失踪した姉の行方を追うため噂される謎の存在"ヴォイド"を調べるジャーナリストの篠崎ココロは出会った男、有明サトルにきっかけを見出し彼に着いて行く事を選択。
しかし有明サトルは個人的な理由でヴォイドを狩る仮面ライダージェネシスだった。
ある崩壊した街、その潰された一軒家の中で少年が瓦礫の下敷きになっていた。
息も絶え絶えで既に最期を悟った少年の所へある影が。
「う……」
少年の周囲には瓦礫に潰された家族"だった"もの。
それを見た後、少年は謎の影に向かって手を伸ばす。
その瞳には何も映っていない、まさに"虚空"を映し出していたのだ。
***
そして少年は目を覚ます。
立ち上がると腰に謎の肋骨を模したようなベルトが巻かれていた。
『仮面ライダージェネシス』
第1章 虚空の王
約10年後。
都内にある街、"虹架町"に一人の女性がやって来た。
彼女はラフなオフィス姿でスマホを持ち電話をしている。
「はい篠崎ココロ、虹架町に到着しましたー。はい、これから調査します。大丈夫ですって、この時のためにジャーナリストになったんですから」
上司との電話をしている彼女。
電話越しでは心配されているようだ。
「化け物の件は大丈夫ですよ、何が何でもお姉ちゃんに辿り着きます」
ココロは電話を切り周囲を見渡す。
一見何の変哲もない普通の街だが彼女の発言から何やら裏があるらしいが。
「よしっ」
ココロは歩き出す。
この町で失踪した姉を探すために。
***
ココロはある会社にやって来る。
面談室で社員である小綺麗な中年の男性に名刺を差し出し話を聞く。
「ジャーナリストの篠崎ココロと申します、以前こちらに勤めていた篠崎ミチルについてお伺いしたくて……」
ココロと社員は名刺を交換した。
名刺を受け取った社員は名前を見て質問をする。
「なるほど、親族の方ですか?」
「はい妹です。失踪した姉を探してまして、何か情報を頂ければと……」
「うーん……」
社員は頭を悩ませている。
しばらく悩んだ後、こう告げた。
「篠崎さんはあまり他の社員とも話さないので誰も何も知らないと思います、失踪したって話題になったのもしばらく経ってからなので……」
「え、姉は家では明るい人でしたよ……友達も多くて、よく遊んでくれて……」
「そうだったんですか、想像が出来ません……」
少し億劫そうに話している社員を見て未だに反応が信じられないココロ。
更に社員は質問をして来た。
「貴女はこの街にお住まいですか?」
「えっと私は違くて……実家に」
「ご両親と?」
「いえ、親は離婚してて……私が母に、姉が父に引き取られてこの街に」
「なるほど……」
すると社員は億劫そうにまた質問をした。
「失踪前に連絡とかは?」
「あぁはい、チャットですけど」
ココロはスマホで姉とのやり取りの画面を表示させ社員に差し出す。
そこにはこう記されていた。
ココロ
『ねぇ大丈夫? 最近全然連絡くれないけど?』
ミチル
『ごめん、色々疲れてて……』
ココロ
『そんなに辛いなら辞めちゃえば良いのに』
ミチル
『そういう訳にもいかないのよ……』
ココロ
『ねぇ私で良ければ話聞くよ?』
ミチル
『いいよ、多分わかってくれない』
ココロ
『何でそんなこと言うの?』
ココロ
『会いに行っていい?』
ココロ
『ねぇ返事してよ』
ーー数ヶ月後ーー
ミチル
『ごめんね、虹架町には来ちゃダメ』
そこでやり取りは終わっている。
そこから現在まで約一年が経過していた。
「ダメって言われたけど……どうしても見つけたくてジャーナリストになったんです」
「そうだったんですね……」
