冷たい海賊は欲しいものを得られるのか   作:Connect

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41.Epilogue2

 

 

 崩壊の序曲がオラリオに鳴り響いてから数日後の事。

 

 ロキ・ファミリア、ヘファイストス・ファミリア、ガネーシャ・ファミリア、ディアンケヒト・ファミリア、そして、異端児たち。彼等は地上を守るため、世界を救うため、死んで行った仲間たちのために、人造迷宮へ突入する。

 それは一言で言えば、決戦だ。

 

 決戦の名は【刻剣神聖譚(ソード・オラトリア)】。

 

 それは【勇者】フィン・ディムナが名付けたもの…。

 

 それは覚悟を決めた戦い…。

 

 それは終わらせる物語…。

 

 フィンたちは精霊の分身6体の討伐ミッションを開始したのだ。それは必ず犠牲者が出るだろう。それでも彼等は歩んでいく。その光景をシンは、バベルの頂上から見ていた。

 

「オレも参戦したいんだが?」

  

 シンは自身の後ろに立つ女神に問いかける。その女神の名はフレイヤ。流石は【美】の女神というだけあり、その容姿はあいも変わらず、とても美しい。

 

「駄目よ。あなたは敵が知らないジョーカー。言うなれば、盤面を確実にひっくり返せる最強のカード。まだ、ここで状況を把握しておきなさい」

 

「………フィンは勝てると思うか?」

 

「私が参戦するから、敵の負けは確定しているわ」

 

 あくまでも自身の力があれば、勝てるとフレイヤは発言する。それは傲慢でも驕りでもない。彼女はただ単純な事実を述べているだけ。

 だが、それはシンの望んでいる回答ではない。

 

「答えになっていない。オレはフィンの事を聞いているんだ」

 

「あなたは、私がフレイヤだと優しくないのね」

 

「……」

 

「フレイヤはあなたの敵なのかしら?ねぇ、そろそろ本音で話し合ってみない?今、この場は私とあなただけ。つまりは、2人っきりよ。何を話しても誰にも知られない」

 

「……」

 

「私より、リューの方が本音を話せるのかしら?」

 

 フレイヤの言葉にシンは押し黙る。フレイヤのその表情は、まるで、シンの心を見透かしているようだ。神というのは、何処までも侮れない。

 

「ふふっ…、リューに告白されたみたいだけど?シンは返事をしないの?」

 

「…告白はされていない」

 

「神に嘘は通じないわよ。ふふっ…、動揺したわね。いつものあなたなら、嘘だと分かる回答はしない。曖昧にするもの…。でも、あなたは嘘をついた。…女の子の告白をうやむやにする気?それって、かなり最低な行為の気がするのだけれど?」

 

「…確かに最低な奴だよな」

 

 シンは何もかも覚えている。記憶を失っていた時、リューに【愛している】と言われたことを…。その時の彼女の行動が結果的にシンの記憶を取り戻させた。その後も色々とあったので、その話をすることは無く、彼は今に至る。

 シンとしては、その話を自らすることはない。聞いていないことにするというのが、彼の取った最低な行動である。

 

「ねぇ、どうして受け入れないの?あなたは誰かに愛されたい(・・・・・)筈。それがあなたの心の内よね?リューではダメだから?いいえ、それは絶対に無い。ならば、何故なのかしら?」

 

「…ダメに決まっているだろう!!罪人(つみびと)のオレが誰かに愛されるなど…、赦されない(・・・・・)。…オレには愛される資格がないんだよ…」

 

 シンは愛されたいと思いながらも、愛される資格はないと自虐している。この矛盾(・・)とも呼べるものを彼は無意識にここまで、心に深く突き刺さるまで、育ててしまった。

 

 愛と情欲を司っているフレイヤから見れば、シンという存在はあまりにも憐れなものだ。

 そして、この瞬間、フレイヤはシンという存在の心の内を初めて見たのであった。

 

「あなたは、とてもかわいそう」

 

 最早、シンはフレイヤに同情される始末だ。

 

「私ならあなたを救えるけど?」

 

「救う?自分の愛すら叶えていないお前が?」

 

「……随分と言うわね。愛される資格がないと自虐するあなたが、私の本気()をバカにするの?」

 

「お前のそれが本気なのか?」

 

「……」

 

「……」

 

 シンとフレイヤは、睨み合う。もし、2人が本気を出して良いと判断した瞬間に、世界は混乱に満ちるだろう。

そのぐらい、二人は一触即発の状態だ。

 

 ドンッ!!!! ドンッ!!!! ドンッ!!!!

