京谷くんと咲ちゃんと佳奈ちゃんのあっちこっちまいにち! 作:もやもや
時は12月24日、クリスマスイヴの夕方。
外は太陽が既に沈んでいるが、イルミネーションやら店の明かりやらで暗くはなかった。
普段よりも人、特に若いカップルが多いその光景は、イルミネーションのカラーと積もった雪の白色のコントラストを背景にして、幻想的であった。
にっこりと笑いながら手を繋ぐ男女、はしゃぎながらプレゼントをもらう子供、家族のためにケーキを買っていく大人。
まさに幸せであった。
......ただし、何事にも例外はある。
たとえば恋人がいない人、怪我をしている人、仕事が忙しい人、受験生。
すべての人がクリスマスの楽しみを享受できるわけではない。
西原京谷もその一人で、1日中部屋にこもっていた。
「......ヒマだ」
そう呟く京谷。
普段なら休日は伊御や榊たちと遊ぶことが多いが、彼らは今日、バイト先のはちぽちでクリスマスケーキの販売をしている。
伊御たち以外の男友達と遊ぼうとしたが、家族と過ごしたり、彼女と過ごしたりといった理由で断られた。
ならたまには家族とゆっくりするかーと思ったが、朝起きるとテーブルの上に置き手紙があった。
両親とも仕事で翌日まで帰ってこれないといった旨が書かれており、この瞬間、ぼっちでクリスマスを過ごすことが確定したのである。
「......なんでクリスマスイヴに格ゲーのネット対戦をしているんだ俺は」
自分で言ってて虚しくなる京谷。
一人でいる寂しさを紛らわすためにプレイしていた格ゲーだが、クリスマスイヴであるためか、ネットにいるプレイヤーは普段よりも強い人が多く、京谷は負け続けていた。
十連敗を決めてため息をつく。
太陽は既に沈み、夜に差し掛かろうとしていた。
「......はぁ。あいつら何してるんかな」
そう言って思い浮かべるのは、咲と佳奈のこと。
友人の中でも、咲と佳奈だけには今日の予定を聞かなかったのである。
理由は2つ。単に聞くのが恥ずかしかったのと、遊びに誘って断られるのが怖かったから。
どこまでもヘタレな京谷だった。
「......あの二人のことだから、互いの家で遊んでるんだろう。いや、もしかして彼氏がいたり......。いやいや咲はあり得るとしてもまさか佳奈はないよな......。いやいやいや、意外とあいつ顔は悪くないしな......」
咲や佳奈に彼氏がいたら、と考えた京谷。しかし妙に嫌な気分になったので、ゲームに戻ろうとコントローラーを手にとった。
そのとき。
ピンポーン
とインターホンが鳴った。
「配達か? こんな日に大変だな......。今出まーす!」
何か頼んだ覚えがなかった京谷だったが、どうせ両親のものだろうと思い玄関へ向かった。
ドアを開ける。
「ご苦労様で......す......」
「メリークリスマス。京谷」
「メリクリ~!」
そこには咲と佳奈がいた。
どちらも暖かそうな格好をして、手にははちぽちのケーキらしきものと、色んな物が入っていそうな鞄を持っている。
ついさっき想像してた人物が来たため、京谷は動揺する。
「な、なんでここに?」
「どうせ京谷のことだから、ぼっちで過ごすんだろうと思ったのよ」
「そこできょーやんとも遊びたいなーって思って、会いに来たのだ~!」
咲の言葉には反論したがったが事実だったため何も言えなくなる。
しかし思わぬ来客、思わぬ誘いに嬉しくなる京谷。
「寒いから、取りあえず上がってもいいかなー? 」
「え、ああ......どうぞ......」
「「お邪魔します」」
二人は礼儀良く西原宅へ入っていった。
我が家に女子がいるなんて初めてかもしれないと思った京谷は変に緊張する。
そして京谷の部屋に着いたとき、咲が言う。
「家族の方は?」
「両親とも仕事で明日まで帰ってこないって書き置きがあった」
「あら、忙しいのね」
残念そうにする咲。
そしてテレビに目を向けた。
「......こんな日に一人でゲーム?」
「仕方ないだろ! 外は一人で出歩ける雰囲気じゃないし、家族もいないし」