社員は最後のメッセージと日付を確認して思い付いたかのようにある仮説を立てる。
「この日……あのニュースの日です」
その言葉を聞いたココロは鋭い眼光を光らせた。
「この街で化け物が出たって噂になった日ですよね?」
「はい、ご存知でしたか……」
「虹架町ではたまに化け物の目撃情報がありますよね、その度に行方不明者も出てる。何か関係あるかと思って調べてます」
「なるほど……では昨日のニュースはご存知ですか?」
そう言った社員はパソコンを操作した。
画面をココロに向ける。
「これ、近くですね……」
「はい、向かわれますか?」
「もちろんっ」
社員はニュースのウィンドウを閉じる。
するとホーム画面には彼の娘と思わしき少女の写真が。
「それ娘さんですか?」
「えぇ、今年で6歳になります」
「可愛いですね」
「ありがとうございます、でも妻に先立たれ私も仕事が忙しくあまり構ってやれないのが……」
「あ、そうだったんですね……」
「きっと貴女は娘の寂しい気持ちも理解してくれるんでしょうね……」
突然そんな事を言う社員。
ココロは意図が分からなかったが気持ちは分かった。
その際、彼は両手で顔を覆った後ニヤリと笑いその瞳が赤く光った。
ココロは社員に見せてもらったニュースによる化け物の目撃情報が出た付近にやって来た。
ニュースの影響か人気がない。
不気味に思いながらもココロは辺りを調べた。
「ん……?」
するとある路地裏に目が行く。
そこには設置されているゴミ箱が倒れ中身が散乱しており更に室外機の蓋も外れていた。
何かがぶつかった影響だろうか。
ココロは恐る恐る路地裏を進んで行く。
「うわぁ……」
恐怖に震えながらも姉のためと思い進んで行くと突然後ろから声を掛けられた。
「篠崎さん」
「うわぁ!」
振り返ると汚い路地裏には何故か先程の姉の勤務先で話を聞いてくれた社員が立っていた。
「え、何でここに……?」
「さぁ……」
社員は何故か笑みを浮かべ腕を組んだ。
「えっと……」
少し警戒するココロに対し社員は笑顔のまま近付いて来る。
「さっきから思ってました、いい虚空を持っていますね」
「え……こ、虚空……?」
ジリジリと近付く社員に比例して後退りするココロ。
「姉を失った喪失感、または孤独感ですかね? しかし上等であるに違いはない、娘にプレゼントしてあげないと」
すると社員は突然瞳を赤く光らせた。
次の瞬間、彼の体は変身した。
謎の昆虫の化け物のような姿へと。
「ひっ……!」
『さぁ、我ら親子の幸せの糧となりなさい』
両手を広げ襲いかかって来る化け物。
ココロは真相を確かめる事など思い付かずに恐怖で走った。
***
路地裏を走るココロ。
「はっ、はっ……!」
少し広い道に出たので助かると思いきや行き止まりに辿り着いてしまった。
「あっ……!」
振り返るとすぐ後ろには化け物。
ココロは叫ぶ事しか出来ない。
「誰かぁー! 助けてぇー!」
しかし声は空間に反響するだけ。
その場にはココロと化け物のみ。
『大丈夫ですよ、すぐ我らの一部となり幸せを共有できますから』
あくまで優しい声を掛けながら近付いて来る化け物。
蝶のような長い口を伸ばしココロに近付く。
「いや、いや……」
まるで走馬灯のように姉であるミチルの姿が浮かぶ。
それは幼い頃、イジメられていた友を助けた事で自分もイジメられた時だった。
姉であるミチルが身を挺して助けてくれたのだ。
『ココロは優しい子、大きくなったら誰かに寄り添ってあげてね』
姉の言葉で一番印象に残っているもの。
それを思い出した事で死が近付いているのだと悟った。
「ごめんなさい、お姉ちゃん……っ」
涙が一滴零れ落ちる。
