冷たい海賊は欲しいものを得られるのか   作:Connect

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4.怪物祭 後編

 

 

 ガネーシャ・ファミリアが怪物祭用にダンジョンから捕らえてきたモンスターが逃げ出した。

その話を聞いて、シンは少しだけ眉をひそめる。

 

(あいつが言っていたわがままはこれか。くだらない)

 

「大変な事になりましたね」

 

 隣で水まきをしているリューは怪訝そうに呟いた。

誰がやったのかを知っているシンとしては、結果がどうなろうと茶番で終わると分かっているので見に行く気にもなれない。

 

「今日は仕事をサボって祭りに行かなくても良かったかもな」

 

「シン?」

 

「神という醜悪なる者に踊らされている光景など、気持ち悪くて見ていられない」

 

「神が醜悪ですか…」

 

「違うとでも?」

 

「いえ、そうかもしれない。ですが、人と同じでそれは個それぞれだと思います。良いものもいれば、悪いものもいる。少なくとも私たちの主神は守りたいと思える尊敬に値する神でした」

 

 その言葉を発したリューは何処か申し訳なさそうにしていた。恐らくアストレアの事を考えたからだろうとシンは推測する。それに対してくだらないと言葉を吐き捨てるほど、シンは優しさを失ってはいない。

だから、優しい表情で黙っていた。

 

「シンは神が嫌いですか?」

  

「嫌いだ。実質この地上は神に支配されているようなものだからな。支配されている者たちはそう思っていないが…」

 

「……」

 

「分からないか?神の恩恵(ファルナ)なんてものがある限り、人はそれを求め依存してしまう。神なしでは生きていけない世界になってるんだ。それが神のお遊びだと知らずにな。心底、くだらない。かつての英雄と呼ばれた者たちが泣いているぞ」

 

 シンは神という存在を好いてはいない。神という存在が当たり前という現実自体が彼にとっては不愉快なのだろう。

あまり見せて来なかった彼の一つの本心。リューはそれを聞いて複雑であった。神という存在全てが悪ではないと知っているので、くだらないとシンのように吐き捨てることはない。それがこれの反対意見になり得るのが悲しかった。

 そして、それと同時に本心を一つ話してくれたことに対して嬉しいと感情も湧き上がっている。

 

(私はシンの事を知りたい。それと同時に本質的には分かり合えないのかもしれないと恐怖している。情けない…)

 

「リュー、手が止まっているぞ」

 

「え、ええ。早く終わらせましょう。ミア母さんに怒られてしまいすね」

 

「そうだな。アイツのゲンコツは痛い。………………ん??」

 

「シン、どうしましたか?」

 

 箒を掃いているシンの手が止まった。

 

「いや、違う気配を感じた」

 

(これはあいつのわがままとは違うものだな。地下から現れたのか。また、別の奴の思惑か…)

 

「シン?」

 

「少し気になるな…」

 

 そう言葉にしたシンはシュンッ!!と一瞬にして消える。

さっきまで彼がいた場所には氷結が出来ていた。

隣にいたリューは何が起きているのかは分からない。だが、シンが動くほどの事なので何か悪い事が起こっているのだと察していた。

 

「鼻というよりも目が良いのかね?」

 

「ミア母さん!?」

 

 店から出てきたミア。彼女はシンが向かったであろう方向を見つめている。

 

「全く、色々な事が起きているみたいだね。シン、帰ってきたら思う存分働かせるからね」 

 

 

 

 

 シンが向かった先にはガネーシャ・ファミリアが捕らえたモンスターなどではない異質なモンスターが暴れていた。

しかも、そこではロキ・ファミリアの幹部たちがそのモンスターと戦っている。

 

(アレは花のモンスターか。剣姫たちに任せても問題ないと判断するべきか蹴散らすべきか。迷うなぁ……、蹴散らした方が良さそうだな)

 

「『アイス(ブロック) 無限の剣(エンドレスソード)』」

 

 シンの周りに作られた氷の剣。その数は分かるだけでも100本以上。数多の氷剣が暴れているモンスターに向かって行った。

 

「あれは何!?」

 

「氷の剣が向かってくるよ!!」

 

「アイズ!ティオナ!モンスターから離れるわよ!!」

 

 モンスターと戦っていたアイズたちは氷の剣が向かってくる事を察知して、その場から離れる。

氷剣のターゲットはアイズたちではなくモンスターなので、その鋭い刃はモンスターに向かう。

 氷剣を破壊しようとモンスターは触手をうねうねと暴れさせる。触手は氷剣を破壊していくが、それはむしろ悪手であった。氷剣と接触した部分は次々と凍っていき、段々と広がっていく。これこそがこの技の真骨頂だ。氷剣にそこまでの強度はない。氷剣で刺せるほどの硬さだったらそれはそれで良い。

だが、氷剣で破壊出来ない強度の場合は凍らせる。それがこの技の主な力だ。

 

「さてと、これで終わりだろう。全て仕留めた」

 

 完全にモンスターを凍られたシン。そんな彼を先程までモンスターと戦っていたアイズ、ティオナ、ティオネが囲むように待機していた。

 

「助太刀してくれてありがとうと言った方が良いのかしら?」

 

「感謝はいらない。オレは確かめるために来ただけだ」

 

「確かめるって何を?あの変なモンスターを知ってるの?」

 

「知っていたとして、お前たちに言う義務があるのか?命を助けてやったんだ。それ以上を求めるな」

 

 シンは屋根から飛び下りると、傷を負っているロキ・ファミリア所属のレフィーヤの元へと歩いていく。

この時の彼はいつものような優しさを持ち合わせていない。

あるのは強者としての在り方だけだ。

 

