フレイヤ・ファミリア対ヘスティア・ファミリア率いる派閥連合軍。数は圧倒的に派閥連合軍の方が多い。
だが、強さの質は間違いなくフレイヤ・ファミリアの方が上だ。全てをかけるフレイヤ・ファミリアは強い。
そして、何よりもシンの存在を知っている者たちからすれば、この戦いがどれほど無謀なものなのかを思い知らされている。
「本当にこの作戦で良いのですか?」
ヘスティア・ファミリア陣営のテントでは、リリルカがフィンに作戦の確認をしていた。
今回、フィンは指揮官をしない。何故なら、彼は最前線で戦闘を行うからだ。
「この派閥連合軍の指揮官は僕フィン・ディムナではなく、リリルカ・アーデ、君だよ。自信を持ってくれ」
「フィン様が指揮を取ってくだされば…」
「それは出来ない。僕はとんでもない怪物と戦うからね」
フィンの見据える先には、オッタルを凌駕する力を持つシンという存在がいる。彼を倒さない限り、派閥連合に勝利はないと理解しているのだ。
「本当にフィン様一人でシン様の相手を?」
「シンに数の理は通じない。それに今の僕なら勝負出来る」
「確かにフィン様はランクアップして、レベル7ですが、それでも…」
「まぁ、どれだけ強くなっても勝負出来るということにしかなっていないのは事実だ。けれど、シンだけは僕に任せてほしい。色々と作戦もあるからね…」
「分かりました。では、それぞれの持ち場に…」
「ああ。健闘を祈るよ」
リリルカとフィンはテントを出て、それぞれの持ち場につく。もうすぐ戦争遊戯が始まる。派閥連合軍はとてつもない緊張に包まれていた。
それも無理のない話だ。何しろ、最強のファミリアと戦う事になるのだから。
「皆さん、先に言っておきます。敵の指揮官はリリよりも格段に上。敵の力もこちらより格段に上。…でも、勝ちたい!!力を貸せ!!冒険者!!!皆の力で勝利を収めしましょう!!!」
「「「「おおおおおおーーー!!!!」」」」
リリルカ・アーデの言葉は派閥連合軍の指揮を上げるには、十分過ぎるものだった。
派閥連合軍はフレイヤ・ファミリアがいる西側の島に攻め入ろうと準備する。
「橋を解放しろ!!!」
今回、中立の立場であるガネーシャ・ファミリア。その団長であるシャクティ。彼女の合図と共に戦争遊戯が開始される。
「行くぞオォ!!!」
「「「「「おおおおおおーーーーッ!!!」」」」」
派閥連合軍が大量に攻め込んでくる。その光景をシンは虚しそうにフレイヤの隣で見ていた。
シンは自分がいる限り、ヘスティア・ファミリア率いる派閥連合軍に、フレイヤ・ファミリア陣営が負けることなど、あり得ないと自負している。その傲慢な考えは事実であり、ベルたちにとっては残酷な現実だ。
「始まったな」
「ええ、こちらは待つだけ。一つだけ気掛かりなのは【勇者】がどのように動くのか…。あの子はヘディンよりも上だから…。それにシンと関わってから、あの子は強くなった」
「そうかもな」
「つまり、【勇者】フィン・ディムナさえ倒せば、後は簡単に潰せる。まぁ、この陣営が崩れるわけないけど」
女神フレイヤの陣営はシンプルだ。敵地に攻め込むのでは無く、女神フレイヤを守る防御の陣。神殿にはフレイヤが勝利を確信して座っている。その隣にはシンが待機していた。
そして、更に神殿の下ではフレイヤ・ファミリアの総力が向かってくる敵を潰さんと待機している。
「必ず勝つ。私はベルを手に入れる」
「ん?向こうもこちらの狙いが分かったようだな。敵の選択肢は三つ。降参するか、攻めるか、待機して睨み合うか…。どうする、派閥連合軍?」
(勝利のためなら、攻める選択肢しかない。だが、フィンと少年、椿・コルブランド、及第点でアイシャ・ベルカぐらいだろう。フレイヤ・ファミリアの幹部陣と戦えるのは…。オレが出張るまでもない話だ)
シンの予想通り、派閥連合軍は勝利の為にフレイヤ・ファミリア陣営に攻め入る。
まず最初に派閥連合軍はクロッゾの魔剣で、フレイヤ・ファミリアの雑兵たちを倒していく。
だが、それはフレイヤ・ファミリアの指揮官ヘディンの罠だ。フレイヤ・ファミリアの中には、都市最高の治療師アミッド・テアサナーレに次ぐ治療師ヘイズ・ベルベットがいる。彼女の魔法により、魔剣にやられた者たちは復活してしまう。
「【
先に魔剣を使わせ、無駄撃ちをさせた。この策に、リリルカ・アーデはまんまと嵌ってしまったのだ。