地面に雫が垂れた頃、道の向こうからバイクのエンジン音が近付いて来た。
『っ……⁈』
慌てて振り返る化け物。
しかし既に目の前にはバイクの前輪があった。
『ぐふっ……』
顔面に前輪によるタックルを喰らい吹き飛ばされる化け物。
その音を聞いたココロは目を開けてそちらを見る。
「えっ……?」
そこにはバイクから降りたライダースジャケットを身に纏う青年の姿が。
ヘルメットを外したようだが陽光が差し顔はよく見えない。
しかしココロにはそれがかつて助けてくれた姉の姿と重なった。
「チッ、余所者か……ヴォイドの噂を聞いて来たジャーナリストって所だな……」
よく見ると青年の腰には謎の肋骨を模したようなベルトが巻かれている。
青年は"ヴォイド"と呼ばれた化け物へ向き直りポケットから赤い心臓のようなアイテムを取り出した。
「さっさと失せろ、心が惜しければな」
そして青年はベルトのボタンを押す。
起動されたようで肋骨部分が大きく開いた。
血液が流れるかのような音が響く。
そのまま青年は右手に持った心臓のようなアイテムを開いた肋骨の中にセットした。
「……変身」
もう一度ベルトのボタンを押すと肋骨が心臓を包むように閉じる。
それと同時に心臓の鼓動のような音が響いた。
「うぅぅおぉっ……」
まるで血管が全身に広がるように青年の体に纏わりつく。
その上から骨格のようなものが形成され青年の姿は完全に変わった。
呆気に取られるココロ。
「何、これ……」
変身した青年の姿は灰色の骸骨のようであった。
骨格の下には真っ赤な血管が通っている。
複眼のような目はより真っ赤に輝いていた。
『閉じろ、虚空め……』
青年はそう呟いた後、ジリジリとヴォイドに近付きその体を無理やり起こし顔面を殴った。
『ぐあっ……』
吹き飛ぶヴォイド。
変身した青年のパワーは人間のものを遥かに超えていた。
起き上がったヴォイドはその姿を見て震える。
『き、貴様噂の……っ! 何者なんだ……⁈』
『知らなくて良い』
遮るように青年はヴォイドの腹部を蹴り飛ばす。
しかしヴォイドも負けておらず蝶のような長い口を伸ばし攻撃した。
それでも青年は臆する事なく右手でその口を軽く掴む。
『なっ……⁈』
そのまま青年は口を引っ張りヴォイドを引き寄せた。
勢いに任せヘッドバットを喰らわせる。
ヴォイドは脳震盪を起こし朦朧としていた。
『終わりだ』
隙を見た青年はベルトのボタンの反対側に付いているレバーを引きエネルギーを溜めた。
右足の血管に真っ赤な血が集まる。
『おらぁぁっ!』
そのまま高く飛び上がりヴォイドの胸部へライダーキックをお見舞いした。
吹き飛ぶヴォイド。
『うがぁぁぁっ……!』
そのまま大爆発を起こす。
ココロは驚き目を覆ってしまった。
「くっ、くそぉっ!」
しかしヴォイドは死なず、人の姿に戻り全身傷だらけで逃げて行った。
『チッ、浅いか……』
そのまま青年は変身は解かずにバイクに跨る。
エンジンを蒸し去って行こうとした。
しかしココロはそこでジャーナリストとしての使命を思い出す。
「あ、あの! 待って……! 今のは何⁈ 貴方は⁈ 化け物はどうなって……」
すると青年は振り返らぬまま静かに呟いた。
「……終わってねぇよ、これに懲りたらもうやめろ」
そのままバイクに乗って去ってしまった。
「待ってよ!」
追いかけるココロ。
一目散に走り出した。
青年はある場所で道を塞がれていた。
それは先程ココロが見た散乱したゴミである。
そこにネズミが集まっておりバイクでは通れない。
「うわぁマジかよ……」
変身は既に解かれており面倒臭そうにヘルメットを外した。
すると背後から声がする。
