

 ──────『まだ、来ちゃ駄目よ』

 

 

 かつての大切な仲間の声が聞こえた瞬間でもあった…。

 

 

【五年前】

 

 闇派閥により、リューの仲間たちは死んだ。それは彼女の中に巨大な復讐の炎を燃やすきっかけには十分過ぎるもの。

 仲間を奪った闇派閥、それに与する者たちを彼女は滅した。

 復讐を成し遂げたリューに残るのは、達成感ではない。ただの虚無感しか残っていなかった。

 

 リューは死を覚悟して、暗く汚い路地裏で最期を迎えようとしている。そんな彼女に声をかけたのは、温かい手を持つ、今の同僚シル・フローヴァだった。

 

「大丈夫?」

 

 その言葉を聞いた瞬間に、リューの意識は深く静んだ。

次に彼女が目覚めたのは、それから3日後となる。

 

「……ここは」

 

 見慣れない天井に、見慣れない部屋。ここが何処なのかリューには分からない。彼女はベッドから起き上がろうとすると、ズキッとした痛みに襲われる。

今まで無理をして、行動していたのだ。いくら手当て(・・・)を行われていても、まだ完全に回復はしていない。

 

「……」

 

(手当てされている…。一体誰が?)

 

 そう、リューは手当てされているのだ。彼女がそれに気づいた時に、部屋のドアがパタンッと静かに開く。一体誰が入ってくるのかと、彼女は身構える。

 

「あっ!起きたんですね!!良かったッ!!」

 

 部屋に入って来たのは、可愛らしい少女。彼女は豊穣の女主人店員シル・フローヴァ。

倒れていたリューを拾い、態々ここまで運んで来た人物だ。

 

「……貴方は」

 

「まだ無理したら駄目ですよ。3日も寝込んでいたんですから。怪我はまだまだ完治してないですよ」

 

 シルはベッドの横にある机の上で何やら準備を進めていた。

そんな彼女を他所に、リューは生き延びてしまったと悲壮感を漂わせている。

 

「私、シル・フローヴァといいます。ここは私がお勤めしている酒場の離れなんです。路地裏に倒れていた貴方をここに運ばせてもらって…」

 

「どうして」 

 

「え?」

 

 シルの言葉が言い終わる前に、リューはその死んだような表情をしながら、話をかぶせる。

 

「どうして、私を助けた?」

 

 何もかもを失い、仇敵を討った今、リューは生きる意味を見出せない。もう死んでも良いと思っている。それ故にシルに助けられたところで、リューには何も響いていない。

 そんなリューに対して、シルは困ったような表情を浮かべながらも、言葉を出す。

 

「えっと…、雨に打たれてボロボロになっている人を放ってはおけませんよ」

 

 シルの至極真っ当な言い分に、リューは納得する。

 そして、それと同時に自身がお尋ね者の【疾風】と知って、同じ事が言えるのかと思うのであった。

それを確かめるかのように、リューは言葉を口に出す。

 

「あんなところで倒れていた私を…怪しまないのか?」

 

「今のオラリオは、ずっと物騒ですし…、訳ありの人は慣れっこなので…。それに路地裏で倒れているなんて、珍しくありませんよ。案外、いますから」

 

 そのシルの言葉は、この時から3年前に路地裏から拾われてきた酒好きの男の事を言っているのだろう。

事の詳細を知らないリューは当然、首を傾げる。

 

「エルフさん、貴方のお名前はなんと言うんですか?」

 

「知って、どうする?」

 

「貴方の名前を呼びたいからです!!」

 

 ニコニコと笑顔を浮かべながら話すシルに、リューは何処かやり難さを感じる。調子が狂うと思っていた。

 

(それに、どうして私は、あの時、彼女の手を振り払わなかったのか…)

 

 エルフは他者の接触を容易に許さない。それはリューも例外ではない。初見の者に握手をされようものなら、いつものように手を振り払っていた筈だ。 

 でも、シルの手をリューは振り払わなかった。彼女がそうしなかったのは、シルで二人目となる。もう一人はこの世にはいないアストレア・ファミリア団長アリーゼ・ローヴェルだ。

 

(アリーゼはもういない。そもそも、彼女はアリーゼと似ても似つかない。それなのに……)

 

「リュー…、…リュー・リオン」

 

 リューは渋々、自分の名前を口に出す。それに対して、シルは嬉しそうに笑顔を見せた。

 

「リューさん!!いい名前ですね!!」

 

