レベル9となったフィンの攻撃は単純に重い。武装色の覇気でガードしなければ、間違いなくシンは倒されていただろう。
「武装色の覇気で受けても重いッ。何よりも、アイツの動きが全く読めないッ!!」
見聞色の覇気を苦手としているシンは、フィンの動きを正確に読むことが出来ない。
何よりもフィンのスピードはとてつもなく速い。シンの目では追いかけるのがやっとの状態だ。
(チッ!!速すぎだろうッ!!)
「『アイスボール』!!」
シンは手から放たれる冷気でフィンを包み込み、球状の氷塊を作り出して閉じ込める。
だが、フィンは完全に凍る事なく、氷塊を砕いて脱出した。
「…レベル9の力。凍らないか…」
「戦闘経験値は僕も負けていない!!何よりもこの小さい身体での動き!!君が捉える事は困難だろう!!」
フィンはここぞとばかりに、シンの目が慣れない内に連撃を繰り出していく。その巧みな動きを捉えられないシンは、武装色の覇気でのガードが追いつかず、何発かフィンの攻撃を受けてしまう。
「ガハッ!!!」
「まだまだ!!!」
「調子に乗るなッ!!フィンッ!!『
武装色の覇気を纏った圧力波を繰り出すが、シンの動きを読んでいたフィンはそれを避ける。
「隙ありだ!!」
そして、大技使用時の隙を見せているシンのガラ空きの胴体。そこにフィンはここ一番の力を込めた渾身の一撃を放つ。
「ここだあああぁぁぁぁぁッ!!!!!」
ドンッ!!!!!!!!
バキッッ!!!!!!!
「ガハッッッッッッッッッッッ!!!!!!!!!」
フィンの渾身の一撃はとても重たく、それを受けたシンは口から血を吐き出し、数秒間だけ白目を剥く。
「グハッ!!!」
内部だけにダメージが通り、先程のようにシンは後方に吹き飛ばされることなく、その場で膝をついた。
「フィーーーーーーーーンッ!!!!!!!!!」
気絶するのを免れたシンは、フィンの頭を掴むと、勢いよく前方に投げ飛ばした。
そして、シンはフィンが自身に近づけないよう、辺りを一瞬で氷漬けにして、氷の壁を多数展開する。
「認めよう。認めるさ!!お前は間違いなく強敵だ!!ロックスの船にいてもおかしくない、オレを殺せる存在だ!!故に本気を出す!!お前を潰すッ!!」
パキッパキッ!!と、シンの身体からは冷気が発せられていく。
そして、次の瞬間には、シンの周囲には彼が造形した様々な氷像がうねうねと動いている。
「氷の世界への案内だ!!『アイス
象と狼、猫の形をした巨大な氷塊たちがフィン目掛けて突進する。彼はそれを避けることはせず、槍を巧みに使い、またたく間に氷塊を破壊した。
(あの程度では、意味がないか…。やはり、直接ボコボコにするべきだな。直に凍らせても、恐らく氷結からは脱出するだろう)
「……決めた」
シンはパリンッ!と一瞬で移動すると、フィンの背後に回り込み、彼の身体に一撃入れようとする。
だが、フィンは槍を地面に突き刺して、くるりっと身体を回転させ、シンの攻撃を避けた。
「チッ!!」
「シン、ワンパターンだよ!!」
ドンッ!!とフィンの回し蹴りをシンは受ける。それを武装色の覇気で纏った両腕で彼はガードした。
だが、フィンの攻撃の威力が想像以上に重たく、シンは後方に吹き飛ばされる。
「ハァッ…ハァッ…ハァッ…」
(思ったよりも威力が強いな…。ギアを上げてやがる…。いや、ロックス海賊団のオレなら、ここまで追い詰められていない。やはり、鈍っているかッ)
ギロッ!!!
シンは今の自分が出来る最大級の覇王色の覇気を、フィン個人に集中して放った。
かつて、シンの制限された覇王色の覇気を受け、何も出来ずに制圧された事がフィンにはある。
だが、今のフィンはシンの最大級の覇王色の覇気を受けているにも関わらず、気絶もしていなければ、動きを封じられているわけでもない。
「ッ!!?」
(効いていないのかッ!?)
