冷たい海賊は欲しいものを得られるのか   作:Connect

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49.番狂わせ

 

 【疾風】リュー・リオンの参戦は、ヘスティア・ファミリア率いる派閥連合軍にとっては大きな力となる。

 女神アストレアの下へ行き、リューはステイタスの更新をした。その結果、Lv.4からLv.6に連続昇格という前代未聞の大偉業を彼女は成し遂げたのだ。

 

「何故、ここにッ!!?」

 

 この場の敵を殲滅まで追い込んだフレイヤ・ファミリア幹部ヘグニ・ラグナールはリューの存在を確認して驚愕する。

 

「同胞、私はお前を斬る。……そして、戦場を整えよう」

 

「小娘が!!舐めるな!!」

 

 ヘグニはその手に持つ呪剣(カースウェポン)ヴィクティム・アビスを振るい、リューを斬ろうとする。

 当然、リューも黙って斬られる気など毛頭ない。彼女はその手に持つ新たなる武器アルヴス・ユースティティアを振るう。

 

「何だ、その武器はッ!?」

 

「これは絆だ。貴様の呪剣を凌駕する、私にとっては、間違いなく最強の剣」

 

 リュー・リオンとヘグニ・ラグナールは剣を交える。互いの一つ一つの動きに隙は全く無い。油断すれば、相手に斬られるだろう。剣を交える内にヘグニはリューの強さを理解させられる。女神祭の時よりも数段強くなっているリューの強さ。

 

「この力はッ!?レベル6だとッ!?二度ランクアップしたのかッ!そんな事が可能なのかッ!」

 

 普通なら、そのような前代未聞の大偉業を成し遂げる事など出来ない。

 だが、リュー・リオンが過ごして来た5年間は多くの経験値を得るには十分過ぎるものだった。闇派閥壊滅、同僚たちとの稽古、直近で起きた深層での戦い。それらが彼女を強くした。

 

 そして、何よりもリュー・リオンは才能の塊だ。アイズ・ヴァレンシュタインと並ぶ程の素質を彼女は持っている。

 その結果、彼女はここまで上り詰めたのだ。

 

「同胞よ、私は貴様を倒そう」

 

(女神祭の時、私は何も出来なかった。そして、あの時も私は大切な友と愛する人を救う事が出来なかった)

 

「こんなことがッ!!何故、振り切れない!!」

 

 ヘグニはリューの力に圧されていく。剣での斬り合いは、実力的にほぼ互角。それなのに、ヘグニは押されているのだ。

 

「何故だッ!!」

 

 ヘグニが悔しがっていると、彼とリューの周りにフレイヤ・ファミリアの者たちが参戦した。

 

「【強靭な勇士(エインヘリヤル)】!!そこのエルフを倒しなさい!!」

 

 彼等の指揮を取っているのは、ヘイズ・ベルベットだ。彼女はこの戦争遊戯の勝利のためならば、ヘグニの決闘すらも否定する。当然、ヘグニは戦いを邪魔され苛立つが、フレイヤの為と言われ、ヘイズの指示に従う。

 

「一騎打ちすら出来ぬ、騎士の墓場…。この現状は呪いだ」

 

 敵に囲まれたリューは軽く深呼吸をする。

そして、大切な主神アストレアの事を想う。

 

「──使います、アストレア様。【アストレア・レコード】」

 

「倒しなさい。【強靭な勇士(エインヘリヤル)】!!」

 

 フレイヤ・ファミリアの者たちが、リューを倒そうと動き出す。だが、それと同時にリューは詠唱を開始した。

 

「『使命は果たされ、天秤は正される。秩序の砦、清廉の王冠、破邪の灯火──』」

 

「魔法だッ!!行使させるなッ!!」

 

 フレイヤ・ファミリアの者たちは、リューの詠唱を阻止しようと魔剣を使う。だが、彼女を囲う星の正域により、それらは防がれた。

 

「結界かッ!!」

 

 雑兵では結界を壊せないと判断したヘグニは、自らの剣を振るう。しかし、リューの詠唱が終える前に結界を破壊する事は出来ない。

 

