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「ということで、乾杯ニャー!!!!」
「「「「「「「「「乾杯ッ!!!」」」」」」」」」
アーニャの掛け声と共に、皆が一斉に乾杯する。さぁ、アーニャやクロエ、ルノアも祝賀会に参加しようと、その手に持つグラスに口をつけようとした。
しかし、その瞬間に厨房からミアに睨まれる。その迫力に、アーニャたちは手に持つグラスをテーブルにそっと置く。
「ミャーたちは仕事なのかニャ!?」
「当然だよ!!」
「本当ッ!!!?」
「本当だよ!!」
「正気かニャ!?」
「殺されたいのかい?」
「「「いいえッ!!!」」」
ミアの言葉に圧されるアーニャたち。彼女たちは仕事中なので、祝賀会には参加出来ない。むしろ、従業員として働かされるのであった。
そして、厨房では、ミアとシンが忙しそうに料理している。
「海鮮パスタ追加ニャ!!」
「オムライスもね!!」
「ビール5人分追加ニャ!!」
「野菜炒めも追加ですよ!!」
「かぼちゃスープ3人分、お願いします!!」
客から続々とオーダーされると、ミアとシンは更に加速させて、料理を作っていく。
シンはその忙しさから、サボりたいと思う。だが、それと同時に、これが本来の日常だと実感する。
「……」
(日常は充実している。直近で色々あり過ぎたせいで、余計にそう感じてしまう。……リューの事をオレは無かった事にしている。彼女の想いをオレは蔑ろにしている。…最低だ)
『あなたは、とてもかわいそう』
それは【美】の女神から言われた言葉。
『私の巫女だった。…嗚呼、愛おしい』
それはイカれた男神の言葉。
『まぁ、アレを見た僕としては、フィルヴィス・シャリアは愛されていたと思うよ』
それは【勇者】であり、【英雄】の言葉。
「……」
(親父も民も守れなかったオレは、名を捨て
「何だい、そのしけた面は?」
シンの隣で料理をしていたミアは、彼の表情がとても暗くなるのを見て取り、その言葉を口にした。
ミアに聞かれたシンは、先ほど自身が考えていたことを言葉にするなんてことは当然無い。
「…何でもない。女神祭が近いから、忙しくなると思っただけだ。あんな騒ぎがあったのに、今年もやるとはな…」
「良いじゃないか。客がたんまりとお金を落とす」
「相変わらずの商売魂だな。…神月祭の時と同様に、オレはこの祭りも好きじゃない。女神を崇めるなど…」
「相変わらずはアンタもだよ。ほら、料理はアタシがやっておくから、ゴミ出しでもして来な!!外の空気でも吸って、その暗い顔を何とかするんだね!!そんな顔で料理をされた飯が不味くなるだけだよ!!」
シンはミアに言われるがまま、ゴミ出しの為に外へ出た。
雲一つない空は、世界を照らしている明るい月がとても綺麗に見えている。
シンはその月を見ながら、考え事をしていた。
「……」
(愛される…、その資格…、ずっとオレは悩んでいる…。愛されたいと思いながらも、その実、俺には愛される資格がないのだ。オレはどこまでも欲しいものが手に入らない…、)
シンの暗い表情は変わらない。彼はベンチに座り、懐から酒を取り出した。そして、ボトルを空け、まるで酔いたいと言わんばかりに、ゴクゴクッと酒を飲んでいく。
「酒は美味い。不思議だな、昔は酒を美味いなどとは思わなかった。それなのに、旅をする内にここまで好きになるとは…、人生とは分からないものだ。………………、ッ!?」
コツコツッ!! コツコツッ!! コツコツッ!!
静まり返った路地裏から、誰かが乾いた足音を立てている。足音は聞こえているのだが、シンはとても不気味に感じていた。それはまるで、そこにあり、そこにはない。そのような今までに感じた事のない感覚なのだ。
「誰だ?」
シンは酒を飲むのを止めて、身体から冷気を発する。いつでも、殺せるように彼は最大限警戒していた。
「やっと相まみえる事が出来た。……
「ッ!!?…なぜその名前を知っているッ!!!」
シンは自身の捨てた名を知っている、目の前の少女の存在が何者なのか見極めようとする。
「無論知っている。…ルドガー。…我の名は
「アザトースだとッ!?」
(その名前は…、いや、ここは世界が違う。偶然の一致か…。しかし、太陽神ニカの存在は確認出来た。あの覇王色の覇気も、……あり得ない事はあり得ないか…)
「ルドガー。嗚呼…、ルドガー」
アザトースと名乗る女神。彼女はシンの顔を見ると、とても慈愛に満ちた優しい表情をする。彼女の目からは涙が流れ出ていた。……彼女はシンにゆっくりと近づいていく。
「ルドガー!!ルドガー!!ルドガー!!」
呆気に取られたシンは動く事が出来ない。そして、何よりも彼の中には妙な感覚が生まれていた。
(何だ、何なんだ…、この感覚は?…何で、どうしてオレは、この女神に対して、
シンは理由のわからない感覚に陥る。そんな彼に対して、女神は彼の顔にそっと手を添えた。
シンは顔から伝わる女神のその手がとても温かいものだったと感じ取る。
だが、それと同時に女神から異様な感覚を感じ取る。シンが今まで出会った神々の中で、このような雰囲気を撒き散らしている神はただの一人もいなかった。
「我は…、我は…、」