自分で言ってて悲しくなってきたと京谷は思ったが、紛れもない事実であった。
その時、佳奈はテレビの画面を覗き込んで言った。
「あー、この格闘ゲーム、プルトナだよね~」
「え、知ってるの?」
「この前、みにわんが『伊御と共通の話題が欲しい......』って悩んでたから、マヨちゃんが『ならば、格ゲーを極めるんじゃよ!』って言ってみんなでやったんだ~」
プルトナ4 宴のアルティメットバトル、略してP4U2はこの世界で覇権を握っている格ゲーである。
初心者にも優しい設計になっている上、どのキャラも極めると奥が深いことから上級者にも大人気。
そんな格ゲーを女子達もプレイしていたらしい。
「へ~。女子も格ゲーするんだな」
「御庭さんが圧倒的に強かったわ」
「姫ちゃんがぼこぼこにされちゃってたよー」
「......めっちゃ想像できる。そういや榊が『御庭にレッツゴージャスティーンされたー!!』って騒いでたし」
正直榊の発言は信じてなかったが、咲と佳奈の話を聞く限り本当らしい。
ならばかなりの上級者だな......と身震いする京谷。
そこに佳奈が京谷に向かってこう述べた。
「きょーやんと一緒にこれやりたーい!」
「え、マジで?」
京谷は先程十連敗したものの、全体からすれば上級者に入る腕前であるが、佳奈はとても上手そうに思えない。
そんな二人が対戦したらどうなるか、結果は明らかに思われた。
そして上級者が初心者をボコるのは、格ゲーの人口を減らしかねないとしてあまり良いこととは認知されていない。
あまり気が進まない京谷であったが。
「大丈夫! この前みんなと練習したからそこそこはできるよ!」
「そっちがいいなら俺は構わないけど......」
そう断言する佳奈に京谷は折れ、対戦することとなった。
一方咲はというと。
「じゃあ私はケーキの準備するわね」
「ああ、悪いな......ってここで食うの!?」
咲たちが持ってきたケーキ。それがまさか自分の家で食べるためだとは思っていなかった京谷は、申し訳ない気分になった。
「......都合悪い?」
「いや、お前らが買ってきたわけだし俺まで頂いていいものかと......」
「『このあと京谷の家に行く』って言ったら伊御くんたちがサービスしてくれたから量が多いのよ。正直二人じゃ食べきれないわ」
「なるほど......」
やっぱりあいつら良いヤツだなとしみじみ思う京谷。
「じゃあ早速やろうよ、きょーやん!」
「オッケー!」
佳奈が待ちきれないと京谷を急かす。
そしてオフラインバーサスモードを開く。
すると20人強のキャラクターが画面に表示された。
「よし、俺はこいつでいくぜ」
<ボクトアソビタイッテ?
京谷は小悪党な警察のキャラを選んだ。
このキャラは優秀な技が多いものの癖が強いため、正攻法では戦いづらいという中級者向けのキャラである。
それに対して。
「私はこれー!」
<テレッテッテー!
「え、そいつ?」
「うん!」
佳奈が選んだのは野球キャラだった。
格ゲーで野球。バットで攻撃を当てると点が入り、10点を取ると性能が変わって強くなる。
何を言っているか分からないかも知れないが、これでもちゃんとした格ゲーのキャラである。
しかし、お世辞でもあまり強いとは言えない性能で、上級者向けキャラでありながら下から三番以内に入るほどの弱キャラと言われている。
「そのキャラ、あんまり初心者向けじゃないけど大丈夫か?」
「だって格闘ゲームで野球って面白いじゃん!」
ゲームは面白いのが一番!と述べる佳奈。
京谷は楽しめるならそれでいいかと思い、ステージとBGMをランダムに設定してスタートを押した。
「負けないからね!」
(......まあとりあえずお手並み拝見ってことで手加減するか)
意気込む佳奈に対して京谷はそんなことを考える。本来なら、舐めプと言われかねないマナー違反の行為だが、友人内で円滑にゲームを楽しむには必要な配慮だろう。
そこに、ケーキを切り終えた咲が戻ってきて、京谷と佳奈の間に座り、観戦し始めた。
そして。
<ラウンドワン......ファイッ!
