メスガキを分からせる為だけに俺は最強になった 作:カレーパン
「「「――! ――?」」」
「……ふぅ」
入学式が終わり、世話になる担任の教師からの説明も終わった。
今日から晴れて騎士見習いであり……感じるな。
女子たちの視線。
早々にコミュニティーを形成していく中で。
奴らは俺に対して嘲笑を向けていた。
総勢、32名のクラスメイトたち。
が、男子生徒はこのクラスに俺一人であった。
他の男子たちは別のクラスに振り分けられたのだろう。
残念だが彼らを助けてはやれない。
俺の目的は全てのメスガキたちを分からせる事で。
今、この瞬間もそういった視線で見て来る者たちはすべからく――分からせる。
「「「……くすくす」」」
会話の節々で、俺の容姿などを揶揄っている。
メスガキ特有の細めた目つきに。
猫のようにやけた口。
あぁ、そうだ。何も変わっていない。
全て同じで、あれらはメスガキで――安心した。
ここで悔しそうな顔をするのが普通。
この世界の常識であり、男は奴らを喜ばせる為に存在する玩具でしかない。
それが奴らの共通認識で、俺も奴らにとってはそんな中の一人――が、そうはならない。
俺は鞄から一冊の本を出す。
表紙もタイトルも読めないほどに擦り切れた古本。
それを開いて、静かに読んでいった。
メスガキ共の空気が変わり――声が微かに聞こえ始めた。
「……ぷっ、本って……お似合いじゃん♡」
「ふふ、ザ・陰キャって感じぃ♡」
「クソ雑魚の雄に相応しい趣味だよねぇ。ふふふ♡」
奴らはギリギリ聞こえる声量で呟いていた。
分かってやっており、力なき男であれば硬く拳を握って耐えるしかない。
マサハルであれば、満面の笑みを浮かべていただろう。
今、こうしている間にも、彼は別のメスガキたちに……本を握る手に力が籠る。
「ふふふ……よっわ♡」
「「「ふふふ♡」」」
メスガキは、男の機微に聡い。
奴らは俺の手のこわばりを目ざとく見つけて頬を赤らめる。
悦に浸っていて、嗜虐心に満ちている。
俺は心を落ち着かせる……大丈夫だ。マサハルは決して弱くない。
此処にいない親友の無事を祈る。
そうして、俺は心を揺らぐ事の無い水面のように研ぎ澄ませる。
すると、メスガキ共の声は聞こえなくなっていく。
耐えているのではない。必要のない音を消すだけだ。
こんな事はもう何千何万と経験している。
奴らの事だけを考えて、奴らの一挙手一投足を見て来た。
奴らが雄を知り尽くしているように。
俺もメスガキの事を熟知していた。
俺はそよ風の如く。
メスガキ共の視線を受け流す。
奴らは退屈そうに舌を鳴らしていた。
これでいい。
時が来るまで俺は待つだけだ。
パラパラとページを捲っていき――何者かが俺の本を奪った。
顔を上げれば……“上等な”メスガキが三人立っていた。
「……何か、用ですか?」
「ふふ、用ですかぁだってぇ♡ きも♡」
「用が無いとぉこういう事しちゃだダメなんですかぁ? んー?」
「……こっち見ないでください。汚らわしい……ふっ♡」
俺の前に立つ三人のメスガキ――ニコ・タカネと愉快な仲間たちだ。
ニコは俺の本をひらひらと振りニヤニヤと笑う。
片腕は胸の下に添えて、これでもかと胸元を強調している。
俺の視線をそこへと誘導しようとしているのだろう。
取り巻きのサキは飴をまだ舐めていた。
ころころと動かしつつも、時折舌を覗かせては俺の下劣な視線を求めていた。
ユリに至っては冷たい目で、俺を心底嫌そうに見下している。
が、その目は俺の怯える感情を求めているといった様子で――全部、お見通しだ
勝手に絡んできたのはこいつらだ。
人の読書の時間を邪魔し。
私物を奪い取っておきながらこの不遜な態度……期待以上だな。
ニコはひらひらと本を動かす。
そうして、猫のように目を細めながら本を眺めていた
「無礼でクソ雑魚の陰キャ君が何を読んでるのかなぁ? どうせぇ如何わしいものなんでしょうけどねぇ。ふふふ」
「……気持ち悪い」
「えぇ? どんなのどんなの! ちょっと読んでみなよぉ♡」
「えぇぇそうだなぁ……えっとぉ……特級魔法の構築術式に関する記述。複合術式と単一術式ではそれぞれの強みが……え、何これぇ? ぷぷ、魔導士でも目指してるのかなぁ♡」
「ふっ、騎士見習いの癖に……無理無理ぃ♡」
「アヒルが白鳥になれるとでも? 本当におバカですね……ふん♡」
ニコは期待したものではない事に不満げであった。
