メスガキを分からせる為だけに俺は最強になった   作:カレーパン

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第12話:狩りの始まり

 目を開ければ、そこには――夜の街が広がっていた。

 

 空には真っ赤な月が浮かび。

 人の気配がまるでしない廃墟のような街が広がっている。

 レンガで作った家々。

 息を吐けば白く、空気がじめっとしている。

 地面には獣や人間の骨の一部が転がっていた。

 

「うわ、さむ。それに……ひっどい臭いやなぁ。鼻が曲がりそうやぁ」

「……ここが儀式の場所……常夜の街……っ」

「……生きて帰るには……聖血を探さないと……誰か! 私と一緒に来ない!?」

「わ、私も!」

 

 メスガキたちは街の中心にて話し合いを始めた。

 スーを見れば、欠伸をしながらそれを眺めている。

 

 クラフト家が行っている秘密の儀式。

 それは常夜の街と呼ばれる場所にて行われる――“神聖な狩り”を意味している。

 

 そう、狩りだ。

 つまり、俺たちは獲物を狩る為に此処に飛ばされた。

 その獲物たちはかつて、多くの人間を苦しめて来た存在たちで。

 等級にすれば、Bクラスに匹敵するほどの魔物であるそうだ。

 

 最上位がSであり。

 Bならば、上から三番目だ。

 危険度を簡単に表すのであれば、“名のある”冒険者や魔法使い。

 それらが最低でも十名。万全を期すなら、三十名以上の部隊で挑むような強敵だろう。

 俺たちの国であれば、勇者の中で余裕がある者がいれば派遣される程度の敵。

 

 ……まぁ程度と言っても、所詮は人が定めた等級……力を隠した存在もいるかもしれんがな。

 

 イルネは言っていた。

 前回の儀式では帰って来たものはいないと。

 が、あの言い方であればその前ならば帰って来たものがいたように聞こえる。

 まんまと騙されたメスガキたちもいるようだが……実際は違う。

 

 生きては帰って来た。

 が、生きているだけの状態であり。

 ほぼ死んでいるような状態だったらしい。

 信頼できる情報屋を使った結果であり、情報の精度は確かだろう。

 

 ……つまり、十年以上もの間、奴らは新たな血を加えられていない。

 

 クラフト家の目的は優秀な存在の血だ。

 奴らはそれを自分たちへと加える事によって。

 クラフト家という存在を強くしていっている。

 それは単純に子を成す事もあるが。

 真っ先に行う事は、自分たちの中にその血を――混ぜる事だ。

 

 赤の他人の血を大量に飲むなど狂気の沙汰だろう。

 が、奴らの御家には他者の血を飲む事によって進化を果たせる魔法式。

 それが魂に刻まれているようであり。

 それ故に、それほど長い歴史が無くとも奴らは二名の勇者を排出したのだ。

 

 ……ナタリア・スーの目的はマリアとの婚姻……儀式を成功させれば、おのずと伴侶にはされるだろうさ。

 

 血と共に、強き人間を家系に取り込む。

 勲章のようなものであり、その為ならば娘の人生も投資できてしまう。

 メスガキの中でも、力に憑りつかれた存在たちは厄介だが……今回は、それを利用させて貰う。

 

 俺が考え事をしていれば、奴らの考えは纏まったようだ。

 その中には、ナタリア・スーはおらず。

 奴らは最後までナタリア・スーの協力を求めていたが――

 

『はぁ? 何でウチが――ブス共を守らなあかんねん。アホか』

 

 その言葉を聞いたメスガキ共は怒りで顔を真っ赤にし。

 そのまま奴に対してのたれ死ねと呟いて去っていく。

 

 残ったのは俺とナタリア・スーだけで。

 俺は奴に声を掛ける事も無く歩き出し――奴に肩を掴まれた。

 

「どこ行くねん」

「……狩りに決まっているだろう?」

 

 俺が奴を見れば、奴はニヤニヤと笑っている。

 俺が首を傾げていれば、奴は両手を向けてきて――

 