「確かにとても強力だ。意識を強く保っていなければ、大きなデバフを抱える事になる。だが、あの時のような恐怖も無力さも今の僕には感じない」
「ランクアップしたからか?」
「違う。気持ちの問題だ。僕は君と戦えることを嬉々としている。君を殴れるからね。だが、君はずっと迷い続けている。無意識だろうが、神フレイヤの味方になると覚悟してからの君は迷いばかりだろう」
「ッ!?」
「圧倒的に勝てる。それなのに、そうなって欲しくない。だが、神フレイヤ、いや、シル・フローヴァの為に勝たなければならない。友を傷つけたくない。大切な同僚たちを守りたい。大切な同僚たちの意見が二分し、敵対した。今の君の内心は迷いばかりだろうね」
シンの心の内を淡々とフィンは詳らかにしていく。
そして、ついにはシンという人物の根幹に触れてしまう。
「リュー・リオンと両想いなら、それで良いと思うけどね。赦されないとか、罪人だとか、
「………ッ!!」
「僕もね、君同様に名を変えた。大切な姓を捨てたんだ。…親から貰ったディムナだけは今でも大切に使っている。その点だけは君とは違う。でも、捨てた事に変わりはない。…だからかな。君と友達になりたいと思ったのは…。本能的に同じだと感じたのだろう。君はどうだい?」
「否定はしない。最初の出会いは最悪だったのに、いつの間にかお前と友人になった。何処か似ていると思ったからだろうな…。お前が憎しみを忘れると言った時、苛立ったのは置いていかれたと思ったからだ。オレは多くのことに囚われているのに、お前は先へ進んだ…」
「シン!!今だけは僕をフィンとは呼ぶな。
「ッ!!」
フィンの言葉を聞いたシンは、何処か羨望の眼差しをフィンに向けていた。自分には出来ない事を、フィンは平然と行う。シンは単純にフィンを羨ましいと思った。
「僕は君の友人ディムナとして、君を…
フィンは槍を構え、詠唱を開始した。
「『魔槍よ、血を捧げし我が額を穿て─ヘル・フィネガス』!」
それは高揚魔法。戦闘意欲が引き出され全能力が超高強化されることによって、凶戦士と化す。限界以上に怒る、もしくは感情が振り切れると冷静さを保ったまま発動することが可能となっており、今回は冷静さを保てている。
「シン!!君を倒そう!!僕は君を見上げようとも、見下ろそうとも思わない!!ただ同じ目線で──
「──フィン」
「『真なる契りを此処に。捨てられし真名、刻まれし光。右腕は裂け、傷口は哭き、五の一が開く。語れ賢者よ、神工輝斧の担手よ。騙れ偽者よ、汝は赤を名乗る者。報いし猟犬は既に数多の槍とともに。轟く馬蹄、終わらぬ蹄跡、騎士達の歌は今もなお高らかに響く。すなわち誓約、小人が誇り。すなわち狼煙、小人は守護者。一族よ、集え。この御旗のもとに。同胞よ、続け。聖烈の光は今も先前に。我が名は一走、蹄鉄とともに駆ける者。大いなる勇気のもと、今一度。もう一度。聖約をこの手に。もし許されるならば、今ここに、女神の一槍を』!!」
フィンのそれは超長文詠唱の魔法。発動まで時間がかかるという弱点こそあるが、その効果はとてつもないものだ。
それはLv.および潜在値を含む全アビリティ数値を魔法能力に加算させ、投槍による攻撃を放つ投槍魔法。
今のフィンは春姫の階位昇華に、自身の階位昇華。そして、高揚魔法を使っており、実質的な彼の現レベルは
この瞬間だけとはいえ、フィンは間違いなく神の恩恵を刻まれた者たちの中で最強の存在だ。
そして、彼の力はシンを殺すことさえ可能となっている。
「…………」
(アレを真正面から喰らえば死ぬな。だが、避けることは出来ない。これは真名を、男を、全てを賭けた勝負だ)
「…………」
(オレはシンにこだわり過ぎていたのかもしれない…。生き方は変えられるのかもしれない。……今だけだ。今のオレに出来ることは、
バリッ!!!バリッ!!!バリッバリッ!!!バリッバリッバリッ!!!