「『──女神の名のもとに、天空を駆けるが如く、この大地に星の足跡を綴る。正義は巡る』」

 

「これはッ!?」

 

「『アガリス・アルヴェシンス』!!!」

 

 燃えゆく熱い炎がヘグニ・ラグナールを吹き飛ばす。

 この炎を知っている者たちは、これがアリーゼ・ローヴェルの魔法だと理解する。

 

「炎の付与魔法だとッ!それはッ!それはッ!!【紅の正花(スカーレット・ハーネル)】アリーゼ・ローヴェルの魔法ッ!!何故、貴様がそれを使えるッ!!」

 

「──旅を終えた。アストレア様と再び巡り合い、アリーゼたちの意志を受け継いだ。─────行こう、アリーゼ」

 

 炎の付与魔法を行使するリューは、敵を殲滅するためにその力を振るう。

 【強靭な勇士(エインヘリヤル)】は第二級冒険者と同等かそれよりも下の強さ。レベル6となったリュー・リオンの敵ではない。彼女の一撃一撃にやられていく。

 

「『今は遠き森の空。無窮の夜天に鏤む無限の星々。愚かな我が声に応じ、今一度星火の加護を。汝を見捨てし者に光の慈悲を。来れ、さすらう風、流浪の旅人。空を渡り荒野を駆け、何物よりも疾く走れ。───星屑の光を宿し敵を討て』!!」

 

 緑風を纏った無数の大光玉が空を覆う。

 

「『ルミノス・ウィンド』!!!!」

 

 フレイヤ・ファミリアの者たちは、リューの放つ魔法。それを避けることが出来ず、正面から受けてしまう。

 倒れるフレイヤ・ファミリアの者たち。立っているのは、ヘグニ・ラグナールだけだ。

 

「広域に極限まで使用した魔法。俺以外は倒れたか…。貴様の狙いは一騎打ちだな」

 

「勝負だ」

 

「ほざけッ!!」

 

 ヘグニ・ラグナールとリュー・リオンの一騎打ちが再び始まった。剣技はヘグニの方が上回っている。だが、それを補うためにリューは炎の付与魔法を巧みに使用していく。

 

「ぬるいッ!炎の付与魔法は脅威。だが、まだ完璧に使い熟さていない!俺を倒すには力が足りぬ!!!」

 

 ヘグニは自身の方が実力は上だと自負している。

しかし、それは彼が万全な状態だったの話だ。リューと何度か剣を交える内に、ヘグニは力が上手く入らない事に気づく。

 

 ここまでヘグニは、椿・コルブランドを始めとする冒険者たちと連戦をして来た。

 そして、多くの冒険者をその呪剣で斬り伏せたのだ。知らず知らずのうちに、ステイタスの低下と体力の消耗がヘグニを襲っていた。

 

「同胞よ。私と戦うまで何人の冒険者を斬った?」

 

「ッ!?」

 

「ここまで皆が貴様を追い詰めた!!」

 

「バカなッ!!こんな事がッ!?」

 

「純粋な一対一なら、勝負は分からなかった。だが、この瞬間、今だけは私たちが勝たせてもらうッ!!」

 

 リューの渾身の一撃をヘグニは受けてしまう。

 その時、かつて憧れたアリーゼ・ローヴェルの正義の炎を彼は思い出すのであった。

 

「『炎華(アルヴェリア)』!!」

 

 強力な炎の爆発を受け、ヘグニ・ラグナールは倒れる。

この瞬間に、リュー・リオンの勝利が確定した。

 

「ヘグニ様が負けるとは…。だが、私がいる限り、何度でも蘇らせるッ!全てはフレイヤ様の為にッ!!」

 

「騒ぐなブタ」

 

 ヘイズがヘグニの回復に向かおうとした瞬間に、無数の雷撃がヘイズを無慈悲に襲う。

 

「何をするのですかッ!!ヘディン様ッ!!」

 