女神が何かを必死で言おうとしているが、口からその言葉が出せないでいる。
「………ッ」
シンは何が何だか分からない状況。どうするべきかと考えている時、ゴミ出しから中々帰ってこない彼を探しに来たリューの声が響いて来た。
「シン、何処ですか?」
「リュー!」
リューの声に反応して、シンは自分はここにいると伝えるために彼女の名を呼んだ。
リューの足音が近づいて来るのを感じた女神は、シンからそっと距離を取る。
「ルドガー、我は再び会いに来る…。その時に…全てを…」
女神はそう言い残して、路地裏へと消えていく。
それを確認したシンは、脱力するようにベンチへ腰を掛けた。
「シンッ!?何かあったのですかッ!?」
「いや、何でもない」
シンを探しに来たリューは、疲れた表情をしている彼を心配する。心配されている当の本人であるシンは大丈夫だと、リューに言うが、それは嘘だと彼女は察する。
そして、勢いに任せて、彼女は行動してしまう。
「少し横になるべきだ」
リューはシンの隣に座ると、彼の頭を両手で軽く掴み、無理矢理、自身の膝に置くのであった。
これはいわゆる膝枕という奴である。
「なっ!?」
リューの突然の行動に、シンは驚く。そして、今の置かれている状況を確認して、照れてしまったのだろう。珍しく顔を赤く染めている。
そして、膝枕を行ったリュー自身も恥ずかしそうにしながら、シン以上に顔を真っ赤にしていた。
「ど、どうですか!?わ、私の膝はッ!?」
(私は何という質問をしているのだ!!?勢いでしてしまったから、言葉が混乱しているっ!!!)
「……あ、あぁ、その…、良いと思う」
(何なんだ、この状況はっ!?)
シンも突然のことで、とても混乱している最中だ。
シンとリューは、しばらく沈黙してしまう。二人が会話を始めるのは、それから約三十分程経った頃だ。
「…シンの瞳はとても綺麗だ」
「いや、お前の方が綺麗だと思うが?」
「そ、そうですか!!そ、それはありがとうございます!!」
ふりふりと顔を揺らすリューを見て、シンは彼女の揺れる髪に視点を置いた。
「髪、少し伸びたな」
「ええ、伸ばそうかと思いまして…。似合うでしょうか?」
照れながらもリューは、似合うかどうかをシンに問う。
それに対して、シンは思ったことを口に出す。
「実際見たことがあるからな。…似合っていたぞ」
「それはどういう?」
その言葉の意味がいまいち分からないリューは、頭にクエスチョンマークを浮かべていた。
「昔のお前だよ。アストレア・ファミリアにいた時のリューは髪を伸ばしていただろう?似合っていたと思うぞ」
「なっ!?あ、あの時の私を見たことがあるのですかッ!?」
「それはあるだろう。お前たちは有名人だった。人々を守ろうと活動していた正義の使徒たち…」
「…私が正義の使徒だった時、私はあなたと出会っていたのですか?」
「どうだろうな?」
「誤魔化しましたね」
「かもな…。…けど、一つだけ言うならば…、」
シンはそっと起き上がり、その言葉を口に出す。
「お前は今も正義の使徒だろう?」
「…ッ!?」
「さて、そろそろ戻ろう。…ミアに怒られる」
「…ええ、そうですね」
■
女神祭が始まるまで、残り2日となる。
シンは自室のベッドに腰掛けながら、のんびりと酒を飲みながら、考え事をしていた。
『……もし次があるのなら、もう少し『温かい』場所がいい。そうだな…、氷を溶かさず、かと言って凍らせすぎもしない。……誰かが淹れた安酒でも飲みながら、静かに世界の成り行きを眺められるような、そんな場所が…。そこでオレは誰かに
(愛されたいか…。望んでいることだが…)
『そうだ、シンという名前にしよう。…オレにはそれで良い』
(ダメだな。…オレは
「シン、またお酒を飲んでいるの?」
「シル、何度も言っているだろう。勝手に入ってくるな」
自室で酒を飲むのは、シンにとって通常運転。酒好きの彼にとって、この時間はとても幸福なもの。ゴクゴクと酒を飲む彼の隣に、シルはそっと腰掛ける。
「…色々あったね」
「そうだな。特に直近では、多くのことが動き出した」
「ふふっ…、怪物祭から始まった件は解決した。闇派閥の者たちも死んだ。もう、余計な邪魔が入ることはないと思うの」
「何が言いたいんだ?」
「私はベルさんを本気で堕としに行く、ということよ」
「本気か?」
「うん、もちろん!!……女神祭でね」
女神祭。それは迷宮都市オラリオが活況に包まれる、実りの祝祭。豊穣を象徴する女神たちは祭壇に奉らなければならない。その中には神イシュタルもいたのだが、天界に送還されたので、今年からは見ることが出来ないだろう。
「まぁ、頑張れ。応援はしている」
「───────ねぇ、…シン」
「……何だ?」
「─────シンは最後まで、私の味方でいてくれる?」
その言葉を発したシルの表情は、とても不安そうだった。
そんな彼女に対して、シンは次の言葉を返す。
「オレは─────」
第3章 氷風【完】
第3章『氷風』完結です!!
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次章の投稿は未定です。
1ヶ月以内には投稿を再開したいと思っています。頑張って書いていくので、よろしくお願い致します。
では、また次章で……。