「さて、バケモノ退治の時間だよ!!」
そう言ったミアは、倒れているジャガノートを殴り飛ばす。
そして、そんな彼女と共闘しているのは、ヘファイストス・ファミリア団長である椿・コルブランドだ。
「ヘファイストス・ファミリアの団長までッ!?」
シンとリューが椿とミアの出現に驚いていると、二人の傍らに
「ミア母ちゃん達だけじゃないのニャ!!!」
「私達も来たよ!!!」
「まずは回復薬を飲むニャ!!!」
「アーニャ!?ルノア!?クロエ!?あなたたちまでッ!?」
豊穣の女主人で働く同僚たち。アーニャ、ルノア、クロエがシンとリューを助けに来た。
彼女たちは疲労状態のシンとリューに、回復薬を飲ませる。
「シン、珍しくダウンしてるね」
「ルノア、…仕方ないだろう。水の中に浸かっているから、力が抜けるんだよ。こればかりはどうしようも出来ない。能力者とはこういうものだ…」
「泳げないどころか、力も抜けるなんてね。水の中じゃ、シンも役に立たないわね」
「うっ…」
ルノアの指摘に対して、シンはぐうの音も出ない。ここまで悪魔の実のデメリットに翻弄されるのは、シンとしても随分と久しい。改めて、彼は自身が悪い意味で能力者なのだと、自覚させられた。
「…ミアの奴が向こうの瓦礫を吹き飛びしたおかけで、ありがたい事に水が流れ出ている。もう一つの通路の方も瓦礫を退かして、水を溜まらないにしなければ…」
「なら、私とクロエでやるよ。シンはリューと休んでて」
「良いのか?」
「任せるニャ!!ルノアは脳筋だから、すぐに壊せるニャ!!」
「脳筋は余計だ!!」
言い争いをしながらも、ルノアとクロエはすぐさま行動に移す。彼女たちなら、瓦礫を破壊するのは容易だろう。
同僚たちが助けてくれる。その事実が、シンの表情を少しだけ緩める。そんな彼を見たリューもまた少しだけ笑みを浮かべていた。
「仲間とは本当に良いものですね、シン」
(仲間…。私はその信頼に応えなければ…。あの最悪を乗り越えなければならない…)
「……そうかもしれないな」
(これが本来の…、…いや、オレは…)
「シン、どうしたのニャ?」
「何でもない」
(それにしても、ミアの奴…。互角以上にジャガノートと戦っている。やっぱり、アイツも規格外の強さだ。もし、ミアが冒険者に復帰したら、レベルをすぐに上げるだろうな…)
椿・コルブランドの援護があるとはいえ、ミアは前線を崩すどころか、むしろジャガノートを追い詰めている。
その激しい攻防を仕掛ける彼女は第一級冒険者の中でも、間違いなく上位に入る強さだ。流石はフレイヤ・ファミリアの元団長。Lv.6まで上り詰めた実力者だ。
「グオオオオオオオオオオオォォッ!!!」
ジャガノートはグルグルと回転すると、その場に巨大な竜巻を発生させた。
それはミアと椿を吹き飛ばそうと暴風を発生させているが、二人とも吹き飛ばされることなく、その場で踏ん張っている。
「面倒な風だね!!こういう時は、こうやるのさッ!!ほらッ!!!」
ミアは手に持っているスコップを竜巻の中心目掛けて、投げ飛ばす。それは勢いが落ちることなく、激しい竜巻を貫通して、ジャガノートに直撃した。
ドンッ!!という音がした瞬間に、竜巻は消え、ジャガノートが勢いよく落下する。ジャガノートの頭には、先ほどミアによって、投げ込まれたスコップがめり込んでいた。
「「「「「ええええぇぇーーーーーーーッ!!!!??」」」」」
シン、リュー、アーニャ、クロエ、ルノアはミアの行動とその結果にとても驚くのであった。彼等が驚くのも無理はない。
たった一つのスコップでミアは、ジャガノートを墜落させたのだから。
「椿ッ!!奴の脚を斬り落としな!!そして、クロエとルノア!!早く瓦礫を退かしな!!水が邪魔だよ!!!」
