メスガキを分からせる為だけに俺は最強になった 作:カレーパン
放課後になり王都を散策すれば……あった。
目立つところに立てられた喫茶店サンシェル。
花壇などを設置し、屋外のテラス席もある。
ゴールデンタイムを過ぎても活気はあり、若い女性が多く集まっていた。
俺は店へと近づき、扉を押して中へと入る。
すると、ベルがからからと鳴って数名の客が俺を見て来た。
すぐに視線を外したが、くすくすと笑いながら話していた。
「いらっしゃいませ! 一名様ですか?」
「あ、いえ。人を待たせてまして……こう、白い髪で人形みたいな……あ、いました!」
視線を向ければ、窓際の席にてあの女が座っていた。
座っていても絵になるほどに綺麗な姿勢で。
照明と自然の光を浴びて、そこだけ空気が澄んでいるようだった。
彼女は俺には気づかず、黙って本を読んでいた。
俺が待ち人だと指を指せば、店員の女性は少しだけ訝しんでいた……失礼な奴だな。
俺は店員を無視して女の下まで行く。
俺が近くに寄れば、流石に気配に気づいたのか。
本を閉じて俺の事を見て来た。
「ま、待ったかな? はは」
「うん、待った」
「あ、ご、ごめんね……は、はは」
俺は挙動不審を演じながら。
彼女の対面のソファーに座る。
彼女は本を鞄へと入れてから、近くを通った店員さん呼び止める。
「アイスコーヒーを二つ……いい?」
「あ、うん。それで」
「はい! アイスコーヒー二つですね! 少々お待ちください!」
店員さんは一礼し去っていく。
彼女はゆっくりと俺に視線を向けて来た。
「「……」」
互いに黙ったままお互いを見つめる……いや、話せよ。
俺から切り出すべきなのか。
変な気遣いをしそうになりながらも。
俺は様子を伺う事も含めて、何も喋らずにただ見つめた。
時間が流れて……女が口を開く。
「……貴方は、強いの?」
「え、い、いきなり……な、何か期待しているのかもしれないですけど。僕は強くないですよ……こ、この前のテストでも、僕は何も活躍出来ませんでしたし……へ、へへ」
俺は恥ずかしそうに頬を掻く。
女は表情を変える事無く、そんな俺をジッと見て来た。
あの改ざんされた記録映像と今の発言に矛盾はない。
精々が荷物持ち程度の事しかしていないように作り替えたんだ。
改ざんがバレる心配も全くしていない。
それに、この女が記録を見ている可能性だって考えていない。
アレは上の人間しか見れないものだと記憶しているからだ。
……恐らく、この女は……あの時に遠見をしていた存在だろう。
逆探知によって俺も微かにその存在の情報は手にしている。
シルエットとその魔力の持つ基本性質で。
女の中に意識を集中すれば、その性質も何となく分かる……当たっているだろう。
大きなズレは無い。
故にこそ、80パーセントの確率でこいつだと分かる。
恐らく、シルエットから男であると決めつけて。
代表戦に出ていた唯一の男である俺に確認しに来た。
何故、この女がそんな事を気にするのかは分からないが……まぁいい。
疑われるのは少々厄介だ。
どうにかして、この女に俺が弱い存在であると思い込ませたい。
精神支配をすれば簡単ではあるが。
あまりそういった“都合のいい魔法”を多用するのは後が怖いだろう。
便利な魔法ほど足がつきやすく。
使いどころは必要最低限にとどめておくべきだ。
特に、疑われている程度であれば使う事は避けたい。
……となると、何か証拠となるような情けない姿を見せるべきだが……ふむ。
「へ、へへ」
「……?」
俺は自分の中で、これでもかと引くほどの不気味な笑顔を作る。
すると、女は首を傾げるだけで。
周りの女たちが逆にどん引きしていた……難しいな。
この女からは俺に対する悪意や敵意が感じられない。
一人の存在として見ている目であり。
俺にとってこういう純粋な存在こそが最も苦手な存在だとこの瞬間に実感した。
これは骨が折れるかもしれない。
そう思って――店のドアが開く音がした。
視線を向ければ……女だ。
肩まで伸ばした金髪だが。
頭頂部は少しだけ黒くなっていた。
所謂、プリン頭であり。
恐らく、染めているのだろう。
