メスガキを分からせる為だけに俺は最強になった 作:カレーパン
「本当にムカつく! 何なんだよアイツ!」
「気持ち悪い……得体の知れない男だとは思っていましたが……くっ」
「……シン・ナルミ……平民の出って聞いてたけど……うざ過ぎでしょ?」
私の部屋に集まり。
お菓子を食べながら話す事は――シン・ナルミの事ばかりだ。
栄えある王立魔法騎士養成学校へと入学を果たした私たち。
その中でも、私は数少ない特別生に選ばれた。
実力が認められた証拠であり、パパもママも褒めてくれた。
自慢の娘であり、タカネ家の将来は安泰だって……アイツのせいで全部台無しだ。
ぼさぼさの黒髪は、眼も見えないほどに伸ばして不潔。
線は細くて、ひょろがりだ。
いかにもな弱弱しい雄で……そんな存在が、私たちを苛立たせる。
思えば、最初に会った時からアイツは私をむかつかせていた。
蹴り飛ばしても平然とし。
私が靴を舐めるように誘っても無視した。
どんなに私たちがこけ下ろそうとも。
奴は風のように受け流し。
堂々と振舞っていて……ムカつく。
ムカつく、ムカつく、ムカつくムカつくムカつくムカつく――ムカつくぅぅ!!
男なんて馬鹿ばかりだ。
ちょっと胸をちらつかせればすぐに鼻の下を伸ばす。
誘ってやればほいほいとついてきて。
ちょっとため息を零せば、せっせと荷物を運ぶような猿たちだ。
低能で、幼稚で、無能で、弱くて……でも、アイツは違う。
よく分からない。
けど、アイツは他の男たちとは雰囲気が違う。
此方の誘いに応じず。
どんなに罵ろうとも顔色一つ変えない。
抵抗しないかと思えば、この前の模擬戦みたいに私の頬を――っ!!
「ムカつくぅぅぅ!!」
「……ちょっと食べすぎじゃない?」
「そうですよ。怒りのままに食べていたら」
「――うっさいうっさい!! 食べなきゃやってられないのよ! ふん!」
クッキーをバリバリと食べていけば。
砂糖の甘みによって苛立ちも緩和されて行く。
そんな私を二人は見ながら、小さくため息を零す。
兎に角だ。
奴は私たちにとって目の上のたんこぶだ。
邪魔であり、目障りであり……でも、簡単にはどうこう出来ない。
アイツを、例えるのなら、そうね……そう、岩!
大きな岩であり。
雨に打たれても、人に殴られても。
全く意に介さない岩だ。
ただそこにいるだけで基本は無害。
でも、少しでも地面が不安定になれば、転がり落ちて……あぁもう!
「……チッ!」
「……んで、どうすんのさぁ? このままでいい訳ぇ?」
「良い筈ありませんよ。あんな男に好き勝手に振舞わせるなんて……考えただけで……ふっ♡」
「……ユリ?」
「……! 何でもありません……そうえいば、今朝のあの発言は何ですか?」
ユリは私に聞いて来る……あぁ、アレかぁ……ふふ。
「アレはね……作戦だよ」
「「作戦?」」
二人は首を傾げる。
ユリが聞いてきた事は、今朝のホームルームで担任からされた説明に対する私の発言だ。
何があったかといえば、担任が今度行われる“クラス代表戦”に関する案内をしたのだ。
それに出場する四名の生徒を募ろうとしていて――ピンときた。
私は咄嗟に、私たち三人が出る事と。
あの男、シン・ナルミも出る事を勝手に決めた。
シンの奴が何も否定しない事と、クラスメイトがそれでいいと言ったので。
それ以上は担任も追求せずに去っていった。
奴の事だから、またどうにかるなんて思っているんでしょうけど……そうはいかないわよ?