「いた!」
ココロが追いかけて来たのだ。
青年は慌ててヘルメットを被ろうとするが焦っていたため落としてしまう。
その衝撃に驚いたネズミ達が逃げ出した。
「くっ……」
慌てて両手で顔を隠そうとするが既にココロには見られてしまった。
「何で顔隠すの? もう見ちゃったし」
「何が目的だ、俺の存在をリークするかっ?」
自分の存在を脅かされる。
そう感じているのだとココロは察する。
「そんな事しないよ、だって助けてくれたじゃん」
「助ける? お前にはアレがそう見えたのか?」
「そうだよ、襲われてた時に颯爽と駆け出して倒してくれて。どう見てもヒーローじゃん」
そう言いながらココロは青年の腕を退かし顔をしっかりと見る。
額には昔に出来たような傷があった。
「あっ……」
「ふーん、なかなか男前。でも思ったより若いね」
「うるさいっ……」
鋭い眼光でココロを睨む青年。
その瞳からは憎悪を感じられた。
しかしそれだけではない。
「ねぇ、ヒーローって言われてちょっと喜んでるでしょ」
「はぁ? そんな訳……」
「ウッソだぁ、顔に書いてある」
そう言いながら青年の頬を突くココロ。
「やめろっ……」
そしてココロは本題に入る。
今の自分のすべき事を伝えた。
「私ね、姉を探してここに来たの。多分そのヴォイドって化け物に関係してると思う。だから助けて」
手を差し出すココロ。
青年はしばらくその手を見つめた後、ヘルメットを被りバイクに跨った。
「ねぇ待ってよ、話くらい聞いてくれて良いでしょ?」
「話は終わりだっ……」
逃げるように去ろうとする青年。
バイクが動き出す前にココロは後ろの席に跨った。
「なっ、降りろっ!」
「話聞いてくれるまで降りないから」
「チッ……」
仕方なく青年はそのままバイクを走らせる。
路地裏を出て虹架町を走りながら問う。
「……そこに喫茶店がある」
「お、話聞いてくれるんだ」
「聞くだけだ」
そこでココロはある事に気付く。
青年の名前を知らないのだ。
「そうだ、君名前は?」
青年はしばらく考えた後、静かに答えた。
「……有明サトルだ」
自ら名を明かしてくれたサトルに喜ぶココロ。
「よろしくね、サトル君」
そのまま二人は喫茶店に向かうためバイクを走らせた。
喫茶店に入ったサトルとココロ。
コーヒーを飲みながらココロはサトルに質問した。
「じゃあまず。あの化け物は何? ヴォイドって言ってたけど」
「はぁ、結局俺が話すのか……」
サトルは溜息を吐きココロの質問に仕方なく答えた。
「ヴォイド、その名の通り虚空だ。ヤツらは存在しない、空間の穴なんだ」
「え、じゃあ何で触れられたの?」
「……俺も分からない、ただ触れられる力があるから戦ってるだけだ」
「君が戦う理由は何?」
「……本当にそれ知る必要あるか?」
「大アリだよ! 君だけが手掛かりなんだもん」
「……姉を見つけたいとか言ってたな」
「うん」
「だったら諦めろ」
「え……」
突然の冷酷な発言に言葉を失うココロ。
「悪い事は言わない、どうせもう取り込まれてる。探すだけ無駄だ」
プルプルと震え出すココロ。
「ねぇ、何でそんなこと言うの?」
「これでもお前のためを思っての事だ、ヤツらはそんなに甘くない」
それでもココロは諦めずに質問をした。
「ねぇ、取り込むってどういう事?」
「無駄だって言ったはずだが?」
「質問には答えて」
「はぁ……」
サトルはまた溜息を吐いて仕方なく答える。
「ヤツらは人の心の穴から生まれる。そして成長してソイツの精神を乗っ取るんだ」
「どうやって成長するの……?」
「他の人間を取り込む。そうやって成長する事がヤツら自身である宿主の心の穴を広げる事に繋がるんだ」