「いっくよー!」
「よっしゃ!」
試合が始まった。
色んな技を繰り出して牽制する京谷に対して、佳奈はピョンピョンジャンプして攻撃を振っている。
佳奈はなかなか京谷に有効な攻撃を加えることができず、1ラウンドをとられてしまった。
「あー、やられちゃったー」
「これが経験者ってもんだ!」
得意気になる京谷。
少々大人げないが、伊御たちとやるときはもっと全神経を使い果たす勢いで集中するので、これでも手加減している方である。
しかしこのまま勝ってもお互いに不毛だと思った京谷は次のようなことを考える。
(......次ラウンドは取らせてやるか、点数も10点ぐらいは稼がせて......)
「まだまだ逆転の目はあるよ!」
「よし、こい!」
「佳奈、頑張りなさいよー。京谷に調子乗らせるとキモイからねー」
「キモイって言うな!」
<ラウンドツー......ファイッ!
ギャラリーの咲までもが敵である事実に少しへこむ京谷。大振りの技をあえて多用することで佳奈に攻撃を許す。
そして佳奈はきっちり10点を獲得して第2ラウンドを取った。
「やったー! ラウンドも点数も取れたよ~」
「よくやったわ佳奈。最終ラウンドも取って京谷を倒しましょう」
(......最終ラウンドは本気出してもいいよな?)
コントローラーのボタンに触れる指に力を入れる京谷。
そして最終ラウンドが始まった。
<サイシュウオウギ!
「勝利の雄叫びだー!」
「来たな......」
第2ラウンドで10点を取ったことで佳奈の使用キャラは強化される。
だがプレイヤーの腕自体が上がるわけではない。
そう踏んで京谷は積極的に攻撃を仕掛けにいった。
しかし。
「うおー、私もテンション上がってきたよ!」
「え!?」
使用キャラと同調したのか、テンションが上がった佳奈。
すると佳奈のプレイングが初心者のそれから、上級者と言っても過言ではないものになった。
佳奈の突然の変化に京谷は驚く。
(嘘だろ......さっきまでとは全然動きが違うぞ......)
「よし、反撃いくよきょーやん!」
京谷の使うキャラの攻撃が空振ったその隙に、佳奈のキャラがバットで攻撃を加える。
(いや、向こうのキャラはコンボ難易度がかなり高い......。途中でミスるはず......)
高をくくる京谷だった。
だが佳奈はきっちりコンボを決める。
<カッキーン! プッシュバント!
「良かったー、コンボちゃんと成功した~」
「あそこから体力が4割減らされた......」
危機的状況下におかれた京谷。
なんとか必死に反撃を加え、佳奈のキャラにダメージを与えていく。
そして互いにチマチマと体力を削り合う。
双方とも体力が1/3を切り、覚醒状態となり防御力、ゲージが上昇した。
「どちらもうっかりで沈む体力だな......」
「ここが正念場だね」
「あら京谷、意外と苦戦してない?」
「正直佳奈がここまでとは思っていなかったよ」
「特訓の成果!」
白熱した戦いに、プレイしている京谷と佳奈だけではなく、観戦していた咲もが画面に釘付けになる。
(......佳奈には悪いが、格ゲーマーとしてここは譲れない。さっきは手加減したけど、勝負は俺が貰う! かくなる上は、ガード不能連携を仕掛ける......!)
緊迫した状況に完全にムキになる京谷。
経験者として相当大人げないが、ここで負けては情けなさ過ぎると京谷は思った。
そして数秒後、佳奈のキャラに京谷のキャラの攻撃があたり、コンボを繋ぐ。
必殺技で締めてガード不能の状態異常にし、上空へ吹っ飛ばした。
(よし、これでビームを撃てばガード出来ずに相手は死ぬ! 俺の勝ちだ!)
<ラクニシテヤルヨ!
