僕は、魂の輝きが見たい   作:ヒビたまり

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第2話 クリアホワイトの彫像/1000 years ago

「そろそろか」

 

「エーラ流星でしたっけ」

 

「50年に一度の流星群。平和の幕開けには丁度いいな。――――綺麗だな」

 

 雲一つない夜空に、美しい流星群が舞う。

 50年に一度降り注ぐ奇跡を勇者一行は王都の城壁の上から眺めた。自分たち人類が勝ち取った平和な時代を、まるで天から祝福されているかのような、壮大な気分を彼らは味わっている。

 

「街中だと見えにくいね」

 

 街の明るい光が星の光を遮っていることに、フリーレンは残念がる。

 思ったことを口にするフリーレンをヒンメルがたしなめる。

 

「人が感動しているんだ。空気を読みたまえ」

 

「じゃあ――――次。もっと綺麗に見える場所を知ってるから、案内するよ」

 

 50年後にもう一度みんなでエーラ流星を見ようとフリーレンは提案する。

 ふふっとヒンメルが笑う。おやおやとハイターも笑う。おいおいとアイゼンは呆れる。

 フリーレンのそれは人間の寿命をまるで考えていない提案だった。

 それでも、50年後には死んでいるかもしれない人間のヒンメルは、

 

「そうだな。みんなで見よう」

 

 大切な仲間からの提案に乗り、フリーレンと50年後に再会する約束を交わした。

 

 

 ◆

 

 

 そして50年後。

 

「歳を取った僕もなかなかイケメンだろう? 50年ぶりだね。フリーレン」

 

「ヒンメルが老いぼれてる……」

 

「ひどくない?」

 

 すっかり年老いて口ひげを生やしたヒンメルと変わらない姿のフリーレンが再会した。

 もう一度、みんなで。エーラ流星を見る約束を果たすために。

 

「そういえばフリーレン。"アレ"はどうする? 君に返せばいいか?」

 

「"アレ"って?」

 

「忘れてる……。君が魔王城で拾った暗黒竜の角だよ。僕に預けてたやつ」

 

「ああ。アレ」

 

 暗黒竜の角は召喚に使う素材だ。そういえば預けたままだっけとフリーレンは思い出した。

 邪悪なオーラを出しているタンスを見て、忘れてたごめんとフリーレンが謝る。勇者ヒンメルは彼女を優しく許した。大切な仲間から預かった大事な物だ。いつかこうして返すべき物だったんだ。そう言って。

 

 フリーレンは違和感を覚えない。

 だって、歴史の当事者は、元々の歴史なんてものを知るはずがない。

 

 今日ここにフリーレンが来たのは、もう一度みんなでエーラ流星を見るためだ。

 ヒンメルの元を訪れたのが暗黒竜の角のついでだったなんて。

 そんな歴史は、なかったことになったのだ。

 

 そして、ハイターとアイゼンとも再会し、50年ぶりに勇者一行が勢揃いする。50年でシワが増えて随分貫禄が出たハイター。目元のシワくらいしか変化のないアイゼン。これからこの4人でエーラ流星を見に行く。

 

「エーラ流星がよく見える場所はここから1週間くらい歩いたところにある。ヒンメルとハイターは老いぼれてるから、流星の1ヶ月前に出発しよう。ゆっくり歩こう」

 

「…………雪でも降るのか?」

 

「いやいや。きっとこの50年で成長したんですよ。見た目は変わりませんけどね。はっはっは」

 

「頭なでんな」

 

 フリーレンの頭を背の高いハイターが撫でる。子供扱いに文句を言うフリーレン。

 人間とはまるで違う時間の中を生きるエルフ。それにしては今日のフリーレンはやけに時間を大切にしている。以前の旅ではフリーレンの時間のルーズさに手を焼いたものだ。

 不思議に思ったアイゼンがフリーレンに尋ねる。

 

「らしくないな。フリーレン。何がお前をそうさせる?」

 

「…………別に。――大切な仲間の死に目に会おうって、決めてただけだよ。私の師匠(せんせい)がそうだったから」

 

「お前の師。大魔法使いフランメか」

 

「私は師匠(せんせい)の死に目に立ち会えなかった。……あの日は、師匠(せんせい)が私を遠ざけて、師匠(せんせい)の死に目に立ち会わせてくれなかった」

 

 

 ◆

 

 

