メスガキを分からせる為だけに俺は最強になった 作:カレーパン
時は流れて……と言っても、まだ十日ほどだ。
「……」
アレからメスガキたちの行動といえば――想像通りのものだった。
『ばぁか……くすくす♡』
『はぁ、あっつぅ……ふふ♡』
『ざぁこ……効いてる効いてる♡』
俺とすれ違いざまに罵倒し。
俺の近くで制服のボタンを外したり。
耳元で囁きながら俺の人格を否定したかと思えば、くすくすと笑って去っていく。
食堂でも同じであり、メスガキたちは男たちを嘲り。
男たちは端っこの方で食事を取る他ない。
俺だけが堂々と中心で食べているからこそ、必然的に奴らの的になる。
授業中も丸めた紙を投げて俺に当ててくる。
俺が振り返れば、猫のように笑ってお決まりの言葉を吐くだけだ。
くだらない、くだらないが――それでいい。
全ては、あのメスガキ三人衆の指示だろう。
新入生の中でも、最も力のある派閥を形成しつつあるニコたち。
奴が頭となって、俺をいたぶる様に他のメスガキたちを動かしている。
見え見えであり、このまま俺が動じなければ。
奴はすぐにでも動くだろう。
そう思っていて――
「よろしくねぇ♡」
「たっぷりと遊んでやるからなぁ。ふふふ♡」
「……地を這いつくばりなさい……ゴミが♡」
「……」
学校指定の修練着。
その上に革で作り上げた防具を纏う。
奴らの手には刃が潰された剣が握られていた。
俺もそうであり、これから行われる事は授業の一つである――“模擬戦”だ。
『はい。それでは、四人一組となってグループを作ってください』
教師の言葉と同時に、ニコたちは俺の前に立った。
そうして、勝手にグループを作る事になり。
奴らはニヤニヤと笑いながら、俺をどう料理しようかと考えている様子だった。
他の生徒を見れば、遠巻きに此方を眺めている。
教師の方もチラリと見て来たが。
通常は二体二でやるのが普通だ。
連携を取りながら、戦いの基本を学ぶと同時に。
教師が癖を見抜き、それを直すようにアドバイスしたりと……が、違うな。
こいつらは三対一でやろうとしている。
が、教師がこいつらを咎める素振りは無い。
それもその筈であり、俺が男であるから止める意味はない。
女対女であれば止めても、男が相手になっただけで状況は一変する。
誰も助けてはくれない。
誰も俺を可哀そうだとは思わない。
それが当然で、それが当たり前で――面白い。
奴らは俺の周りを取り囲む。
既に周りのメスガキたちは模擬戦を始めていた。
教師はそんな生徒たちを見て歩きながら指導をしていた。
俺はそれを一瞥してから、剣を――投げ捨てる。
「……は? どういうつもりかなぁ? まさかぁ……命乞いでもするのぉ♡」
「やってみなよ! ま、どうするかはぁ……お前次第だけどなぁ♡」
「無駄ですよ? 貴方は私たちを怒らせたんです……ぼろ雑巾になるまで痛めつけてあげます♡」
奴らは好き放題に言う。
俺は小さくため息を零して――にやりと笑う。
「どうぞ。好きなように――存分に」
「「「……!!」」」
俺が両手を広げて挑発すれば。
奴らは苛立ったような表情になり――駆ける。
ニコが剣を上げ――振り下ろす。
俺の肩に命中。
骨が軋むような音が微かに聞こえた。
俺はよろりと体を揺らし――脇腹にサキの剣が当たる。
メキメキと音を立て。
俺の体が横へ飛ぶ。
地面を転がり――視界が揺れた。
ユリの攻撃だ。
一瞬で俺が転がる場所へと先回りし――斬り付ける。
――奴らは見事な連携を取っていた。
攻撃が当たり、俺は地面を転がる。
体中に連続して攻撃が当たり。
革の鎧が土の汚れに塗れて行く。
攻撃、攻撃、攻撃攻撃攻撃攻撃攻撃攻撃攻撃攻撃――止まる。
「……」
俺は地面にうつぶせで倒れる。
奴らを見れば、くすくすと笑っていた。
「もう終わりなのぉ? ほんとうにぃぃ……クソ雑魚だねぇ♡」
「そんなに弱いとさぁ? 生きてる価値……無いんじゃないのぉ♡」
「不潔で不細工で、その上に弱いなんて……救いようがありませんね♡」
「「「ふふふ♡」」」
奴らの罵倒の言葉。
そして、いつの間にか他の生徒たちも動きを止めて俺を見ていた。
弱い、弱すぎる。
あんなに弱いなんて哀れだなぁ――そんなところか?
