京谷くんと咲ちゃんと佳奈ちゃんのあっちこっちまいにち!   作:もやもや

1 / 5
EPISODE1:カンカン!⇔ケリケリ!

 千葉県にある県立猫毛高等学校。

 多才な教師と多彩な生徒が入り交じるこの学校では、少年少女達が楽しげな声をあげながら日々を過ごしている。

 友情や恋愛の形は様々で、友達と毎日遊ぶことが好きな人、昼休みの放送を生業としている人、好きな人を前にすると素直になれない人もいる。

 

 そんな愉快な学校に通う生徒の一人である西原京谷は、校舎の中を駆け回っていた。

 

「捕まるものかー!」

「あはははは!いっくよー!」

 

 その後ろを追いかけているのは、 黄緑の髪を後ろで二つ縛りにしている、明るく元気な少女である深山佳奈。

 両者ともフツーの高校生には思えない速さで走っている。

 

「あいつ速すぎだろ......。どっからそのスピードが出てるんだ......」

 

 息を切らしながら走る京谷に対し、笑顔でスタミナを切らす様子も見えない佳奈。

 京谷は佳奈の体力の多さに舌を巻いている。

 どうしてこのようなことになっているのか。

 事の始まりは、校内二大トラブルメーカーと名高い戌井榊と片瀬真宵の、ある発言までさかのぼる。

 

 

 

 

 

 

――――――――

 

 

――――――――――――

 

 

――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

「「第エヌ回食堂タダ券争奪缶ケリバトル、はーじまーるよー!」」

 

 この台詞を聞いたいつものメンバーは二人に視線を向ける。

 男女が入り交じって超人的な遊びをしている仲良し8人組。

 この学校の生徒は大体が超人的なスピードとパワーを持っているのだが、このメンバーは校内でも有名だ。 

 

「全力で望む......」

 

 その一人である音無伊御は、やる気に満ち溢れていた。

 

「お、かなり気合い入ってるな!」

「この前のサバゲーの終わり方が消化不良だったし、それに......」

「それに?」

 

 榊が伊御に聞き返すと、伊御はすぅっと息を吸って。

 

「円安の影響で、焼きそばパンが30円も値上げしたから、この際にたらふく食べておきたくてな......!」

 

 まるでゴゴゴゴゴという擬音が聞こえるかのような気迫でこう述べた。触覚毛が動いており、彼の本気がひしひしと感じられる。

 そんな中、伊御のことを熱烈な視線で捉えている少女がいた。

 

「......」

 

 小柄な少女、御庭つみきは、正直に言ってしまえばこの缶ケリにはあまり乗り気ではない。

 もしも、伊御と別チームになって、敵対することになったら......。

 そう考えると、どうしてもやる気にはなれなかった。

 だがしかし、真宵はそんなつみきの様子を見て、考えを読んだのだろうか、次のように耳打ちした。

 

(つみきさん、つみきさん)

(......あによ)

(伊御さんと同じチームになれば、共同作業ができますにゃん)

(それは、そうだけど......)

(別のチームになっても、つみきさんが勝ってタダ券を伊御さんにあげれば、つみきさんの株は右肩上がりでは?)

(......!!)

 

 それを聞いてつみきに電流走る。

 つみきがどちらのチームになっても伊御は焼きそばパンを食べることができる......!

 そしてどちらにせよ、つみきが勝てば、伊御に尽くすことができる......。

 このことに気付かされたつみきは、真宵に小声で礼を言い、「私も、全力でいくわ」と宣言した。

 それを見た真宵はというと。

 

(計画通り......)