勝利を確信した京谷はボタンを押す。
だがしかし。
<セイヤー!
<グワァ!
「え?」
「スライングが当たったー! こっから決めちゃうよ~!」
佳奈のキャラは上空からヘッドスライングをし、ビームを放つモーションをしていた京谷のキャラにヒットする。
京谷のキャラのガード不能連携は、あくまでガード不能なだけであり、回避は可能なのである。ただ、他のキャラであればほとんど避けることが出来ないが、一部キャラは回避可能な手段を持っている。
たまたま佳奈のキャラはそうであったのだ。
「ヤバい!」
「バーストからのー、必殺!」
<ボコボコニスンゼ!
そしてバットが思いっきり振られた。
<アソビハオワリダッ!
「ちょーくーかんだほー!!」
カキーン!と気持ちのいい打撃音が響き、決着がついた。
<KO!
「ま、負けた......」
「へへーん、やった~!」
経験者である京谷が敗北し、初心者である佳奈が勝利した。
はしゃぐ佳奈に対し、かなり落ち込む京谷。
最初は高をくくって手加減をし、最後には本気を出した上で負けたのだから、当然と言えば当然だった。
「二人ともお疲れ様。見てる方も楽しませてもらったわ」
「あ、ああ......」
「面白かった!」
咲や佳奈が感想を述べる。
しかし咲は「でも......」と言ってこう続けた。
「手加減してるからこうなるのよ」
「え、ば、バレてた?」
「1、2ラウンド目の動きが不自然だったわ。丸わかりよ」
変な気を遣わせて、逆にキモイわよと言う咲に、この前も似たようなこと言われたな......と思う京谷。
「えー!? きょーやん手加減してたの~」
明かされた事実にちょっと怒り気味の佳奈。
折角勝てたと思ったら相手が手加減してたのだから、無理もない。
「わ、悪かった! でも最終ラウンドはガチでやったし、それでお前が勝ったのも事実だ!」
「むー、納得いかない」
佳奈はそこそこ不満げであった。
そして息を吸って言う。
「まだまだ続けるよー! ちゃんと本気でやってね!」
「マジ!? 結構疲れたんだけど......」
「手加減をしたきょーやんが悪い!」
「うっ、それを言われると......」
やむを得ずコントローラーを手にとる京谷と、しかめっ面な佳奈。
そんな二人を見て咲は。
「やるのはいいんだけど、ケーキとかお菓子はどうする?」
「交代制にすれば、観戦の時に食べられるよ~」
「......私もやるってこと?」
「うん!」
こうして咲もプレイすることになった。
何だかんだで全員ゲームに熱中し、時が過ぎていく。
――――――――――――――――――――――――
そして時計の短針が11をさした頃。
三人はゲームに疲れて休憩していた。
ケーキやお菓子もほとんど食べ終え、ぐったりする。
白熱したために、三人ともかなりの汗をかいている。
「......結局格ゲー三昧のクリスマスイヴだったな」
「......たまには良いけど、流石に疲れたわ」
「私もー......」
交代制とはいえ、何時間もぶっ続けでゲームをやっていれば疲れる。
普段ゲームをあまりしない咲や佳奈は勿論、ゲームっ子の京谷も朝からプレイしていたために、ダウナー気味だった。
そこでふと京谷が気がつく。
「そういえば、お前ら時間大丈夫なの?」
「と言うと?」
「いや、親御さんとか心配しないのかなって」
娘が夜遅くまで帰ってこなかったら心配するのが普通の親だろう。