「普段、偉そうにしているエルフがこのざまか。何とも嘆かわしい。……お前もそこら辺の弱者と何ら変わらない」

 

「…ッ!!」 

 

「覚悟も無い奴が戦場に来るな。心底不愉快だ」

 

 シンの言葉を受けて、レフィーヤは悔しさが止まらない。そして、それは後に彼女を成長させる材料となる。

一方のシンは言いたいことを言い終えた後、凍らせたモンスターの元へと向かった。理由としてはそれを破壊するためだ。

凍らせたモンスターは死んでいるわけではない。仮死状態となっているだけだ。解凍すれば、再び動き出すだろう。

 

「1週間経てば氷が溶けて動き出すだろう。1週間もそのままにするとは思えないが、解凍するバカがいるかもしれない。破壊しておくに越したことは無いだろう」

 

 シンは拳に力を込めて、氷漬けのモンスターたちを殴った。

バキバキッ!と氷はひび割れていき、氷漬けのモンスターたちは粉々となる。

これで終わりだとシンはその場を去ろうとする。しかし、行く手を阻む者たちがいた。

 

「そんな急ぐなや。うちと少し話そうやないか」

 

 いつの間にかこの場にやってきていたファミリアの主神ロキ。その横にはアイズたちが立っている。

 

「オレに話はない。命を無駄にしたくないのなら、道を開けろ。…さもなくば殺すぞ」

 

 圧倒的強者としての殺気。第一級冒険者であるアイズたちですら冷や汗が止まらない。

一度でもシンが力を振るえば、アイズたちは殺される事だろう。その事が分かってしまったからこそ、アイズたちは動けない。

 

「さて、どうする?」

 

「しゃあーない…諦めるわ。うちの大事な子たちを殺されたら堪らんからなぁ。……ホンマに危険な奴や」

 

 ロキの言葉を受けて、アイズたちは道を開ける。

シンは何事も無かったかのように、歩いていくのであった。

シンが見えなくなると、ロキはアイズたちに指示を出す。

 

「レフィーヤは治療してもらい。アイズはうちと残っているモンスターの処理や。ティオナとティオネは地下を見てきてくれるか?まだ何か居る気がするわ」

 

「ロキ、あの男は放って置いても良いの?」

 

「うちの見立てでは、ファミリア総戦力で戦ったとしても勝てるかどうかは五分五分やな。それぐらいあの男は強いわ」

 

「ロキがそこまで言うなんてねぇ…」

 

「そんぐらいヤバい奴ちゅーことや。これはあの色ボケと話さなアカンな」

 

 ロキはフレイヤに根掘り葉掘り引き出すことを決める。

だが、それは結果的に叶わない。なぜなら、フレイヤはロキに負けるほど弱くはないからだ。

シンという男をロキが全て知るのはこれから先もないだろう。

 

 

 

 一方のシンはというと、豊穣の女主人に帰った瞬間、ミアのゲンコツが彼の頭を直撃した。

その威力は凄まじく、床が抜ける程だ。

 

「痛ぇッーーーーー!!!!こ、殺す気かぁぁ!!?」

 

「フン!!その程度で死ぬあんたじゃないだろう!!!ほら、さっさと働いてきな!!分かっていると思うが、今日の給料は迷惑料として徴収するからね」

 

「ま、マジ?」

 

「大マジだよ!!これ以上、徴収されたく無かったら、さっさと働きな!!!」

 

「へ、ヘイ!!!」

 

 シンは急いで働く準備を整える。そんな彼の姿を見たアーニャたち従業員はサボったので自業自得だと思うのであった。

ただ一人リューだけはシンを慰める。

 

「シン……ミア母さんのゲンコツを受けていましたが、大丈夫ですか?」

 

「マジで痛かったが、大丈夫だ。サボったオレの自業自得だから、これは仕方ないことだ」

 

「そうですか。……シンの用事?は大丈夫でしたか?」

 

「ああ。……少し地下を調べようとは思ったけどな」

 

 ロキ・ファミリア同様にシンも地下を調べようと思っていた。あの食人花が何処からやって来たのか知る必要がある。もしも、食人花が大量発生して、オラリオが混沌になるような事はシンも望んでいない。

シンからして見れば、食人花は雑魚だが他は違う。暇つぶしに調べるのも悪くないとシンは思っていた。

 

「もし良ければ、手伝いましょうか?」

 

 リューの申し出にポカンっとするシン。まさか、手伝うなんて言葉がリューの口から出るとは思っていなかったからだ。

 

「良いのか?オレはお前と行動出来て嬉しいが、リューにはメリットが無いだろう?」

 

「わ、私と行動出来て嬉しいですか……。そ、それは…、光栄…ですね。私もあなたと…行動したい……です……」

 

 恥ずかしながら言葉にするリュー。シンはそんな彼女を見て、やはり面白いなと思うのであった。

 

「そうか。それなら、明後日付き合ってくれ」

 

「付き合うッ!!!!??」

 

「調査だぞ」

 

「わ、分かっています!!!明後日、よろしくお願いします!!」

 

 顔を真っ赤にさせながら、リューは仕事へ戻って行った。

シンは厨房へと向かおうとすると、ミアから声をかけられる。

 

「明後日はリューとデートかい?良い身分だね」

 

「デートじゃなくて、調査だ。少し気になる事があるからな」

 

「あんたの勘は当たるからね。まぁ、明後日は元々あんたとリューは休みだ。仕事に支障が無ければ問題ない。………ちゃんとリューを守るんだよ。少しでも傷を負わせたら…分かってるね?」

 

「分かってるよ。…ったく、安心しろ。オレは守るよ。リュー(・・・)お前(・・)も…この大事な場所(・・・・・)もな」

 

 

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