僕は、魂の輝きが見たい 作:ヒビたまり
アニメ1話につき原作2話のペースでやっているから……
ちょうど原作80話の聖雪結晶までアニメ化!?
それと開催期間が終了したから『フリーレンにコロコロされる魔族オリ主杯』のタグは外しました。
タグを外しても引き続き、フリーレンとマキシマの物語を続けていきます。
勇者ヒンメルの死から28年後。
中央諸国。ブレット地方。
戦士アイゼンは庭にある家族の墓に手を合わせ祈っていた。ここはアイゼンの家。そして彼の家族がここに眠っている。
人は死んだら無に
祈りのさなか。アイゼンは数十年前のやり取りを思い出す。
天国は信じていない。とフリーレン。
どっちでもいいと思うけど。とヒンメル。
私も実在するかどうかはどっちでもいいです。とハイター。
女神様の教えを尊重する僧侶がそれを言っていいのかとヒンメルが聞くと、たとえ実在しなかったとしてもあるべきものだと思いますとハイターが答えた。
天国はあります。そう思った方が、都合がいいんです。必死に生きてきた人の行き着く先が無であっていいはずがありません。そうした人たちが天国で贅沢三昧をしていると思っていた方が、何かといいじゃないですか。と。
僧侶の考え方ではない。ただそれは、ハイターが人間として
死んだ人たちが天国で安らかに過ごしていると思っていれば、生きている自分たちにとっても、何かと都合がいい。
死んだ人の安息のために天国があって欲しいと願うのではなく、生きている自分の安心のために天国の実在を願う。
その考えはなかったと当時アイゼンは感銘を受けた。
「アイゼン。遊びに来たよ」
そうやって過去を振り返りつつ家族の墓に祈りを捧げているアイゼンの元にフリーレンとフェルンがやってきた。気さくに、アイゼンに声をかける。
「30年ぶりとは思えん態度だな」
「たった30年でしょ」
人間より寿命が長いドワーフ。そのドワーフよりもさらに寿命が長いエルフ。私たちにとって30年は"ぶり"を付けるほどの長さじゃないでしょとフリーレンはこぼす。
そうだなとアイゼンが頷いた。そしてアイゼンはフリーレンたちを家に招き入れた。アイゼンの家は必要最低限のものしかない殺風景な様相だった。それでも来客用のお茶とお菓子くらいはある。ここまで来てくれた友人を客としてもてなし、フリーレンと会話をする姿勢を取る。
「それで。何の用事だ」
「アイゼン。なにか手伝ってほしいことってある?」
アイゼンは少し黙考する。どうやらフリーレンは用事か厄介事を持ち込んできたのではなく、アイゼンの困りごとを聞きに来たらしい。
「ハイターにも同じようなことを聞いたらしいな。お迎えにはまだ早いぞ」
「なんで知ってるの?」
「ハイターとは文通をしていたからな」
「顔に似合わず律儀だね」
「お前は素っ気なさすぎるんだ。手紙の一つくらいよこせ」
文通はこの老いぼれの数少ない趣味だというのに。アイゼンは
「フリーレン。相変わらず老人には優しいのか?」
「分け
アイゼンがフリーレンに聞く。フェルンが話題に乗った。
「そうですね。フリーレン様は何かと老人からの頼み事を引き受けますよね。銅像をピカピカにしたり。花の種を探したり。ついこのあいだも海岸の清掃を頼まれて引き受けましたよね。おかげで3ヶ月も街に滞在する羽目になりました。おまけに報酬はフランメの魔導書の偽物でしたし」
「違うよ。知り合いのお願いを聞いてるだけだよ。でも気づいたらみんな老人になってる。人間は40~50年で変わりすぎじゃない?」
「フリーレン様。普通人間は40~50年あればよぼよぼの老人になります」
数千年あるいは数万年を生きるエルフは時間の感覚がおかしい。この感覚のズレをどうしたものかとフェルンは日々頭を悩ませている。勇者一行も悩ませた難題である。
もっともフリーレンの場合は、"フランメの最期に立ち会えなかった"原体験と"ヒンメルとハイターの最期に立ち会えた"成功体験が、彼女の行動原理に大きな影響を与えている。
フリーレンは人間はすぐに死んでしまうからもっと知っておけばよかったという後悔を1000年前に味わっている。フランメが死んだ日に。その反省を活かし、大事な仲間であるヒンメルとハイターの最期に立ち会うようにした。二人の最後の時間に二人のことを想い、二人のことを知り、二人の願いを聞き届けた。そのおかげで、フリーレンは二人の死別に後悔を覚えなくて済んでいる。大切な仲間が死ぬ時に後悔を覚えずに済んだことがフリーレンの成功体験になっている。
だから自分では気づいていないけれど、フリーレンは無意識に老人に優しくする。
「で、あるの? 手伝ってほしいこと」
