地下水路はシンの予想とは違い、思っていたより綺麗な状態だった。そして、それはシンの思考が少し気になるからとても気になるに変化させる。
「変だな。ここまで綺麗なのは……」
「そうですか?ギルドやガネーシャ・ファミリアが整備しているおかげでは無いのですか?」
シンの隣にいるリューはこの状態に異変は感じていない。
「ギルドにガネーシャ・ファミリアか…。信用ならない連中だ」
「ギルドはともかくガネーシャ・ファミリアは信用出来ると思います。団長のシャクティは立派な人だ」
リューにとって、ガネーシャ・ファミリア団長であるシャクティは、かつてオラリオの『暗黒期』を共に潜り抜けた戦友。 そして、7年前に死んだ大切な友人であるアーディの姉でもある。今でも偶に交流がある友人だ。
「なるほど…。ガネーシャ・ファミリアというよりも、そこの団長を信用しているんだな」
「ええ。…私はあの人を尊敬していますから。シンはやはり信用出来ませんか?」
「…そうだな。というよりも、オレは基本的に誰も信用していないし、信頼していない。この世界に来てもそれは変わらない」
「……………私も信用出来ない一人ですか?」
不安そうに尋ねるリュー。彼女がシンと出会って数年。未だに信用という関係になっているのかすら分からない。
リューはそう言う関係になりたいと思っているからこそ、もし信用出来ないと言われたらと思うと、心が締め付けられていた。
「信用か…。少なくともお前とミアは信用しているよ」
「ッ!!!!そ、そうですか!!それは…光栄です!!」
「ふっ……この世界で信用出来る人間なんてお前らぐらいだろう。まぁ、以前のオレは誰も信用していなかったけどな」
ロックス海賊団の中でシンが信用出来る者など一人もいない。もし、信用出来るとしたらそれは個人ではなく個人の持つ強さ、海賊団としての圧倒的強さだけだろう。
「…………リュー」
「な、何ですか?」
リューは先程の照れがまだ収まっていない。頬も赤いままだ。そんな彼女に対して、シンは更に畳み掛ける言葉を出す。
「……お前は本当に美しいな」
「なっ!!!!!!!!!!!!!!」
(その容姿も……在り方すらも……。高潔だ…。オレが惹かれるくらいお前は…………美しい)
「きゅ、急に…、何を言うのですかッ!!?」
「思った事を言っただけだ。ほら、そろそろ進むぞ」
シンは真っ直ぐ先へ進む。何とか落ち着きを取り戻そうとしながらリューも付いていく。
しばらく進んだ先には、旧式の地下通路へ繋がる入り口の前へとたどり着いた。
扉を開けると、下に降りる階段はあるのだが、全て水浸しとなっている。水の高さ的にこのまま進めば、膝ぐらいまでの水深があるだろう。
「シン、どうしますか?」
「この先から怪物祭の時と同じ気配がする」
「では、進むという事ですね」
「ああ。まぁ、安心しろ。こんな汚い水に濡らされることは無い」
シンはそう言うと、迷わず進む。シンの足が水に触れた瞬間に当たりの水は即座に凍った。
ヒエヒエの能力により、シンは濡れることなく進めるのだ。
「流石ですね…」
「帰る頃に解除したら問題無いだろう」
シンは辺りを見渡すが、人の気配は感じられない。
感じるのは怪物祭の時に現れたら食人花の気配だ。
この先にいるとシンは確信していた。
「リュー、もう少し先にモンスターがいる。恐らく、怪物祭の時に現れたらモンスターだ」
「ここから分かるのですか?」
「鍛えているからな。
シンの言うあいつとは
その時に見聞色を極限まで鍛えれば、未来視が可能だと言うことをロックスから教えられた。
それ以来、シンは見聞色を鍛えてはいるが、未来視を会得するには至っていない。
「いつかは見たいものだ。先の世界というのを…」
思い出に浸りつつもシンは先に進む。少し進んだ先には壊された壁があった。しかも、縦に数枚と破壊されている。まるで、誰が何かを通すために空けたようだ。