 

 いかにも悪役のようにニヤリと笑った。

 恋する乙女はどうしても盲目的になる。

 そこに打算的な計画を吊るされたら、許諾するに決まっている。

 これでつみきの参加は確定。

 

「わ、私も参加させていただきたいのですが、みなさんの動きに着いていけなくて足手まといになりそうです......」

 

 そう述べるのは春野姫。おっとりした性格で、超人揃いのこの学校では数少ない一般的な生徒である。

 唯一人と違うところと言えば、圧倒的な量の鼻血が出せるぐらいか。

 

「大丈夫よ。前の缶ケリだって姫ちゃんのおかげで勝ったじゃない」

 

 ロングの金髪でスタイルの良い少女である崎守咲が、そう言って姫を励ます。

 

「少なくとも、何にも役に立たない京谷よりはチームの力になってるわよ」

「おい、ちょっと待て!」

 

 引き合いに出された京谷は、咲の毒舌に反応した。

 ツンツンの黒髪、高くも低くもない身長、悪くはない身体能力という、大した特徴もない高校生である京谷だが、そこまで言われるのは心外だった。

 

「春野さんを褒めるために引き合いに出すのはいいけど、何にも役に立たないって言うのはやめて!」

「あら、事実じゃない。必死に否定すると滑稽よ」

「......悲しくなってきた」

 

 頭を悩ます京谷。

 いじられるのはいつものことだが、やっぱり心に来るものがある。

 しかし。

 

「え~と、西原くんも凄いと思いますよ?むしろ、西原くんと比較されて、私の方が恥ずかしいぐらいです」

 

 毒舌にへこむ京谷にえへへと困った顔で微笑む姫。

 まるでその後ろからは光がさし、背中に羽がついているように京谷には思えた。

 

「......ハッ!春野さんが天使に見えた!」

「ふぇ?」

 

 天使と言われ、慌てふためく姫。

 

「やっぱり姫は天使だったか......!」

「圧倒的天使......!」

「い、いえ、違います~!」

 

 そこに榊と真宵が介入。

 姫は必死に否定するも、この二人が会話に入った時点で時すでに遅し。

 

「姫ちゃんって天使なのー!?」

「なるほどね~」

「ち、違います!違うんです~!」

 

 佳奈と咲ものっかり、事態は収拾がつかないことに。

 目をグルグルさせて混乱している姫。

 さらに真宵が続ける。

 

「姫っち、この状況を覆すには缶ケリで勝つしかないんじゃよ」

「何故ですか!?」

「そりゃー、勝者に敗者は従うっていう罰ゲームがあるし~。缶ケリで勝った姫っちが『私は天使じゃないです!』って言えば万事解決なんじゃよ!」

「で、でも...」

「姫っちは缶ケリに参加して勝てばいい!」

「し、しかし......!」

「それに、私たちは姫っちと遊びたいんじゃよ!」

「え......?」

「純粋に姫っちと缶ケリがしたい!罰ゲームは缶ケリをより楽しむためのプラスアルファにゃん!私が勝ったら姫っちに天使のコスプレしてもらうけど姫っちが勝てば問題なし!姫っちよ、勝つのだ!ただ勝つことを考えるべーし!そしてみんなとの遊びを楽しむのだ!」

「は、はいぃ!」

 

 混乱していた姫は、真宵に捲し立てられそのまま参加することに。

 

(......あれは詐欺師の手口じゃないか?)

(......しかもどさくさに紛れて負けたときの罰ゲーム追加してるしな)

(......真宵もアレだけど、あっさり乗せられる姫も心配だわ)

 

 それを見ていた榊、伊御、つみきは小さな声で苦言を述べあう。

 

「みなさんとの遊び......。頑張ります!」

 

 そしてなぜかやる気マックスの姫。

 追加された罰ゲームのことには完全に気づいていない。

 他のメンバーは真宵の口のうまさに半分驚嘆、半分ドン引きしたが、何だかんだで姫のコスプレが見たいので黙っていた。

 

「で、ルールはいつも通りなのー?」

「ルールはそうだが、景品は一味違うぜ」

 

 疑問を口にした佳奈に榊が答える。

 

「まずは食堂のタダ券!次、敗者に1つお願いできる権利!三つ目、はちぽちのケーキ券!」

「ここまではいつも通りだな」

「ああ。しかしあと2つは違う!四つ目、最新型スピーカー!」

「「「「おおー!!」」」」

「どうしてそんな物が?」

 

 怒涛の豪華景品に驚いて京谷が聞く。

 