「じゃあ心の穴が広がりすぎたら……?」
「宿主の精神はヤツらのモノだ、それを上級ヴォイドと呼ぶ」
ココロはゾッとして身震いする。
その様子を見たサトルはコーヒーを飲んで告げる。
「ここまで聞けば分かったろ、素人が首突っ込んでいい話じゃない」
するのココロは顔を上げてサトルに問う。
「じゃあ最後の質問」
「まだあるのか……」
また溜息を吐きサトルは次の言葉を待った。
「何で親切にしてくれるの?」
「はぁっ?」
思わずコーヒーを吹き出してしまうサトル。
「最初はどうでも良さそうにしてたのに。無理に話なんて聞かなくて良かったんだよ?」
吹き出したコーヒーを拭きながらサトルは項垂れた。
「何だよ、真面目に答えた俺がバカみたいだ」
「だからその理由は? なんか君見てると寂しそうで……」
その言葉を聞いたサトルは手が止まる。
「親が離婚した時にさ、離れ離れになる時にお姉ちゃんが同じ目してたの。寂しいのに無理して強がってる感じ」
サトルは拭き終わり椅子に戻る。
「はっ、勝手に知った気になるなよ。ただの憶測じゃねぇか」
「でも本当は? もしかして戦う理由と関係あるの?」
サトル、目を細める。
「……質問増えてるぞ」
「ごめん……」
「はぁ、仕方ないな」
サトルはコーヒーを一口飲んで答える。
「元凶を探してる。家族を皆殺しにした虚空の王、"バエル"をな」
「……探してどうするの?」
「決まってるだろ、この手で殺すんだ」
ココロから見て今のサトルの目は先程までの寂しさを抱えているものと違い怒りに満ち溢れていた。
虹架町のとあるアパートの一室。
まるで生活感のない部屋に一人の少女がぬいぐるみを抱きながら佇んでいた。
すると玄関の扉が開く音が聞こえる。
「あっ、パパ!」
少女は駆け出し帰って来た父に抱きつく。
その勢いで父はよろけた。
「おっと、いきなり抱き付いたら危ないだろマミ?」
マミと呼ばれた少女。
その父親はなんと先程ヴォイドとしてサトルに倒されたはずの小綺麗な社員だった。
「いつもより遅いから、またパパが居なくなっちゃったら怖くて……」
マミはギュッと父を抱きしめる。
父もそっと抱きしめ返した。
「大丈夫だよ、パパもうどこにも行かないから」
「うん、パパが居てくれるだけで幸せっ」
マミを強く抱きしめる父はニヤリと笑う。
その瞳が真っ赤に光った。
喫茶店を出たサトルはヘルメットを身につけバイクに跨る。
ココロは慌てて追いかけて行く。
「これからどうするの⁈」
「さっきのヤツの宿主を探す。ダメージを癒すために一度宿主の所に戻るだろうからな」
そのままサトルはエンジンを蒸す。
ココロは慌てて跨ろうとしたがサトルは彼女を置いて発車させてしまった。
「え、待ってよ!」
「ヘルメット無しは違反だ」
そう言ってサトルはココロを置いて去ってしまった。
置いてけぼりとなったココロは溜息を吐く。
「……もうやっちゃったし」
一人になったココロは仕方なくスマホを開く。
するとケースに先程姉の勤務先で社員から受け取った名刺が挟まっている事に気付いた。
「あ……」
その社員がヴォイドとなり襲いかかって来た事を思い出し震えるココロ。
しかし姉の行方が何より気になったのだ。
恐怖を無理やり抑え前を向く。
「お姉ちゃん、絶対見つけてみせるからね」
そして急いで名刺を見ながらスマホを操作する。
ダメ元で名刺に記されていた電話番号にかけてみるのだ。
「出るかな……っ?」
すると数コールした後、応答される。
ココロは慌てて名乗った。
「もしもしジャーナリストの篠崎ですが……っ」