「運べや♡」

「……は?」

「だから、運べや言うてんねん♡ ほれ、男の仕事やろ?」

 

 奴はそう言いながら。

 抱くのではなく背中におぶるようにと忠告して来た。

 俺はその提案を鼻で笑い、そのまま無視して歩き出そうとする。

 

 瞬間、奴が強引に俺の体を奴の方に向けさせて――重い一撃が腹に刺さる。

 

「うがぁ!?」

 

 俺は腹を抑えながら、あたかも効いているように装う。

 すると、奴は膝を屈した俺の顔を蹴って来た。

 俺は地面を転がりながら、奴に何をするのかと聞く。

 奴はへらへらと笑いながら、言葉を発した。

 

「女の役に立てん男なんて――さっさと死んだらえぇねん」

「は、は! 自分が、女王に、なった、つもり」

「――当たり前やん? 女はみぃぃぃんな。自分を女王だと思っとるよ?♡ 因みに、男は……奴隷やな♡ はは!」

 

 奴はそう言いながら、ブーツの音を鳴らしながら近づいて来る。

 そうして、俺の前に立ち。

 冷ややかな目で見降ろしながら、最後の警告を発して来た。

 

「馬鹿でも分かる簡単な問いや。ウチの奴隷になるか、此処で死ぬか……選べや♡」

「お、俺、は」

 

 俺は声を震わせながら――言ってやる。

 

 

「悪い――好みじゃねぇや」

「――なら、死ね」

 

 

 俺が宣言した瞬間に――奴が俺の頭を踏みつぶす。

 

 ぐしゃりと潰れたトマトのように血が広がり。

 仮面はバラバラに砕けて、石畳の地面には罅が走る。

 俺はぴくぴくと痙攣し、ゆっくりと両手足を地面につけた。

 奴は頬を赤らめて笑みを深めて――真顔になる。

 

「……はぁ、だる……奴隷、連れて来るべきやったなぁ」

 

 奴はそう言いながら、俺の死体を放置して歩いて行った。

 俺は完全に奴の気配が消えたのを確認し――“俺の死体に触れる”。

 

 今、俺は自らの体を抜け出して――霊体になっている。

 

 これも魔法だが。

 元の体から離れてしまうので使いどころはそれほどない。

 今のように、自らが殺される瞬間を眺めるにはうってつけだが。

 いつ見ても、自分が殺される様は……それほど愉快ではないな。

 

 俺が体に触れれば、一瞬にして体の中へと入り――瞬間、破壊された頭部が再生されて行った。

 

 音を立てながら、飛び散った血や肉片が戻っていき。

 そのまま元の顔になって、砕けた仮面に触れれば。

 それも時を巻き戻したかのように元に戻っていった。

 俺は仮面を掛け直し、これでよしと――上に飛ぶ。

 

 頭の中で複数の魔法式を構築する。

 気配が完全に消えて、自らの姿を周りの景色と同化した。

 空の上で止まり、街を見下ろせば……始まるな。

 

 メスガキ共の集団は、間もなく獲物となる魔物の接敵する。

 錆びた鉄枷を嵌められて。

 肌は青緑色の腐りかけで、ボロのようなものを纏い。

 見えている手足は病的なほどにやせ細っていた。

 

 ガラガラと鎖を引きずりながら。

 それは街を徘徊していた。

 獲物を求めて、使命を果たす為。

 この閉ざされた空間にて生かされていた。

 

 アンデッド系、それもその大きさから巨人の類だろう。

 魔力量は目に見える範囲では高くはない。

 動きも鈍重であり、明らかに弱っていそうだ。

 が、アレは擬態であり……始まったな。

 

 獲物を視認したメスガキ共が交戦を開始した。

 奴らは魔法を使い、遠距離から攻撃を仕掛けていた。

 弓による光の属性を付与した射撃であったり、銃弾による数にものを言わせた乱射。

 大杖を振るい、天より雷を放っていた。

 その他にも火炎であったり、水の弾丸であったり……効いてはいる。

 

 枷に繋がれた奴は苦し気に鳴いていた。

 死ぬのは間もなく――が、違う。

 