 パァーッと笑顔満開のシルに、やはり目の前の少女にやり難さを感じるリューであった。彼女がそんな事を考えていると、突如としてシルから元気になるおまじないをかけられる。この時もまた、シルに触れられたのだが、彼女は振り払うことは無かった。その事を彼女は不思議だと思う。

 

「あれ?笑顔になりませんか?おかしいですね…」

 

 シルがそう呟いた瞬間に、部屋のドアが勢い良く開いた。

今度は誰が入って来るのかと、リューはその人物を注力する。

 

「寝たきりのエルフが起きたのかい?」

 

 部屋に入って来たのは背の高いドワーフ。彼女こそ、この店、豊穣の女主人の女将ミア・グランドだ。

何か不機嫌な事があったのか、ミアの表情はとても険しい。

 

「はい!リュー・リオンさんというそうです。リューさん、この人は私のお勤め先の女将さんで、ミアさんと言います!!」

 

「………」

 

「ミアお母さん?どうしてそんな不機嫌なんですか?」

 

「何故かって?それはアンタとシン(・・)のせいだよ!!ただでさえ人が足りない時に面倒を増やして…。扱いが面倒なエルフを拾ってくるんじゃないよ!!」

 

「でも、ミアお母さんも許してくれたじゃないですか。というか、シンが何かやったんですか?」

 

 シンが何をやらかしたのか、大体シルは見当が付いているが、敢えてミアに聞くのであった。

 

「いつも通りのサボりだよ!!アンタとシンは腰に紐でも付けて逃げられないようにするべきだね…」

 

「もう、そんな冗談言わないでください」

 

「冗談だと思っているのかい?」

 

「はい!!」

 

 シルは満面の笑みを浮かべる。それに対して、ミアは頭を抱えるのであった。

 リューはシルとミアのやり取りを見て、これは何なんだと思う。そんな彼女にミアはその正体を看破する。

 

「ひっぺかした服や荷物を見て分かったが、アンタ【疾風】だね?」

 

 その言葉を聞いて、リューの目つきが変わる。ギロッ!!とミアを睨み殺気立っていた。

 だが、ミアはそれを軽く受け流す。彼女はそんな殺気など、自分には効かないとでも、言うような表情をしていた。

 

「…私をギルドに突き出すか?」

 

 リューは普通の者が、お尋ね者の【疾風】をこのまま放置するとは思えない。

しかし、彼女の思考とは裏腹に、ミアから出た言葉は、彼女の全く予想出来ていない言葉だった。

 

「どうしてアタシがそんな面倒な事をしなきゃならないんだよ、アホンダラッ!!!」

 

「なっ!?」 

 

「動けるようになったんだったら、後は好きにしな。ただし、3日も泊めてやったんだ。相応の宿代(かね)は払っていきなよ」

 

「ッ!?」

 

「ねぇ、リューさん。しばらくここにいませんか?この店にいれば安全ですし、せめてほとぼりが冷めるまでは…」

 

 リューの正体がお尋ね者の【疾風】だと知っても、ミアは宿代を払ってくれれば見過ごすと言う。

 そして、シルもまた店にいても良いと言う。普通、一級のお尋ね者なら、恐れるか売るかの2択だ。だが、ミアもシルもそんな事はしない。

 

「……ッ!!私には…」

 

「リューさん?」

 

「私にはッ!!もう何も残っていないッ!!仲間も帰る場所もッ!!何も残っていない…、…愚かな行いをした私は、あの時死ぬべきだった…」

 

(…だから、お願いだ。…アリーゼを思い出してしまう、その笑みで手を差し伸べないで…。これ以上、この心をかき乱さないで…)

 

 悲痛の叫びを口に出すリューに、シルはとても心配そうにしているが、ミアは面倒そうに呆れていた。

 

「これだから神経質なエルフは融通が効かないし、面倒臭い。何もしなきゃ消えていた命。運が良かったと思えば良いだろうに…。しかも、その言い草。いつからエルフは恩人に礼も言えない程、礼儀知らずになったんだい?」

 

「…ッ!?粗暴なドワーフに分かるものかッ!!私には生きる理由なんて存在しな…」

 

 くうーーーーーぅッ!!!