が、すぐに俺を嘲る方向へと持っていく。
二人も机に手をつきながら、俺を上から見下していた。
くせぇ。くせぇんだよ――メスの臭いをさせやがって。
俺は奴らの視線と臭いで殺気が溢れそうになる。
奴らの全てが俺の神経を苛立たせる。
親友を死に追いやった憎き仇たちだ。
俺の心に巣食う憎悪の化身が囁く。
今此処で、此処にいる全てのメスガキを――分からせろと。
「……ふぅ」
「「「ふふふ♡」」」
が、俺は耐える。
此処ではダメだ。
こんなところで分からせてはつまらない。
もっと相応しい場所がある。
その時までは我慢だ。
俺はニヤニヤと笑う三人を見上げる。
そうして、ゆっくりと口を動かし――
「貴方たちには理解できないものですよ」
「「「……っ!」」」
俺が真顔で敢えて馬鹿にするように言えば。
先ほどまでニヤついていた三人の表情が一変する。
目に殺気が宿り、机に置いた手には力が籠っていた。
確実に怒っており、どういう事をするのか観察して――ニコがにやりと笑う。
「それじゃ、馬鹿な私たちにも分かるようにぃ。賢いシン君に授業をしてもらおうかなぁ?」
「良いじゃん良いじゃん! 教えてくれるよなぁ先生♡」
「……どうせ、見栄で読んでいるふりをしただけでしょうけど……ふふ♡」
「……まぁ、少しなら」
俺は自信なさげに頬を掻く。
すると、ニコはぺらぺらとページを捲る。
そうして、恐らくは一番説明が長かったであろうそれを読み始めた。
「じゃこのぉ“構築魔法”の空間生成理論について、アッシマー・ハイゼン一級魔導士が提唱した“三つの式”って何かなぁ?」
「「……ふふ♡」」
明らかに、お前では分からないだろうと言わんばかりの視線。
猫のように目を細めながら、口がにやついていた。
周りのメスガキ共を見れば、奴らもくすくすと笑っていた。
俺はゆっくりと椅子から立ち上がる。
そうして、彼女たちから離れてスタスタと歩いて行く。
「えぇどこ行くのぉ? 分かんないから逃げるなんてぇ……だっさぁ♡」
「「ふふ……え?」」
俺は黒板の前に立つ。
そうして、チョークを持って――式を書いていく。
よどみなく、寸分の狂いもなく。
俺は式を書いていく。
三つの式を書き終わる頃には、黒板は綺麗に埋まっていた。
俺はチョークを置いてから、メスガキ共に視線を向ける。
「……これでいいかな?」
「「「……!!」」」
奴らは悔し気な顔をする。
ニコの奴を見れば本と黒板の式を見て……引きつった笑みを浮かべた。
「ふ、ふぅん。や、やるじゃん。ま、まぁ? 此処の生徒なら、それくらい分かって」
「――え、これで正解なの?」
「「「……え?」」」
三人は俺の驚くような声に目を瞬かせていた。
俺はもう一度チョークを持ってから。
式の途中に線を引いて、正しいものへと変える。
「いやぁ、うっかりしてたよ。ケアレスミスだね……で、えっと……これくらい分かって当然って言おうとしたんだろうけど――適当に言ったのかな?」
「「「――っ!!?」」」
俺が残念なものを見るような視線で問いかければ。
奴らは耳まで真っ赤になる。
すると、俺たちのやりとりを聞いていたクラスメイト達はくすくすと笑っていた。
ニコが睨みつければ黙ったが。
この失敗は奴の記憶に大きく残っただろう。
奴は俺の本を地面に投げつける。
そうして、足で踏みつけてから俺の事を指さしてきた。
「アンタ、この私に恥を掻かせた事――後悔させてあげるから」
「マジでしめるからね? 逃げんなよ」
「……殺してやる。絶対に」
奴らはそれだけ言って教室を出て行く。
俺は小さくため息を吐き、転がっている本を拾って埃を払う。
他の生徒はもう俺を馬鹿にしたような視線は向けて来ないが。
その代わり、ニコにこれから耐えがたい責め苦を味わわされると思ったのだろう。
少しだけ同情するような視線を向けてきているのが俺には分かった。
もう、今日はやる事はない。
そう考えた俺は、鞄の中に本を仕舞い。
そのまま教室を出て行った。
扉を閉めれば、メスガキ共の声が聞こえて来る。
話題は俺とニコたちで……ふっ、はしゃいでいろ。
今はまだ、爪を隠さなければならない。
必要な時、最高の場にて。
俺は全てのメスガキを――分からせる。
今のターゲットはニコたちで。
それが終われば次であり……あぁ楽しみだ。
廊下を歩いていきながら。
俺は笑みを浮かべる。
そうして、これから出会うメスガキ共を分からせる喜びを想像し――興奮を感じた。