その生き方に従うフリーレンは、再度アイゼンに困りごとがあるかどうかを尋ねる。
フリーレンの生き方を知っているアイゼンは少し
それによってフリーレンが、マキシマという得体のしれない魔族の手のひらの上で踊ることをアイゼンは分かっている。けれどもう、ここに至って、それは逃れることができない運命なのだとアイゼンは納得する。
フォル盆地には大魔法使いフランメの手記がある。
フランメの著書はそのほとんどが偽物だと言われている。けれど、僧侶ハイターが聖都に残された記録をまとめ上げ、本物の手記はフォル盆地にあることをつきとめた。
ただ、それに加えて。
ハイターがフランメの記録を調査する過程で――
はたして、その記録が何を意味するのか。
答えはすぐに分かる。他でもないフリーレンの中に、その答えがあるのだから。
◆
馬車に運んでもらって、フォル盆地に到着した。フォル盆地は、人の手が加わっていない
何日も、あるいは何十日もかけて森林を探検し、フランメの手記を探すことになる。効率的に探しましょうというフェルンの鶴の一声にフリーレンとアイゼンは異を唱えなかった。
それよりも。アイゼンはフランメの手記を探す理由をフリーレンたちに打ち明けた。
「大魔法使いフランメの手記には、マキシマと対話したという記録が残っているとされている」
「……本当なの? 根も葉もないうわさ話だよ。きっと」
「どうだろうな。だがうわさ話だったとしても。フリーレン。お前はマキシマを探している。何かヒントになるはずだ」
フリーレンは釈然としない。自分の意志が誰かによって操られているような不気味な感触が肩を重くする。
飛行魔法で空を飛んで周囲を調査していたフェルンが、それらしい場所を見つける。遺跡をまるごと呑み込んだ雄大な大樹があった。その上、遺跡も大樹も強力な防御結界で守られている。
大魔法使いフランメが施した魔法に間違いない。今は巨木に成長しているけれど、1000年前は木の苗でしかなかったそれに、フランメが魔法をかけて遺跡の番人にするところをフリーレンは自分の目で見ている。
あの日フランメは言った。
――お前はいつか、私とお前を取り巻く大きな謎に触れることになる。そしてお前はその謎を解くために私の記録を知りたいと考えるようになる。
――
――違ぇよ。そん時はここに帰ってこいって言ってんだ。
――この大魔法使いフランメ様が、"あの魔法"を解くための手助けしてやる。
――あの魔法は極めつけだ。私とお前が協力しなきゃ、解けやしないだろうからな。
13歳の少女のフランメではなく、妙齢の大人の女性のフランメ。フリーレンはフランメの少女時代を知らない。フリーレンがフランメと初めて出会った時にはもう、フランメは大人の女性だった。
フリーレンはフランメから魔法を教わったけれど、フランメの過去はあんまり教えてもらっていない。
フランメは"花畑を出す魔法"を好んでいた。魔族を殺すための魔法なんかより、平和な時代にふさわしい魔法をフランメは好んでいた。いつかフリーレンが魔王を倒し、やがて平和な時代がやってくることを、フリーレンの知っているフランメはまるで見てきたみたいに確信していた。
「千年も前のことなのに、結局私はあの人の手のひらの上か」
そうぼやきながらフリーレンは防御結界を解除する。結界を解除して入れるようになった遺跡の中心には、台座があって、台座の上には本が開かれた状態で浮遊していた。木々の匂いに混じって、古びた本の香りがする。
「これが……本物のフランメの手記……」
「マキシマとの対話についての記述はあるか?」
「ちょっと待って。今開いているページに書かれているのは……『大陸の北の果ての
その話を聞いたフェルンがずずいと体を乗り出す。フリーレンに後ろから抱き着いてフランメの手記を覗き込む。
「それ。世紀の大発見じゃないですか」
「
「天国はある。その方が都合がいいだろう」
生きている俺たちにとって都合がいい。かつてハイターが話した考え方をアイゼンが語る。そう言われてフリーレンもまたハイターの話を思い出す。
「……そうだね。じゃあ、たまには先生の話を信じてみるか」
ぺらぺらと手記のページをめくり、マキシマのことを書いたページを探す。200ページほどの手記に、目当ての情報は書かれているのか。10分ほどが経ち、手記の最後の方に差し掛かった時にフリーレンはそれを見つける。
あった。マキシマについて書かれたページが。
そこに書かれていたのは、