「これは!?」
「この先だな。気配がするのは」
2人が段々進んでいくと、水の無い貯水槽へとたどり着く。
そして、そこには怪物祭の時に現れた食人花数体がくねくねと蠢いていた。
「これが怪物祭の時に…現れたのですね」
「ああ。その見かけに対して意外と強度はあるぞ。まぁ、オレには無意味だけど」
シンは勢いよく前に出ると、そのまま食人花に触れた。すると、食人花の触れられた部分から徐々に凍っていく。
食人花は抵抗しようと、攻撃を何度も仕掛けるが、シンに触れる度に凍っていき、数秒後には動けなくなっていた。
「強度は悪くないが、オレの敵じゃない。ここで静かに暮らすなり、地上に出て迷惑をかけなければオレがここに来ることも無かっただろうな」
(放っておいて、
「一瞬でしたね」
「他に気配はないから終わりだな」
ドンッとシンの拳が凍った食人花たちを破壊した。
これで完全に食人花は死んだ事となる。食人花の元へ足を運ぶとシンは自身の目的の一つである魔石を抜き取った。
(前回は取るのを忘れていたからな。これは頂いておく)
「それがこのモンスターの魔石ですか…。普通は紫紺色なのですが、それは少し違いますね」
「ああ。何か違うんだろうな、他のモンスターとは…」
「オラリオ…もしくはダンジョンで何かが起きている……」
「………かもな。まぁ、今日のところはこのあたりで終わりだ。リュー、地上に戻ろう」
「…ええ」
(何が起きているのかは分からないが、今まで通りオレの邪魔をする奴らは完膚なきまでに潰す。それが一番正しい事だ)
リューは気づいていなかったが、一瞬だけシンの目が最強の海賊団として君臨していた時の目に変わっていた。
寝ている悪魔を態々起こす者が現れれば、起こした者たちは氷漬けにされることだろう。
■
地上に戻ったシンとリューは自分たちの家である豊穣の女主人へと帰った。今日という日はまだ終わっていないので、2人はいつものように働くことはない。残りの時間を2人は休日として、のんびり楽しむ事にした。
「リュー、今日は調査に付き合ってくれてありがとう」
「いえ、シンが一人でも問題無かったですね。むしろ、私がいることによって、迷惑だったのではありませんか?」
「そんな事はねぇよ。オレ一人だと退屈な日だった。お前が隣りにいてくれたおかげで楽しい価値のある休日だったよ」
「そうですか。…それは、良かったです。私もあなたと行動出来てとても充実した一日でした」
「そうか…。それなら、良かった」
シンは嬉しそうに笑うと、それにつられてリューも笑った。
今日という一日は他愛もないものだが、2人にとってはとても大切な日だ。それに2人が気づくのは随分先となる。
その日の夜、シンは豊穣の女主人の自室ではなく、バベルの最上階の一室にある椅子に腰掛けていた。その時の彼は傲慢不遜な態度を全開にしており、周りにいるフレイヤ・ファミリアの幹部たちは不快感を示している。
特に副団長であるアレン・フローメルは苛立ちを隠せていない。というよりも威圧していた。まぁ、シンには全く効いていないが……。
「遅いな。フレイヤの奴はまだなのか?」
「黙れ!!お前のような者がフレイヤ様の名前口に出すな!!」
「不愉快だ。黙って待っていろ」
「俺たちをこれ以上、苛立たせるな」
フレイヤ・ファミリアの幹部たちはシンのことを快く思っていない。むしろ、とても嫌っている。
その理由としては、シンがとても目をかけられているからだ。
フレイヤはシンを気に入っている。何よりもいざという時に頼りにもしていた。シンとしては迷惑な話だが、フレイヤ・ファミリアの幹部たちにとっては羨ましい事なのだ。
「口だけは達者だな。だが、この部屋を氷漬けにされたく無かったら、お前らこそ口を閉じろ。………殺すぞ?」
ギロッ!!!!