「はちぽちのお得意さんがくれたんだ。くじ引きで当たったけど、音楽は聴かないから使ってくれって」

「ほうほう。それで五つ目は?」

 

 待ってましたと言わんばかりに榊と真宵が答える。

 

 

 

「「五つ目、真宵メカお好みで1つ贈品!!」」

 

 

 

「「「「......。」」」」

 

 

 

「何でそこで盛り下がるんじゃよ!!」

「私達は真宵さんのメカあまり見たことないし......」

 

 咲がそう答えると、真宵は「じゃあ!」と伊御、つみき、姫の方を見る。

 しかしその三人の反応も悪い。

 

「いやぁ......」

「だってねぇ......」

「えーと......」

 

 今までの真宵メカを思い出すメンバー達。

 雪合戦のときの玉精製機と射出機、ストーブの改造しようとしたこと、傘につけるハートマーク......。

 無能とは言わないが、日常生活で役に立ちそうにないものばかりだった。

 

「ぐぬぬ......。でも今回は新作揃いですぞ!」

「見せてよーマヨちゃん!」

「佳奈やんの優しさが心に染みる......!」

 

 目をうるうるさせながら真宵はどこからともなくメカを取り出した。

 

「その1、『恋愛感情透視すこーぷ!』」

「......とりあえず話だけは聞こう」

「このスコープをかけて人を見ると、その人の興奮状態がまるわかりなんじゃよ!つまり、その人と会話しながらスコープで見てみれば、その人が自分のことをどう思ってるか分かっちゃうんじゃよ~!」

「「......!」」

 

 自信満々の真宵と興味津々のつみきと京谷。

 

(もしこれがあれば、伊御が私をどう思ってるかわかる......)

(......これで、崎守の気持ちもわかるのか?)

 

 つみきと京谷はそんなことを考える。

 しかし他のメンバーの反応は宜しくない。

 

「恋愛感情を見るなんて、無粋じゃないか?」

「私も、そう思います......」

「うーん、私も反対かな」

「恋愛感情かー。興味ないよー」

 

 伊御、姫、咲、佳奈はそう答えた。

 だが真宵はへこたれない。

 

「まあ、次のメカを見てもらいましょー。その2、 『アナタとワタシのドッキュンハート』!」

「「「名前が痛いのでパス」」」

「えぇ!?ひどいんじゃよ!」

 

 真宵が必死に抗議するも、榊がまあまあとなだめる。

 

「早くしないと缶ケリやる時間なくなっちまうぞ」

「ぐっ、せめて説明を聞いてほしかった......」

「最悪終わってからでもできるだろ。次にいってみよー」

「......扱いが雑なんじゃよ」

 

 流石の真宵もしょんぼり気味となる。

 だが時間が押してきているのも事実なので、渋々次のメカを取り出すことにした。

 

「その3、『尋ねモノ探し隊』!」

「お、これはよさそうだな」

「でしょでしょー!これはあまりに屈指のめちゃスゴびっくりメカなんじゃよ!」

 

 散々こきおろされた後に褒められたので、思わず嬉しくなり日本語がおかしくなる真宵。

 榊が続けて言う。

 

「これは俺も一度使わせて貰ったが、凄かったぜ」

「どんなメカなんですか~?」

「ふふ、聞いて驚くな!」

 

 真宵は白衣を大きくなびかせて言った。

 

「何か物を無くしたりしたとき、このメカを使えば場所がサーチできるんじゃよ!」

「「「「おー!」」」」

「前もって探したいものの情報を登録しておく必要があるけど、テストでは発見率100%にゃん!」

「あ、じゃあ登録してない物を無くしたらダメなのか?」

「いや、登録してない物でも無くしたときに情報を打ち込めば、半径8m以内にあったら大体の場所はサーチできるよん」

 

 これにはメンバーがみな驚く。

 それに気を良くする真宵。

 

「でも、それって特許取って売り出せば儲かるんじゃない?」

「いやぁー、それが......」

 

 疑問を口にした咲に真宵は口ごもる。

 

