冷たい海賊は欲しいものを得られるのか   作:Connect

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51.溶けた氷

 

 倒した筈の男フィン・ディムナが、シンの目の前に立っている。シンよりもダメージを受けている筈のフィン・ディムナ。彼は何故、動けたのだろうか…。

 

「ディムナ、何故ここにッ!!」

 

「どんな戦いにも盤面を確実にひっくり返せる最強のカードを用意するのは必須だ。【刻剣神聖譚(ソード・オラトリア)】の時の君がその役目であったように」

 

「最強のカードだとッ!?それは誰だッ!!」

 

「気づかないのかい?僕の傷が治っている事を考えれば、誰が最強のカードなのか分かると思うけど?」

 

「まさかッ!!」

 

 シンが気づくと同時に、彼女(・・)は詠唱を始める。

 

「『癒しの滴、光の涙、永久の聖域。薬奏をここに。三百と六十と五の調べ。癒しの暦は万物を救う。そして至れ、破邪となれ。傷の埋葬、病の操斂。呪いは彼方に、光の枢機へ。聖想の名をもって──私が癒す────ディア・フラーテル』!!」

 

 それは傷の治療、体力回復、状態異常及び呪詛の解除と全てを癒すとまで言われる最上位の全癒魔法。

 その魔法が使われたことイコール、ディアンケヒト・ファミリア団長アミッド・テアサナーレが戦争遊戯に参加した事に他ならない。

 

「アミッド・テアサナーレ!お前たちはガネーシャ・ファミリア同様に中立の立場を取っていた筈だ!!」

 

「ええ。ですが、フィンさんに口説かれたので、こうして戦争遊戯に参加しました」

 

「誤解を招く言い方だね。ティオネが聞いたら、どうなることやら…」

 

「聞いているかもしれませんよ。何しろ、この戦争遊戯は生中継されていますから」

 

「うん、そうだったね…。…覚悟しないといけないかな?」

 

 和気あいあいと話しているフィンとアミッドだが、シンにとってこの状況はあまりよろしくない。

 何故なら、先程のアミッドの回復魔法により、リュー、ミア、ベル、ヘディンが回復されたのだから。

 

(しかも、何度でも全癒されてしまう。この状況でアミッドを参戦させるとか、ディムナの奴、どんだけイヤらしい作戦を組んだんだよ)

 

「ルドガー、気付いているかい?アミッドの登場だけじゃないんだよ。ここに来るまで倒れていた仲間たちをアミッドは回復させた。その者たちは、まだ退場していない神の眷属たちだ」

 

「……なるほど、やってくれたな」

 

 シンはフィンの後ろから続々と出てくる人物たちに目を向ける。そこには、ルノア、クロエ、アーニャ、ヘグニ、アイシャ、命、リリルカがベルたちを助けるためにやって来ていた。

 

「……アレンはどうした?」

 

「倒したよ」

 

「お前等が相手だったら、それも仕方ないか…」

 

(それにしても、ミアたちまで回復した。奴らの中で一番危険なのはディムナだが、最初に消すのはアミッドだ…)

 

 パリンッ!!とその場に氷結を残して、シンは高速移動した。彼の狙いは無論アミッドだ。彼女の治療師としての能力はとても優れている。それ故、先に潰すのは、とても正しい判断だ。

 だが、それは当然フィンが警戒していたことでもある。

 

「そう来るよね!!」

 

 フィンはその手に持つ槍を使い、シンの振り下ろした氷の剣を受け止めた。

 

「チッ!!」

 

「狙いが見え見えだ。まぁ、この状況では、僕でもそうする。いや、せざるを得ない」

 

 フィンに弾かれる形でシンは後退する。

 そして、倒すべき敵たちの居場所を彼は再確認した。

 

「……」

 

(オレを倒すために陣形を整えている。ミアと少年、リュー、そして、ディムナが前衛だ。その他の者たちは後衛で援護しつつも、アミッドを守っている。やり難い…)

 

「『ウチデノコヅチ』!!!」

 

 春姫の魔法により、フィン、ミア、リュー、ベル、ヘディンの階位昇華が行われた。

 最早、このオラリオにおいて最高クラス。深層などやすやすと突破出来るだろう。何よりも後衛には、アミッドやヘディンがいる。回復魔法に攻撃魔法、その周りにいる護衛の者たちも強い。

 

(一番気をつけるべきなのはディムナだ。アイツだけは油断出来ない。ディムナとアミッドを潰す。その次に、階位昇華という面倒この上ない事をする狐だ。けど、ディムナに読まれている…。……とりあえずは撹乱だ)