「任された!!!」
「「はい!!」」
椿、クロエ、ルノアはミアの指示通りに行動する。
その間にジャガノートはゆっくりと立ち上がり、戦闘態勢に入ろうとする。だが、再びミアのパンチを食らい、ダウンさせられた。ミアがいる限り、逃げる事は叶わない。
「逃がすわけないだろう!!寝てなッ!!」
ジャガノートの頭に刺さったスコップを、ミアは勢いよく引き抜くと、すぐにジャガノートの身体を、そのスコップを使い、攻撃していく。
(水が流れていく…。ルノアとクロエが瓦礫を破壊したのか)
身体の三分の一まで、シンは水に浸かっていた状態だった。だが、水が流れ出たおかげで、溜まっていた水はかなり引いて行った。それにより、シンは脱力から解放される。
そして、それをジャガノートと戦いながら確認したミアは全員に指示を出し始めた。
「全員!!アタシが合図したら最大限の力でコレを攻撃しな!!決め切るよ!!見逃すんじゃないよッ!!」
指示を出し終えたミアは、ジャガノートの後方へ瞬時に移動して、ジャガノート尻尾を掴んだ。
そして、グルグルとハンマー投げをするかのように回り始める。当然、ジャガノートは脚が地面から離れ、何も出来ずに回されている状態だ。
「はあああああああぁぁぁッッ!!!!!」
ミアは気合の入った声と共に、ジャガノートを地面に叩きつけた。
そして、うねうねと動いている尻尾をスコップで斬り落とす。
「グオオオオオオオオオオオォォッ!!!」
ジャガノートの悲鳴が響き渡る。だが、ジャガノートに鳴いている暇など、最早ありはしない。
なぜなら、ジャガノートを討伐するために、彼女たちが攻撃を仕掛けるからだ。
「今だよッ!!」
「まずは手前から始めさせてもらうぞ!!」
椿は自らの最高傑作である魔剣をジャガノートに振るう。
通常、ジャガノートの身体は魔力反射の能力を備えているが、数々のモンスターを取り込んだ事により、ジャガノート元来の身体はほとんどない状態。故に魔剣から放たれる力は反射させることなく、ジャガノートの身体を破壊していく。
「なんだ!!まだ死なぬか!!」
椿が渾身の一撃を叩き込んでも、ジャガノートは完全に破壊されない。
「次はミャーたちの番ニャ!!」
「良いところ見せるよ!!」
「行くニャ!!」
アーニャ、ルノア、クロエはジャガノートの脚をそれぞれ破壊していく。これにより、ジャガノートの脚は全て破壊され、立ち上がる事が出来ない。しかも、今のジャガノートは椿の魔剣により、身体もボロボロの状態だ。
「シンッ!!リューッ!!」
「了解。……リュー、行くぞ」
「……ええ」
(
リューは想う。かつての仲間たちを…。
「……『今は遠き森の空。無窮の夜天────』」
リューは仲間を想いながら、詠唱を開始した。
そして、そんな彼女と共にシンはジャガノートのところへと走り出す。彼の両手には武装色の覇気が纏われていた。
「今出来る渾身の一撃を放つ…。『
シンの両手、それぞれから繰り出される武装色の覇気を纏った圧力波。それはジャガノートの両翼を容赦なく破壊した。
これにより、ジャガノートは飛んで逃げる事が出来ない。
「後は頼むぞ、リュー」
シンは前を真っ直ぐと歩くリュー・リオンに言葉をかけた。
「『愚かな我が声に応じ、今一度星火の加護を──』」
(私は忘れない…)
「『汝を見捨てし者に光の慈悲を──』」
(アリーゼたちとのかけがえの無い日々を…)
「『来れ、さすらう風、流浪の旅人──』」
(あの日の絶望を……)
「『空を渡り荒野を駆け、何物よりも疾く走れ──』」
(その上で私は前を進む…。進むことが出来る…)
「『───星屑の光を宿し敵を討て』!!」
(なぜなら、私は一人ではないのだから!!)