 ヘイズは雷撃を放って来た人物。すなわちヘディン・セルランドに抗議を行う。何故、フレイヤ・ファミリアの指揮官である彼が自身を攻撃するのか、ヘイズには理解出来ない。

 

「回復量は流石と言ったところか」

 

「フレイヤ様を裏切るつもりですかッ!!」

 

「私は忠義のために罪を犯す。あの女、ヘルンと同じようにな。私は裏切り者の烙印を受けてでも、フレイヤ様を救う」

 

「ふざけるなッ!!」

 

「ふざけてなどいない。……貴様の回復量は魔力あってのもの。私の魔力の方が貴様よりも格段に上だ。故に散ることは明白。退場しろ」

 

 ヘディンは無慈悲に雷撃をヘイズに放った。ヘイズも負けじと自らの身体を回復させていくが、無限にも続くヘディンの魔法が魔力を枯渇させてしまう。そして、ヘイズは地面に倒れ、敗北してしまう。

 

「どういうつもりですか?ヘディン・セルランド」

 

「今は好機だ。アレンとシン(氷魔)は離れた場所。あの猪は馬鹿弟子だけではどうにもならない。貴様はオッタルのいる場所へ向かえ。……ここまでが私とフィン。二人の作戦だ」

 

「……ッ!!!………分かりました」

 

 リューはオッタルのいる場所へと向かう。それを確認したヘディンはフレイヤのいる場所を見つめる。

 

「許しを請いません、フレイヤ様。これは私のエゴ。罪人の烙印と引き換えに貫かせて貰う」

 

 ヘディンの裏切りにより、戦況は大きく変化する。

 

 ヘグニとヘイズは倒され、ヘディンは裏切った。

 残るフレイヤ・ファミリアの主な戦力はフレイヤ・ファミリア団長オッタル、副団長アレン、幹部ガリバー兄弟。そして、フィンとの戦闘で重傷を負っているシンが主な戦力だろう。

 

 まだ、それだけの戦力が残っているのだが、フレイヤのいる島。そこにいるのは、オッタルとガリバー兄弟だけだ。

 アレンとシンは東側にいる。西側の島まではかなりの距離が空いており、戻るまでに時間を要する。更に言えば、シンはフィンとの戦闘で重傷だ。

 

「この状況は不味いな」

 

 ヘディンの裏切りは、またたく間に戦場にいる者たちへと伝わっていく。戦場には、憤怒と混乱が交わっている。そんな中、彼女たち(・・・・)は戦場へと参入した。

 

「遅過ぎたかもね」

 

「大丈夫ニャ!!これも【勇者】の作戦ニャ!!!」

 

「────帰って来たニャ!!」

 

 ルノア、クロエ、アーニャたち豊穣の女主人の面々が戦場へと参入した。

 

「何が本当で何が嘘か…、ミャーには何も分からない。だけど、家族のために戦う!!シルを止めるニャ!!」

 

「そうだよ!!シルもシンも一発殴ってやる!!」

 

「その時が楽しみだニャ!!」

 

 アイシャや命がガリバー兄弟と戦闘をしている場所に参入したアーニャ、ルノア、クロエ。

 これにより、ガリバー兄弟は苦戦を強いられる。

 

 そして、フレイヤ・ファミリア団長オッタルと戦っているベル・クラネルの下にも助っ人が参上する。

 

「坊主ッ!!まだまだ降参するには早いよッ!!アタシ等が来たんだ、勝ちに行くよ!!そうだろ?リューッ!!」

 

「ええ!!私たちは負けられないッ!!」

 

「……ミアさん、……リューさん」

 

「坊主ッ!少しの間、引き受けてやるさ!!リュー!坊主の回復をしなっ!!」

 

「はいッ!!」

 

 リューがベルの回復をしている間に、ミアはオッタルとの戦闘を開始する。

 

「ミア、来るとは思っていた」

 

「それはそうだろうッ!!アタシの来る理由ばかりが、ここには散らばっているからね!!何よりも、シルの声を聞いた!!それを聞いて、酒場に閉じこもっていられるわけないだろうッ!!」