「「「……!」」」
俺はゆっくりと立ち上がる。
鎧についた汚れを手で払う。
そうして、三人を見つめて――首を傾げる。
「……? もうおしまいですか?」
「「……ッ!」」
「……ふふ、そんなわけぇ――ないでしょうがァ!!」
ニコは地を蹴り剣を構える。
見事な太刀筋で、俺の脇腹を斬り付ける。
俺はガードもせずに、そのまま横へと飛ぶ。
すると、サキが先回ししていて。
先ほど攻撃を受けた俺の脇腹に対して――回し蹴りをする。
メキメキと鎧から音が鳴る。
凄まじい力。
素の身体能力ではなく、魔力によって強化をしていた。
この模擬戦では魔力による身体強化はダメな筈だが――教師は此方を見ていない。
俺はそのまま、三人によって剣を打ち込まれ続けた。
上へ、下へ。
横へ滑り、地を転がって。
また上へと上がり、叩き落されて――あぁ、良い。
死を感じるほどの攻撃じゃない。
この程度の攻撃では俺は殺せない。
本気を出せば、この場にいる全てを殴殺出来る――が、しない。
「「「――!!」」」
ニコたちは笑っている。
楽しそうで、嬉しそうで……俺もだよ。
奴らの暴力を受けながら。
俺は自らの内に潜む闇を抑えるので必死だった。
今すぐにでも暴れ狂い。
メスガキ共を蹂躙したがっている。
その衝動は、奴らからの攻撃を受ける度に増大していく。
痛い、痛い、痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い――あぁそうだ。
これが、これこそが――メスガキッ!!
俺は――笑った。
奴らの攻撃を受けながら。
口を大きく歪めて笑う。
すると、ゆっくりと時が進むように感じる中で。
ユリとサキが俺の表情を見て、一瞬だけ攻撃の手を止めた。
ほんの些細な迷い。
戦場であれば、命を落とす可能性のあるミス。
唯一、ニコだけが笑いながら剣を振っていた。
俺を殺す気だ。
俺をもっともっと痛めつける気だ。
その目は輝いていて、頬は蒸気していて。
熟れた果実のように甘い匂いを漂わせて――なら、いいよな?
「ははは! これで――」
ニコは剣に――魔力を流す。
身体の強化だけじゃない。
剣を魔力で強化した。
その意味は、確実に俺を殺すという意味で。
奴の秘められた残虐性が。
奴の俺を真っすぐに見つめる目が――本能を呼び覚ます。
「「――ま!?」」
サキとユリが待ったを掛けようとした。
が、時すでに遅しだ。
ニコはそのまま俺の首を斬り落とそうとする。
青く輝く魔力の剣。
それが視界の端でキラキラと輝く。
今か今かと迫り、ニコは満面の笑みを浮かべて――“乾いた音”が響く。
「「……え?」」
「……ぃ、ぁ…………ふぇ?」
最初の声はサキとユリ。
戸惑ったような声だった。
そして、その次に聞こえた声はニコであり……その頬は赤く腫れていた。
校庭の全員の動きが止まる。
が、空中を回転していた剣が地面に刺さった事で。
一気にざわめき始めた。
「ね、ねぇ。今、何が……え?」
「い、いや、私も何が何だか……でも、タカネさんの頬……あれ」
「まさか、そんな訳……で、でもぉ」
驚いている。
それもその筈であり。
次の瞬間に飛ぶはずであった俺の首は繋がっていて。
代わりにニコの手にあった剣は宙を舞っていた。
ニコは自らの頬に手を当てながら。
目を瞬かせて俺を見ていた。
俺は“手を下ろしたまま”で、ニコを見つめる。
「……!! あ、アンタ、今何を――ひぅ!?」
奴が何かを言おうとする前に――俺は手を上げた。
すると、ニコはびくりと肩を震わせてガードの構えを取る。
女らしい弱弱しい防御の姿勢で。
俺はそんな彼女をくすりと笑い――頭を下げる。
「僕の為に、剣を捨てる選択を取ってくれてありがとうございます」
「「「……え?」」」
メスガキ共は驚いていた。
が、俺はニコが俺の首を斬る前に自らの意志で剣を捨てたと続けて言う。
感謝を示しながら、俺は上げた手を胸に当ててお辞儀をした。
すると、俺の言葉を聞いていたメスガキ共は。
状況を理解してニコに対して拍手を送っていた。
「や、やっぱりね! タカネさんがやったんだよ!」
「そ、そうよね! 本当にお優しい人ね……あの雄、震えてるわよ♡」
「運のいい雄……やっぱり、あぁでなくちゃ♡」
「「「ふふふふ♡」」」
俺は震える。
愉快で愉快で堪らなくて――笑いを堪えるので必死だ。
我慢をし。
ゆっくりと顔を上げれば――奴が俺を睨んでいた。
「……っ!!」
顔を真っ赤にし歯をむき出しにして。
目じりに涙を貯めながら俺を睨んでいる。
精一杯の殺気で、精一杯の虚勢で……やめてくれよ。
そんな目で見られたら、俺は――本能を抑えられなくなる♡
「「……!」」
サキとユリがニコの前に立つ。
ニコを守るように立ちふさがっていた。
その目には少しだけ怯えが見えるが……まぁいい。
教師を見れば、ハッとしていた。
それと同時に、授業の終わりを知らせる鐘の音が響く。
教師は手を叩き、備品を片付けるように指示して来た。
俺はニコたちから離れて。
自分が投げ捨てた剣を足で弾き、手でキャッチする。
そうして、それで肩を叩きながら。
周りで俺を見るメスガキ共を無視して片付けに行く。
「「「……」」」
感じる。
ニコたちがジッと俺を見ている。
怒りと殺気っと――戸惑いだ。
混じり合っている。
そう感じる視線だ。
俺は内心でほくそ笑む……もう少しだ。
奴らが本性を曝け出し。
俺を本気で狩りに来る時。
メスガキとしての力を発揮できるその時こそが――収穫だ。
俺はその日を楽しみにしながら――垂れる涎を片手で拭った。