しかし電話越しに聞こえて来たのは社員の声ではなく幼い少女の声だった。
『パパのお仕事の人ですかー?』
「えっ、パパ……?」
戸惑うココロだが焦らず少女に話を聞く。
「えっと……パパいるかな?」
『出かけちゃった、慌てて携帯も忘れたの!』
「あ、そうなんだ……ねぇ、君は今どこ?」
『あたしは家にいるよー』
「ねぇ、ちょっとお父さんの事で話聞きたいんだけど良いかな?」
こうしてココロはヴォイドであった社員の娘、マミと約束をした。
☆
ココロがやって来たのは虹架町にある公園。
放課後の時間帯なので子供たちが集まり遊んでいる。
マミと隣同士でベンチに座る。
古いぬいぐるみを抱くマミの姿を見てココロは語り出す。
「ねぇ、パパは優しい?」
「うん、いつもあたしに優しいよ。お仕事忙しいって一回出て行っちゃったんだけどね、ママが死んじゃって帰って来てくれたの」
ぬいぐるみを抱きながらその頭を撫でるマミ。
「その時にこの子もくれたんだ」
マミの事情を聞き胸が痛むココロ。
自分は今こんな子の弱味に付け入り優しい父の本性を炙り出そうとしている。
その罪悪感で胸が痛んだ。
「随分大事にしてるんだね」
「だってこれはパパだもん、寂しい時はこれをパパだと思ってって言ったの」
「そっか……本当にパパが大好きなんだね」
「うん、忙しくてあんまり会えないけどその分会えた時にいっぱい甘えるんだ」
マミの声を聞く度に胸が痛む。
するとそこへある影が。
「あれマミ、その人は……っ⁈」
聞き覚えのある男の声。
身震いがしてココロは振り返る。
そこには追っていたヴォイド、つまりマミの父の姿があった。
「あ……」
「マミ、ちょっと向こうで遊んでなさい」
「う、うん……」
父のただならぬ雰囲気を察したマミはそそくさと遊具の方へ向かう。
マミが去った事を確認した父はココロをジッと睨んだ後、隣に座った。
***
しばらく沈黙が流れる。
勇気を振り絞りココロが口を開いた。
「あの子をどうするつもりですか……?」
「私の依代になってもらいます。ヴォイドとは虚空、だから実体が欲しいのですよ」
「あの子の精神を乗っ取るってやつですか……」
「おや、我々について詳しいですね。さっきの彼に聞いたのですか?」
「……っ」
サトルの存在を問われる。
父は辺りを見渡した。
「近くに彼を配備してるんですか? まさかアライヴの手先とか?」
「アライヴ? 何ですかそれ……それに私は自分で来たんです、お姉ちゃんを探したくて」
「おや、そこまでは知らないのですね。良かった」
「お姉ちゃんはどこなんですか? まさかずっと会社の人を狙って……?」
姉はこの男の手にかかったのではないか、そう疑ってしまうココロ。
「流石にそんな野蛮な事はしません、会社の人間が居なくなる度に私への疑いが広がりますからね。だから篠崎さんの行方は残念ながら本当に知りません」
最早何も信じられないココロ。
「しかし彼女はいい虚空を持っていました、貴女よりずっと大きなね」
「それってどういう事ですか……」
「我々も成長するための餌となる人間は慎重に選びます、人間が食べ物の栄養バランスを考えるようにね。心により大きな虚空がある者が良いのですよ」
「お姉ちゃんはそんな人じゃない、私より大きな虚空なんて……」
「お姉さんについて何も知らないようですね、出来れば彼女は私が頂きたかったのですが」
「そんなっ、許せない……っ!」
怒りの余り立ち上がるココロ。
父はそれでも冷静だった。
「どうするつもりです、私を殺しますか? しかしただの人間はヴォイドに触れる事すら出来ません」
そして父はブランコに乗るマミを見て言う。