「フリーレン。1日か2日ほど席を外してくれ。ここに友人が訪ねてくる。二人だけで話がしたい」

 

 わかったとフリーレンは軽く承諾した。

 なぜならエルフにしてみれば、5分か10分くらい散歩してきてくれと言われたようなものだから。

 歳を重ねすぎて最近のフランメは咳をするだけでもつらそうにする。だけどそれでも……1日くらい席を外すだけなら……と、その時のフリーレンは甘く考えた。

 

 一人で布団から立ち上がることさえ出来なくなる老人の体の重さを、幼い日のフリーレンは知り得ない。それを知るのはずっと後、僧侶ハイターの死と立ち会う時だ。だからフリーレンはフランメから離れてしまった。

 

 2日後。

 家に帰ったフリーレンを待っていたのは。ベッドの上で冷たくなったフランメだった。

 とても安らかな死に顔だった。

 

 家を空ける前にフランメから呼び止められ、頭を撫でられた時に感じた、手の冷たさと言葉にできなかった悲しさが、フリーレンの心に痛みを与える。

 その日。フリーレンは思った。

 私、この人の事、何も知らない――――。

 

「……人間の寿命は短いってわかっていなかった……なんでもっと、知ろうと思わなかったんだろう……」

 

 もし今度、私に大切な仲間が出来たら、絶対にその人が死ぬ時に立ち会おう。

 幼い日のフリーレンはそう決めた。時を経て1000年後。正しい物語を歪めながら、この日の約束は果たされる。

 

 

 ◆

 

 

「――フランメは最後に友達に会えて幸せだったんだと思う。苦しまずに天国に行けたと思う。だから私もそうしようって思ったの」

 

「それは良い心がけですよ。ええ」

 

 と優しく言うハイター。

 

「良い話だな。まったく」

 

 と素直じゃないアイゼン。

 

「ありがとうフリーレン。君という最高の仲間に出会えて、僕は世界一の幸せ者だ」

 

 と感謝を述べるヒンメルだった。どういたしましてとフリーレンが答えると、ヒンメルの左目の泣きぼくろに重なるように、一筋の涙がこぼれる。ハイターとアイゼンは気づかない振りをした。フリーレンはなんとなく微笑んだ。

 

 勇者一行は、光陰矢の如く過ぎ去っていく最後の旅を堪能する。

 街道を歩いて。森を進んで。野営をして。道すがらに人助けをして。魔物を倒して。

 50年前のように。楽しい旅をした。何もかもが新鮮で煌めいて見えた。

 

 目を閉じれば浮かぶ美しい思い出の中に。

 目を開けば広がる美しい景色の中に。

 50年経っても変わらない仲間達がいる。

 最後の楽しい冒険のゴール。エーラ流星がよく見える場所。

 綺麗だという最後の言葉を残して勇者ヒンメルの人生は幕を閉じる。

 

 

 ◆

 

 

 

 

 

「――――そういえば、フランメが最後に会った友達って、誰だったんだろう……?」

 

 

 

 

 

 ◆

 

 

 勇者ヒンメルの死からおよそ1100年前。

 大魔法使いフランメ――当時13歳。

 

 領主の書庫に住み着く魔族がいる。そんな噂を聞きつけたフランメに待っていたのは、これまでの人生を塗り替える衝撃だった。

 

 バニラのような香りがする。

 新品の本の匂い。インクの匂い。

 本をめくる音。その向こう側。

 まるで聖雪結晶で作られた純白の彫像が座っている。

 

 死臭がしない魔族に出会ったのは初めてだった。

 本の匂いが染み付いた人間に出会ったのは初めてだった。

 

 ただそこで本を読んでいるだけの男が(かも)す魔性が、恋を知らない13歳の少女の胸をたやすく撃ち抜いた。一目惚れだったろう。

 

「あなたの名前は?」

 

 聞かれて、頭に角を生やした白髪の魔族は本を閉じる。

 古代の彫刻やモナ・リザのようなアルカイックスマイルを浮かべて、

 

「僕は――――マキシマ、ショウゴ」

 

 そう名乗った。




【聖雪結晶/せいせつけっしょう】
 原作葬送のフリーレン9巻第80話に登場する。北部高原シュマール雪原の鉱脈から発掘される、魔法薬の原料にもなる高価な鉱石。アニメ2期に入っているはずなので、ぜひその綺麗な色をアニメでチェックして欲しい。
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