京谷くんと咲ちゃんと佳奈ちゃんのあっちこっちまいにち! 作:もやもや
「女子会しようぜ!」
ある日の放課後、そう高らかに声をあげたのは真宵だった。
教室に残っていたつみき、姫、咲、佳奈は真宵に視線を向ける。
「女子会しようぜ!」
「二回も言わなくていいわ。相変わらずうるさいわね」
「ちょ、つみきさん、いつもより言葉が鋭いですね......」
つみきは真宵を睨みそう言った。
マゾいさんとたまに呼ばれる真宵だが、開始早々「うるさい」と言われるのには辛いものがあった。
「......あぁ、ひょっとしてつみきさん、伊御さんがすぐに帰っちゃって、一緒に帰れないからイライラしてるのかにゃん?」
「......別に」
伊御、榊、京谷の三人は「格ゲー日和だ!」と言って、放課後のチャイムが鳴るとすぐに教室を出ていってしまった。
普段はつみきは伊御と一緒に帰ることが多いのだが、今日は「ごめん、つみき。そういうことで先に帰るね」と言われてしまった。
そのせいでつみきはちょっと不機嫌なのである。
「あら、隠さなくてもいいのに」
「......あによ」
「大丈夫、ここにいるみんなは分かってるから」
「......つーん」
そう述べる咲からつみきは顔を背ける。
しかし。
「伊御くんの方もきっと意識してるわよ」
「......」
「そういえば最近、伊御さんがつみきさんを見る目に熱がこもっているような......」
「っ......」
顔を背けつつも、咲や真宵の発言に反応してしまうつみき。
顔を紅色に染め、唇を軽く噛み、体をもじもじさせながら、自分の両手の指を絡ませる。
そんなつみきを見た姫と佳奈は。
「つみきさん......」
「みにわん......」
「「可愛い~」です~!」
「ふ、フカー!!」
思わずつみきを抱きしめ、なでくりする。
鳴き声を上げて抵抗を示すつみきだが、一方的になでなでされるままだった。
「みにわんあったかーい!」
「柔らかいです~」
「微笑ましいことですな!」
「もう、あの二人は......」
ぽわぽわした雰囲気にあてられる真宵と咲。天然系少女二人と子猫系少女が作り出すそれは、見ていて心地よいものだった。
しかし、真宵はそんな雰囲気をぶち壊す発言をする。
「だが、私が今回話したいことはつみきさんと伊御さんのことではない!」
「と言うと?」
咲がそう返すと、真宵はニヤァと気味の悪い笑みを浮かべた。
「それはズバリ、咲やんと佳奈やんのことなんじゃよ!!」
「私?」
「マヨちゃん私のこと呼んだー?」
真宵の顔を見る咲と佳奈に対して、真宵は「イエース!」と答えた。
「この前の缶ケリ後の連休以来、西原さんはお二人を名前で呼ぶようになったじゃろ?」
「まあね」
「そして佳奈やんは西原さんをあだ名で呼ぶようになったと」
「うん!」
「だったら、何かあったと邪推するのが人間ってもんなんじゃよ!」
そう断言する真宵。
姫とつみきはそれに続いて述べた。
「確かに、少し気になりました~」
「......私も。ちょっと突然すぎるし」
「......といっても、この前説明したこと以上のことはないわよ」
それに答える咲。
本当にあのときは何もなかった。嘘もついてないはず......と考える咲だったが。
「でも、話してないことがあるじゃろ?お二人が西原さんに名前で呼ぶように言った理由じゃよ!」
ニヒヒと笑う真宵に、佳奈が言う。
「マヨちゃん、どういうことー?」
「女子のことを名字で呼ぶ男子に、自分たちは名前で呼べって言うなんて、それなりの理由がなきゃ言い出さないと私は思うんじゃよ」
「......短刀直入に言うと?」
「もしかして、お二人は西原さんのことが好きなのでは?」
どうだと言わんばかりの表情でそう言い放った真宵。
しかしそんな真宵に佳奈は平然と答える。
「うん。好きだよー」
「「「え!?」」」
「じゃなかったらあだ名でなんて呼ばないよ~」
あははと笑う佳奈に対して、つみき、姫、真宵は驚愕する。
真宵はおそるおそる聞いた。
「か、佳奈やん本当ですかい......?」
「うん、私はみんな大好きだよー!」
「......ああ、そういう」
しかし佳奈の『好き』は真宵たちが思っていたのとは別の感情だった。
少し肩透かしな気分だったが、真宵は続ける。
「ここで私が言ってる『好き』っていうのは、恋愛のそれなんじゃよ」
「恋愛?」
「そう! 例えば『この人とキスしたいなあ』とか、つみきさんが伊御さんに対して思ってる感じの......」
「......真宵?余計なことは言わない方がいいわよ?」
真宵はつみきのプレッシャーを感じながらも、佳奈に対して恋愛とは何たるかを教えようとした。
しかし。
「うーん、よくわからないよ~」
困りながらそう答える佳奈。
佳奈がここまで純真、というよりもはや無知だとは思っていなかった三人は何も言えなくなる。
どうしたものか......と思う真宵だったが、そこに佳奈が思い付いたように声をあげた。
「あ、でも......」
「......でも?」
「きょーやんの声を聞いたり、きょーやんと一緒に居たりすると、無性に嬉しくなるときがあるんだ~」
「「......」」
「佳奈やん、それって伊御さんや榊さんに対しても感じたことある?」
「......んー、きょーやんだけかなー」
(これって、もしかして......)
(ええ、そうですね......)
(きっと......)