 

 オラリオのあちこちから大きな音が聞こえてくる。バベルの頂上にいるシンとフレイヤは、その音の正体が何なのかを目撃した。

 

「始まったわね」

 

「……オレは地上で暴れている食人花たちを殲滅する。戦闘の勘を取り戻すためにも良い訓練になる」

 

「そう…。ねぇ、シン」

 

「…何だ?」

 

「あなたは救われるべきよ」

 

 フレイヤの言葉は同情から出たものではない。フレイヤがシンの事を分かった上での、彼女の思い。

そして、その事を分かっているからこそ、シンは言葉を返す。

 

「…それはお互い様だ」

 

 その言葉を残して、シンは街中へと向かった。

 

 

 

 現在、フィンは人造迷宮(クノッソス)の中で、精霊の分身に殺されかけていた。その想像以上の力で、フィンとその仲間たちは完膚なきまでに叩き潰されている。

 彼の肋は何本も折れ、血が流れ、所々に火傷の跡が目立つ。そして、常に親指のうずきが止まらない。

 

「ここまで、強いとは…。ありとあらゆる策を巡らせたが、やはり僕だけではダメか…」

 

(さて、僕のところには誰が来るのかな?)

 

 フィンは状況判断を完全に出来ていた。各部隊にそれ相応の援軍が来ることを確信している彼は、自身のところに来る者を待ち浴びている。

 そして、彼の下に来た援軍は、頼もしい存在だ。

 

「何だ、その体たらくは?」

 

 そこにはフレイヤ・ファミリア幹部アレン・フローメルが助っ人にやって来たのだ。アレンは精霊の分身を睨むと、勢いざまにその詠唱を阻止した。

 

「助かったよ」

 

 フィンのところだけではない。その他の各部隊のところにも続々と助っ人が来る。フレイヤ・ファミリアの幹部、カーリー・ファミリアの主力たち、そして、異端児最強のアステリオスとフォスが戦いに参戦した。

 

 これにより、戦況はとてもフィンたちに有意に傾く。精霊の分身という圧倒的力を持つ者に対して、それ以上の力で精霊の分身を潰す。これはシンプルであり、結果は出ている。

 

「勝てる……」

 

 フィンはそれぞれの状況を各人から聞き、勝てると判断をした。だが、それと同時に妙な違和感を彼は感じてしまう。

 

(いや、おかしい。何かがおかしい…)

 

 フィンは何処か変な違和感を感じてしまう。

そして、何に引っかかっているのかを彼は判断出来た。

 

(まさかッ!!?いや、…あり得る!!)

 

「各部隊!!手の空いているものは!!?」

 

「いません!!現状は離れることが出来ません!!」

 

「そうか…。なら、シャクティ!!アレン!!ここは任せる!!」

 

「フィン!?」

 

「…チッ!……好きにしろ」

 

 フィンは自分の考えが正しいと信じ、この場をアレンに任せた。ずっと感じていた違和感。それが分かったからこその行動。精霊の分身の数は6体と仮定したのが、大きな過ちだった事にフィンは気づいたのだ。

 

 オラリオに狂乱を起こそうとしているエニュオは、バベルを消し飛ばし、都市を滅ぼすことを目的としていない。

 エニュオの狙いは、人造迷宮にいるオラリオのほとんどの戦力を消すこと。つまりは、オラリオの英雄たちを葬る事なのだ。時代は逆行。長い狂乱をエニュオは望んだのだ。

 

 六体の【精霊】の魔力を吸収し、直上のあらゆるものを吹き飛ばす最悪の厄災。冒険者たちを殺すための計画。

エニュオはゼウスとヘラが消えた時。15年前からこの計画を練っていた。神の執着は異常なものだ。

 

「はははははははははははははははははははははっ!!!!!」

 

 誰にも気づかれることなく、ここまで事を進めたエニュオはとても愉快に笑っている。

 エニュオ、いやエニュオの正体であるディオニソスは狂気に満ちているのだ。

 人造迷宮11層に七体目の精霊が今にも目覚めようとしている。それすなわち冒険者たちの命の灯火が消えるカウントダウンと言っても過言ではない。

 