シンの人睨みがアレンたちを硬直させる。その圧倒的殺気を受けて、ガリバー兄弟は立っていられなかった。体勢を保ち続けること無く崩れ落ち、息を整えるのに必死だ。そして、アレンやヘディンは何とか立ち続けているが、冷や汗が止まらない。
「相変わらず弱いな。口では偉そうな事を言っても、心の奥底ではオレの強さに敵わないと思っている」
「「「「……ッ!!!」」」」
「さてと、フレイヤを待つのは飽きた。帰るとするよ」
シンが立ち上がった瞬間に、この部屋のドアが開いた。
開けた人物はこの部屋の主であるフレイヤだ。彼女は堂々と傲慢かつ美しく部屋に入って来た。
「ふふふっ、随分と楽しそうにしているわね。外からは貴方の殺気は感じられなかったわ。アレンたちだけに的を絞ったみたいね」
「遅かったな。もう少しで帰るところだった」
「間に合ったと言うことね。それは良かったわ。ふふふっ、リューとデートしたから少し機嫌が良いのかしら?」
「デートじゃねぇーよ」
「照れなくても良いのに…。私はお似合いだと思うわよ。あなたとリューは互いを埋めるのに最適よ」
フレイヤはシンの前に置かれている自身の椅子に腰掛けた。
シンも上げた腰を下ろして、椅子に腰掛け、フレイヤと向かい合う。2人は特に隠すこともなく相手を見下すようにしている。
「ここで会うのは久しぶりね」
「そうだな。以前ここへ来た時はお前がバカな事をしでかした時だった。それ以降もバカな事を幾つもしていたみたいだな」
「バカな事なんて、失礼ね。私は伴侶を求めていただけよ」
「今回はあのガキか?」
「ええ。あれは素晴らしい魂をしているわ。必ず私のものにする。そのために怪物祭で試練を課したのだから」
怪物祭の結果を知っているシンからして見れば、それは茶番でしかなかった。本人たちは楽しんでいるようなので、シン自身も以前と同じく、特に興味も持っていない。
「その怪物祭で起きたことだが、…お前以外にバカなことをしたのは誰だ?」
「ロキが言っていた件ね。確か、変なモンスターが出てきたとか…」
「ああ。今日、地下水路も確かめた。明らかに人もしくは神の仕業だ。心当たりは?もし、あるなら教えろ。今日中に潰す」
「ふふっ、私も潰して欲しいけど、残念ながら心当たりはないわ。胡散臭いのは何人も知っているけど、モンスターを放った者は知らない。何か気づいたら教えるわ」
「そうか。……これが例のモンスターの魔石だ」
シンは食人花の魔石をこの場にいる全員に見せた。
反応を見るに誰一人として、知らないようだ。
「変な色ね…。……ロキたちも本格的に調べていると思うから、ロキが私に接触した時は色々と聞いてあげるわ。まぁ、あなたに助けはいらないと思うけど」
「そうか。なら、話は終わりだな」
「もう帰るの?もう少しゆっくりして行けば?」
「ここにいても良い気分にはならねぇからな。聞きたい事は聞けた。やはり本心を見るには直接会うのが一番だな」
シンは席を立ち、帰ろうと部屋のドアノブに手をかける。
すると、フレイヤから殺気とも魅力とも呼べるものを向けられた。
「ねぇ、あなたにとって私は何?」
「知らん。考えたこともない」
「ええ、そうでしょうね。……シン、あの子は私の伴侶よ。いざという時はあなたを頼りにするわね」
「あっそ…」
シンはどうでも良さそうに部屋を出た。そんな彼を見送ったフレイヤは笑みを浮かばせている。その笑みは何処までも綺麗だった。
ここまで一日事に更新しましたが、明日はお休みします。
次回更新は明後日火曜日です。2日に一度更新します。
よろしくお願いします。