 

「『天の咆哮(ロアー・オブ・ヘヴン)』!!」

 

 武装色の覇気を纏った拳をフィンたちに向かって振るう。通常ならば、一点集中の圧力波となる。だが、今回は一点集中ではなく、意図的に広範囲にした攻撃だ。

フィン、ミア、リュー以外の者たちは圧力波に押されている。そんな中、シンは次なる攻撃に出た。

 

「『アイス(ブロック) 象空(エレファントスカイ)』!」

 

 象の形をした巨大な氷の塊がフィンたちに向かって行く。それも一体ではなく、数十体という数だ。

 フィンたちは各々の力を使い、氷の塊を破壊していく。

 

「ここだ!!」

 

「甘いッ!!」

 

 シンはアミッドに氷の剣を振り下ろしたが、リューの剣に弾かれる。そして、逆に剣を振り下ろされる。

 

「チッ!!」

 

(いくら武装色の覇気を纏っていても、氷の剣ではやはり振り難い。何よりも、強度もあまりない)

 

 シンは後方に跳んで、リューと距離を取る。手に持っていた氷の剣は、シンの動きと覇気に耐える事が出来ず砕け散った。

 

「保たないか………ガハッッ!!!」

 

 先程同様に、回復しきっていない身体が悲鳴を上げた。

 そして、それを見ていたフィンは逃さない。シンの腹に渾身の一撃を叩き込む。

 

 バキッッッッッ!!!!!!!   

 

「ガハッ!!!」

 

 吹き飛ばされたシンは、気絶しそうになるが、何とか意識を保ち、立ち上がる。

 

「…またダメージを受けた…。やはり、剣士としては武器が欲しいところだ。大技を放てないのが致命的過ぎる。──故に砕けない、最高の武器が必要だ。もう、全てを賭ける」

 

 シンは腰に巻き付けている小さなウエストポーチから、折れた刀を取り出す。

 

「折れた刀で何をする気だい?」

 

「ディムナ、アルテミスの件の時に話した事を憶えているか?オレは剣士だが、八年間、愛刀で戦ったことは無いと言ったのを…」

 

「ああ、憶えている」

 

「理由はこれだ。愛刀は折れたんだ。かつてゴッドバレーという島で、最強だと思っていた男が簡単(・・)に操られた。そして、その男に襲われ、刀は折られ、オレは斬られた。絶望したよ。まさか、アイツがあんな簡単に操られるとは…」

 

 その時の光景をシンは忘れる事はないだろう。最強の男が世界という存在に操られ、自身を一撃で斬った事を…。

 

「それ故に、オレは恐怖している。世界という頂点に君臨している神という圧倒的力を持つ者に…。──これは世界に何も抗うことの出来なかったオレの無残な敗北の証だ。それ故に刀の特性(・・)を使って再生させようとは考えていなかった」

 

「再生だと?」

 

「この刀の名は【紅血】最上大業物12工の一つだ。約1000年ほど前に作られたそうだ」

 

「1000年…」

 

「1000年間も残ったのは、この刀には珍しい特性があるからだ。その特性は血を与えれば、刀身が再生する。1000年も生き残ったのは、その特性あってこそだ」

 

「再生させるのかい?」

 

「そうなるな…。さて、この世界の者の血を使えば、こいつは変化するだろうか?」

 

 そう言って、シンは倒れているオッタルのところへ行き、折れた刀の先を彼の背中に突き刺した。

 

「血を貰う。それもかなりの量を…」

 

 時間にして僅か十数秒程だろう。

 シンはゆっくりと刀を引き抜くと、先程まで折れていた刀は再生していた。

 

「…最上大業物12工が一つ。名は【紅血】。最大限の経緯を持って、お前たちを殺す(・・)

 

(身体が熱い(・・)…。まるで、何か反応しているよう)

 

 久しぶりに握った愛刀。それはシンの心を高揚させる。

 

「ディムナ、お前との戦いで今まで得ることの無かった感覚をオレは得た。あれこそが覇王色の覇気を纏うということだ。まだまだ完成度は足りないが、纏う…いや、集約させることが今のオレなら出来るだろう」

 

 バリッ!!バリッ!!バリッバリッ!!!バリッバリッバリッ!!!