「はははははははははははははははははははははっ!!!!!」

 

 ディオニソスは高らかと笑う。その笑みは崩れることはない。もう、フィンたちは終わりだと、15年の計画は完遂されるのだと…。その15年の計画も彼等(・・)に止められる事など、ディオニソスは知る由もない。

 

「ベルさん、後は頼みます」

 

「はい!!」

 

 異端児の一人である歌人鳥のレイに、ベルはここまで運ばれた。そして、彼等(・・)もここにやって来る。

 

「助かったよ。まさか、あの赤い飛竜が異端児となっていたとはね。強さも相当みたいだ…。あの黒いミノタウロスに負けないぐらいに思えるよ」

 

「ドMは相変わらずだけどな」

 

「ご主人様ぁ!!!」

 

「うるさい!!」

 

 ドンッ!!という音が響いた。その音は、武装色の覇気を纏ったシンの一撃から出たものである。

シンの一撃を受けたフォスはとても喜んでおり、彼等と共にやって来たフィンは苦笑いをしていた。

 

「それでは、後は任せますよ」

 

 フォスはベルを運んで来たレイと共に、異端児たちのいるところへと戻っていく。

 

 七体目の精霊の分身の前に現れたのは、最後のカードたち。

 

 ───英雄の道を歩む【ベル・クラネル】

 

 ───人工の英雄を辞めた【フィン・ディムナ】

 

 ───イレギュラーの存在【シン】

 

 

「…アイズさんが…、皆が戦っている」

 

 ベルはチャージを開始した。それは鐘の音を響かせる。人造迷宮内に響き渡っていく。

 

 鐘の音を聞いた者たちは、ベル・クラネルの存在を知らされると同時に鼓舞させる形となる。

 負けていられない、諦めるわけには行かない、戦いはまだ終わっていないと…、彼等は力を振り絞り、目の前の敵である精霊の分身を倒そうと奮起する。

 

「良い鐘の音だ。皆はきっと鼓舞されている。羨ましいな」

 

「フィン、お前の言葉も似たようなものだぞ。お前の仲間たちにかける言葉は、間違いなく奮い立たせている。お前も立派なリーダーだよ」

 

「……シン」

 

「早く終わらせて、酒でも飲もう」

 

「そうだね。……『真なる契りを此処に──』」

 

 フィンは詠唱を開始していく。そして、彼の隣にいるシンは渾身の武装色の覇気を右手に纏う。

 彼等は敵を殲滅するために、その力を振るう。エルソスの遺跡でアンタレスと戦った時以来の共闘だ。

あの時と同様か、それ以上の危機。彼等はそれを止める。

 

「『ファイアボルト』!!!!!」

 

「『ティル・ナ・ノーグ』!!!!!」

 

「『天の咆哮(ロアー・オブ・ヘヴン)』!!!!!」

 

「「「終わりだあああぁぁぁぁッ!!!!!」」」

 

 ベル、フィン、シンの渾身の一撃。それにより、七体目の精霊の分身を倒した。

 そして、呼応するかのように残りの人造迷宮内に存在した精霊の分身たちは全て倒される。

 

「終わったのか…」

 

「少年、互いに病み上がりのような状態だったが、無事に終わって良かったな」

 

「はい!!」

 

「オレとフィンは行くところがあるから、あそこにいるロキ・ファミリアの者と退避しろ」

 

「シン、何処に行くつもりだい?」

 

「黒幕のところだ…。そいつの最期を見たいと思う、単なるオレのわがままだ」

 

 

 

 

 精霊の分身たち全てが倒された事実。それを知ったディオニソスの表情は崩れていく。

 

「クソォォーーーーーーーッ!!!!!」

 

「醜いな」

 

「ロキ、無事のようだね」

 

 冷気を纏った男シンとロキ・ファミリア団長フィン・ディムナがこの場に足を踏み入れる。

 ディオニソスと彼の正体を突き止めたロキ。その場には2人だけだったが、シンとフィンも急いでここへやって来たのだ。

黒幕の醜い面を見るために…。

 

「あの気色の悪いものなら、消したぞ」

 

「何だとッ!!?お前は何者なんだあああぁぁぁぁ!!!」

 

「単なる酒場の店員だ」

 

「自分はミア母ちゃんところの…」

 