シンの周囲から赤黒い稲妻のようなものが浮かび上がっている。それらはシンの右手に少しずつ、だが、確実に集約されていく。
「今だけはシンではなく、ルドガーとして戦う!!ディムナ、お前を倒す!お前に勝つ!!……正直、お前の言う通り、今のオレは迷いばかりだ!!…ああ、そうさ!!オレには何が正解で何が不正解なのか、分からない!!だが、今のオレのやるべき事は、ルドガーとして、お前を倒すことだッ!!」
シンは自身の右手に膨大な覇気を集約させ、いつでも敵を殺せるようにしている。
そして、フィンもまた超長文詠唱を完了して、敵を殺せる準備を整えていた。互いに手を抜く余裕も意味もないと理解している。今はどちらが勝つのかを決めるだけだ。
「『ティル・ナ・ノーグ』!!!!!!!!!」
「『
フィンはその手に持つ槍を投げ飛ばし、シンは右手に蓄えた膨大な覇気の塊を飛ばした。
白い光に包まれた槍と、黒色に染まる覇気の圧力波。この世界の力と別世界の力。二人の渾身の一撃は辺り一帯を破壊出来る程の威力を有している。
それらは反れること無く、真っ直ぐ突き進む。
そして、衝突した。
ドンッッッッッッッッッッッッッッ!!!!!!!!!
衝突した瞬間、とてつもない衝撃波が周囲に広がっていく。シンとフィン以外の木々や瓦礫、その他のありとあらゆる物が吹き飛ばされる。
そして、衝突して尚、どちらの一撃も怯むことなく、ひたすら前へ突き進もうとしていた。
その光景をシンとフィンは黙って見つめている。もしも、どちらかの一撃が勝った瞬間に、負けた方は死を覚悟するほどの一撃に見舞われてしまう。
それでも、シンとフィンは逃げようとしない。
「僕が勝つッ!!」
「いや、オレだッ!!」
二人の渾身の一撃。それは戦場にいる者たち、これを見ているオラリオの者たちを驚愕させている。
これはいつまで続くのか、どちらが勝つのか。その疑問は次の瞬間に解消される。
ドンッッッッ!!!っと大きな音を立てた瞬間、ぶつかり合った一撃はとてつもない速度で周囲に発散された。
発散された力はシンとフィンの両方を巻き込み、半径数十キロ内の物を跡形もなく崩壊させたのだ。
「………」
「………」
「………」
「………」
戦場には煙が立ち込めている。そんな中、その戦いを見ていた者たちは、一体どうなったのかを気にしていた。特にロキ・ファミリア幹部陣はフィンが無事なのか気が気ではない。
「…………どうなったの」
「団長はッ!?」
「煙で見えない…」
「………フィン」
それから数十秒後に周囲を覆っていた煙が晴れていく。
そして、彼等はその光景を目撃した。【勇者】フィン・ディムナの倒れる姿と豊穣の女主人シンがボロボロになりながらも、何とか地に立っている姿を…。
この瞬間に、フィン・ディムナの負けが決まったのだ。
「ハァッ…ハァッ…ハァッ…、
「………」
「ディムナ、戦争遊戯の結果がどうなろうと
そう言って、シンはフレイヤたちのいる島へと歩いていく。
シンの受けたダメージは相当なもので、いつものように高速での移動は出来ない。
「最近はボロボロになる事が多すぎる」
深層での事や、心の問題、そして、今現在の事を思い、シンは苦笑いする。
「ッ!!?」
そんな時、優しい風をシンは感じ取った。
「タイミングが最悪だな。今来たのか。──リュー」
シンたちのいる島ではなく、フレイヤたちのいる島にリュー・リオンは降臨した。
「今より参戦する」