「そのサーチの方法がちょっと法にひっかかりそうになって......」

「「「「「「「......」」」」」」」

「でも、マヨ理論で合法なところまで持っていったから大丈夫なんじゃよ!」

「それって脱法って言うんじゃないか?」

「いずれにしても法に抵触してないのでセーフにゃん!」

「......」

 

 見直したと思ったら法ギリギリの代物だった。

 そのことにガッカリしたメンバーは早くも意気消沈気味。

 

「......もしかして、俺って結構危ない橋渡ってた?」

「......多分」

 

 ガクブル状態の榊の台詞にそう返す伊御。

 榊は首を降ってこう言った。

 

「ええーい、気を取り直して、真宵メカその4!」

「え?もうないんじゃよ」

「え?」

 

 榊が聞き返す。

 

「えーと、この3つだけ?」

「イエース!」

「......」

 

 評判の悪いスコープ。

 名前が痛いハート。

 法的に危ない機械。

 あまりにもどうしようもない選択肢に頭を抱える榊。

 

「おい真宵!あんだけ『景品は私に任せるんじゃよ!』って豪語してたのにこの有り様かよ!」

「な、なんですと!この有り様とは失礼なんじゃよ!」

「他の面子を見ろ!物凄いガッカリムードじゃねえか!!」

「私は榊さんが『一番いいやつを頼む!』って言った通り、自信作のメカを厳選しただけなんじゃよ!!」

「真宵~!!」

「榊さん~!!」

 

 ついに仲間割れし始める榊と真宵。

 これはお開きムードかと思われた。

 しかし。

 

「勝負は缶ケリでつける!」

「望むところなんじゃよ!」

「「チーム分けスイッチオン!!」」

「結局やるんかい!」

 

 唐突に始まったチーム分けに戸惑うメンバー。

 そしてチームは以下のようになった。

 

 ~攻撃チーム~

  ・音無伊御

  ・春野姫

  ・戌井榊

  ・西原京谷

 

 ~守備チーム~

  ・御庭つみき

  ・片瀬真宵

  ・崎守咲

  ・深山佳奈

 

「男子が全員攻撃チームに行ったな」

「でもバランスはいいんじゃない?」

「ひぇぇ......。攻撃チームの女子は私だけですか......」

「負けないからね!姫ちゃん!」

 

 チーム分けを見た京谷、咲、姫、佳奈が言う。

 

「つみきとは別のチームか......。容赦はしないよ」

「......!私も頑張る!」

 

 伊御とつみきがそう宣言した。

 和気あいあいとした雰囲気であったが。

 

「よっし、真宵とは別チームだな!雪辱を晴らしてやる!」

「こっちだってメカを駄目だしされた屈辱を晴らすんじゃよ!」

「「このーー!!」」

 

 榊と真宵は場違いな程真剣に睨み合う。

 そんな二人を見たメンバーはひきつった笑いを浮かべた。

 

「それじゃ行くぜ!」

 

 と榊が叫ぶと、榊と真宵が手を取り合った。

 

 

 

「「戦いの殿堂に集いし学生たちが!!」」

 

 

 

「え、なにこれ」

「わ、分かりません......」

 

 踊りながら掛け声を発する榊と真宵に対し、咲と姫は頭に疑問符を浮かべる。

 そんな二人にお構い無く榊と真宵は続ける。

 

 

 

「「仲間と共に地を蹴り宙を舞い!!」」

 

 

 

「......伊御、なにか知ってる?」

「......多分、遊〇王だと思う」

 

 つみきはサブカルに詳しい伊御に聞き、伊御はそう答えた。

 それでもお構い無く二人は続ける。

 

 

 

「「学校内を駆け回る!!」」

 

 

 

「〇戯王って、カードのやつだよね?」

「何か最近はフィールド内を走りながらやるらしいぜ」

 

 自分の知識と起こっていることが噛み合ってない佳奈に対して京谷は答える。

 しかしお構い無く二人は続ける。

 

 

 

「「見よ!これぞ缶ケリの最強進化系!!」」

 

 

 

「最近のカードゲームって凄いんですね......」

「いやそれはアニメの話......」

 