「いい? クラス代表戦は、いわば実力テストのようなものよ。新入生たちがどれだけ動けるのか。そういうテストをするの。全員が参加しないのは、教師たちの負担を減らす名目もあるでしょうけど。一番の理由は、選ばれた生徒たちがどれほど優秀かを見る事にあるの!」
「……だったらさぁ。尚更、全員の実力を見た方がさぁ」
「分かってるわよ! それはそう……でもね、リーダーとしての適正が見たいの。クラスで人望を集めた存在が、どれほどに優秀か……つまりね? あれは単なるテストというよりは――勇者になれる可能性を秘めた存在を見つける意味合いもあるのよ」
「「……! 勇者……っ!」」
二人は私の言葉に喉を鳴らす。
誰も知らない事だ。
新入生の中で知っているのは、私のような学校の内情を知る人間くらいでしょう。
まさか、最初にするテストがそういう名目があるなんて……だからこそ、私はアイツを推薦したのよ♡
「アイツはね。少なくとも、私たちをイラつかせる事においては優れているわ……認めたくないけど……だからね、アイツのその無駄な才能を使って――他の奴らを削ってもらおうと思うの♡」
「削る……? まさか、アイツを餌に……いいじゃん、それ♡」
「確かに、あの男の耐久性としぶとさを鑑みれば……疲弊した人間たちと、ついでに事故に見せかけてあの男も一緒に……最高ですね♡」
サキとユリは私の作戦を理解して笑みを浮かべる。
天才的な発想であり、あんなゴミも上手く使おうとする私って――超天才って感じねぇ!
「ほほほほほ! シン・ナルミ! アンタの命日は決まったわ! 利用して利用して、ぼろのぼろになるまで痛めつけて……最後は犬のように私の靴を舐めさせえて無様な命乞いをさせてやるわ♡」
「はは、最高じゃん……みっともなく、土を食べるアイツかぁ……ふふ、やば。ちょっと興奮するじゃん♡」
「そうですね。殺さずとも、首輪をつけて、調教し。従順なペットにすれば……少しは可愛くなるかもしれませんね♡」
「「「ふふ、ふふふふ♡」」」
私たちは想像する。
あの澄ました顔のシンが。
惨めな姿で私たちに媚びる姿を。
それを考えただけで、私たちは体が火照っていくのを感じていた――
〇
――そんな事を考えているんだろうなぁ。
月明かりの下。
“遥か上空にて立ち”ながら、俺は腕を組み見下ろす。
女子寮の一室でお菓子を食べながら話し合っているニコたち。
魔力によって強化された目で見れば、“雌の顔”になっている……ふっ。
会話を盗み聞く事も出来るが。
全てを知っていれば、楽しみがいもない。
少しくらいのハンデを与えておいた方が――分からせのし甲斐もあるというものだ。
「……機は熟した」
ニコたちのフラストレーションは溜まりに溜まっている。
俺という異端の存在によって。
奴らは怒りに満ちていて、獣のような本性を隠す事が出来なくなりつつあった。
欲望のままに俺を襲い。
自らの願望の為に、俺を飼いならそうとしている。
獣だ。
飢えた獣であり……それがメスガキだ。
焦らしに焦らし。
思い通りにいかなくなれば。
奴らは何としてでも望みを叶える為に。
手段も選ぶ事無く行動に出る。
今朝のホームルームでの奴の発言が正にそれだ。
クラス代表戦では、少なくとも教師からの監視が入る。
テストの内容は単純であるが。
それでも、奴らが行おうとしている事はすぐにばれるだろう。
奴とて馬鹿ではないが。
メスガキとしての本能が、奴に短絡的な選択をさせたのだ。
まぁ、恐らく、監視者となる教師たちも。
男であれば、どうなろうとも関係ないと思っているだろうからな。
奴らが多少の行き過ぎた行動を取ろうとも。
誰も止めには入らないだろう。
そうだな。今までの流れで言えば……“霧の森”に入るだろう。
あそこで行うテストも内容は単純だ。
が、他のクラスの代表者もそこには当然だがいて。
各々が先に目的を達成する為に――互いに潰し合う。
奪い合いであり、殺し合いでもある。
死んだとしても、恐らくは事故として片付けられるだろう。
死なないように学校側もサポートには回るが。
俺のような男がそういうサポートを受けられるとは思わない方が良い。
ニコたちは敵だ。
仲間ではない。
奴らは俺を利用する算段だろう。
上手く事が運べば、奴らが目的を達し。
弱った俺は奴らの手によって……くくく。
俺は片手で顔を覆う。
笑える、笑えるほどに――メスガキだ。
「ふ、ふふふ、ふふふ……くは!!」
俺は天を仰ぎ見た。
もう、十分だ。
これ以上、我慢する必要は無い。
奴らが限界のように俺も――分からせたいんだ。
雲が流れる。
そうして、丸い月が姿を見せて。
俺という存在を照らしていた。
俺は楽し気に話しているニコたちを見ながら。
ゆっくりと両手を広げて――宣言する。
「さぁ、存分に――楽しもう」
分からせが迫る。
クラス代表戦にて――獲物を喰らおう。