冷たい海賊は欲しいものを得られるのか   作:Connect

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50.最後の試練

 

 クロエとルノアの巧みな連携攻撃。それは予想以上にシンを苦戦させている。

 しかも、シンの身体の状態は万全ではない。フィンとの戦闘によって、ボロボロの状態。骨ほ何本も折れており、大振りに動くだけでも痛みが響いてしまう。

 

 そして、何よりもシンはヒエヒエの能力を封じているのだ。

 理由は完璧にコントロールが出来ないからだ。万が一にも能力が暴走すれば、クロエとルノアを殺しかねない。

 それ故に、シンはヒエヒエの能力を封じている。

 

「やっぱりねッ!!」

 

「思った通りニャッ!!」

 

 ルノアとクロエは気づいている。というよりも、少しの間だけでも戦闘を行えば、自ずと分かってしまう。シンがいつも敵を殲滅するように、ヒエヒエの能力を使わない事が…。

 

「チッ!!面倒だなッ!!」

 

「それは光栄だニャ!!」

 

「私たちは弱くないよ!!」

 

 シンは海楼石に注意しつつ、出来るだけ痛みを与えないように、ルノアとクロエを制圧しようとする。

その考えのもと、シ覇王色の覇気で気絶させることが最善だと、シンは判断した。

 

 ギロッ!!!!!!

 

 シンの覇王色の覇気は辺り一帯に広がっていく。それにより、フレイヤ・ファミリアの雑兵たちや派閥連合の者たちを容赦なく気絶させた。

 だが、この場にいるルノア、クロエ、そして、少し距離の離れた場所にいるアーニャとアレン、ヘグニは気絶していない。

 

「どういう事だッ!?レベル6のアイツラが気絶しないのは納得出来るッ!だが、どうして、ルノアやクロエ、アーニャは気絶しないッ!?しかも、お前たちは至近距離で覇王色の覇気を受けている。何故だッ!!!」

 

「さぁね。でも、シンのそれは本質的に殺気を放っているだけ。私たちに殺気を向けられなかっただけじゃないの?」

 

「ッ!?」

 

「嬉しいニャ。ミャーたちを大切に思っているシンの心。だから、女神フレイヤ…いや、シルの為に戦っている。でも、シルの本当の望みは違う」

 

「本当の望みだと…」

 

「シルはこのまま少年を手に入れても救われないよ」

 

「………何故、そう言い切れる?」

 

「…シルの涙を見たから。シルの声を聞いたから」

 

「ッ!?」

 

 その言葉を否定する。そんなことがシンには出来ない。

 今尚フレイヤを苦しめているシルという存在をシンは知っているから。

 

「ねぇ、今からでも一緒にシルを止めよう!シルを助けよう!」

 

「…クロエ」

 

「シルもシンも、二人とも大バカだ!囚われ過ぎなんだよ!!」

 

「…ルノア」

 

「「シンはこのままで良いの?」」

 

「ッ!!!…………立派だな。お前等もフィンも…。だが、今さらアイツの敵になる事など、オレには出来ない。──覇王色の覇気が効かないのなら、直接気絶させる」

 

 パリンッ!!とその場に氷結を残すと、シンは拳に力を込めて、ルノアとクロエの腹に一撃与えた。

 

「「ゴホッ!!!」」

 

 倒れるルノアとクロエ。そんな彼女たちを見下ろしているシンの口からは微かに血が流れており、手の指の骨はヒビが入っていた。これは身体がボロボロの状態にも関わらず、高速移動をして、力を込めた攻撃をした代償だ。

 

「フィンの作戦は、とてもオレの心を突いている」

 

(クロエとルノアに、ここまで時間を要するとは…。このボロボロの状態では、保たない。向こうに()の気配を感じる。余計なことをする前に行かなければ…)

 

 シンはアレンと戦っているアーニャやヘグニを無視して、向かうべき場所へと足を進めていく。

 アーニャとヘグニも目の前のアレンから目を離せないので、シンを追うことは出来ない。

 

 シンの向かった先は瓦礫が散乱している場所。

 

「ここか…」

 

 シンは気配のしている場所。すなわち瓦礫が散乱している一カ所を見下ろす。

 そして、瓦礫を蹴り飛ばすと、そこには辛うじて意識を残している全身火傷状態のヘイズ・ベルベットの姿があった。

 