「これで戦闘は始まったが、フィンと少年が確認出来ないな。前線に出ていないのか?」
「下にはオッタルがいるから、何か考えているのかもしれないわね。【勇者】には何か作戦がありそう」
そうこうしている内に、ベル・クラネルの存在をシンは確認した。ベルのいる場所は、オッタルのいる場所。どうやら、一騎打ちしているようだ。
「一騎打ち…。いや、あれでは単なる蹂躙だな」
「壊してはダメよ、オッタル」
「その他も、制圧出来そうだな」
(フィン、何を企んでいる?もうワンサイドゲームだぞ。お前が幹部陣を倒さなければ、終わるぞ…)
「ヘディン!!早く終わらせなさい!!」
女神フレイヤは何を焦っているのか、この有利な状況で更に進行するようヘディンたちに伝える。
そして、その結果、派閥連合軍の神たちは次々にフレイヤ・ファミリアの襲撃を受けて、離脱していく。
「もう終わりだな。フィン、オレという護衛がいる限り、攻めきれなかったか…。残念だ、お前の力を警戒していたが、結局その程度だったのか。………………フィン」
シンは悲しそうに、地面に座り、事の成り行きを見守る。彼のその心には虚しさと失望、安堵など様々な感情が入り混じっていた。
だが、次の瞬間、それらを吹き飛ばす全員が驚く出来事が起きてしまう。
「シーーーーーーーーーーーーーーンッ!!!!!この僕、【勇者】たる、フィン・ディムナと決闘しろおおおぉぉぉ!!!!」
「「「「「「「ッ!!?」」」」」」」
「ッ!!!!?」
(フィン…、何故、今動いた?)
シンたちのいる島ではない、ヘスティア・ファミリア陣営の島から響いて来た声。間違いなくフィン・ディムナの声だ。
それは戦場にいる全ての者たちに聞こえた。もちろん、シンにも…。シンはゆっくりと立ち上がると、フィンの声がした方向を見つめる。
「シン、まさか誘いに乗るの?」
「問題か?」
「…………乗る必要はないわ。どうせ、アレンたちが始末するのだから。…あなたはここで私を守りなさい」
「───フィンの誘いだ。最後くらい筋を通させてくれ」
パリンッ!!とその場に小さな氷結を残して、シンはフィンのいる場所へと向かって行く。
フィンのいる場所は、瓦礫が散らばっている場所の中心だ。そこでフィンは愛用の槍を握り、シンを待っていた。
フィンのいる場所に辿り着いたシンは、辺りを少しだけ見渡す。何か仕掛けや罠があるのではないかと…。
しかし、シンの考えは全く当たっていなかった。ここには何も仕掛けなどないのだ。
「やぁ、会いたかったよ。──シン」
「──フィン、何を企んでいる?」
「企むも何も言った筈だ。──決闘だとね」
フィンは懐から手に収まる程の小さな赤い玉を取り出す。それが何かの魔道具なのはシンも分かるが、どのような効果を持つかまでは分からない。
「安心してくれ。これは単なる合図に過ぎない」
そう言って、フィンはその赤い玉を上空に向かって投げる。
上空に放たれた赤い玉は、小さく音を鳴らして爆発した。音は小さかったが、赤い煙が上空に広がっていく。
「『ウチデノコヅチ』!!!」
それはヘスティア・ファミリア所属サンジョウノ・春姫の魔法。魔法の効果は
そして、それはもう一つの魔法と併用することにより、春姫は複数人に対して使うことが可能だ。
「これで僕のレベルは上がった」
春姫の魔法により、階位昇華を果たしたフィン。擬似的なものとはいえ、その黄金に纏われている身体はランクアップを果たしている。
「擬似的にランクアップしたか…。それでオレに勝つつもりか?もし、そうだとしたら、かなり楽観的だな」
「慌てないでくれ。これは単なる前準備に過ぎない。本番はここからだ」
「本番?」
「『我が名はディムナ。親友の為、昇華する力。抗うは未来、守るは過去、停止は現在。真名を強く、友と並べ。彷徨い、消え行く者を、引き戻す。フィアナを超えたディムナの道』」
「その詠唱はッ!?…まさか、新しい魔法かッ!!」
「『ナイツ・オブ・ディムナ』!!!!」
その魔法を使用したフィンの顔には白き紋様が浮かんでいた。
シンはフィンの使用した魔法がどのような効果があるのかは分からない。だが、少しだけフィンに対してプレッシャーを感じてしまった。
「……ッ」
(何だ、フィンから感じ取ったこの威圧感は?)