耳にはシルバーのピアスをつけている。
目つきは悪く鋭くて、黒い目をしていた。
背格好は女にしてはかなり高く……178か。
女と分かったのは胸と肩で。
胸はそれなりにデカく。
肩はなで肩で、微かに聞こえる息遣いからも女性の特徴が見れた。
同じ学校の制服だ。
違いがあるとすれば、普通のスカートではなく。
スリットの入ったものを着用していて
足には高そうな革のロングブーツを履き。
ローブの下は白いシャツだけでネクタイをしていない。
武器は携帯していないようだが。
俺の目には奴の体にハッキリと術式が刻まれているのが見える。
魔力を抑えている……かなり強いな。
そいつは出て来た女性の店員を舐めるように見る。
そして、気に入らなかったのか舌を鳴らし――こちらを見て来た。
「お? なんやなんやぁ! マリアちゃんじゃないのぉ! 奇遇奇遇ぅ。いやぁ、こんな店におるんかいなぁ! ははは!」
「……っ」
「……お知り合いですか?」
俺が女……マリアに視線を向ければ少しだけ怯えているように見えた。
どういう事かと見ていれば。
ガラの悪い長身の女は此方に歩いて生きて。
俺の存在を完全に無視し、机に手をついてマリアを上から見下ろしていた。
その顔は笑っているが、チラリと見えるその瞳は欲望に満ちていた。
「どしたん? マリアちゃんほどのえぇ女が、こんな庶民の店におるなんて……あ! そうや! これも何かの縁やし、今からウチと一緒に寿司でも食べに行こうや! あぁ、えぇからえぇから! 金ならウチが出すし、御礼とかもえぇからなぁ? まぁどうしてもって言うんだったら、また今度一緒にデートでも」
「――やめて、ください」
「……ん? 何か言った?」
女は目を細める。
微かに殺気を出しながら彼女を威圧していた。
そんな時に店員さんがやって来て。
恐る恐ると言った様子で俺たちのテーブルにアイスコーヒーを二つ置いていく。
長身の女はちらりとコーヒーを見てから、俺の返事も聞かずにグラスを掴んでそれを口をつけて……
「うぇ、まっず……ひどい味やなぁ。飲めたもんじゃないわ。病気になるでぇ?」
「……!! おい!! アンタ、うちのコーヒーが何だ――おごぉ!?」
「「「て、店長!?」」」
カウンターにてコップを拭いていた初老の男性。
あまりにも失礼な態度の女に対して怒り。
腕を捲って出て来たかと思えば――後ろにのけ反り吹き飛んだ。
店員の女性たちが慌てて店長に駆け寄る。
誰もが何が起きたのか分からなかった様子だが……なるほどな。
俺にはハッキリと見えていた。
女は一瞬で手に持っていたコーヒーから手を離し。
ポケットから小さな金属の球を取り出して。
それを指で弾いて、あの店長の額に当てたのだ。
恐ろしく速い動き……だが、妙だ。
一瞬。そう、ほんの一瞬だが――“球が消えたように見えた”。
不思議であり、恐らくはこの女の魔法だと思えるが……マリアは奴を睨む。
「おぉおぉ、そんな怖い顔せんでくれやぁ……ま、可愛いから良いけど♡」
「……私は今、友達と過ごしているんです……帰ってください」
「あぁ、友達って……っ……これのことかぁ?」
「こ、これ……へ、へへ」
奴は俺にようやく視線を向けて来た。
が、滅茶苦茶に嫌なものをみたような顔をし。
指を指してきてこれ呼ばわりしてきた。
俺は目に涙を貯めながら、へらへらと笑い――頭から何かが垂れる。
「え、え、え、え?」
「――! 何やって!?」
「何って? ゴミにゴミかけてるだけよ? はは」
奴は笑いながら、アイスコーヒーを俺の頭に掛けて来た。
俺はそれでも弱者を演じてへらへらと笑う……良いぞ。
思っていたよりも早くに、望むべき存在が来てくれた。
やはり、天は俺に味方していると考えて――頬に鋭い痛みが走る。
「うばぁ!?」
「ナルミ君!」
「……気持ちわる。死んだ方がいいで、お前?」
俺は床に転がり鼻血を流す。
そうして、震える手で血に触れながら。
ボロボロと涙を流し、弱者として相応しい弱弱しい声を出す。
完璧だ。
完璧なほどに、今の俺はクソ雑魚だった。
どうだ、どうよ――この完璧な弱者の姿は?
