メスガキを分からせる為だけに俺は最強になった 作:カレーパン
「なんや、もう終わりかかいな……しょぼ」
「――――…………」
目の前で四肢がバラバラになったアンデッドの魔物が――死んだ。
奴はかすれた声を上げながら。
体を砂のようにして消えて行く。
殺したのは勿論ウチであり。
少なからず、ダメージを与えていたブス共には砂粒ほどの感謝が……いや、無いな。
「た、す、け……ぇ」
「あぁ? 自分でなんとかせぇや。覚悟あって来たんやろ?」
辛うじて息がある者が数名。
近くにおった奴がウチの足に触れて来た。
ウチはその手を払って、冷めた目でブスを見つめる。
健闘はしていたけど、所詮は烏合の衆やった。
期待なんかしてへんかったし。
元より組むつもりなんて無かった。
……それに、下手に組んで何人もクリアしたら……マリアちゃんを手に入れられんしな♡
マリアちゃんを手に入れる為に。
ウチは態々、クラフト家の儀式に参加した。
危険はあったが、金を情報屋につぎ込んだお陰で。
本来は秘匿されている筈の儀式についてよく知る事が出来た。
出て来る魔物の特性も当たっていて。
情報さえあれば、対処のしようは幾らでもある。
如何に、Bランクの実力のある魔物とて。
戦い方や特性が分かっていれば対して怖くはない。
故に、ウチは一人で此処に来た。
「……さて、と」
残りの魔物は――二体。
それで儀式は完了や。
ウチは晴れてクラフト家の一員であり。
望めば、マリアちゃんとの婚姻も……ふっ♡
さくっと殺して終わろう。
そう思いながら、ウチは鼻歌を歌って――
◇
「……どういう事や……これは」
目の前に広がる光景。
それは異常であり――魔物が死んでいた。
もう一体は完全に死んではいる筈だ。
探しても影も形も無かったからな。
一時間も掛けて魔力探知をしても引っかからないのがその証拠で。
唯一、魔物としての姿を留めているこいつも――死んでいる。
死んではいるが。
今までの魔物のように消えて無くならない。
砂として広がり切ってはいるが。
魔物としての存在は残っている。
目に魔力を流しながら、魔物の死骸を観察し……おいおい、マジか?
「……時を止めた……いや、消えてなくならないように保存してんのか? 嘘やろ……そもそも、こんな事して一体何が――ッ!」
ウチは考えを中断し――後ろを振り返る。
すると、そこには――“悪魔が立っていた”。
「おいおい、悪魔って……冗談やろ?」
「……」
異形の存在。隠しきれないほどの存在感を放つのは――悪魔だ。
悠然とその場に立ち。
下顎が無い髑髏の顔で、空いた眼窩には闇の塊が蠢いていた。
頭から後ろへと無数の黒い縄のようなものが伸びている。
両腕は刃が無理矢理に差し込まれたような歪な形状で。
入りきらなかった刀身が、腕の関節を突き破り出ていた。
服は赤黒い囚人が切るようなもので。
さび付いた鎖が無数についた拘束具のようにも見える。
体長は2メーテラを超えるほどで。
理性はあるかもしれんが、言葉を掛けても意味はないやろう。
ジッと此方を見つめながら、だらりと刃と一体化した腕を下げている。
殺気は感じない。
戦闘を行うのはウチでも危険や。
此処は一旦退いて――ウチは魔法を発動する。
瞬間、ウチの体は横へと一瞬で飛ぶ。
元いた場所を見れば、悪魔が立ち――両手の得物を振り終えていた。
「――ッ!」
「……」
本気や。本気でウチを――殺す気や。
マジもんの殺気であり。
これほどに冷たく鋭いもんは久しぶりで――魔力を解放する。
「ははは!! おもろいでッ!! いいわ――やったろうやないかァ!!!!」
「……」
奴は此方を見て体を揺らし――ウチは奴の目の前に躍り出た。
ウチはそのまま拳を放つ。
瞬間、何十もの拳打が奴の体に突き刺さる。
奴はガードも出来ずに諸に受けて。
そのまま後ろへと吹き飛び――奴は身を翻して地面を滑る。
奴の姿を視認し――瞬で後方へ飛ぶ。
奴を見ればまた攻撃を終えた後の姿勢だった。
見えない。影も形も――速い。
圧倒的なまでの攻撃速度。
魔法使用時のウチと並ぶほどで――やけどな!!