「……あなたは…」

 

「ヘイズ・ベルベット、少しだけ魔力が残っているな。オレの傷を治せ。これは命令だ」

 

「フレイヤ様のお気に入りだからと言って、…偉そうに…」

 

「オレとて、回復薬があれば、お前など使わない。良いから、早くしろ。……フレイヤが負けるぞ?」

 

「ッ!!?」

 

 敬愛する主神が負ける。それはヘイズが恐れる事。この戦いは必ず勝たなければならない。

 そして、シンの力はとても強力だとヘイズは理解していた。故に彼女は身体を酷使して、詠唱を開始する。

 

「『我が名は黄金。不朽を誓いし女神の片腕。焼かれること三度、貫かれること永久に。炎槍の獄、しかして光輝は生まれ死を殺す。祝え、祝え、祝え。我が身は黄金。蘇る光のもと、果てなき争乱をここに──ゼオ・グルヴェイグ』」

 

 ヘイズは残り少ない魔力全てを振り絞り、シンのボロボロの身体を回復させた。その結果、精神疲弊(マインドダウン)に陥り、その場に倒れる。

 

「疲労は残っているが上出来だ」

 

 シンのボロボロの身体は回復した。これはベルたちにとっては悲報と言っても過言ではない。

 何故なら、シンの身体が回復した瞬間に、フレイヤ・ファミリア団長オッタルが倒れた(・・・)のだから。

 

 

 

「勝てた…」 

 

 猛者オッタルの撃破。激闘を制しての価値のある勝利。

 オッタルを倒せたベル・クラネルは女神フレイヤの下へと向かおうとするが、氷の壁(・・・)がそれを阻む。

 

「これはッ!!?」

 

「よく頑張ったと思う。だが、もう楽になれ」

 

 闘技場の出口を塞いだ氷の壁。その上に立っているのは、ベルたちを見下ろす圧倒的強者シンだ。

 

「シンさん…」

 

「シン…」

 

「……シン」

 

「お前たちは頑張ったが、足りなかった。もう体力は残っていないだろう。オレはだいぶ動けるぞ?」

 

 氷の壁から降り立ったシンは、傷だらけのリューとミアを見て、顔をこわばらせる。

 

「全く、ミアまで参加するとはな…」

 

「参加しない理由があるのかい?アタシは参加する理由しか無かったから、参加したまでさッ!!」

 

 傷だらけで満身創痍にも関わらず、ミアはゆっくりと立ち上がった。

 

「いつまで、縛られる気だい!!いつまで、罪人でいる気だい!!アンタがフレイヤの味方でいる意味は本当にあるのかい!!!」

 

「アイツは臣下にも裏切られ、母親のような存在であるミア、お前までも敵となり、大切な同僚たちも敵となった。オレまで敵にはなれない。せめて、最後までアイツの味方でいる。だから、──己を肯定したいのならば、このオレを倒せッ!!」

 

「なら、遠慮なく殴るよッ!!」

 

 ミアは握りしめた拳をシンに向かって振り下ろす。

 それをシンは避けると同時に、思いっきり力を込めて、ミアを蹴り飛ばした。

 

「降伏しろ、オレには勝てない」

 

「そういうわけにはいかないッ!!」

 

 ミア同様に立ち上がったリューは、シンと対峙する。

 

「『アガリス・アルヴェシンス』!!」

 

「『アイスサーベル』」

 

 シンは氷の剣を生成し、それに武装色の覇気を纏って、リューの振り下ろす剣を受け止めた。力量はシンの方が格段に上だ。それ故に、リューは軽く吹き飛ばされる。

 

「無駄な足掻きは止めろ」

 

「『ファイアボルト』!!」

 

 ベルの手から放たれた爆炎はシンを襲うが、火力が圧倒的に足りていない。僅かなダメージすら彼に与えらなかった。

 シンは標的をベルに定め、その手に持つ氷の剣を振り下ろす。それをヘスティア・ナイフでベルは受け止めたが、あまりにも重たい攻撃。受け止めきれず、地面に押し付けられる。

 

「少年、お前如きでは、オレの相手は務まらない」

 

「それでも、僕はシルさんと話さないといけないッ!!シルさんを救うんだああぁぁ!!!」

 

 押し付けられる強者からの力。それを耐えて耐えて耐えて、ベルは必死に弾き返そうと力を出す。

 