しかし。
「友達の家に泊まりに行くって言ってあるから大丈夫よ」
「ああ、なら大丈夫......じゃねえ!」
予想だにしていない答えに思わずノリ突っ込みをしてしまった京谷。
「え? 二人とも俺んちに泊まるつもりでいたの?」
「そうだよー」
「じゃないとこんな荷物持ってこないわよ」
当然のように語る佳奈と咲。
そんな二人に京谷は疑問を口にする。
「......もしダメだったらどうするつもりだったんだ?」
「あら、その口ぶりだと泊まっていいってことね」
「言葉の綾だよ! 流石にクリスマスに異性の家に泊まっていくのはヤバいだろ......。親御さんは何でオーケーしたんだ」
「男友達とは言ってないから、女友達の家に泊まるって思ってるんじゃないかしら」
「お前確信犯だな? 誤用の方の意味で」
京谷は頭を抱える。
正直女子が家に泊まること自体は嬉しいものだが、倫理的にはアウトだろうと思う。
ここで佳奈が咲に言った。
「とりあえずあれ渡しちゃおうよ」
「それもそうね」
「......?」
疑問符を頭に浮かべる京谷にお構い無く、二人は自分の鞄を漁った。
そして何かを取り出し、京谷の方を向く。
「はい、クリスマスプレゼント」
「私からもー!」
「......え?」
突然のことに驚く京谷。
二人から手包みを渡される。
やっと事態を理解して京谷は言った。
「......貰っちゃっていいのか? 俺からは何もないけど......」
「プレゼントってのは見返りを期待するものじゃないのよ」
「日々の感謝の印、友情の印なのだ!」
笑ってそう述べる咲と佳奈を見て、京谷も嬉しくなって、頬を染めて笑った。
「サンキュー、めっちゃ嬉しい。でも貰ってばかりは悪いから、何かお礼させてくれ」
「別にいいんだけどね......」
「うーん」
咲と佳奈は悩む。
咲が「......じゃあ」と言って。
「明日、三人で街にでかけましょ」
「あ、それ賛成!」
「......明日!?」
「そう、明日。12月25日よ」
大胆なことを述べる咲。
それが意味するのはつまり......と京谷は考えるが、「いや、まさかな......」と自分で否定した。
「......わかった。付き合うぜ」
「なら決定ね」
「お出掛けだ~!」
了承する京谷と、微笑む咲と、はしゃぐ佳奈。
三人はとても幸せそうであった。
そんな三人を包むかのように、外は雪が降り始めた。
そして時計はもうすぐ0時を告げようとしている。
それを見た京谷が言った。
「......泊まるのはもういいんだけど、そろそろ寝ないと明日に響くな」
「そうね。寝る準備をしなきゃ......」
しかし、立ち上がる二人を見た佳奈が言う。
「えー? もう寝るの?」
「もうすぐ0時だぞ」
「そうよ佳奈、明日ちゃんと出掛けたいでしょ」
寝ることを渋る佳奈を不思議に思う京谷と咲。
「何で寝たくないの?」と咲が佳奈に問いかける。
すると佳奈は。
「だって今って『せいの6時間』なんだよねー? この時間ってみんな眠らないんじゃないの?」
「......」
「......」
佳奈の発言に絶句する二人。
そして顔が赤くなっていく。
京谷が咲に耳打ちした。
(......おい、あいつの知識どうなってるんだよ!)
(......私もここまでとは思ってなかったわよ! あと、京谷、か、顔が近い......)
(あ、わ、悪い......)