「『ナイツ・オブ・ディムナ』。これは僕の3番目の魔法。効果は一定時間の階位昇華…」
「階位昇華だとッ!?」
(つまり、今のフィンのレベル…、あの狐の魔法と合わせると…こいつのレベルはッ!!)
「そうだ。今の僕はレベル9だ」
「「「「「「ッ!!!!!」」」」」」
レベル9。それはかつてヘラ・ファミリア団長が到達した最高位のレベルだ。その頂にフィンは擬似的にだが、到達した。
レベル9となったフィン。彼の存在を感じ取ったオッタルを始めとする戦場にいる強者たちは、かつての最強たちを思い出さされた。それは嬉々か、もしくは恐怖だろうか…。
「フィン…。オッタルではなく、お前が都市最強となったか」
「少なくとも、これで単純な強さは君と並んだ。そして、ここからが本当の勝負となる。シン、君を倒すよッ!!」
「レベル9になったからと言って、それイコール、オレに勝てる理由にはならないぞ、フィン!!」
シンは手っ取り早くフィンの攻撃を態と受けて、カウンターで気絶させる。そんないつもの手を使おうと待ち構えた。
だが、それはシンの行動パターンを知っているフィンからして見れば、計算通りのものだ。
「やっぱり、攻撃を受ける気でいると思ったよ!!」
ドンッ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!
シンの顔面にフィンの渾身の一撃がヒットした。
自然系の能力者であるシンは、海楼石や覇気を纏う攻撃、はたまた能力の弱点である高熱の攻撃でも無ければ、その身にダメージを与えられる事はないのだ。通常の物理攻撃では全くダメージを受けない筈。
それにも関わらず、フィンの一撃はシンにダメージを与えた。いつものように身体が砕けて、冷気となり再生するというのが、シンは出来なかったのだ。
「ゴバッ!!!?」
(何故、オレに攻撃が効くッ!!?何故、オレにダメージを与えられるッ!!?何故だッ!!?………フィン、何をしたッ!!!)
殴られたシンは、フィンの一撃がとても重かったせいで、数キロ先まで吹き飛ばされるのであった。
「……攻撃が通るとは、……思わなかった」
口から垂れ出ている血を、その手で拭き取り、シンは立ち上がる。そして、自身を見つめるフィンを睨む。
「気づいていると思うけど、これは魔法の効果だ。『ナイツ・オブ・ディムナ』の効果は一定時間の階位昇華。そして、ありとあらゆるものの実体をとらえる事が出来る。これはシンの隣に並ぶという僕の意思だ。君が間違った時、友として、いつでも殴り飛ばさないといけないからね」
「とんでもない理由だな…。だが、これも下界の未知という奴か?オレの世界が上と考える事自体が愚かな傲慢さだ。神の力とは本当に恐ろしいな…」
「シン、その程度で君は倒れないだろう。君をボコボコにするよ。言っただろう、僕はキレているとッ!!」
「なるほどなッ!!」
シンとフィンは互いに敵を潰す。そのために、戦闘を開始するのであった。