「それに私が塞がればマミの心にはまた大きな虚空が生まれます、寂しいでしょうね。そこをまた新たなヴォイドに付け込まれるかもしれません」
「そんな、人の弱味に付け込むようなやり方……」
「それが我々です。そうする事でしか生きながらえる事が叶いません、人間が家畜を屠るのと同じではありませんか」
ココロは膝から崩れ落ちてしまう。
「さぁどうしますか? 私が塞がればマミは更に悲しみ寂しさに埋もれてしまいます。しかし私が精神を支配できれば永遠にマミは私と一緒にいられるんです」
「くっ……」
選べなかった。
姉を失う寂しさを何よりも知っていたココロにせっかく手に入れた幸せを奪う事など出来ない。
するとマミがブランコから落ちた。
「痛いぃ……」
すると急いで父は立ち上がりマミの所へ向かう。
擦りむいたマミの膝を見て彼女を抱きかかえる。
その姿はまさに父親だった。
「ほら、沁みるけど水で流しなさい」
水道へ連れて行きマミの傷口を洗う。
その姿を見たココロは問う。
「何でこんな事が出来るんです……? 乗っ取る体に傷を付けたくないからですか?」
「それもありますが……私はマミの理想の父親を具現化した存在です、愛するようにプログラムされているんでしょうね」
当のマミは話の内容が分かっていない。
それ以上に傷口に沁みる痛みを感じていた。
「そんな、どうすれば……」
すると父は立ち上がりココロに告げる。
「ここでは人目に付きすぎます、場所を変えましょうか」
言われるがままにココロは従う。
背後から見た彼らの姿は手を繋ぐ親子にしか見えなかった。
連れて来られたのは薄暗い工事現場。
夕暮れとなり既に作業員は撤退しており誰もいない。
「パパ、ここで何するの?」
「このお姉さんと大事なお話があるんだ」
すると父はココロへ向き直り突然その姿を変えた。
先程見た昆虫のようなヴォイドと化す。
「えっ⁈」
当然の如く驚くマミ。
ココロも予想外だった。
「何で、マミちゃんの前で……!」
『もうすぐなんですよ、成熟するまでね。私との会話で貴女の虚空は更に広がりました、それだけの力があれば私のやるべき事を終わらせられます』
ジリジリとココロに近付くヴォイド。
ココロは慌てて攻撃を避け咄嗟にココロを庇った。
『成程、依代を盾にすれば攻撃できないと思ったのですか』
「違う、この子が……っ」
『ならばこれでどうです?』
ココロの意思を読み取り更に攻撃を仕掛けて来るヴォイド。
ココロは慌ててマミを守るために手を突き出した。
ヴォイドに触れようとした瞬間、触れる事は叶わず代わりに何か意識が流れ込んで来る。
「うっ……⁈」
それはマミの記憶だった。
本当の父は良い人では無かった。
逃げるように両親が離婚した後に母が死に、寂しさに溺れたマミの所へ謎のシルクハットの男が現れる。
『寂しいねぇ。その孤独、埋めてあげようか』
そして父の姿をしたヴォイドが生まれた。
マミは何故父の姿をしていたのか、それは謎だ。
しかしココロには思う事がある。
その寂しさが姉と離れた時の心情と大きく似ていたのだ。
「はぁ、はぁ……」
虚空の中で息が切れる感覚に陥るココロ。
マミの記憶の景色が自身のものに切り替わって行く。
ヴォイドもそれを見ているようだ。
『おぉ、やはり素晴らしい虚空ですね。きっとヴォイドを生み出せば素晴らしい依代となったでしょう』
そんな事を言うヴォイドの言葉すらもう耳には入らない。
ただ一つ、思う事は。
「会いたいよ、お姉ちゃん……」
姉への想いだけだった。
それらも全て失われてしまう、そう感じた時。
・
・
・
「っ……⁈」
また、先程のようにバイクの音が聞こえる。