「……ッ!?」

 

(…戻されるッ!?…確かに少年は階位昇華を受けてレベル6。ある程度の強者となっているが、ここまでの力があるとはッ…)

 

「『──星屑の光を宿し敵を討て─ルミノス・ウィンド』!!」

 

 緑風を纏った無数の大光玉がシンを容赦なく襲う。

 しかし、攻撃を受けたところで、彼は自然系の能力者だ。崩れた身体はすぐさま自然と戻っていく。

 やはり、覇気や海楼石無しでの攻撃では意味がない。

 

「『ファイアボルト』!!」

 

「無駄だ。火力が足りていない。…少年、身の程を知れッ!!」

 

 そう言ったシンは、ベルの頭を掴むと、勢いよく上空に跳ぶ。そして、狙いを定めるように下を見て、その手に力を込め、ベルを地面に投げ飛ばす。

 

「…終わりだ」

 

 当然、ベルは何も出来ず、地面に叩きつけられた。闘技場にいたリューやミア、ヘディンたちにも、その余波は及ぼされる。とてつもない風圧を受けた彼女等は吹き飛ばされ、その隙を逃さないシンは、それぞれに一発ずつ与えた。

 

「良い加減に理解しろ。オレに勝てない事を…」

 

「化物め…」

 

 満身創痍ながらも唯一立ち上がったヘディンは、忌々しそうにシンを睨む。だが、彼にはシンに勝つ算段が無いのだ。

 ヘディンにとって、シンという存在はオッタルよりも格上の存在。かつてのヘラ・ファミリアやゼウス・ファミリアのような圧倒的強者。

 

「……ッ」

 

(フィンは、この怪物と一対一の勝負をした。倒せる算段も力も奴にはあったからだ。だが、今の俺たちには無いッ…。それが致命的だ。そして、何よりも…、全員限界を超えている。これ以上は身体が保たない)

 

「ヘディン、お前が裏切ったのをオレは責めない。だが、ここまで面倒事になったんだ。裏切りのケジメはつけさせる」

 

 シンはヘディンの前まで歩いていく。その圧倒的強者からの重圧に、ヘディンは死を覚悟させられる。

 この場の誰も動く事すら出来ない状況。シンは無慈悲に武装色の覇気を纏った氷の剣を振り下ろそうとする。

 

 しかし、その瞬間、炎雷がシンを襲った。

 

「…まだ、……僕は動けます」

 

「少年、お前をミアやリューと同じように優しく扱う気はない。無駄に立ち上がるのなら、完膚なきまでに潰すぞ」

 

 ギロッッッッ!!!!!!!!!!

 

「…ッ!!」

 

 シンの覇王色の覇気を受けて、ベルは意識が吹き飛びそうになる。辛うじて気絶してはいないが、膝をつき、動くことが出来ない。

 

「覇気の使い過ぎだな。威力も弱まり、コントロールが出来なくなっている。やはり傷の治療だけでは、疲労までは回復しないか…」

 

(……少年を気絶させ、その他の者たちも潰す。そして、ヘスティアたち神共を退場させる。これで終わりだ)

 

「少年、ここまで良く頑張ったな」

 

 シンは拳を握りしめ、そこに力を込めてた。そして、膝をついて動けないベルに一撃入れようとする。

 

「これで終わりだ、少年。─『天の咆哮(ロアー・オブ・ヘヴン)』」

 

 この一撃が加われば、ベルはもう立ち上がる事は出来ない。

そう思われた瞬間に、シンの動きが止まる。

 

「!!?ガハッ!!!…………ッ!!!!」

 

(これは…ッ、フィンとの戦闘で受けたダメージかッ!?ヘイズ・ベルベットの魔法を受けて尚、回復しきれなかったッ!!許容量以上のダメージを受けていたのかッ!?)

 

 シンの口から少量の血が吐き出される。ヘイズ・ベルベットの回復魔法はシンの傷を治癒した。だが、それでもフィンとの戦闘で受けたダメージは治らなかったのだ。

 

「だいぶ辛そうだね、─────シン。いや、ルドガー」

 

「ッ!!!?………どうして、お前がここにいる!!?」

 

「何故?そんなの決まっているだろう。君を殴るためだよ!!」

 

「──────────ディムナ」

 

 シンが倒した筈のフィン・ディムナが、そこに立っていた。

 

 

 

 

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