 魔物は痛みを感じて、攻撃はダメージとなっているが。

 奴の内包する魔力が渦を巻いており。

 その力を高めていっていた。

 攻撃に夢中で気が付かないメスガキ共。

 奴らは地面に倒れた奴らを見て、そのまま接近戦に映る。

 槍や剣、大槌を持った奴らが飛び掛かり――瞬間、魔物が咆哮を上げた。

 

「――――ッ!!!!!!」

「ほぉ」

 

 遠く離れた此処まで聞こえるほどの咆哮。

 何の対策もせずに挑んだ奴らは。

 耳や口から血を流して地面に転がる。

 死んではいないが、アレではもうどうにもならんだろう。

 

 遠く離れた人間たちも膝を屈していて。

 魔物は立ち上がり、そのまま転がっているメスガキ共を掴み――喰らう。

 

 バリバリと喰っている。

 その姿は悪意ある魔物そのもので。

 態と音を立てて、生き残っている奴らの恐怖を煽っていた。

 何名かは恐怖を感じていたが。

 流石に戦い慣れした人間が集まっているだけあってか。

 すぐに気持ちを立て直し、奴らは建物の上へと上がり。

 安全圏からの攻撃に重点を置き始めた。

 

「――!!」

「「「――!」」」

 

 司令塔となるメスガキが奴らに指示を送っている。

 急ごしらえのパーティにしては様になっており。

 奴らは奴の視線を分散させながら、攻撃を続けた。

 が、最初の時のように魔物は効いてはいない。

 

「――ッ!!」

 

 魔物は叫び――跳躍。

 

 軽やかであり、身を翻しながら舞っていた。

 そのまま着地したかと思えば、奇怪な動きにまた飛び。

 奴らの攻撃をかく乱して――隙をつきメスガキ共に攻撃を仕掛けた。

 

「「「――!!」」」

「――?」

 

 ほとんどは逃げた。

 一瞬の判断だ。

 が、遅れた人間たちは――そのまま潰された。

 

 大きな建物ごと踏みつぶし。

 瓦礫が周囲に飛び散っていった。

 魔物はカラカラと笑っている。

 楽しいのか。いや、楽しいのだろう。

 こんな街では娯楽はほとんどない筈だ。

 三年に一度の狩りは――奴らにとってもそうらしい。

 

「――!!」

「「「――!」」」

 

 奴らの中で、動きを制限させる事が出来る魔法を覚えている人間たちがいる。

 司令塔からの指示によって、奴らは奴に対してそれを使うが――無効化された。

 

「――!?」

 

 奴らは慌てふためく。

 が、戦場で取り出せばどうなるか――魔物は落ちていた瓦礫を蹴り上げた

 

 それは散弾のようにメスガキ共を襲い。

 運の悪かった人間は体を吹き飛ばされていた。

 

 辛うじて生き残っても。

 体の半分が無くなっていて。

 奴らは泣き叫びながら助けを求めていた。

 

 回復に向かおうとした者もいる。

 が、そういった手合いを奴は優先的に潰しに行っていた。

 

 アレには知恵がある。

 元々、生きていた巨人なのだ。

 その名残があっても不思議ではない。

 

 メスガキ共の即席パーティは大打撃を受けた。

 いや、それは当然の結果だ。

 熟練のパーティでもない、個に特化したものたちであれば。

 逆に恐れをなして徒党を組んだ時点で勝負は決していたのかもしれない。

 

 これは時間の問題かと思い……大きな音が鳴る。

 

「……ほぉ」

 

 視線を向ければ――別の魔物が膝をついていた。

 

 六つの鎌のような手を持つ虫型の魔物。

 その甲殻は黒く鈍い光を放っていた。

 複眼がぎょろぎょろと動き、奇妙な金切り声を上げている。

 全長は三十メーテラはある巨体。

 先ほどの魔物とは違い、何の偽装もしていないシンプルな強さの魔物だ。

 

