ジャガノート討伐から約1週間後。ミアたちの助けもあり、シンとリューは地上へと帰還する。
その帰還する道中、安全階層である18階層にて、シンとリューの無事を願っていたベルたち派閥連合とシンたちは合流した。ベルはシンとリューが無事だった事をとても喜んでいた。
ボールスの報告もあり、殺人事件の犯人は闇派閥の者たちの仕業であり、【疾風】はそれに巻き込まれた死亡したと報告された。これにより、【疾風】を狙う者はいなくなるだろう。
そして、それぞれがそれぞれの日常を再開している中、リューは怪我を多くしていたので、ディアンケヒト・ファミリアが経営する治療院で療養していた。
「…暇です」
窓から見える街の景色を見ながら、リューはそう呟く。彼女はこの治療院に3日程いる。
治療院の長とも言えるアミッドの退院許可が出るまで、リューはここを出る事が出来ない。
ちなみに、アミッドの退院許可が出るのは、あと2日である。
あと2日間、リューはこうして過ごさなければならない。そんな彼女に対して、見舞いに来ていたシルは笑みを浮かべて優しく言葉を返す。
「そんなこと言えるのは今のうちだけだよ。仕事に復帰したら、ミアお母さんがいっぱい働かせるからね」
「うっ…、それは覚悟しなければ…」
ミアにたくさん働かせる光景を思い浮かべたリューは、今この瞬間に与えられている暇というのを堪能しようと思う。
そんな彼女を見たシルは、リューの反応が面白かったのか小さく笑っていた。
「本当にリューもシンも無事で良かった。二人とも全く帰って来なくて、とても心配したんだからね。もうプンプンのお怒り状態だったよ」
「す、すみません…」
「ふふっ、お怒り状態は冗談だけど、心配はしたよ。二人が無事に帰って来てくれて、とても嬉しい。こうして、リューと触れ合えて、私は幸せだよ」
「……シル。…私もです」
シルの手の上に、リューは自身の手を重ねた。大切な親友であるシルと触れ合える。それはリューにとって、無事に帰って来たのだと感じられるものだ。
「そう言えば、シンはどうしていますか?」
リューは治療院に入ってから、シンと話をしていない。ミアやシル、豊穣の女主人のメンバー、ヘスティア・ファミリアのメンバーなどが、お見舞いにやって来たが、シンだけはここに来ていない。
そもそもシンも1日だけ治療のため、治療院で過ごしていた。彼が退院してからの2日間、リューは彼と会っていないのだ。
「シンはお店で忙しく働いているよ。ミアお母さんが睨んでいるから、サボれないみたい」
「そうですか…。シル、…その…、相談しても良いですか?」
「リューが相談?珍しいね」
リューからの相談は珍しい。シルは彼女から何か大事な話があるのだと察する。
「シンに愛していると言ったのですが、私はどうすれば良いのでしょうか?」
「えっ!?ええええええええぇぇぇッ!!!?ほ、本当なのッ!?」
リューの口から発せられた言葉。シン関係の何かだと、シルはリューの態度から何となく分かっていた。
だが、まさかのリューがシンに告白したという、とんでもない報告。シルとしては、何がどうなって、どうすれば、告白になったのか興味津々の状態だ。
「それで返事はッ!!?」
「それが…、その…、勢いということもありまして、返事は貰っていません。…それにあの時のシンは記憶を失っていましたから。もしかしたら、記憶が戻った時に混同して、無かった事になっているのかもしれません。シル、私はどうすれば良いのでしょうか…?」
「うーん、もう一度告白してみたら?」
「なっ!!?」
もう一度告白する。それは確かに確実ではあるが、勢いに任せて愛していると言った手前、もう一度と言うのは、リューとからしてみれば、かなりハードルの高いものだった。
「ですが、断られたらと思うと…」
「そんな事を言っていると、何処の誰かも分からない人に取られちゃうよ。……シンは今日の休憩時間に、リューのお見舞いへ行くって言っていたから、その時に…」
「シンが見舞いにッ!?ほ、本当ですかッ!?」
「うん。オシャレでもして、シンを待ってみる?」
シルは冗談でそう言ったのだが、リューの返答はシルの予想とは真反対のものだった。
「ええ。お願いします」
「えっ!?」
「シル、お願いします!!」
「う、うん」
「とびっきりのオシャレをッ!!」
「お、落ち着いて!!!」
それから数時間が経過し、そろそろシンが見舞いに来る時間帯となる。リューは部屋でずっと待機していた。
そんな彼女が待っている男シンは、見舞い用のフルーツが多く入っているバスケットカゴを手に持ち、廊下をゆっくりと歩いている。
そして、シンはリュー・リオンがいる部屋まで、たどり着くと、彼はその部屋の扉を開ける。
真っ先に彼が見たのは、いつもとは雰囲気の違う、まるで妖精のようなリューの姿。普段は着ることのない、白を基調として、世間一般に言うオシャレな服を彼女は着ていたのだ。
「シン、待っていました」
リューは、シンと会えたことにホッとしている。もしかしたら、来ないのではないかと悶々としていたのだ。
彼女はベッドに腰掛けており、シンは彼女に誘導されるまま彼女の隣に腰掛ける。
「そういう服を着るとは、珍しいな。どうしたんだ?」
「やはり…、私には似合いませんか?」
「その逆だ。…いつものリューも素敵だが、今のリューも素敵だ。とても似合っている。…綺麗だ」
「あ、ありがとうございます」
素直に褒められたリューは、頬を赤らめながらも喜ぶ。
好きな男性に褒められたのだから、嬉しいのも当然だ。
「体調は大丈夫か?2日後に退院出来ると聞いたが…」
「ええ、心配してくれてありがとうございます。もう、全然大丈夫です。むしろ、暇しているくらいですから」
「そうか。…良かった」
安心したシンは優しく微笑む。そんな彼を見たリューは、やはりシンの事が好きだと改めて自覚する。
リューは彼の一挙一動を目で追ってしまう。今も自身のために、リンゴの皮剥きをしているシンの姿をずっと見ている。
(シンは記憶が戻った時に、色々と記憶が混同した可能性がある。…つまり、私のアレはあやふやな状態。それは嫌だ。伝わっていないのならば、…私がもう一度伝えなければならない。伝えなければ……)
「シンッ!!」
「どうした?」
「実は…」
さぁ、これからリューが話そうかと言うときに、リューとシンは聞いてしまう。
「「ッ!!?」」
シンとリューは即座に反応する。外からとても綺麗であると同時に、とても気色の悪い歌が響いて来たのを…。
安らかでおぞましい六つの重なる歌声…。
それは静かに始まった崩壊の序曲。そのことをオラリオの住人たちは知る由もない。