 豊穣の女主人の店員シン。彼は心底つまらなそうに、ディオニソスを見下していた。

 

「15年の計画か…。悪くはなかったと思うぞ。オレやフィンが今に至るまで気づけなかったのだから。だが、一つだけミスを犯したな」

 

「ミスだと?」

 

「言うなれば、お前は人を舐め過ぎだ。フィン・ディムナという一人の男が【英雄】となった。富も名声も得られない戦いで、……フィンは全員の力で勝利を収めた。…憎しみを忘れ、新たな英雄として、こいつは【フィアナ】を超えたんだ」

 

「……シン」

 

「クソっ!!クソっ!!クソっ!!クソォォーーーッ!!!!」

 

 ディオニソスは自身の敗北が決定的となった事実を知り、いつもの余裕そうな面ではなく、心の底から悔しそうにしていた。

 

「ディオニソス、神という者たちの中でも、お前は何処までも醜く、気色の悪い存在だった」

 

「黙れえええええぇぇぇッ!!!!」

 

「……うっさいわ」

 

 静かに怒るロキはディオニソスをボコボコにする。それこそ、殺しても問題ないとしている。

 

「フィン、長かった戦いがそろそろ終わるな。お前の名付けた決戦。【刻剣神聖譚(ソード・オラトリア)】が…」

 

「そうか…」

 

 もう、ディオニソスは立ち上がる事すら出来ない。そんな彼は醜く、そして愚かにも助けを懇願している。

 

「私を助けろ!!フィルヴィス!!フィルヴィス!!!!」

 

「ディオニソス様ああぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 

 最早、ほとんど消えかけている醜い姿のフィルヴィス・シャリアが、ディオニソスの下へとやってくる。

シンとフィン、ロキはその姿を見て、もう長くは保たないと察っしていた。

 

「……使えない。私を助けられないとは…」

 

 醜くボロボロになりながらも、フィルヴィスはディオニソスの下に駆けつけた。だが、ディオニソス本人は罵倒する。

 

「役立たずめ…、何処まで私の足を引っ張る?…愚かで、愚図な眷属…。お前にはつくづく失望した」

 

「…あ、あぁぁぁ…」

 

 ここまでディオニソスの為を思い、行動してきたフィルヴィス・シャリアにとって、今の彼の言葉は辛いものだ。

 

「だが、そんなお前がとても愛おしい。…本当に愚かなフィルヴィス。私の巫女だった。…嗚呼、愛おしい」

 

「…あ、ああぁぁ」

 

「お前の狂乱の声が何よりも私を狂わせた。こうなったのも全てお前に自由を与えていた私の失態だ…。─誇れ、フィルヴィス。私の心はお前のものだ。天界に帰っても、私の側にいろ」

 

「はい…はい!!……ディオニソス様…!!」

 

 フィルヴィス・シャリアはディオニソスに抱かれながら、消滅していく。彼女がいた場所を少し見つめたディオニソスは、立ち上がりナイフを握る。

 

「…私の負けだ。お前達は強かった。…だが、ダンジョンは限界だ!!!私の計画が阻止されたとて、下界は狂乱に陥る!!…嗚呼、何処までも愛おしい!!!」

 

 ディオニソスはその手に持つナイフを自らの心臓に突き刺した。

 

「…自害」

 

「ははははははははははははははははっ!!!天上から狂乱を見ているぞッ!!はははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははっ!!!」

 

 笑いながらディオニソスは天界へ送還された。

 

「気色の悪い神だったな…」

 

「確かに…」

 

「フィルヴィス・シャリアは報われたと思うか?」

 

「それは本人次第だね。特に【愛】に関しては…。まぁ、アレを見た僕としては、フィルヴィス・シャリアは愛されていたと思うよ」

 

「そうか…。…そうかもな…」

 

 

 決戦【刻剣神聖譚(ソード・オラトリア)】は終わった。

 その戦いで街は破壊され、大切な人を失った者もいる。心に斬り刻まれた傷を癒やすのには、まだまだ時間を要するだろう。

 だが、人々は前を向いて歩いていく。それが人の持つ強さだから…。




決戦【刻剣神聖譚(ソード・オラトリア)】…。オリ主は軽く関わる感じが良いと思い、軽く関わらせました。
これで良いのでしょう……。多分……
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