 シンプルであるからこそ、暴力に特化した形態だ。

 俺の記憶している魔物の中に、アレと似た個体がいるが。

 素早さと単純な力だけであれば、Bランクの中でも上澄みだろう。

 

 まぁ総合的な強さでいえば、差は他とあまり無いが。

 そんな存在が――たった一人のメスガキに苦戦していた。

 

「……」

 

 奴は髪をかき上げながら、小さくため息を零していた。

 気だるげであり、全くといっていいほど緊張感が無い。

 すると、それを隙だと思った魔物は口からは毒液を吐き出した。

 メスガキはその場で立ち尽くし、吐き出された毒液を直視し――移動していた。

 

 一瞬だ。

 瞬きも無い時で、奴は魔物の横に立っていた。

 そうして、軽く飛んで拳を構えて――無数の拳打が魔物の腹に撃ち込まれていた。

 

 虫の魔物は毒液と血を盛大に吐き出す。

 そうして、そのまま地面に倒れて失神していた。

 奴を倒したメスガキ――ナタリア・スーはにやりと笑っていた。

 

 やはり、別格。

 今此処にいるメスガキの中では。

 奴がダントツで上だろう。

 

 ……奴一人で、残りの三体も討伐出来るかもしれんが……よし。

 

 俺は状況の分析を終える。

 一体を奴が倒したのであれば、あのアンデッドも含めて残り三体。

 四体の魔物が討伐されれば儀式は終わりだが……そう簡単には終わらせないさ。

 

 俺は頭の中で魔法式を構築し――別の魔物の前に姿を現す。

 

「――――」

 

 目の前にいる魔物は姿の見えない霧の魔物。

 あらゆる物理攻撃を無効化する魔物であり。

 奴は霧を広げながら俺を取り囲む。

 吸っただけでも内部から体を破壊してくる魔物だ。

 Bクラスの中でも、こいつは相当に厄介であり――俺は笑う。

 

「――大穴(フール)

 

 俺が言葉を発した瞬間に――目の前の地面に巨大な口が出現した。

 

 歯はボロボロで朽ち果てていて。

 悪臭を放っており、開かれたその口は――霧を一気に吸い込んでいった。

 

 全てを喰らい、全てを飲み干す者。

 俺が使役する悪魔の一体であり。

 それが周りの建物ごと、奴を吸い込んでいく。

 奴は叫び声のようなものを発しながら。

 そのまま奴によって平らげられて――俺は指を鳴らす。

 

 瞬間、大きな口は泥になって消えていった。

 周囲の建物はごっそりと消えている。

 が、奴らが視認できるまでの被害ではない……さて。

 

 これで、残りは――二体だ。

 

 あのメスガキ共では、アレは倒せないだろう。

 となると、奴は弱ったアレを狩りにいく筈だ。

 それほど距離が離れていないからこそ、戦闘の状況は掴めている筈で。

 つまり、奴は余裕の笑みを浮かべながら最後の一体を倒しに来る。

 

 俺はにやりと笑い――また別の魔物の前に姿を現す。

 

「…………」

 

 俺が姿を現せば。

 地面が盛り上がっていく。

 周りの建物を吸収し。

 地面に転がっていた武器などもを取り込んでいった。

 

 砂の魔物であり、こいつに対しての攻撃は。

 ある一定のレベルに達さなければダメージは通らない。

 

 “魔力吸収と無効化”に“物理攻撃の無効化”。

 そして、ダメ押しと言わんばかりにそのどちらにも耐性がある存在を持ってきている。

 

 この儀式のえげつないところは。

 どれか一つを極めているだけでは突破は不可能で。

 全てを極めていなければ、易々とはクリアできないのだ。

 故にこそ、あの女は生きて帰って来るという事を俺たちに要求した。

 

「くくく、中々に――度し難いなぁ」

「…………」

 

 砂の魔物が無数の分身を生み出す。

 砂の巨人たちであり、その手には大砲や銅像のハンマーが握られていた。

 俺はそれらを眺めながら、笑みを深める。

 

 楽しみだ。

 楽しみで、楽しみで、楽しみで――体が疼いて堪らなかった。

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