衝突音が聞こえたと同時にココロの意識は元に戻された。
「あっ……!」
目を覚ますと前方に見覚えのある影が。
再度その姿がかつての姉のように見えてしまった。
「チッ、勝手に動きやがって。まぁ予想通りだが」
有明サトルが現れた。
腰に巻いたベルト、ボーンドライバーを晒している。
「何でここが……っ?」
「何年ヴォイド狩りしてると思ってる」
するとヴォイドも起き上がりサトルに吠えた。
『貴様っ、やはりアライヴの差し金か……!』
「俺は違う、個人的にお前らを狩ってるだけさ」
そしてボーンドライバーの肋骨を開く。
右手に心臓のようなアイテム、ヴォイドハートを構えベルトにセットした。
「変身」
トリガーを押しその姿を変える。
灰色の骸骨のような姿、"ロンリーフォーム"へと変身した。
全力で攻撃をするサトル。
大振りな一撃だが凄まじいスピードにヴォイドは避けれない。
『グアッ……』
そのまま次々と攻撃を仕掛けて行く。
ヴォイドは防戦一方だった。
『弱ってるな、やりやすい』
先程の傷がまだ癒えていないヴォイド。
胸部にライダーキックの傷を見つけそこを重点的に狙う。
『あぁぁっ……!』
傷口が開き血液のような光が噴射される。
それでも容赦なくサトルは攻撃を続けた。
それを見ているココロとマミ。
「や、やめて……」
マミは小さく呟いた。
しかしサトルはベルトのトリガーを引きライダーキックの体勢に入る。
「やめてぇぇぇ!」
マミの叫びも聞かず、サトルは飛び上がりライダーキックを打ち込んだ。
吹き飛ぶヴォイド。
しかしまだ完全には死んでいない。
『よっと、んじゃ聞きたい事がある』
そしてサトルは容赦なく倒れたヴォイドの傷口を踏みつけ尋問を始めた。
『人からお前らを生み出すヤツら、"バエルの眷属"はどこにいる?』
『しっ、知らないっ……! 私は生み出されただけだ……!』
『そうか、やっぱ人の方に当たらねぇとな』
そのままもう一度足を振り上げる。
トドメを刺す気だ。
『あ、あ……』
その間、ヴォイドは一瞬だけ父の姿に戻りマミを見つめた。
「マ、マミ……」
「パパ……っ!」
マミが駆け寄ろうとしたが間に合わず。
サトルの蹴りがヴォイドの胸部に叩き込まれた。
凄まじい虚空を飛び散らしながら消滅するヴォイド。
その勢いでマミは吹き飛ばされる。
ココロが慌てて受け止めた。
「ふぅ……今日も収穫ナシか」
ヴォイドハートを回収したサトルは変身を解いていた。
するとそんな彼にマミが近付く。
「何で! パパを殺したの⁈」
サトルをポカポカと殴る。
泣きじゃくっていた。
「ヤツはお前に付け込んだ、救ってやったんだ。分からねぇだろうがな」
すると周囲から車の到着する音が聞こえる。
「チッ、アライヴが来やがった」
サトルは急いでヘルメットを被りバイクに跨る。
するとココロも立ち上がり静かに後ろの席に座った。
「……あの子は大丈夫だ、アライヴが保護してくれる」
そう言ってバイクを走らせる。
バックミラーからマミが保護される姿を確認していた。
しかしマミは全力で叫んでいる。
「人殺しぃぃーっ!」
その声を聞きながら二人を乗せたバイクは去って行った。
運転するサトルにココロは声をかける。
「ねぇ、あれで良かったの? ヴォイドが居なくなったらまた心の穴が……」
するとサトルは静かに答える。
「穴は塞がったさ、俺への恨みでな」
その言葉を聞いたココロは絶句する。
「ポッカリ空いた穴は俺が埋めてやる」
そう言ったサトルの表情はヘルメットに隠れて見えなかった。
しかしココロは底知れぬ喪失感を覚えていた。
TO BE CONTINUED……