 純粋な姫は素直に受け取ってしまいそうになったので、京谷は姫が間違って覚えないように補足した。

 まだまだお構い無く二人は続ける。

 

 

 

「「アクショーン......!!」」

 

 

 

「次の台詞でスタートするぞ。攻撃チーム、準備いいか!」

「オッケー!」

「了解です!」

 

 伊御の台詞に反応して、かかとに力を入れる京谷と姫。

 そして。

 

 

 

「「デュエル!!」」

 

 

 

 二人の掛け声を口火に缶ケリはスタートした。

 攻撃チームが四方に走っていく。

 その一分後に守備チームが出発して、京谷は早速佳奈に見つかったのだった。

 

 そして舞台は冒頭に戻り......。

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――――

 

 

――――――――――――

 

 

――――――――

 

 

  

 

 

 

「とりあえず校庭に出ないと......!」

 

 そう言って京谷は開いている廊下の窓を探し、そこから校庭へ飛び降りた。

 そして缶がある校庭の中央に向かって走っていく。

 

「待てー!」

「誰が待つか!」

 

 佳奈も窓から校庭へ飛び降り、京谷を追いかけて行った。

 京谷よりも軽やかに着地する。

 

「くそっ、深山のやつもしぶといな......。こうなったら強行突破しかないか......」

 

 京谷はなけなしの力を絞ってスピードを上げ、校庭の中央へ向かいさらに駆けていく。

 その先には、咲が立ちはだかっていた。

 

「年貢の納め時よ、京谷」

 

 咲は右足を軽く引き、腰を落として臨戦体勢となった。

 後ろからは佳奈が笑いながら楽しそうに迫ってくる。

 まさに前門の虎、後門の狼状態。

 

(経験上、崎守と深山の身体能力は飛び抜けてる......。正攻法じゃあ勝てない)

 

 なら。

 

(奇手を放つしかない!)

 

 どちらにせよここが勝負所だと思った京谷は、地面を強く踏みつけ大きくジャンプをしようとして......。

 

 ツルッ。

 

「のわっ!」

「っ......!」

 

 足を滑らせた。

 しかし走っていたその勢いは止まらず、咲に向かってダイブするかのように、体は宙に浮いた。

 突然の出来事に咲は驚いて動けずにいた。

 

(やばい!)

「崎守避けろ!」

「......」

(何で固まってるんだよ畜生!崎守の身体能力なら避けられるだろ!)

「......っ」

(だから何で目を閉じるんだ!?ぶつかるって......)

 

 そしてぶつかった後のことを想像してしまい、かぁーと顔が赤くなる京谷。

 なぜか避ける気配を見せない咲を少し恨めしくも思ったが、そんなことをしている場合じゃない。

 少しでも体勢を整えようと、体を捻らせる。

 しかし衝突は免れそうになかった。

 

 京谷の体が咲の体と触れ合いそうになる、 まさにその瞬間。

 

「あぶなーい!」

 

 ドゴッ。

 

「ごふっ......」

「......え?え?」

 

 どこからともなく飛んできた野球のボールが京谷に命中。

 体を捻らせて不安定だった京谷の体はボールの衝撃で吹き飛ばされ、不幸なことに頭から着陸。

 そのまま京谷は気絶してしまった。

 鈍い音が聞こえたことを不思議に思った咲が目を開け、京谷の方をゆっくりと向いた。

 

「」

「......」

「......あちゃー」

 

 追い付いた佳奈はピクリともしない京谷と釈然としていなさそうな咲を見て、居たたまれなくなった。

 そこにユニフォームを来た野球部員らしき生徒が走ってくる。

 

「すみませーん!こっちの方にボール飛んできませんでし...た......か......」

「......そこよ」

「あ......はいぃ...!すみませんでした!!」

 

 どこか不満そうな咲が野球部員らしき生徒を睨むと、彼は急いでボールを回収し去っていった。

 余談だがその野球部員はこの睨みがトラウマになり夢にまで現れ、しばらくの間、夜にトイレに一人で行けなくなったらしい。

 

 佳奈は咲の方を向いてこう言った。

 