 

 リューの言葉が言い終わる前に、彼女の腹から大きな音が部屋に鳴り響くのであった。

 その場の空気と状況が相まみえて、顔を真っ赤にして、とても恥ずかしくなるリュー。

 

「ふっ…、アンタの体は生きたがっているみたいだけどね」

 

「くっ……」

 

(3日も寝ていたせいもあるが、何故今…っ)

 

「ミアお母さん」

 

「ん?」

 

「お願いしますね」

 

「仕方ないね」

 

 シルが何をお願いしたのか理解したミア。彼女はリューに飯を食わせてやると言葉にした。

やはりエルフ…、というよりも意地が重なったのか、リューはミアの申し出を断ろうとする。

 

「ウダウダうるさいよ!!言うことを大人しく聞きな!!この頑固エルフッ!!」

 

 ミアに頭を抑えられてリューは全く動けない。その力の強さも驚くべきものだが、それよりも反応すら出来なかった速さ。

 リューは目の前にいるドワーフが只者ではないと察する。

 

「着替えを済ませて、さっさと来な」

 

「ぐっ…」

 

「ミアお母さんは怒らせると凄く怖いんです。付いて行った方が良いと思いますよ」

 

「………くっ」

 

 選択肢は一つしかなく、その事実にリューが悔しがっていると、下の方からミアの怒号が響いてくる。

その大きな声が響き、建物は揺れていた。

 

「何処に行ってたんだいッ!!こんな忙しい時にサボるんじゃないよ!!当分、休みはないと思いなッ!!」

 

「許しはないのかッ!?これでも忙しかったんだぞッ!?」

 

 ミアと話している、というよりも怒られている人物がいる。その人物の声の感じから、怒られているのが男だと、リューは察する。

 

「ふふっ…、相変わらずね」

 

 シルは下の様子が想像出来たのか、とても笑顔だ。

 着替えを済ませたリューは、シルに案内される形で階段を降りていく。降りた先には、飲食店らしくテーブルや椅子があり、そこの一つにリューは座るよう促される。

 

 リューは椅子に座ると、そこからは厨房が見えた。厨房では、店の女将ミアが料理をしている。

 しばらく待っていると、厨房からミアがリゾットを運んできた。

 

「冷めない内に食べな」

 

「ミアお母さんの料理はとても美味しいんですよ」

 

 拒否権は無いことを悟り、リューはそのリゾットを食べる。

 

「…味が濃い。私はもっと素朴な味わいの方が好みだ。…ドワーフの調理は大雑把過ぎる。腕の立つエルフの料理はもっと繊細だ…」

 

「そうかい」

 

「…けれど、温かくて美味しい」

 

 リューのその言葉を聞いて、笑みを浮かべるミアとシル。

気づけばリューは、そのリゾットを完食していた。

 

「美味い飯を食べる。生きていく理由なんて、それぐらいで良いのさ。……さて、完食してくれて良かったよ。貴重な食材も注ぎ込んだからね」

 

「……何を言っている?」

 

「まさかタダでごちそうしたとでも思っているのかい?アタシは飯を食わせるからには必ず代を取る。しっかり支払ってもらうよ」

 

 それはまさしく横暴の極みだ。リューは即座に反論しようとするが、その前にミアは告げる。

 

「お代は締めて5000万ヴァリス!!」

 

「ッ!!?バカなッ!?」

 

「その様子じゃ払えないようだ。なら、しょうがない。アンタには借金分、アタシの店で働いてもらう。ちょうどいい、これで人手不足も少しはマシになるだろう」

 

 リューは詐欺で横暴だと反論するが、ここは迷宮都市オラリオで何が起きるか分からない場所だとミアから反論される。

彼女はミアでは埒が明かないと思い、シルの方へ助け舟を貰おうと振り向くが、シルもミア側だ。

 

「このお店ではミアお母さんの言うことは絶対何ですよ」

 

「シルの言う通りだ。ここではアタシが法なのさ。アタシが白と言えば、それは黒でも白だ」

 

 こうして、リューはミアとシルの策略にまんまと嵌められ、豊穣の女主人の店員となる。

 あまりの物事が決まるスピード感に唖然としていると、一人の男が箒を持って、店の中へ入って来た。彼こそ、豊穣の女主人で唯一の男性店員であるシンだ。

 

「ミア。表の掃除、終わったぞ」

 

「次は野菜の皮むきだ。大量に仕入れたから全て終わらせるんだよ!!サボった分はきっちりと働いてもらうからね!!」

 

「ヘイヘイ、わかってるよ。……ん?」

 

 店に入って来たシンは、リューを見て、少しだけ立ち止まる。

 エルフは特に物珍しく無いが、リューの正体が【疾風】だと勘づいたのなら見るのも納得だろうと、リューは思う。

 彼女が警戒していると、シンの口から出た言葉からは【疾風】の事ではないものだった。

 

「何だ、その酷い面は?まるで、死人だな。シルのアホが拾ってきたエルフか…。何とも面倒くさそうな奴だな」

 

「なッ!?」

 

 これがシンとリューの最初の出逢いだった。

 

 

 

 

 

 

 




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