ウチは笑みを深めて――魔法を連続で使う。
瞬間、迫って来た奴の攻撃を回避し。
そのまま地面を滑り、一瞬で奴の背後を取る。
そのまま、その場でしゃがめば奴の攻撃は空を切る。
足払いで奴の体勢を崩す。
奴は攻撃を仕掛けてきたが――そこにウチはいない。
「はは!!」
「……!」
奴の背後を再び取り――連続の拳打を見舞う。
魔力で強化した拳。
それが合計で三十発以上だ。
奴の体は勢いよく吹き飛び。
砂を巻き上げて近くにあったレンガの建物に突っ込む。
ウチは静かに息を吐き――魔法によって後ろへと一気に飛ぶ。
瞬間、眼球スレスレに風の刃が通過していくのが分かった。
ぞくりと悪寒が走る。
見れば、吹き飛んでいた筈の奴が前に立っていた。
体には傷が出来ていて、血を流してはいるが……やばいやん。
ダメージは与えられている。
が、まるで安心できない。
その理由は単純な速さに加えて――あの得物や。
明らかにアレは普通ではない。
斬られたら最期であり、掠めてもダメな気配がする。
魔剣や妖刀の類で……ほんま、運が無いな。
「マリアちゃんの為や――本気でいくで?」
「……」
奴はウチの言葉に反応しない。
が、ゆらゆらと体を動かし――ウチは上に飛ぶ。
瞬間、魔力の刃が風に乗り。
周囲一帯に広がっていった。
それが残っていた建物を綺麗に両断する。
それを見ながらウチは――地面に一瞬で降りる。
奴は刺突を繰り出すがそこにウチはいない。
ウチはそのままがら空きの奴の胴体に――行かない。
そのまま斜めに移動し。
手に持っていた金属球を――奴に打ち出す。
魔力で強化した上に、ウチの魔法で速度は跳ね上がっている。
弾丸以上の威力で――が、奴は全て弾いて見せた。
瞬きの合間に――奴が至近距離に迫る。
「――ッ!!」
魔法を発動し――逃れる。
ざりざりと地面を滑りながら。
奴から距離を離し、呼吸を整える。
何とか避けられて……!
「……マジか」
服を見れば斬られた跡が……やばい。
アイツは段々とウチの動きに適応している。
驚異的な速さであり、このままでは何れ――やるしかない。
ウチは両手を広げて、腰で構える。
掌を開いた状態で足を肩幅に開く。
そうして、解放した魔力を魔法式と己の拳へと集中させる。
勝負は一瞬や。
長引けばそれだけ死のリスクは高まる。
耐久性の点であれば、脅威やない。
だったら、一気に勝負をつけるまでやろう。
ウチはそう考えながら意識を集中させる。
奴もゆらゆらと体を揺らし――来る。
「――ッ!!!」
カッと目を見開き――魔法を連続で使用する。
瞬間、無数の斬撃の隙間を――飛ぶ。
が、完全には避け切れなかった。
攻撃は体に当たり――パキリと音がした。
あの男同じや。
ウチも――“保険”を用意しておいた。
体に残った魔力が。
体に触れた斬撃からウチを救った。
無意識の防御であり、“身代わり”の効果で――がら空きの奴の胴が見えた。
「死ねやッ!!!!!」
ウチは両手を一気に奴へと突き出し――瞬間、破壊音が連続して響いた。
ウチの全力の魔力。
それを纏わせた突き。
それが何十何百も放たれて――奴は遥か遠くまで吹き飛んだ。
「……うぐぅ!?」
瞬間、ウチの体から血が噴き出した。
魔法の使用は問題ない。
ただ、肉体の強度以上に――“時を飛ばし過ぎた”。
肉体の稼働が限界を超えた。
大きな反動で、筋肉が痙攣しているようや。
全身に痛みが走り、手足が震えている……ま、上出来や。
悪魔の気配を探れば……来んな。
かなりの距離が離れたが。
アイツなら一瞬で戻って来れる。
戻ってこないという事はウチの勝ちであり……妙やな。
「……アイツの仕業じゃなかったら、誰が……?」
ゆっくりと砂の魔物を見つめる。
悪魔を始末しても、砂の悪魔が消える事はない。
ずっとそのままで……いや、待てや。
もしも、もし……あの悪魔が、誰かによって召喚された存在なら……ありえへん。
「クラフト家の儀式いうても、そこまで命を張るなんて存在が、おる筈が…………ぁ?」
ウチが否定しようとすれば――“何かが肩に触れた”。
何かと思って視線を向ければ――“狐の面が此方を見ていた”。
「――ッ!!」
ウチは考える間もなく拳を振るい――“奴は消えた”。
呼吸を乱しながら周囲を警戒する。
すると、奴の声が聞こえて――上!?