佳奈の言葉を聞いて何かを思った三人。
しかし、それは佳奈には言わないことにした。これら佳奈が自分で気付くべきだと考えたのである。
そして真宵は話す相手を変えた。
「どうなんじゃよ?」
「......」
黙りこくる咲。
「好きだけど、素直になれないって感じにゃん? それなら私の発明品『すにゃおににゃれるニヤニヤキャンディ~忘却薬とともに~』があるんじゃよ!」
「ちょっと待って、なにそれ」
「凄い不穏な単語が聞こえたのですが......」
とんでもない発明品を取り出した真宵につみきと姫が待ったをかける。
真宵は「あ、それきいちゃう?」とにやつきながら説明に入る。
「このキャンディを舐めるとしばらくの間、恋愛感情の赴くがままに行動してしまうんじゃよ~」
「......え、凄くないですか!?」
「どういう理屈なのー?」
「そこはマヨ機密事項ってことで~」
さらっととんでもない発明をしていた真宵。
姫と佳奈はただ驚いた。
だがつみきは真宵に疑いの視線を向ける。
「忘却薬ってのは......?」
「いやー、あまりに効果が強すぎて、これを舐めた人がとんでもないことをしでかす可能性があってー。そこで当人あるいは目撃者の記憶を消してなかったことに出来るよ!っていうアフターサービスなんじゃよ」
「「「......」」」
やっぱり真宵の発明品には何か欠陥がある。
缶ケリの時以来のガッカリムードが漂う。
つみきは「はぁ」とため息をついた。
「もう真宵は置いておきましょう」
「えぇ!? つみきさん酷い! これは伊御さんに素直になれないつみきさんのために作ったと言っても過言じゃないのにー!」
「......余計なことは言わない方がいいってさっき言ったわよ?」
「ご、ゴメンナサイ......」
謝罪する真宵だったが、気を取り直して咲の顔を見る。
そして。
「......西原さんのことは好き?」
「......それは」
息を吸う。
「......秘密!」
「えー!」
にっこり笑って人差し指を口にあてる咲。
不満そうな真宵に対し、「でもね、」と言って続ける。
「......最近、京谷も気が利くようになったし、男らしくなったんだなって思う。思いやりも出来るようになったし......」
「それでそれで?」
「前と比べて、本当に魅力的になった。私の望んだ通りに......」
「ほうほう?」
「私は、京谷のこと、少なくとも......」
核心に触れかけたその瞬間。
ガタンッ! ガタガタ!
<アッヤベッ!
と、ドアから音がなり、声が聞こえた。
それを聞き、ドアへ駆け付け、開くと。
「......お、おう」
「「「「......」」」」
話題の人物、西原京谷がいた。
「きょ、京谷!?」
「さ、咲、奇遇だな! ど、どうしたんだそんなに驚いて......」
珍しく大声を上げて驚く咲。
冷や汗をかいている京谷は、取り繕ったような態度をとる。
「......西原はどうしてここに? 伊御の家に行ったんじゃないの?」
「学校にゲームの攻略本忘れちゃって、じゃんけんに負けた俺が取りに来たんだ! は、話は聞いてないから安心しろよ!」
「......何でドアを開けなかったのですか?」
「も、もし聞かれたくない話してたら俺が入ってくるのは嫌だろ? だから外で待ってたんだよ!」
「......じゃあさっきの音は?」
「え、えーと、軽く体動かしてたらバランス崩してこけたんだ! ほら、ずっとゲームしてるのって体に悪いだろ? ストレッチでもしようと思ってさ!」
女子陣からの追及にたどたどしくなる京谷。
誰から見ても明らかに様子が変だ。となると、その理由はただ1つだろう。
盗み聞きをしていたに違いない。
そう確信する女子陣。
そして佳奈が京谷に尋ねる。
「きょーやん、私の話も聞いたの?」
「い、いやそれは聞いてないな!」
「......『それは』?」
「あっ」
ついにボロをだす京谷。
女子の視線が冷たいものに変わっていく。
「......きょーやん、盗み聞きはだめだよー」
「......俺だって聞くつもりはなかったんだ! 本を取りに教室に来たら、入っちゃいけないような雰囲気だったから......」
行いを認め自己弁護に走る。
しかし。
「ねぇ、真宵さん、さっきの薬ある? キャンディとセットのやつ」
咲が低い声で真宵に問いかける。
ビビった真宵は「は、はい!ここに!」と素直に差し出した。
「お、おい、どうするつもりだ咲......さん......」
「......折角なら『さん』づけじゃなくて普通に呼んで欲しいな。それに、盗み聞きしてたならこの薬がどういうものか分かるでしょ?」
京谷に迫る咲。
そして、半分涙目になって紅潮させた顔をゆっくりと上げる。
「京谷(の記憶)を殺して私(の記憶)も死ぬ!!」
「う、うわぁー!」
全力で逃げる京谷だったが、本気を出した咲に勝てるはずもなく。
廊下の角を曲がったところで捕まり、無理矢理薬を飲まされた。
そして咲は気絶した京谷を校門の前に置いていったのである。
「......あそこまで動揺する咲ちゃんは初めて見たかもー。それに結局聞きそびれちゃったなー」
「どちらにせよ、西原さんは心を乱すほど大きな存在だってことじゃね~」
「恋って凄いんですね、つみきさん!」
「......あによ」
そんな咲の様子を見て各々の感想を述べる女子たち。
それ以来、ガールズトークをするときは周りに人がいるかいないかをしっかり確認してからやるようになったらしい。
「ところで、本当に自分の記憶も消したのー?」
「......何のことかしら」
佳奈の質問に咲はそう返した。
その頬は、ほんの少しだけ、赤く染まっていた。
そして伊御の家。
「......ただいま」
「あれ、遅かったな京谷。学校で何かあったのか?」
「......分からない。なんか気がついたら本を持って校門にいた......」
「なにそれ怖!?」
京谷の身にふりかかった怪奇現象に怯える三人だった。