『思えば13歳の頃の自分は相当恥ずかしいことをしていた。マキシマ・ショウゴに、なんと魔族の男に、熱を上げていたのだから。あの頃のしびれるような感情からは卒業しているけれど……しかし大人になった今でも彼のことは嫌いになれそうにない。もし再会することがあれば、また彼のことを"ショウゴくん"と親しみを込めて呼ぶだろう。それほどまでに、私と彼は"対等"な関係にいる』
『この時代で私たちだけが1000年以上先の未来を見据えている。人類全体が知的活動に取り組む世界を夢見ている。私が人間の魔法を信じるように、彼は人間の魂の輝きに期待している。いや、彼はあまりに人間の可能性を信じすぎていた』
『彼はとても魔族らしくない。親善大使のティーフェなどと呼ばれていたが、私には彼の姿は救済者に見えた』
『マキシマ・ショウゴは"
『大魔法使いなどと呼ばれるこの私、あの大魔法使いゼーリエすら、彼の"
という内容だった。
◆
「"
ツッコミどころがたくさんあったけれど、フリーレンはひとまずマキシマの魔法に着目する。
身内の色恋沙汰、あるいは身内の黒歴史に触れない優しさならフリーレンにもある。
「魔王を倒すような魔法使いね……。
だとしたらえらく無茶振りだ。魔王を倒すことを頼まれるくらいに無茶振りだ。手記に書かれた字面をそのまま受け取るだけでも恐ろしい。フランメと同じかそれ以上の偉人。魔族でありながら人類に信頼を向ける賢人。
腐敗の賢老クヴァール、かの魔王は人類が倒すべき"敵"だった。対して――マキシマはフリーレンが越えるべき"目標"であるかのように手記には書かれている。
悪でもなければ。敵でもない。
越えるべき目標。
そして師匠の協力者。
いったいフランメとマキシマは――どんな"
気がかりなのは、魔王もまた自身を討つ魔法使いがマキシマに対処する魔法使いであると知っていたことだ。1000年先の未来を見通す全知のシュラハトにでも聞いたのだろうか。
シュラハト同様、未来を見る魔法を使う南の勇者はマキシマについて何も言わなかった。それは何故か。
――ああ。"
なるほど。手が付けられないねとフリーレンは
フランメやゼーリエの魔法が通用しないなら、きっと南の勇者と全知のシュラハトの未来視の魔法も、マキシマには通用しないのだろう。
「強い戦士が
とアイゼンは言う。魔法が一切通じない魔族が相手なら、魔法を使わずに戦う前衛が必要になる。
「アイゼンがついてくるの?」
「いいや。俺はもう足手まといだ。リーゲル
「ふうん」
「フェルン。すまんな、長い旅路になるかもしれん」
「そうですね。でも、いいんです」
とフェルンが強い笑みを浮かべて答える。勇者ヒンメルのように、根拠なしに笑って、前を向いている。この子がきっとシュタルクのことも引っ張っていってくれるだろう。アイゼンは
「ついでに天国に行ってヒンメルに会ってこい。
「えぇ……。大陸の北の果てってめちゃくちゃ寒いじゃん。行きたくないな……」
めげそうになるフリーレン。アイゼンはフォローを入れる。
「
「……アイゼン。聖雪多層球のことは知っていたの?」
「まあな」
かつて、勇者ヒンメルと僧侶ハイターと戦士アイゼンは、女神の石碑によって80年前に戻ったフリーレンとともに、特大の聖雪多層球――"シュネーバルエーデ"を見た。
恐ろしいほど美しい神造品を見てしまった。
「あれを壊すか、それとも
「え。壊すべきじゃないの?
「それとは別の使い方がある。"
「まだ全部は話せないの?」
「十分話した。こうしてフランメの手記も渡した。今お前が知っておくべきことはそれだけでいい」
◆
天国はある。とアイゼンは言った。
そうであれば生きている人間が安心できると思ったからだ。
しかし生きているエルフが孤独にならないために死んだ人間の魂を動かすことは良いことなのか。それとも悪いことなのか。
その善悪は。その必要性は。悠久の時を生きるエルフである、当事者のフリーレンが決めるべきだとアイゼンは考える。
一番最初に動かしたのは"13歳のフランメの魂"だ。フリーレンに待ち受けるのは、マキシマとの運命だけではない。
『
偉大なる神託の巫女。その1人目に。フリーレンの師匠フランメは選ばれている。
【魔法を無効化する魔法/ハーファーゼ】
魔族係数 0〈リーレイハイト・ゼロ〉。執行対象ではありません。
人類の魔法〈トリガー〉を無効化〈ロック〉します。
……などと書いてはみたものの。フリーレン世界には肝心のドミネイターがないので、本編で機械音声は流すチャンスはないです。
ハーファーゼは名前の通り魔法を無効化する魔法。
ルビは「Hafer」+「Hase」の組み合わせ。ドイツ語のオーツ麦と兎から。
因幡の白兎ならぬオーツ麦畑のマキシマ。岸を渡ってから