さらに頬を紅潮させて離れる二人に、佳奈が続けて言う。
「ほら、外を見ようよ! 『せいの6時間』なんだからー」
「は?」
「......外?」
佳奈の言っていることが理解できない京谷と咲。
そして咲が「まさか」と思い、佳奈に尋ねる。
「......ねえ、そ、その『せいの6時間』の『せい』って漢字でどう書く?」
「んー? 『星』って字じゃないの? もしかして違うの?」
「あー、いや、あってるわよ。気にしないで」
真実が判明し、京谷と咲はほっとする。
佳奈はそんな二人を不可解に思ったが、明日のお出掛けを楽しみにしているのは事実なので、素直に寝ることにした。
こうした一悶着があっていよいよ寝る準備に入る三人。
とりあえずお風呂に入り、京谷が布団を持ってくる担当、咲が食器などを片付ける担当、佳奈がゲームを片付ける担当になった。
しかしその最中。
「......あちゃー」
「どうしたのー?」
呟いた京谷に佳奈が反応する。
空いている寝具が、客用の布団1つ、そして京谷のベッドしかなかった。
両親のベッドも一応あるが、使ったことがバレれば「え? 誰か泊まったの? 男の子? 女の子? あ、もしかしてこの前の女の子たち?」などと言われる可能性がある。
よって、この二人分の寝具しか使えないのだ。
「......どうする?」
「うーん、困ったわね」
頭を悩ませる京谷と咲。
なら仕方ないか、と京谷は言った。
「俺はリビングのソファーで寝るから二人は布団とベッ」
「却下」
しかし言っている途中で咲に遮られる。
「え、なんで!?」
「ソファーで変な寝方して体痛めたら、明日楽しめないじゃない」
「......」
キッパリ言い放つ咲に京谷は反論できない。咲の意見は至極真っ当なものであったからだ。
「じゃあ、どうするんだ」
「うーん」
再び悩む。
だが、「はーい!」と佳奈が手を挙げて次のように述べた。
「布団かベッドで二人以上寝ればいいんだよ~」
「......」
「......」
佳奈の意見はかなりシンプルなもので、的を射ている。
もちろん、その考えは京谷も思い付いていた。そのうえで言い出さなかったのである。
でも、それ以外に妙案は浮かびそうになかったので。
「......じゃあお前らが一緒にベッドで寝てくれ。俺は布団で寝るから」
「それしかないわね......」
こうして問題は解決しそうであった。
だが、佳奈が不満そうに述べる。
「うーん、たまにはきょーやんと一緒に寝たいな~」
「......は?」
それに京谷が呆れる。
いくら佳奈が純真であるといっても、京谷は男子で、佳奈は女子なのだ。
そんな二人が一緒に寝るのは、流石にまずいことである。
京谷は諭すように言う。
「それはダメだって」
「なんで?」
「えーと、俺は男で、お前は女だからだ」
「なんでそれだとダメなの?」
「え、えーと......その......。おい、咲も何か言ってくれ」
対応に困って咲にパスする京谷だった。
しかし咲はとんでもないことを言い出した。
「......私も」
「ん?」
「私も京谷と一緒に寝たい」
「......!?」
京谷が目を見開いて咲を見る。
顔を赤くしながら、咲に問い詰めた。
「お、お前まで何言ってんだよ! 」
「......あら、もしかして京谷は私達と寝るのが恥ずかしいの?」
「え? あー、いや」
「もしかして意識してる? キモイわよ」
「いや! 全くそんなことはない! だからキモイっていうな!」
「なら別にいいじゃない」
「......」
前も似たような展開で押し切られた気がする......と思う京谷だった。
だがやっぱり意地を張ったために反論する手段がない。
やむ無く了承せざるを得なくなってしまったように見えたが、ここで突破口が閃いた。
「......ベッドは三人で寝られるほど大きくないぞ」
これなら誰か一人は布団で寝なければならない。そしてその一人に俺がなれば万事解決と思った京谷。
しかし。
「そ、それは......簡単よ」
「え?」
――――――――――――――――――――――――
「......」
「......」
「あはは! きょーやん暖かい~」
まず京谷と咲が背中合わせでベッドに入る。そして身長が一番高い京谷が佳奈を抱き抱えるというのが咲の案だった。
確かにこの方法で、三人全員がベッドに入ることができた。
しかし、咲は京谷が背中にいる緊張、佳奈は京谷に抱き抱えられていることによる熱、京谷は咲が背中にいることと佳奈を抱き抱えている熱により、三人とも冬の夜なのに汗だくであった。
熱を逃がそうと服をうちわ代わりにする。
緊張で体をモゾモゾさせる。
そのせいで服にはシワがより、ベッドはぐしゃぐしゃになっていたが、三人とも気付いていなかった。
(......無心無心無心無心。俺はキモくないキモくないキモくない......)