「この状況、どうしよっか?」 

「せ......かく......チ......ス......った......のに」

「......おーい?」

「え?......ああ、取り合えず、京谷を保健室に連れていかないと」

「らじゃー!」

「......!」

 

 小声で咲が何か言っていたような気がしたが置いておくことにした。

 それよりも京谷を保健室に連れていくことが急務。

 佳奈が京谷を担ごうとして京谷の手を握ったとき、咲が目を大きく見開いた。

 そしてしばらく考え事をした後、佳奈に言う。

 

「待って佳奈」

「んー?」

「私が京谷を保健室に連れていくから、佳奈は缶を守ってもらえる?」

「いやー、私は拠点防衛よりも走り回ってたいかな~」

 

 元気盛りな佳奈にとっては1つの場所に留まることよりも、探索係として駆け回りたいと思うのは当然だった。

 私にはそっちのほうが性にあうよ~と佳奈は述べるも、咲は引き下がらない。

 

「でも、そうすると......」

「保健室に送った後、直ぐ戻るからだいじょーぶ!咲ちゃんは缶を守ってて!」

 

 佳奈は京谷をよっこいしょと背中に担ぎ、「いってきまーす!」と保健室に向かって走っていった。

 京谷より二回りくらい小柄な佳奈が京谷を背負うのは、端から見るとヘンテコな光景だった。

 咲はそんな二人を見て。

 

「今日はついてないわね......」

 

 と名残惜しそうに呟いた。

 

 

 

 

 その後。

 

 京谷を保健室に送り届けた佳奈は現場に復帰して姫を捕獲。

 京谷と姫の二人の脱落に焦った伊御と榊は短期決戦を仕掛けるも、微妙に不機嫌な咲の完璧な守護体制に加え、他の守備チーム三人も伊御と榊を追いかけ回し、呆気なく決着。

 

 

 真宵に敗北した榊は、

 

「次はぜってー勝つ!」

 

 と悔しそうにリベンジを誓った。

 その週末の日曜、榊はたまたまはちぽちのシフトが入っておらず、ゆっくりしようと思ったが、真宵に、

 

「はちぽちケーキ券を使うのを遠慮してあげるかわりに、敗者への命令の権利として、執事として一日中こきつかってやるんじゃよ!」

 ということで働かされたらしい。

 

 

 食堂タダ券を手にいれることが出来ずションボリする伊御だったが、後日、つみきが頬を染めながら、

 

「......一緒に食べよ?」

 

 と焼きそばパンを渡してきたので、ちょっとだけ負けてよかったと思ったらしい。

 

 

 姫はゲームスタート前に追加された罰ゲーム『天使のコスプレ』を知らされ、

 

「そんなの、で、出来ません!」

 

 と言ったものの、周りの『姫っち天使!』コールに根負けして結局やるはめになった。

 真宵によると「めがっさ可愛かった。あれはまさしく天使のようだった」らしい。

 

 

 京谷は缶ケリ終了30分後に目を覚ましたが、その頃には姫のコスプレも終わり、一人だけそれを見ることが出来ず、次の日にそのことを聞かされて、

 

「不幸だー!!」

 

 と叫び声をあげた。

 そして妙に虫の居どころが悪い咲と佳奈が京谷への命令権を行使し、週末に荷物持ちとして買い物に付き合わされた。

 正直これって役得だよな、と京谷は当初思っていたが、持たされた荷物の量が半端ではなく日が暮れる頃にはクタクタになり、その翌日は筋肉痛に悩まされたらしい。

 

 

 

 

 千葉県にある県立猫毛高等学校。

 多才な教師と多彩な生徒が入り交じるこの学校では、少年少女達が楽しげな声をあげながら日々を過ごしている。

 友情や恋愛の形は様々で、友達と毎日遊ぶことが好きな人、昼休みの放送を生業としている人、好きな人を前にすると素直になれない人もいる。

 

 これは、そんな愉快な学校に通う西原京谷、崎守咲、深山佳奈に注目したお話。

 ほのぼのとして、でもどこかハチャメチャな三人の日常が始まる。

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。