 

 シンの手に持つ【紅血】に覇気が集約されていく。それは一握りの強者たちが可能とする覇王色の覇気を纏うと類似するものだ。本質的には覇気を集約させているだけで、完璧には出来てはいない。

 だが、それが放たれればフィンたちは、良くて戦闘不能に追い込まれる。────悪くて全員死ぬ。

 

「この重圧はッ!!」

 

「マズイ、あれは受けきれない!!」

 

「シンッ!!全員を殺す気かい!!!」

 

 彼等の言葉は、シンには聞こえていない。

彼は独りよがりの一方的な別れを告げる。

 

「────さようならだ」

 

 それはシンの暴走。海賊として、殺し殺されの世界にいた彼そのものだ。かつての武器を持ち、かつての最強に近づいた高揚感、何のために戦っているのかすら、彼は見失っていた(・・・・・・)

 

 シンから放たれる圧倒的プレッシャーは、全員が死を覚悟するべきもの。けれど、フィンたちの目からは光が消えてはいない。むしろ、より輝いている。

 

「アレをまともに受ければ死ぬ。逃げたい者は逃げてくれて構わない。だけど、僕は彼の友人として、逃げない」

 

 フィンはゆっくりと前へ進んでいく。そんな彼と共にリューとミアも前へと進んでいくのであった。

 

「なるほど、【勇者】、あなたは紛れも無く彼の友人ですね。けれど、彼の一番は私なので勘違いしないように」

 

「ここで、それを言うのかい?」

 

「先程からシンはずっと貴方と会話をしているので、ムカつきました。私が彼を一番想っている。恋愛しているのですから」

 

「愛というならば、僕は友愛だよ」

 

「恋愛だの、友愛だの、競うものかい?ベクトルが違うだろう。まぁ、アンタたち風に言うなら、アタシのは家族愛だ」

 

「「「どれも愛だ(ね)」」」

 

 フィンは愛用の槍フォルテイア・スピアを握りしめ─

 

 リューは自身にとって、最強の剣アルヴス・ユースティティアを握りしめ─

 

 ミアはオッタルが落とした覇黒の剣を手に取っている─

 

 フィン、リュー、ミアがゆっくりと近づく中、シンは覇気の集約を続けていた。

 

 

 そして、ついにその技は解放される。

 

 

「『深淵の呪い(パンデモニウム)』!!!!!!」

 

 覇気を集約した剣が振り下ろされた。

 

 それはまるで叩きつけるような大技。

 

 しかし、ロックスと比べ、かなり劣る技。

 

 だが、それでも敵を粉砕するには十分なものだ。

 

 振り下ろされた剣。それをフィン、リュー、ミアは、それぞれの武器で合わせて受け止めた。

 

「一人では受け止めきれない。それは分かっているッ!!」

 

「ならば、一人で受け止めなければ良い!!」

 

「逆にアタシ等の想いを受け取りなッ!!」

 

「ッ!!!?」

 

「愛されたいのだろうッ!!──これは友愛だああぁぁッ!!!」

「愛されたいのでしょうッ!!──私は恋愛だああぁぁッ!!!」

「愛を受け取りなッ!!──家族愛だよッ!!!」

 

「ッ!!!!?」  

 

(押される。全てを出し切って尚、押されているッ!!)

 

 激しい衝撃波が生まれる中、シンは必死で剣を振り下ろそうとする。だが、どうしても押しきれない。

 

「何故だッ!!何故、オレが押されているッ!!!!」

 

「覚悟の問題だよ!!僕たちの方が強い!!それだけだ!!」

 

 覇王色の覇気を纏ったシンの攻撃。それはとても不完全であり、未熟なもの。冷静な判断を下せれば、今まで培って来た技量で、フィンたちに弾かれる事も無かっただろう。

 だが、今の彼は冷静ではないグチャグチャの状態。

 

「なッ!!!?」

 

 最大限の技を弾かれたシンは、後方に吹き飛ばされる。

痛む身体を何とか動かして、彼は立ち上がるが、その時には、既にフィンたちは次の行動に出ていた。

 

「………」

 

(警戒するのは、ディムナだ。アイツだけは油断ならない…)

 

 シンの第一警戒はやはりフィンだ。一番レベルが上であり、尚且つ触れる事が出来る。警戒するのは当然だ。

 

 ドンッ!!!

 

「ッ!?煙幕ッ!?」

 

 広範囲に放たれた黒い煙幕。それはシンの目から得られる情報を狭めた。だが、彼は見聞色の覇気により、気配を感じる事を可能としている。今もフィンの気配を彼は感じていた。

 

(正面からディムナの気配がする…。真正面から来るとは、裏をかいたつもりか?)