心の中でひたすらそう呟く京谷。
自己暗示にかける勢いで念じるが、そこに佳奈が話しかける。
「きょーやん」
「無心無心キモくないキモくない......え? 呼んだ?」
「うん」
京谷は心の中の呟きが口に漏れてしまっていたが、佳奈は気にしなかった。それどころか、体を回転させて京谷の顔を見上げた。
京谷はドキッとするが、平然を装う。
「な、なに?」
「今日は楽しかったー」
「お、おう」
「だから、また今度もきょーやんの家に泊まりたいなー......」
「おう......!? ちょ、は、マジで?」
「うん......ふあぁ、それだけだよ~......お休み......」
「あ、ああ、おやすみ......」
詳しく問い返す前に佳奈は寝てしまった。
その寝顔は極めて健やかだった。
佳奈の寝顔に少しだけ見とれてると。
「京谷」
「は、はい、何でしょう!」
背中の方から咲の声がした。
びっくりして思わず敬語になってしまった京谷の様子を、「ふふ」と笑いながら。
「私も楽しかったわよ」
「そ、それは良かったぜ」
そう述べる咲にどもりながら答える京谷。
咲は続ける。
「今日は急に押し掛けて悪かったわ」
「ああ、気にすんなよ。どうせ一人で暇してたし」
言ってて悲しくなった京谷だったが、構わず咲は続ける。
「......本当のことを言うと、京谷が私達だけにクリスマスの予定を聞かなかったのが不安だった」
「......! き、気付いてた?」
「......佳奈は気付いていなかったみたいだけど」
京谷の質問にそう答える咲。
「......私達が何か怒らせたのかなって思った」
「そういう訳じゃ......」
「......」
さらに続ける。
「......そして今日、はちぽちに行って、伊御くんたちに京谷の予定について聞いたわ」
「それで、ケーキを持ってきて、俺が一人でいるって分かったのか」
「うん......」
そして、ゆっくり口を開く。
「だから、実際に押し掛けて、部屋にあがって、ずっと家の中でゲームしてたって知って......」
「正直、嬉しかった」
「......」
そして咲は京谷の方を向いて。
「今日はありがとう。そしてごめんね、京谷」
と言った。
しばらく二人は黙った。長い時間が流れたような気がした。
ようやく、京谷は声を発した。
「......お前らに予定を聞かなかったのは、単に恥ずかしかったのと、断られるのが怖かっただけだ」
「......」
「だから、二人が家に来たとき、俺も嬉しかった」
京谷も咲の方に顔だけ向ける。
「今日はありがとう。そして、明日もよろしく」
そう言った京谷。
それを聞いた咲は。
「......よろしく!」
と笑顔で答えた。
その後、京谷は「眠い......もう寝るわ......」と言って目を閉じた。
そして、咲は京谷と佳奈の寝顔を見てにっこりと笑った。
「おやすみ......二人とも......」
咲はそう言って京谷の腕に抱き付いて眠った。
三人とも疲れていたのか、とても深い眠りに入っていった。
翌朝。
京谷は帰ってきた母親に叩き起こされたが、無理もなかった。
ぐしゃぐしゃのベッド。
京谷に抱きつき、あるいは抱きつかれながら一緒に寝ている女子。
服にシワがつき、汗だくな三人。
そして、前日はクリスマスイヴ。
この状況から類推できるのは、とっても危ないことだった。
「やるなら親にバレないように隠蔽しなさい」と述べる母親に対し、必死に弁解するもあしらわれる。
最終的には信じてもらえたが、まだ京谷と咲と佳奈の関係を邪推し続けているらしい。
三人が外に出掛けに家を出ていくときも、頬のニヤつきを隠さずにいた。
「くそー、まさか朝に帰ってくるとは思ってなかったぜ......」
頭を抱える京谷。
だが咲と佳奈は笑っていた。
「いつまでそんな陰気臭い顔してるのよ」
「せっかくのクリスマスだよ! 楽しもうよ~!」
そう述べる二人の様子を見た京谷は。
「......まあ、そうだな」
と答えて、ニッ!と口角を上げた。
「どこに行く?」
「まずは駅前に。デパートもあるし、夜にはイルミネーションが見れるわよ」
「じゃあ、レッツゴーだね!」
そして三人は雑踏の中に消えていった。
出掛けた先で三人で居るところをクラスメートに見つかってからかわれたり、京谷は「かわいい女の子を二人もはべらせている非モテ男の敵」として冷たい視線を浴びたりするが、それはまた別のお話。