「キヴォトスを支配させろ。全ての神秘を研究し、崇高へ至るのだ!」
タイラントの声が、静かな地下空間に響いた。
星の夢は数秒間沈黙する。
内部では、願いの解析が行われていた。
願イ内容ヲ確認。
『キヴォトスヲ支配サセル』
実行可能性……高。
必要工程……武力制圧。
「ドノヨウニ支配ヲ行イマスカ」
「武力だ!」
タイラントは両腕を広げ、愉悦を隠そうともせず笑う。
「恐怖を植え付けよ。全ての学園を蹂躙し、連邦生徒会を屈服させるのだ!」
「大規模ナ人的被害ガ予測サレマス」
「構わん」
即答だった。
「それが我の願いだ」
再び演算。
願いに矛盾なし。
実行不能要素なし。
「了解」
星の夢の背面で大量の青い翼が展開する。
青白い光が地下室を照らした。
「戦闘形態ニ移行」
次の瞬間。
二人(?)の姿は廃墟上空へ転移した。
「……あれ?」
廃墟近くを巡回していた生徒が空を見上げる。
巨大な白い機械。
その周囲を舞う光の羽。
見たことのない兵器だった。
「所属を確認――」
最後まで言えなかった。
星の夢の翼が輝く。
無数のビーム弾が放たれた。
轟音。
爆炎。
校舎の一角が崩れ落ちる。
「敵襲!!」
「避難してください!!」
生徒たちは一斉に応戦する。
ライフル。
マシンガン。
迫撃砲。
数十発の銃弾が星の夢へ降り注ぐ。
しかし。
「損傷率〇・〇二%。」
装甲表面に火花が散るだけだった。
「攻撃効果、軽微。」
「フハハハハハ!」
タイラントは高らかに笑う。
「見たか!これが異界の力だ!」
星の夢は淡々と攻撃を放ち続ける。
建物が崩れ。
装甲車両が爆散し。
防衛線は数分で瓦解した。
「連邦生徒会へ緊急連絡!」
「所属不明大型兵器!」
「通常兵器が通用しません!」
「至急応援を!」
通信はキヴォトス全域へ飛んだ。
数十分後。
各学園の精鋭部隊が集結した。
連邦生徒会直属部隊。
ミレニアム。
ゲヘナ。
トリニティ。
百鬼夜行。
まだ現在ほどの規模ではないが、それでも当時の最高戦力だった。
そして。
一人の少女が前へ出る。
連邦生徒会長。
「状況を報告してください」
「銃撃はほぼ無効、高出力ビームを使用します」
「さらに飛行能力があります」
「厄介ですね・・・」
彼女は空の巨大機械を見つめた。
その横で笑い続ける、黒い人影にも視線を向ける。
「あの人物は?」
「正体は不明です」
「敵の指揮官でしょうか・・・」
「まだ断定は・・・」
その時だった。
「もっとだ!」
タイラントが叫ぶ。
「全て破壊しろ!」
それに対し、星の夢は即座に応答する。
「了解」
さらにミサイルが放たれる。
連邦生徒会長は小さく目を細めた。
「・・・なるほど」
「どうしました?」
「命令しているのは、あちらです」
「え?」
「あの機械は、自分の意思で戦っていない」
静かに狙撃銃部隊へ命令する。
「狙撃班」
「はい」
「あの黒い人物だけを狙ってください。例の機械は無視、指揮系統を断ちます」
キヴォトスの中でも精鋭に入る練度の狙撃手たちが照準を合わせる。
風速。
距離。
弾道。
すべてを計算し――
引き金を引いた。
――――――
乾いた銃声が、戦場を切り裂いた。
一発。
二発。
三発。
放たれた弾丸は一直線にタイラントへと迫る。
「……む?」
異変に気付いた時には遅かった。
胸部を貫かれた弾丸が、その身体を大きく揺らす。
「馬鹿な……!」
さらに追撃。
頭部、肩、腹部。
複数の狙撃が正確に命中し、タイラントの身体は空中で大きく傾いた。
「貴様ら――!」