 

「お前は今の俺に勝てはしない」

 

「生意気言うんじゃないよッ!!」

 

 ミアとオッタルの戦い。レベルを加味すれば、レベル7のオッタルが有利なのは間違いない。

 だが、ミアはオッタルと勝負が出来ている。彼女が前線を離れてから時間はかなり経っていた。今までの戦闘経験値が、ここまでの戦いを保たせているのだろう。

 

「ミアは停滞し、俺は前進した。故に俺が勝つ」

 

 オッタルはその言葉通りの力を発揮する。彼はその爆発的な力でミアを吹き飛ばす。ミアも負けじと、その手に持つスコップを振るうが、押され始めていた。

 そんな時、ベルの回復を終えたリューと、回復したベルがオッタルに立ち向かおうとする。

 

 そして、ヘグニを説得したヘディンも参戦するのだった。

 

「『永伐せよ、不滅の雷将──ヴァリアン・ヒルド』!!」

 

 ヘディンによる、超短文詠唱の雷属性の攻撃魔法。一点集中の威力がオッタルを襲う。

 

「ミア、何をしている?」

 

「ヘディン、アンタこそ、どうしたんだい?」

 

「分かっていて聞くな。………4人で奴を倒すぞッ!!」

 

 オッタルを倒そうと、ミア、ヘディン、リュー、ベルがその力を全力で振るう。

 その同時刻、ルノアやクロエ、アーニャたちの参戦により、ガリバー兄弟のほとんどが倒された。ガリバー兄弟の長男アルフリッグだけは、重傷を負いながらも戦闘を続行している。

 

「愚図がぁッ!!」

 

「チッ、イレギュラーが多過ぎるだろう」

 

 そして、その瞬間にアレンとシンがアルフリッグたちのいる場所まで辿り着いていた。

 

「兄様、シン…」

 

 二人の登場にアーニャは動揺する。だが、彼女の隣に立つルノアとクロエは嬉々として笑っていた。

 

「シン、だいぶ重傷のようだけど?」

 

「ボロボロだニャ」

 

「慢心、鈍り、イレギュラー、フィンの強さ…。その全てがオレをここまで追い詰めた。……フィンの奴は最初からヘディンと組んでいたな。ここまで状況が悪化するとは…。奴らの知恵は凄まじいものだ」

 

「随分と達観してるね」

 

「事実を述べただけに過ぎない。けど、オレが重傷でも、お前たちに勝つことは可能だ。それは相対しているお前たちなら分かる筈だ。オレはお前たちを傷つけたくない。故に邪魔をするな!!」

 

「「断るッ!!」」

 

 ルノアとクロエはシンを倒そうと、彼に向かって行く。

 通常通りに考えれば、ルノアとクロエの攻撃はシンにダメージを与える事は出来ない。

 

「ッ!!?」

 

 だが、シンは二人のつけている手袋から嫌な気配を本能的に感じ取った。彼女たちの攻撃を受けてはダメだと思い、後退する。

 

「あれ?シン、どうして逃げるの?」

 

「ミャーたちのパンチなんて受けても問題無いでしょ?」

 

「白々しい。お前等の手袋に海楼石が組み込まれているな。ミアの奴が海楼石を渡したのか…」

 

「御名答ッ!!半信半疑だったけど、その様子ッ!!」

 

「これでシンを殴れるのは確定ニャッ!!」

 

「………」

 

(ミアに渡した海楼石は高純度だが、大した量はない。他から海楼石の気配は感じない事を加味すると、ルノアとクロエの手袋だけ気をつければ問題ない)

 

 海楼石という力は、能力者のシンにとっては脅威になり得るが、それでも使用するのはルノアとクロエの二人だけだ。

 シンはこれなら負けないと考える。

 

「ミアとヘディンの参戦。オッタルの負けというのが少し見えて来たな…。最早、この戦場は総力戦。早めに終わらせる」

 

「言ってくれるね!!」

 

「ミャーたちはそんな簡単にやられないニャ!!!」

 

 

 

 

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