視線を向ければ――ウチが殺した筈の男が宙に浮いていた。
「お前、どうして……そうか。お前が、あの悪魔を……どういうつもりや!」
「どういうつもり……ふふ、そんなの決まっている……お前の為だよ。ナタリア・スー」
「あぁ? 何言って…………お前!!!」
ふざけた事を抜かすな、そう言ってやろうとし――奴の仮面が消えた。
奴の素顔が露になれば。
嫌でも誰かなのかが分かった。
あの男だ。マリアちゃんと喫茶店にいた陰キャであり。
奴はフードを取り、髪をかき上げて――笑みを深めた。
「再会を祝おう。そして、今宵お前は――俺のものとなる」
「……ハッ、ウチが? お前の? 冗談は顔だけにしてくれや……お前、限界なんやろ?」
ウチは笑う。
ウチが限界のように、奴自身も悪魔の召喚によって大きな代償を支払った筈だ。
寿命か。それとも、自らの魂か。
何方にせよ、悪魔が死んだ今。
奴に残された時間は無い。
悪魔が死ねば払うべきものも即座に支払われて――奴が噴き出す。
「ふ、はははははは!!」
「……何がおもろいんや、ボケが」
「あぁ……すまんな。いや、そう思うのが普通だったな……これだろ?」
「――ッ!!」
奴が指を鳴らせば――奴の隣のあの悪魔が立つ。
傷だらけであるが生きている。
その事実を認識して、ウチは――
「――“戻れ”」
「……は、ぁ?」
奴が戻れと言えば……悪魔が消える。
それはつまり、つまり……え?
おかしい、何もかもが変だ。
悪魔を召喚し、ウチを殺す気だったんじゃないのか。
殺す事はせずとも、いたぶるなり……でも、消した。
消したのなら代償はどうなる。
奴を見れば余裕そうで。
何かを支払ったようには見えない。
どういう、どういう、何が、どうして……でも、分かる事はある。
自らの意志で消したのなら……そうか。
「……舐められたもんやな……手負いの内なら、簡単か? ふざけ」
「――“癒しよ”」
「………………あ、ぁ?」
奴が片手を此方に向けて魔法を発動する。
ウチは一瞬身構えた。
しかし、体が温かな光に包まれて――怪我や失った体力と魔力も全快していた。
ウチは驚き固まる。
分からん、何も分からん。
こいつの目的も、こいつのやる事も――理解不能。
「お前――何がしたいんや?」
ウチは笑う事も出来ず。
たらりと汗を流した。
奴を警戒しながら何とか言葉を吐き出す。
すると、奴は笑って――
「お前を手に入れたい。そして――“分からせたい”」
「ウチを、分からせる……ッ!!!」
奴の言葉を聞いて――背筋が凍り付く。
奴は両手を広げながら笑った。
ゆっくりと宙から舞い降りてくる。
瞬間、隠された魔力が噴き出し。
純粋な魔力だけでウチの体は――震えた。
デカい。勇者ほどでなくとも――それに届きうるほどに。
悪魔を殺せば終わる筈だった。
が、それ以上の存在が控えていた。
ラスボスであり、ご丁寧に体力を全快にさせて……上等や。
奴は油断している。
力があるからこその余裕で。
その余裕をついて、今度こそ――殺したるわ。
ウチが拳を構えれば。
奴はケラケラと笑い――
「さぁ、ナタリア・スー。存分に――踊れ」
「――!」
ウチは魔法を使用。
奴との距離を一気に――――