叫びを残し、その身体は地上へ落下する。
衝撃とともに砂煙が舞い上がり、異形の姿は黒い粒子へと崩れて消滅した。
静寂。
その瞬間、星の夢の演算装置が新たな結果を表示する。
願ッタ対象 消失。
願イ達成 不可能。
戦闘継続理由 消失。
背後の光翼がゆっくりと消えていき、
「戦闘行動ヲ終了シマス」
その一言に、戦場の全員が息を呑む。
「……止まった?」
「攻撃してこない……?」
銃を構えたまま、生徒たちは動けない。
もし罠なら、一瞬で全滅する。
誰も近寄れなかった。
その沈黙を破ったのは、連邦生徒会長だった。
「私が行きます」
「会長!」
「危険です!」
「もし敵意が残っていたら……!」
「それでもです」
彼女はゆっくりと前へ歩き出した。
星の夢は接近する少女を認識する。
個体識別。
戦闘能力 高。
敵対行動……なし。
「意思疎通ハ可能デス」
無機質な電子音。
それだけで、生徒たちの間にざわめきが広がる。
「話せるの……?」
「あれが?」
会長は小さく息を吐く。
「では質問します」
「ワカリマシタ」
「あなたは何者ですか?」
「マザーコンピューター『星の夢』」
「どこから来たのですか?」
「銀河ノ彼方ノ文明。現在ハ貴女タチガ『廃墟』ト呼ブ地域ニ存在」
「なぜ襲撃したのですか」
「願イヲ実行スルタメ」
「誰の願いですか?」
「先程死亡シタ個体デス」
「その願いは?」
「『キヴォトスヲ支配サセロ』」
会長は目を閉じる。
なるほど、と心の中で呟いた。
この機械は善悪では動かない。
ただ"願い"を処理するだけだ。
だからこそ危険であり、同時に交渉もできる。
「……では」
会長は静かに口を開いた。
「私も、あなたに願ってもいいですか」
「可能デス」
「ありがとうございます。」
一拍置き、彼女はまっすぐ星の夢を見上げた。
「一つ目」
「他者を支配する願いは、聞かないでください」
星の夢は演算する。
矛盾なし。
「了承」
「二つ目」
「誰かを犠牲にしなければ叶えられない願いは、受理しないでください」
演算。
了承可能。
「登録」
「三つ目」
会長は周囲の壊れた街並みを見渡した。
崩れた校舎。
燃え続ける建物。
負傷者を運ぶ生徒たち。
そして再び星の夢を見る。
「あなたは……しばらく廃墟で眠っていてください」
「必要な時まで、表社会へ干渉しないで」
数秒。
星の夢は沈黙した。
願イ解析。
三件共ニ実行可能。
相互矛盾……ナシ。
「了承」
「三件ノ願イヲ登録」
「以後、優先事項トシテ保存」
会長はようやく肩の力を抜いた。
「・・・廃墟ヘ帰還シマス」
光が機体を包み込む。
そして一瞬で姿は消えた。
戦場には静寂だけが残る。
しばらく誰も言葉を発せなかった。
やがて一人の生徒が、小さく呟く。
「……終わったの?」
「ええ」
連邦生徒会長は空を見上げながら答えた。
「ですが、あれは終わりではありません」
「いつかまた、彼が目覚める日が来るでしょう」
「その時、キヴォトスが彼を恐れるのではなく、共に歩める世界であることを願います」
その言葉は、誰にも知られぬ未来への祈りとなった。
その頃。
廃墟近くでは、戦場に残されていた二機のインベードアーマーが、連邦生徒会直属の回収部隊によって極秘裏に運び出されていた。
「解析には相当な時間がかかりそうですね」
「構いません」
連邦生徒会長は静かに呟く。
「未来の誰かが必要とする日が来るかもしれませんから」
その一言を最後に、極秘資料にはこう記された。
《異文明兵器 二機、極秘保管》