 

 正面から近づいて来るフィンの気配。それを察知しているシンは武器を構える。間合いに入った瞬間、敵を斬るためだ。

 

「ッ!!ディムナ、気配で分かっていたぞ!!」

 

「だろうねッ。僕は囮だ」

 

 ザシュッ!!とフィンを斬った瞬間、後方からシンの頭を掴む者が現れた。

 

「ミアッ!?」

 

「隙ありだよッ!!」

 

 ドンッ!!とミアの拳がシンの背中にヒットする。

 

「……前から思っていたが、何でお前はオレを実体として、触れられるんだッ!!!覇気も海楼石も、ましてやディムナの様に魔法を使っていないだろうッ!!」

 

「そんなの決まっているだろう。──“母親”の愛がこもった拳を防ぐなんて事は出来ないんだよッ!!」

 

「ッ!!!?」

 

「このバカ息子がッ!!」

 

 ミアは拳に力の込め、シンに反撃する隙を与えないぐらいの連撃を行った。

 

「グハッ!!」

 

 シンは血を吐き、地面に膝をついた。

最後の攻撃を仕掛けるのは、リュー・リオンだ。

 

「『アガリス・アルヴェシンス』!!」

 

 リューは、炎の付与魔法を施したアルヴス・ユースティティアを振るう。

 

「無駄だ、リュー!!お前ではオレを倒せないッ!!」

 

 シンは最上大業物【紅血】で、リューの剣を受け止める。

 

「──ずっと考えていました」

 

「ッ?」

 

「──私は、…あなたを救うには、どのような行動を取れば良いのだろうと…」

 

「救う必要はない!!オレは罪人、シンだッ!!」

 

「あなたは名を捨てた。それを私は肯定も否定もしない。ですが、これだけは言わせてもらいます」

 

「……」

 

「あなたは豊穣の女主人の店員だ!!シンだろうと、ルドガーであろうと関係無いッ!!あなたは私の大切な人だ!!大好きです!!私はあなたを愛しています!!」

 

「ッ!!?」

 

 リューの剣を握る力が強くなる。今のシンは武器に覇気を纏ってはいない。覇気を纏わなければ、【紅血】は再び折れてしまうだろう。だが、武器に覇気を纏わせる事が、今のシンには出来なかった。理由はシンプル単純だ。いわゆる燃料切れ。覇気を使い過ぎて、纏う事が出来ないのだ。

 

(押されている…、このままでは…、刀が折れるッ!!)

 

 そう思った頃には、時すでに遅しだ。【紅血】には、ヒビが入っていき、刀は無惨に折られるのであった。

 

「なッ!?」

 

「『炎華(アルヴェリア)』!!」

 

 強力な炎の爆発がシンを襲う。

 

「この程度の炎でオレは倒れないぞッ!!」

 

「そうでしょうねッ!!分かっていますよッ!!私もこれで勝てると思っていない」

 

 リューは剣を振り下ろすと見せかけて、剣を手から離した。

 そして、彼女は拳を握りしめ、シンの腹に思いっきりパンチをするのであった。

 

「私はあなたを殴るつもりでしたからッ!!」

 

「ガハッ!!」

 

(これは…海楼石が組み込まれている手袋ッ!?最初見た時、海楼石の気配がしていなかったぞッ!?……まさか、煙幕の時に海楼石が組み込まれている手袋に付け替えたのかッ!…ディムナッ!!何処まで、お前の作戦だッ!!)

 

「あなたが私の愛を受け入れるまで、何度でも殴るッ!!」

 

「ガハッ!!」

 

(能力が使えないッ、力が抜けるッ…)

 

 リューは何度も何度もシンを殴る。

 

「認めなさい!!愛をッ!!」

 

「ッ!!!?」

 

「私はあなたを愛しているッ!!私を愛おしいと思うなら、私の愛を受け入れなさいッ!!!!」

 

「────リュー」

 

「私だって、どうしようもなく、あなたの事を愛している!!愛している!!愛している!!愛している!!愛している!!愛している!!愛している!!愛している!!愛している!!愛している!!愛している!!愛している!!愛している!!愛している!!愛している!!愛している!!愛している!!愛している!!愛している!!愛している!!────あなたを愛しているのです!!」

 

「……」

 

(オレは多くの愛を受けていたんだな…)

 

「──リュー」

 

「──何ですか?」

 

「………」

 

「………」

 

「──愛している。オレの愛を受け入れてくれるか?」

 

「はい。…あなたも私の愛を受け入れてくれますか?」

 

「──ああ。受け入れるよ」

 

 その言葉を最後に、シンは気絶した。

 

 

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