俺は心の中でほくそ笑み――奴に頭を踏みつけられる。
「うがぁ!?」
「やめて!」
マリアが奴の腕を掴む。
が、奴はまるで動じず。
俺の頭を踏みつけて来る。
「男なんてなぁ。生きてる価値ないねん。下品でガサツで、無能で雑魚で。チンポ弄るしか能が無い猿ばっかや……特にお前。めっちゃ男やねん。生きてて楽しいか? えぇ? 不快やねん。今すぐに死んでくれへん?」
「う、うぅ、ぁぁ、ぅあ」
俺は鼻血と鼻水と涙で床を汚す。
良い、良いぞ。
完璧だ。これで女は、マリアは完全に俺を雑魚だと認識し――マリアが奴の頬を叩く。
「……あぁ?」
「……彼は、弱くない……本当に弱いのは貴方です」
「……はは、何? それどういう意味? こんなカスと、学生でありながらバリバリ戦ってるウチ――強いのはウチやろが」
「「「――!!」」」
奴が魔力と共に殺気を放つ。
瞬間、全ての人間がガチガチと歯を鳴らす。
恐怖で誰しもが震えて動けない中で。
マリアだけが震えながらも、奴をジッと見つめているのが分かって……奴が息を吐く。
「……ごめんごめん! 悪かったって、だからそう怒らんといてな? ただちょっとぉ……マリアちゃんが心配になっただけやさかい、な?」
「……貴方に心配されるほど、私は弱くありません」
「はは、分かってるってぇ。こんな雑魚にマリアちゃんがどうこう出来る筈がないってのはなぁ……だけど」
「うぅ!」
奴は足を退ける。
そうして、その場に屈んで俺の髪を掴んで頭を持ち上げた。
俺はこれでもかと惨めな顔を作りながら奴を見た。
「立場、理解してな? もしも、分不相応の夢みてんのならぁ――チンコ、切るから♡」
「ひ、ひぃぃぃ」
俺は泣き叫ぶ。
すると、女は嬉しそうに笑ってから。
俺の髪から手を離して去っていく。
「そんじゃ、今度はゆっくり……デートしようや♡」
「……っ」
奴は笑みを浮かべて手を振り去っていく。
マリアは悔しそうな顔をしながらも。
倒れる俺に近寄ってきて。
服が血で汚れるのも気にする事無く介抱してくれた。
「ごめん、ごめんね……私が、迷惑を……っ」
「……」
俺は目を細めながらマリアを見る。
辛そうであり、悲し気で。
その理由は俺のせいではなく。
自分自身の不甲斐なさを悔やむようで……はぁ。
ムカつく、心の底から――腹立たしい。
無垢な存在に対して。
俺が危害を加える事はない。
俺にとっての獲物はメスガキだけだ。
しかし、この瞬間に俺は一人の少女を傷つけた。
俺は気を失うフリをして目を閉じる。
彼女の声が聞こえるが無視。
そうして、新たに出会った――“
アイツの事は知っている。
俺のメスガキ図鑑にも載っている存在だ。
分からせの対象であり……上物だ。
俺は心の中で笑う。
楽しみだ。
あの性格ドブスの百合メスガキが――俺の手で分からせられるのだからな。