「『ルミノス・ウィンド』!!!!」
風と光の力を持つ無数の大光玉が、ジャガノートを破壊していく。魔法を放ち終えたかに思われたが、リューの周りには、まだ10個の大光玉が浮遊している。
「
リューは最後の一撃をジャガノートに放つ。
「『
ジャガノートに放たれた渾身の一撃。ジャガノートの身体は跡形もなく破壊された。それが意味するのは、ジャガノートを討伐したと言うことに他ならない。
「「「勝ったッ!!!」」」
アーニャ、クロエ、ルノアが喜びの声を上げる。
(皆、私は勝ちました…。……ありがとう)
リューは疲労に限界が来たのかフラフラと倒れそうになる。そんな彼女をシンは倒れないように支えた。
「お疲れ様、リュー」
「シンもお疲れ様です」
「互いに疲れたな…。地上に帰ったら、とりあえずオレは酒を飲みたい。…そして、これからの事を考えるよ」
(とりあえずは、鍛えないとな…。約半年の猶予しかないが、出来るところまでは感覚を戻さないといけない)
深層にいる怪物の正体は【太陽神ニカ】。その存在をシンは伝承でしか聞いた事がないので、実際どのようなものかは分からない。
だが、あの圧倒的かつ凶悪な覇王色の覇気を、その身に受けたシンとしては、放置する事など出来ないでいる。
「……」
(覇王色の覇気を鍛えたいところだが、アレは訓練云々の話ではなく、心身の成長が鍵だ…。……うん、無理だな)
沈黙しているシンを見て、リューは変に勘違いしてしまう。
「これからの事?…………ッ!!!?」
(はっ!!?まさかッ!!?)
シンは特訓や深層にいる怪物のことを考えていたが、リューは違うことを思い浮かべていた。
その証拠に、彼女の顔は今までに見ないほど真っ赤だ。
「シン…、あの、…、その…、アレは…、」
(まさか、将来の事っ!!?た、確かに、彼に愛していると言いましたがッ!!?でもッ!!あれはあの時の状況でッ!勢いでッ!!いや、シンが私との将来を考えてくれているのなら、私は…喜ぶべきだッ!!これ以上の幸福はない!!よし!!アリーゼ、みんな、見守っていてください!!)
「リュー?」
(急に顔を真っ赤にして、熱があるのか。…いや、それは当然か…。オレを助けるために水の中に飛び込んだ。しかも、その後疲労困憊の状態で戦った。熱が出てもおかしくない)
「あの、シン!!」
「…ど、どうした?」
リューが急に大きな声を出したので、シンは驚く。
リューは顔を真っ赤にしながらも、シンに自身の想いを伝えようと必死だ。
「これからの事というのは…その…、」
「…あぁ。色々と考えないといけない」
「え、ええ。そうですね…」
「まずは、覇気と能力の感覚を戻さないとな…。修行しないといけない」
「ええ……。ん?……修行?……修行とはッ!?」
あまりの勢いにリューは自身の顔をシンにの顔に近づけてしまう。普段の彼女なら恥ずかしがるところだが、今はシンのこれからの事で頭がいっぱいの状態。冷静になっていない。
「お、落ち着け。今回の件で、色々と自分の不甲斐なさを実感した。それに倒さなければいけない怪物の存在も知った。だから、地上に戻ったら、鍛え直すことにした」
「……………」
「リュー?」
「……いえ、何でもありません」
(私は何という勘違いをしていたのだ!!私は…、この気持ちが抑えられないでいる!!…しかし、シンも悪い。…彼に私の言葉は届いていないのだろうか…。これは私が聞くべきか…。アリーゼ!!私はどうすれば良いのですか!!!)
────『もしあんたの手を握れる男がいたら、それが運命の相手。だから絶対逃がしちゃだめよ、リオン』
かつての仲間の言葉が、リューの頭の中に流れるのであった。